【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
19 / 36

16. 彼の正体

しおりを挟む


  公爵家を出てから半月経った事で、少しずつ荷物が増えて来た。
  その整理をしながら、大事に仕舞いこんでいた所を見つけたあのブローチを、ふと思い立って自分の服につけてみた。

  (不思議……やっぱり私の瞳の色と同じに見えるわ)

  そうして鏡に映った自分の瞳とブローチの宝石を比べている最中に、アレクが帰って来たのでその状態のまま彼を出迎えていた。




「おか……は、母親の形見のブローチなの」

  (お母様……と言いかけたけど、母親と言い換えたし……私の出自を疑われていないわよね?)

  でも、これは家無し金無し訳ありの平民が持っているにしては、きっと相応しくない高価な物。
  色々、追求されたらどうしよう?  もしくは盗んだと疑われて責められてしまう……とか。

  ……そんな心配をしたけれど、

「いや、お母さんの形見か……それなら大事にしないといけないね」

  とアレクの返答は私を追求するものでも無ければ責めるものでも無く、私の気持ちを汲んでくれる優しい言葉。
  アレクはそういう人だったと改めて実感したら胸がキュンとなったので、はにかみながら答えた。



  (そう言えば……)

  アレクは私に何も聞かない。
  お腹を盛大に鳴らしてここに連れて来てくれた後、仕事を紹介してくれた時も理由を探りたいわけじゃないって言ってくれていた。

  (本当の事を話すべき?)

  私は名前も何もかも奪われた公爵令嬢ですって。
  でも、その話をしたらアレクを公爵家の問題に巻き込む事になる。
  そう思うと踏ん切りがつかなかった。

「ローラ」
「?」

  そんな事をグルグルと頭の中で考えていたら、アレクが私の頭をそっと撫でる。

「助けを求める事は悪い事じゃないよ?」
「……え?」

  驚いた私が顔を上げてアレクを見上げると、バチッと目が合う。
  彼の綺麗な金色の瞳は優しく私を見ていた。

「ローラは巻き込みたくないと思っているのかもしれないけど」
「!」
「言っただろう?  僕はローラを助けたい」
「……」

  (アレク……!)

  私は戸惑っているけれど、アレクはそのまま何でもないという様子で続ける。

「ローラもさ、薄々気付いてると思うんだけど」
「?」
「僕、実はさ……」

  何だかものすごく重要な事を言われるような気がした私はゴクリと唾を飲み込み、ドキドキしながらアレクの次の言葉を待った。

「こんなだけど、お金と権力だけはあるんだよね」
「…………」

  お金……権力……

  (───確かに!!)

  あの時、サラッと流してしまったけれど、アレクはこの店の最高経営責任者だと言っていた。
  ゴットンさんは部下なのだと……
  よくよく考えたら、それってすごい事だわ。
  だって、見た目はそう私と変わらない歳なのに!
  え?  あれ?  それとも若く見えるだけで、実はうんと歳上……

「…………ローラ。僕はまだ20歳なんだけど?  何か凄い事を考えてない?」
「!!」

  (───若かった!!)

  3つしか変わらない!  いえ、私はもうすぐ誕生日が来るから2つ?
  いえ!  それよりも何故、アレクは私の考えた事が分かったの!?  ますます頭の中が混乱する。

「…………ローラ。顔にね、全部書いてあるんだよ」
「え!」
「今の君は“アレクって実は若作りしてるだけで、実はうんと歳上のおじさんなんじゃ?”って表情が言ってたよ」
「~~~バレ……!?」

  私がぎょっとした顔を見せると、アレクは苦笑した。

「あはは!  ローラのそういう所、うん、やっぱり大好きだ」
「なっ……」
「本当に可愛い!」

  そんな事を言いながら、ギューッと私を抱きしめて来るアレク。

「そうやって、くるくる変わる表情は、見ていて可愛いなぁってずっと思ってるよ」
「は、恥ずかしいです……」
「何で?  ローラはこんなに可愛いのに」
「うぅ……」

  アレクの発した言葉の“大好き”とか“可愛い”が頭の中で何度も繰り返される。
  とってもとっても恥ずかしい……
  でも……

  (嬉しい)

  恥ずかしいけれど、嬉しい。

「……ローラ」

  アレクの手がそっと私の頬に触れる。その仕草だけでドキドキが止まらない。

「ローラ……亡くなった君の両親の分まで、僕は君を愛したい。いや、愛してるよ」
「……!」

  驚きすぎてうまく言葉が出ない。

  (何で?  どうして??)

  朝の、よ、よ、欲情している発言といい、こんなのまるで愛の告白……!
  人として好き……なんて意味にはとてもじゃないけれど聞こえない。

  (それに……)

「……私、おか……母親が亡くなっている事はさっき言いましたけど、おと……父親まで亡くなっているなんて言ってない……です、よ?」
「……」

  (どうして?)

「アレク……あなたは」

  ───何者なの?
  そう問いたかったけれど、言葉が続かない。
  知りたいような知りたくないような……そして、知ってしまって今のこの関係が壊れるのが怖い……
  情けない事にそんな風に尻込みしていたら、アレクがすっと私から身体を離すと、なんとその場で跪いた。
  その姿に私は慌てる。

「え?  ちょっとアレク!?  な、何をして……」
「アレクサンドル」

  (────え?)

  空耳かと思った。
  でも、アレクは跪いた体勢のまま言葉を続ける。
  表情が見えないので私は戸惑う。

「ローラ。僕の本当の名は、アレクサンドル・デュラミクス、だよ」
「……っ!?  ま、待って?  デュラミクスって!」
「……」

  デュラミクス───……それは、この国の名前じゃないの!!

  そして、今、アレクが口にした“アレクサンドル”
  その名前を繋げると、

  ───アレクサンドル・デュラミクス。

  (嘘っ……)

  今まで一度も会った事も連絡取り合った事も無かった、“ドロレス・サスビリティ公爵令嬢”の名ばかり婚約者の王子様の名前────……

しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています

春野オカリナ
恋愛
 エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。  社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。 アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。 もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。

百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」 私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。 この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。 でも、決して私はふしだらなんかじゃない。 濡れ衣だ。 私はある人物につきまとわれている。 イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。 彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。 「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」 「おやめください。私には婚約者がいます……!」 「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」 愛していると、彼は言う。 これは運命なんだと、彼は言う。 そして運命は、私の未来を破壊した。 「さあ! 今こそ結婚しよう!!」 「いや……っ!!」 誰も助けてくれない。 父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。 そんなある日。 思いがけない求婚が舞い込んでくる。 「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」 ランデル公爵ゴトフリート閣下。 彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。 これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

処理中です...