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19. 偽物令嬢達の誤算 (偽ドロレス視点)
しおりを挟む「まだ、見つからないのー!? あなた達はどこに目をつけてるの!?」
あの愚図女が消えて半月以上。
その行方は相変わらず知れない。
おかげで私の苛立ちは最高潮だった。
(身元不明の女の遺体が見つかった……なんて話も聞かないし。どういう事なのよ!!)
金もコネも、何一つ持っていないはずの愚図女はどこに消えたと言うの?
「ドロレスお、お嬢様……申し訳ごさいません……」
「言われた通りの場所も探したのですが」
どいつもこいつも無能、無能、無能!
「そもそも、あなた達があの愚図が抜け出すのに気付かなかったから、こんな事になっているんでしょ!!」
ブンッと私は手元のカップを使用人の一人に投げつける。
カップは見事に命中した。
「熱っ……」
「お嬢様! な、なんて事を……!」
「火傷してしまいますよ!?」
あら? 思ったより熱かったみたいね。
しかし、何なのかしら。最近、随分と反抗的なのよねぇ……
私はとってもとっても優しく微笑んだ。
「そんなに文句があるなら、お父様に言ってクビにしてあげるわよ? もうすぐ帰って来るしね」
「そ、そんな……」
「……ドロレス様」
そうそう。お父様から連絡があったのよ。
“これ以上、領民共の要望など聞いていられんから一度帰る”ってね!
(あぁぁ、私も怒られちゃうわ)
項垂れる使用人共を見ながら、私の内心はそんな事を考えていた。
───
そうして、愚図女は見つからず、また行方の手がかりも何一つ見つけられないまま、お父様とお母様が戻ってくる日がやって来た。
「お父様、お母様、お帰りなさいませ!」
「……おぉ、ただいま戻ったぞ。変わりはなかったか?」
「!」
その言葉に私の顔が引き攣る。
「……むっ? 何かあったのか?」
「…………えっと」
(愚図女の事、何て説明すれば……)
「……様子が変だな」
「……」
(もう、誤魔化せないわ……)
仕方なく、私はお父様に愚図女が脱走し行方が分からなくなった事を説明する。
最初は澄まして話を聞いていたお父様の顔が段々と怒りの表情へと変わっていく。
(あぁ、ほら……!)
「お前達、いったい何処に目をつけていたんだ!!」
案の定、お父様は怒り狂った。
その場で使用人を袋叩きにした後、青白い顔でブツブツと何やら呟いている。
「……まだ、アレを奪っていないのに……どこかに隠し持っていたはずだ……畜生……どこに逃げたんだ」
(何の話かしら? アレ? 奪う??)
何の事かさっぱり分からなかったけど、無能の使用人と共に私まで怒られたので、それが許せなくて私はお父様にお願いして無能の使用人達、数人をクビにしてやった。
───
「~~なんて、下手くそなのよ!! まともに髪のセットも出来ないわけ!?」
「も、申し訳ごさいません……」
(こいつも、もう要らないわね)
私の怒鳴り声に脅える使用人を見るのは最高に楽しかったけれど、最近は飽きて来た。
(やっぱりあの愚図女でないと楽しめないわぁ)
あれから、お父様も必死に手を尽くして愚図女を探している。
だけど、見つからないらしい。
唯一の目撃情報とも思われた、どこかの食堂とやらにも人をやったらしい。
そこは、どうやら宿とセットになっていたそうなので、まさかと思い宿の方にも探りも入れたらしいけど、結局それらしき女はいなくて分からなかったそう。
(あの愚図女は金なんて持ってないんだから、宿になんか泊まれるはずないのにねぇ……お父様ったら……)
売られて落ちぶれたかと思って娼館も調べたけど、それらしい女もいない。修道院もくまなく探したけど、やっぱり違う。まさか国境超えた!? と思って調べさせたけど、該当者がいない。
あの愚図女が、サスビリティ公爵家の本物の娘だと知っている私達のイライラは完全にピークに達していた。
それから数日後。
「……お父様。今日の食事、とっても不味いですわよ」
「…………あぁ」
「何なの? スープは味がしないし! 肉も生焼けじゃないの!!」
食事にうるさいお母様が怒り出した。
生焼けとか勘弁して!!
「おい! これはどういう事なんだ! 厨房の奴らは何をしている!!」
お父様が家令に向かって怒鳴ると、家令は顔色一つ変えずに言った。
「いません」
「「「は?」」」
私達、三人の声が重なる。
それでも、家令の顔色は変わらず淡々と説明する。
「昨日付で先日雇った見習いの料理人以外、全員辞めています」
「「「は!?」」」
辞めた……ですって? 意味が分からない!!
「ついでに、庭師、お嬢様付きの侍女……などなど、ここ数日で大量の退職者が……」
「待て! 何を勝手に辞めさせているんだ!?」
お父様が、慌てた様子で家令を問いつめる。
でも、家令はまたしても顔色一つ変えずに淡々とした様子で答えた。
「旦那様が辞めたい奴は好きにしろと言いましたので」
「なっ……」
家令のくせに「旦那様、自分の発言には責任をもってもらいたいものです」……なんてお父様に口答えしているわ!!
「~~な、なら! 新しく人を雇え! それで解決するだろう!?」
「募集はしていますが……応募はゼロです」
「「「はぁ!?」」」
「今も退職希望者の声が殺到しております。おそらく先に辞めた人達から、噂が広がっているのでしょう」
「「「~~っっ!!?」」」
順風満帆だと思われていた、サスビリティ公爵家の乗っ取りだったのに……
私は相変わらず“婚約者”からは無視されたまま。
(ほぼ毎日手紙送ってるのに全無視って、どういう事よ!!)
そして、辞めていく使用人。
処分前に行方不明になった本物の愚図女。
偽、ドロレス・サスビリティ公爵令嬢の社交界デビューの前には暗雲がたちこめていた。
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