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15. 許せない奴ら (アレク視点)
しおりを挟む「クォン。サスビリティ公爵家の動きはどうなっている?」
朝から可愛いローラをたっぷり堪能した僕は、王宮に戻りクォンからの報告を待つ。
「“ドロレス嬢”の命令を受けて使用人が街を走り回っています。ローラ様を見つけるのに必死なのでしょう」
「そうか……」
「まぁ、見当違いの方向を探しているので、今のままなら大丈夫かと」
(これはしばらく宿泊業務に就いてもらっていた方がいいな……)
クォンから公爵家の使用人が食堂を気にしているようだ、と聞いた時は思ったより早いな……と思ったが。どうやらたまたまの偶然だったのだろう。
「ローラ様は?」
「今日も元気いっぱいに働いている」
食堂だろうと宿泊業務にだろうと、ローラはキラキラした笑顔で働いている。
その姿は本当に眩しくて僕は何時間でもその姿を見ていられる気がする。
「見守っていなくて大丈夫なんですか?」
「僕だってそうしたいさ!!」
バンッと大きく机を叩きながら僕が立ち上がると、クォンが「ですよね」と苦笑した。
出来る事ならローラの側にずっといたい!
だが、公務がある。
それに動ける時に動いておかねば……
(今はローラのおかげで発作も落ち着いているが……治ったわけでは無いからな)
「だが、ゴットンとリュリュがしっかり見ていてくれている」
「……あぁ、元騎士団長と筆頭侍女の二人ですね……」
まさか、そんな最強夫婦の二人を連れて行くなんて……とクォンは呆れている。
だが、ローラを守る為にはそれくらい強くて信頼をおける人材でないと駄目だ。だから、僕は彼らに協力を求めた。
あの二人もローラとはすぐに打ち解けたようだし、僕がいない間もしっかり守ってくれているはずだ。
(ローラ……)
「……主、顔がニヤけてますよ」
「……!」
図星だった。僕はローラの顔を思い出せばすぐにいつでもどこでもニヤける自信がある。
だけど、そう言うクォンだって、どことなく嬉しそうだ。
「何故、クォンが嬉しそうなんだ?」
「自分は殿下がようやく愛しの彼女に会えた事が嬉しいんですよ」
クォンはその質問に笑って答えた。
ローラと会えなくなってから僕の気持ちが落ち込んだ事に合わせるかのように症状はどんどん悪化していったから、クォンにはそれだけ長い間、心配をかけてきたのだなと思った。
「あぁ、そうだな。やっと会えた」
「それから、サスビリティ公爵領に行った公爵当主代理夫妻ですが……」
ローラに自由な時間が出来るようにと、わざと彼らを領地に行かせる用事を作らせたが、あの人でなし共はどうしているのか。
「面白いくらい、冷ややかな対応を受けてますね」
「へぇ?」
まぁ、そうなるだろうなという気はしていた。
「領民の方が、やはり前当主達の事をしっかり覚えていますからね。忘れ形見の“ドロレス様”の事も心配しているようです」
「あの夫妻が偽物を堂々と連れて行って騒がしくなる事も密かに期待したが……」
「そこは慎重でしたね」
「……」
(偽物のまま“ドロレス・サスビリティ公爵令嬢”の社交界デビューを済ませて、現在の“ドロレス”の顔が広く知れ渡れば、後に偽物の姿を見た領民が多少騒いでも黙らせられる……そう思ったのだろうな)
だから、その時までは偽物は領地には連れて行かないように徹底し、顔が知れ渡った後は、本物に生きていられると万が一、領民に騒がれた時に邪魔になる……だから本物は用済みとして消した。
というのが“ローラ”が、殺された理由か。
(なんて身勝手なんだ……)
思い出すだけで怒りが湧き上がって来る。
「……それから、前・サスビリティ公爵当主夫妻の事故に関する記録は?」
「それもこちらにまとめてあります」
そう言って別の紙の束が渡される。
クォンは隙がないので、求めた物が次から次へと出て来る。
さすがだな、と感心しつつ渡された書類にさっと目を通した。
「事故の数日前、サスビリティ公爵当主代理夫妻……ティナフレール伯爵夫妻はどうやら王都に来ていたようですね」
「……それまで滅多に領地から出なかったのに、か」
「ええ……」
「……」
(やはり、事故に絡んでいるのか……)
「ただ、事故はもう5年も前の事になりますから。当時の証言などはあまり期待出来ません」
「……分かってる。あぁ、ティナフレール伯爵夫妻は、王都に来た後は宝石店に頻繁に顔を出していたのか……」
渡された報告書のその部分が目についた。
「はい。当時の宝石店の店主の話だと、何度も訪ねて来ては翡翠色の宝石をしつこく吟味していたそうです」
「……」
(翡翠色の宝石と来たか……これは、ますます濃厚だな)
「主……いや、殿下はどうしてこの事に気付いて調べる事にしたのですか?」
「うん?」
僕が黙り込んだからか、クォンが不思議そうに聞いてくる。
「“ドロレス嬢”が、偽物に成り代わられていて、本物のドロレス嬢であるローラ様が虐げられている事、ローラ様が公爵家を逃げ出すつもりである事、そして、前サスビリティ公爵当主夫妻の事故がただの事故では無かったかも……だなんて」
「ははは……勘……かな?」
僕は笑って誤魔化す。
「……絶対に、違いますよね!?」
「あはは」
いくらクォンでも“この力”の事はトップシークレットだ。
それにあながち勘なのも間違っていない。
少なくとも、ローラが公爵家を逃げ出すつもりがあるか否かは、僕の知っているローラの性格を考えた上で僕が勝手に思った事だった。
(想像よりも早く行動に移していたけれど)
そこはやっぱりローラだな……
と、愛しのローラの事を考えていたら、「あぁ、また、ローラ様の事を考えていますね!?」と指摘された。
───
「ア、アレク! お疲れ様です、お帰りなさいませ!」
「ローラ!」
王宮から宿の方に戻ると、可愛いローラが出迎えてくれた。
朝に“アレク”と呼んで欲しいとお願いしたからか、ちょっと照れ臭そうな所がまた可愛い!
(距離が縮まった気がする……!)
僕は腕を伸ばして可愛いローラを胸の中に抱き込む。
「ひゃ!? な、何で??」
「疲れたから癒してもらおうと思って」
「い、癒し……? 私がですか??」
「そうだよ」
あぁ、可愛いなぁ……
抱きつかれるのは恥ずかしいけど、癒しと言われると……とグルグル考えているローラがめちゃくちゃ可愛い。
(発作の件で心配もかけてしまったからかな)
「ローラは僕の癒しなんだ……」
そう言ってもう一度、強く抱き込もうとしたその時。
(ん? 何かが当たっている。ローラの胸の辺りか?)
「……ローラ、胸の周辺に何か着けてる? 固いもの」
「あ!」
僕が訊ねるとローラは「昼間に荷物整理していて見つけて着けたままにしてから、すっかり忘れていたわ」と言ってそれを見せてくれた。
「おか……は、母親の形見のブローチなの」
「……!」
僕はそれを見て驚いた。
(夫妻の事故と共に行方不明になったと聞いていたのに! ローラが持っていたのか!)
ローラはきっとこのブローチが何なのかを知らない。単なる形見だと思っているようだ。
「……」
本当にサスビリティ公爵夫妻はローラに色々な事を話す前に亡くなってしまったんだな……と改めて思わされた。
「アレク?」
「いや、お母さんの形見か……それなら大事にしないといけないね」
「そうなの!」
そう言って、可愛くはにかんだローラを絶対に守らないと……と僕は再度心に誓った。
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