25 / 36
22. 甘い癒しの時間と新たな決意
しおりを挟むアレクが腕を伸ばして私を抱き寄せる。
「きゃっ!?」
私はベッドに起き上がったアレクの胸の中に飛び込む形になった。
「だ、だから誤解しないで欲しい!」
「ア、アレク……」
「僕がローラの事を好きになったのは…………ゲホッ」
「!!」
すごく大事な話の所だった気がするけれど、アレクが咳き込んだので私は軽くパニック状態になってしまう。
(発作!? やだ、アレク! 死なないで!?)
「ク、クォン様! どうすればアレクの発作を私は癒せるのですか!?」
「「え?」」
パニックに陥った私は何故かクォン様に助けを求めてその方法を訊ねてしまう。
アレクとクォン様の驚いた声が重なった。
「ゲホッ……ロ、ローラ……そこは僕に聞く所なんじゃ?」
「本当に。何で自分に聞くんですかね…………あー、ローラ様からキスの一つや二つでもしておけばいいんじゃないでしょうか?」
(キ、キス!? 恥ずかしい……でも、アレクの為!!)
クォン様の回答は完全に適当だったのだけど、焦っていた私はそんな事に気付かずに言われた通りの行動をする為にアレクの顔をじっと見た。
「ア、アレク」
「ケホッ……えっと? ローラ……さん?」
「わ、私のキスであなたが元気になるのなら……! アレク……」
「え! だから、ローラ──……」
何か言いたげな顔をしていたアレクに、私は顔を近付けてそのままそっと自分の唇を重ねる。
……チュッ
(う、上手く出来ているかしら?)
そもそも、キスという行為そのものがアレクとしたのが生まれて初めての事なので、正解がさっぱり分からない。
「アレク……大好きです、だから、これで少しでもあなたが元気になりますよう……」
「……ロ」
(私のキスがアレクを癒せるなら……いくらだってするわ)
必死な私はそのままチュッチュと何度もアレクにキスをした。
───
「……ローラ」
「アレ、ク? 大丈───」
暫くして、アレクが私の名前を呼んだ。
発作は良くなったのかしら? と思いそっと唇を離した所で私の視界がぐるっと変わった。
(…………ん? あれ?)
「ローラ……」
「……?」
(どうして、アレクが私の上にいるの……??)
気付けば私の上にアレクがいて、熱っぽい目で私を見つめていた。
「本当に君って子は…………僕が毎日どれだけ、君に恋焦がれてるかも知らないで……」
「えっと?」
アレクはそのまま私の指に自分の指を絡めて私の動きを封じると、そのまま美しい顔を近付けて来てチュッと唇に軽く触れた。
そして、すぐに唇を離したアレクは言う。
「ローラさん。あなたからのキス攻撃で僕の理性は仕事放棄して、遥か彼方へと吹き飛んで行きました」
「……?」
「だから───」
チュッ……
軽く額にに触れられた。
チュッ!
次は、頬に触れられる。
(こ、これは……もしかしなくても……迫られてる??)
ようやく私がその事に気付いた時にはアレクの美しい顔が再び近付いて来ていた。
「アレ……ク」
「ローラ、大好きだよ」
「……んっ」
理性が遥か彼方へと吹き飛んで行ったというアレクは、私を押し倒したまま、これでもかと言うくらいの愛の言葉を私の耳元で囁き、何度も何度もあちこちにキスをしながら私を翻弄する。
クォン様が「やっぱりこうなった……」と渋い顔をして苦い味の物を求め始めた頃、ようやく私は気付く。
(クォン様に騙されたわ!)
だって、よくよく考えれば昔はお父様がアレクを癒していた……と言っていた。
だから、そのアレクを癒す方法がこれのはずが無い!
でも、暴走して突っ走って何故だか返り討ちにあってしまったけれど……幸せなの。
好きな人と触れ合う事がこんなにも幸せな事なのだと私は知った。
───
「……ローラの“力”は不思議でね」
「……?」
ようやく落ち着いたのか、アレクが手を離すとゆっくり私を抱き起こしながら語り出す。
「身体のどこに触れなくてもローラが側にいてくれるだけで、僕の身体は軽くなるんだ」
「……」
「昔はよく分かっていなかったけど、サスビリティ公爵は手を繋いでくれていたかな。それだけでも充分だったからさ、その、さすがに……」
「!」
アレクが言いたいのは多分、キスの事。
やっぱりキスじゃなかった!
私の顔が赤くなると同時に心の中でクォン様に文句を言いたくなる。
「ローラが側にいてくれるだけで充分なんだけど、触れるともっと凄いんだ」
「凄い……ですか?」
「逆に力がみなぎってくる。なのに身体は辛くない」
「!」
「だから、クォンは適当な事を言ったけど、あながちこれも間違ってはいないと思うよ」
「っっ!!」
そう言ってアレクが私の唇を指で撫でたので胸がドキドキした。
そのままアレクはベッドの上で優しく私を抱きしめる。
「でもね、ローラ」
「はい」
「さっきの話と重なるけど、確かにローラは今、唯一の僕を癒せる特殊な力の持ち主ではあるけれど、僕がローラに触れたいのは身体が楽になるからでは無いんだ」
「?」
私は、アレクの腕の中で首を傾げる。
「僕はローラの……サスビリティ公爵家の力の事をよく知る前に、君のその優しく明るい真っ直ぐな性格と可愛さに恋をしたから」
「アレク?」
「今も君にたくさん触れるのは……ローラの事が大好きだからだ! 確かに君は僕の身体の癒しでもあるかもしれないけれど、僕の心の癒しでもあるんだから」
そう言ってアレクは私を抱きしめてくれている腕にグッと力を入れる。
「……愛してるよ、ローラ」
「アレク…………私、もです」
そう互いに言い合って見つめ合う私達は、吸い寄せられるように再び唇を重ねていた。
「ローラ……」
「……アレク」
そんな甘い甘い時間はクォン様の声で現実に戻される。
「あー…………お二人共、そろそろ、それくらいにして下さいませんかね? 時間が……」
「「!!……」」
クォン様の存在を忘れかけていた。
「あぁ……そうですね。続きは、夜に主が夜這いでもかけたらどうでしょう? 止めませんので」
「おい! 側近としてはそこは止めるところだろう!?」
アレクが苦い顔で頭を抱えたながら怒鳴る。
でも、クォン様は気にしている様子は無い。
アレクはため息を一つ吐いてから言った。
「……とりあえず、夜這いの件は置いておいて……」
(置いておくの?)
ホッとしたような、残念なような……そんな複雑な気持ちを抱えた私にアレクは言う。
「……えっと、あぁ、そうだ! ローラ。実はその力こそが、君が“ドロレス・サスビリティ公爵令嬢”である事の一番の証拠なんだよ」
「え? あっ!」
確かに、この力は“直系”が引き継ぐと言っていた!
「それと、ローラの持っていた形見だというブローチ」
「え? これですか?」
私はそっとブローチをアレクに見せる。
「そう。それ……実はそのブローチもローラが正当なサスビリティ公爵家の後継者である事を示す証拠になれるはずなんだよ」
「これが?」
そんなに大事な物だったなんて!
前の人生で、叔父様に奪われてしまった事を後悔すると同時に“お母様の形見ではなく私の物”だと言ったあの使用人の言葉の意味はこれだったのね、とようやく理解した。
(私は本当に何も知らなかったんだわ)
「それに、クォンが調べてくれている数々の証拠を揃えてれば……」
でも、アレクは無茶をしながらも本当に私の為に動いてくれていた。
その気持ちにちゃんと応えたい。
そして、堂々と“サスビリティ公爵家”の人間としてアレクの隣に立ってみせる!
(それに……アレクを治す方法も探したいわ)
アレクがどんな“力”を持っているのかは知らないけれど、きっと、それが出来るのも私だけ。
だから今はたくさんたくさんアレクの側にいる事にするわ!
私は、自分からギュッとアレクに抱きつく。
「……ロ、ローラ!?」
「よ、夜、夜這いに来てもいいです……よ?」
「…………なっ!?」
アレクが言葉につまった後、顔が真っ赤になる。
“夜這い”発言でかなり動揺させてしまったみたい。でも、譲れない。
「……アレクが来ないなら、私が行きます!」
「ロ、ロロロローラ!?」
「ですから、今夜……待ってて下さいね?」
「~~~!?」
───未来は確実に変わっている。
今度はもう殺されたりなんかしない!!
全てを返して貰って、あの人達にはこれまでの報いを受けてもらうんだから!
私は改めてそう強く決意した。
86
お気に入りに追加
3,905
あなたにおすすめの小説
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります
すもも
恋愛
学園の卒業パーティ
人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。
傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。
「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」
私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に
柚木ゆず
恋愛
※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。
伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。
ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。
そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。
そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。
「そう。どうぞご自由に」

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!
みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。
結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。
妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。
…初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる