【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
23 / 36

20. 王宮へ移動します

しおりを挟む


「……あの、アレク。ほ、本当に大丈夫……なのかしら?」
「大丈夫だよ」

  アレクから自身の正体と愛の告白を受けた翌日。
  私はお店兼宿から出る事になり、今は部屋を片付けながら荷物をまとめてカバンに詰めている。

「でも、今の私はただの“ローラ”なので、王宮に入るのはどうかと……」

  アレク曰く、正体を明かしたから、最初から私を匿う予定だったこの宿にこれ以上滞在する必要は無いとの事だけれど。
  けれど、次の行先が王宮だと聞くとさすがにそれは、と心配になった。

「でも、このままこの店で、ずっと働くのは危険だからね。王宮に身を移すのが一番安全だ」
「それは……」

  その通り。
  いつ公爵家の者が現れるかも分からない。

  (それに、叔父様達が領地から戻ればもっと、捜索の手は伸びるかもしれない)

  私が色々考えているとアレクが悲しそうな顔をして言った。

「せっかくローラが生き生きと楽しそうに働いているのに……それを奪う様な形になって、ごめん」
「アレク……!」

  私は首を横に振る。

「それは……仕方のない事ですから」
「ローラ……」

  短い間だったけれど、色々貴重な経験になった事は間違いない。この時間を私に与えてくれてありがとう。
  そんな気持ちで微笑んだら、アレクも笑ってくれた。

「でも、全てを奪い返したら、また、働きたいわ……」

  と、私が小さく呟いたら、その声を拾ったアレクがうーんと悩まし気な顔で言う。

「許可はあげたいけど、ローラは僕との結婚が待ってるからなぁ……落ち着くまでは難しそうだよね」
「……」
  
  アレクがあまりにも自然にその言葉を口にしたので、思わず流しそうになった。
  だけど、ハッと気付く。

  (……今!)

  動揺した私の口からはおかしな言葉が飛び出す。

「!!  ……けっ!  けけけけ、けっ……」
「……ローラ?  不気味な笑い声みたいになってるけど、何かおかしかった?」
「わ、笑ったわけじゃないです!!」

  (け……結婚!)

  そうだった!
  本当の私はアレクの婚約者!  私はアレクが好きで、アレクも私の事が好きで……
 
  (つまり、全てを奪い返したら何の問題も無いわけで)
   
  私はアレクと……

「っっ!!」
「ローラ!?」

  急に意識したせいで、顔が真っ赤になる。
  そんな私の突然の変化にアレクが戸惑いながら私を抱き寄せる。

「え?  え?  大丈夫?  何で急にそんな真っ赤に?  …………めちゃくちゃ可愛いけど」
「うぅ……」
「……ローラ……はっ!  そうか。これは僕を誘っているのか。さすがローラだ。僕がローラのどんな所に弱くてメロメロなのか既に知っているんだね?」

  何かを勘違いしたアレクの瞳の奥に“欲望”という火が灯る。

「……え」
「愛してるよ、ローラ……」
「え、え?」

  そう言ったアレクは抱きしめていた腕に力を込めるとそのまま、そっと優しく私の唇を塞ぐ。

「ア、レク……」
「……ローラ」

  今は部屋の片付けの真っ最中でこんな事をしている場合では……
  と思うのに、大好きな人とするキスは甘くて蕩けそうな程、幸せで私の思考を奪ってゆく。

  (ずっとアレクの側にいたい、ずっとこうしていたい)

  ギュッと私から抱きしめ返すと、アレクの腕にもますます力が入る。

  (すごい……全身で“愛してる”と伝えてくれているみたい)

「……好き」
「僕もだよ……」
「ん…………」


  私達は荷物整理もそこそこで、しばらく二人の時間に夢中になった。

  (私、アレクの“大丈夫”という言葉を信じるわ)

  途中、こんな甘い時間に思考を奪われた私は、結局そのまま王宮に行く事が決定した。



  このすぐ後、王宮に向けて出発してから、再び公爵家の捜索がこの店と今度は宿の方にまで来た事を知るのは少し先の話──……




◇◆◇◆◇◆◇



「……!」

  (懐かしい……)

  そうして、久しぶりに私は王宮へと到着する。
  アレクと共にいたからか特に私の素性は気にされることなく、王宮内へと入れてしまった。
  さすが、本物の王子様。

  そんな私がアレクのエスコートを受けて、降り立った王宮を見て最初に感じたのは懐かしさだった。

  (お父様と……そう、レックスとも遊んだ王宮……)

「ローラ?」
「あ、いえ、久しぶりにこんな格好で王宮に降り立った事が不思議な気持ちで」

  私がそう口にするとアレクが、眩しそうに私の事を見つめた。

「すごくすごく可愛い。似合ってるよ」
「……ありがとうございます」

  私が微笑み返すと、

「あぁぁ、ローラが可愛すぎる……!!」
「アレク……」
「可愛い、可愛い、可愛い……僕のローラ」
「……っっ」

  アレクの“可愛い”口撃は全然収まってくれなかった。

  実は、今日の為にとアレクがドレスを贈ってくれていた。
  そして、そのドレスを見て、何故か腕まくりを始めて目をキラッキラに輝かせたリュリュさんにこれでもかと綺麗にして貰い、今の私はどこからどう見ても“貴族令嬢”そのものの姿だった。

  二人して照れながら見つめ合っていると、後ろから声がかかる。

「───殿下!」

  (あ、この声は)

  公爵家で聞いたあの声……

「どうした?   クォン」
「どうしたもこうしたも……主を迎えに来たらいけなかったですか?」
「そんな事は……」

  私はアレクの横で黙って二人の様子を見ている。

  (随分と気安い関係なのね……)

  そんな風に見ていたら、クォン様と私の目が合った。
  彼はあの日、公爵家に訪問して来た時と変わりない。

「!  サスビリテ……ドロレ……いや、ローラ嬢……ですか?」

  サスビリティ公爵令嬢にドロレスにローラ。
  
  (名前が多くてややこしくて何だか申し訳なくなるわ……)

「どうぞ“ローラ”とお呼びくださいませ」
「ローラ嬢……」
「……やはり、貴女だ」
「?」

  クォン様と様の言葉の意味が分からず、首を傾げているとクォンが言う。

「自分の記憶していた、“ドロレス・サスビリティ公爵令嬢”は貴女です、ローラ嬢」
「!」

  その言葉に純粋に驚いた。

「子供の頃以来ですのに、私の事を覚えてらして?」
「ええ、やっぱり本物は違いますね…………美しいです。殿下ととてもお似合いです」

  (お似合い!)

  その言葉に嬉しくて頬を染めていたら、後ろからアレクが私を抱きしめる。

「当然だ!  僕のローラほど、可愛くて綺麗で美しい人はいないからね」
「主……そんな独占欲全開で……誰もあなたから取ったりしませんよ?」
「そんな事、分からないだろう?」
「いやいや、殿下。そんなあからさまに欲望剥き出しで、ローラ様にドン引きされても知りませ……」

  私が、アレクの温もりにうっとりしていると、こっちを見たクォン様が驚愕の表情で言った。

「ローラ様、まさかドン引きしていない!?」
「?」

  クォン様は大きな独り言で「そうか、これは本当にお似合いだ……」と呟く。
  そして、「しかし、これからは甘ったるそうな日々が続くのか……」とも呟いていた。

  正直、意味が分からなかったけれど、お似合いといわれたのは嬉しかったのでニッコリ笑っておいた。


───



「えぇ!?」

  その後、部屋を移動した私に向かって、クォン様が教えてくれた話に私は驚く。

「サスビリティ公爵家が落ちぶれている、ですか?」
「ええ、そのようです 」

  クォン様はニヤリとした笑いを見せた。なんて、黒い笑顔……

「ですから、ズタズタにするなら、やはり“ドロレス嬢”の社交界デビューの日が最適かと思いますよ?」

  と、とっても悪い顔をして言った。

しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★★★★ 覗いて下さりありがとうございます。 女性向けHOTランキングで最高20位までいくことができました。(本編) 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、続き?を書きました(*^^*) ★花言葉は「恋の勝利」  本編より過去→未来  ジェードとクラレットのお話 ★ジェード様の憂鬱【読み切り】  ジェードの暗躍?(エボニーのお相手)のお話

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

【短編集】あなたが本当に知りたいことは何ですか?

ひかり芽衣
恋愛
「私を信じるなら、これを飲ませてごらん?」 それは、”一つだけ知りたい真実を知ることが出来る薬”だった…… カトリーヌの住む町には魔女がいる。人々は忌み嫌っており、森のハズレの魔女の家に人々は近づこうとしない。藁にもすがる想いの者を除いて…… 果物屋の看板娘カトリーヌは、ひょんなことから魔女に小瓶を手渡され、上記セリフを言われる。 実は最近のカトリーヌは、恋煩いという名の病を罹っていた。片想いをしている幼馴染ローイの気持ちが知りたくて…… オムニバス形式というのでしょうか? 共通テーマのある短編集です。各章ごとに完結しているので、一つだけ読んでも大丈夫です。 各章毎に一気に投稿するので、毎回一応完結で投稿します。 書きたい時に書いて投稿します! こんな薬が手に入ったなら、あなたならどうしますか? 色々なバージョンを読んでいただけたらと思います! よろしくお願いいたします^ ^

(完結)逆行令嬢の婚約回避

あかる
恋愛
わたくし、スカーレット・ガゼルは公爵令嬢ですわ。 わたくしは第二王子と婚約して、ガゼル領を継ぐ筈でしたが、婚約破棄され、何故か国外追放に…そして隣国との国境の山まで来た時に、御者の方に殺されてしまったはずでした。それが何故か、婚約をする5歳の時まで戻ってしまいました。夢ではないはずですわ…剣で刺された時の痛みをまだ覚えていますもの。 何故かは分からないけど、ラッキーですわ。もう二度とあんな思いはしたくありません。回避させて頂きます。 完結しています。忘れなければ毎日投稿します。

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】 「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」 私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか? ※ 他サイトでも掲載しています

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」 と、親切に忠告してあげただけだった。 それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。 友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。 あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。 美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

処理中です...