14 / 36
12. 彼からの今後の提案
しおりを挟む(な、な、何事!? 何でこんな事に!?)
私は今、アレク様の胸の中で大パニックに陥っていた。
「!?!?」
アレク様の事が心配でそっと呼びかけたら、優しく微笑まれたので、また胸がドキッとしたと同時にそのまま腕を伸ばされて抱き込まれた。
「ア、ア、アレク様!?」
「ローラ……」
アレク様が甘い声で私の名前を呼んだと思ったら、そのままギュッと力を込められ、私を抱き込む力が更に強くなった。
(こ、こんな事をされるの人生で初めてよ!? どうしたらいいの!?)
一応、婚約者だった人とも(会った事が無いから)した事ないのに!
いったいアレク様はどうしてしまったの!?
熱……! そうよ 熱のせいで朦朧としているんだわ! そうに違いない!!
私は混乱した頭で必死にそう言い聞かせる。
(だって、そうでないと……困るわ)
この胸のドキドキは……何?
なのに、私がそんな戸惑いを感じている事も知らずにアレク様は私を抱きしめたまま小さな声で何やら呟く。
「…………ているっていいな」
「……? アレク様、今なんて……?」
よく聞こえなかったので聞き返すと、肝心の顔は見えないけれどアレク様が頭の上でふっと笑った気配がした。
「いや、ローラは温かくて柔らかくて気持ちいいなって言ったんだよ」
「……」
(そう言っているけど、違う気がする……)
そういう事ではなくて……何だかもっと実感がこもっているような、そんな感じの言葉だった気がしたのに。
「アレク様……」
だけど、このまま放っておけなくて、私はそっと腕を回してアレク様を抱き締め返す。
何故かは分からないけれど、そうしなくちゃいけないような気持ちになったから。
静かに互いを抱きしめ合って温もりを確かめていたら、アレク様がポツリと言う。
「ローラ。君はこの後は行く所が決まっているの?」
「え?」
アレク様のその指摘にドキッとした。
「あの男達には否定していたけれど、ローラ、本当は頼る相手もいないまま街に来たんじゃないの?」
「……」
見抜かれている、そう思った。
確かによく考えたら、アレク様はあんなにお腹を空かせていた私を見たのだからバレバレだ。
「責めているんじゃないよ? 理由を探りたいわけでもない」
「……」
「でも、僕はローラの力になりたい」
「……え?」
(私の力に? なりたい??)
「困っているローラを放っておけない」
「……アレク様……」
少し身体を離してアレク様の顔をまじまじと見上げる。
相変わらず綺麗な金の瞳はまっすぐ私を見ていて、そこに嘘はないと思った。
「……当面、必要なのは住む所とお金かな?」
「うっ……その通り……です」
「───よし! 分かった」
「え?」
アレク様は少しだけ何かを考えた後、一人で大きく頷いた。
「ローラ、情けない話なんだけど僕は見ての通りちょっと病弱なんだ」
「ちょっと……?」
ちょっと、と言うレベルなのかしら?
そんな疑問が頭に浮かぶも、とりあえず話をそのまま聞く事にする。
「僕の家はここから少し離れたところにあってね? 用事が終わるまでは帰らないつもり。それでここに泊まってるわけなんだけど」
「……」
「ローラ、ここのお店で働きながら、僕のお世話をするつもりはないかな?」
(…………え?)
一瞬言われた意味が分からなかった。
このお店で働く? アレク様のお世話? どういう事!?
私は理解が追いつかず目を回す。
「あ! えぇと、ごめん。また言葉が足りなかった……このお店はね、僕の店なんだよ」
「!?」
次から次へと飛び出してくる言葉にもはや、理解が追い付かない。
この店がアレク様のお店ですって!?
「実はここの店主が僕の部下でね」
「アレク様の部下? だから、宿泊客でもない私にご飯をご馳走出来た……」
「まぁ、そうなるよね」
何だかここまで来ると、もう次に何を言われても驚かない自信があった。
「ローラが居てくれると……元気が出るから。だから、もし君に行く所が無いならどうだろう? 考えてくれないか?」
「……元気が、出る?」
「うん、ほら見て? もうさっきよりは元気そうだろう?」
アレク様は、微笑みを浮かべながらそう言った。
そこまで言われてしまったので、私はそっとアレク様の額に手を当てる。
「……あ、本当に。もう熱くない……熱が下がってるわ!」
いくら何でも熱ってこんなに早く下がるものだったかしら? と疑問に思っていたら、アレク様はどこか寂しそうに言う。
「……僕はちょっと特別なんだよ。でも、こんなに早く落ち着いたのはローラのおかげだ」
「特別……そして、私のおかげ?」
アレク様は静かに微笑むともう一度、私を抱きしめる。
「僕がここにいる間だけでいい。三食寝床付き。賃金も出す。普段は食堂の方を手伝って貰う事になると思うけど」
「……アレク様のお世話と言うのは?」
私の心は揺れている。ぐらぐらと揺れているわ。だってこんなおいしい話。
だけど、アレク様のお世話って何をするの??
お嬢様……ドリーのお世話すらろくに出来なかった私だけど……
「もし、またこうして、僕の具合が悪くなった時に手を握って看病してくれると嬉しい」
「手を……?」
(それなら難しくは無いわ)
「後は……これが一番重要なんだけど」
「重要!」
私はゴクリと唾を飲む。
緊張した空気が部屋の中に流れる。
そんな中、アレク様は私の目をじっと見つめてこう言った。
「最低1日1回は、こうして、ローラを抱きしめさせて欲しい!」
アレク様はそう言ってギュッと私を抱きしめる腕に力を込めた。
「!?」
(何ですって!? だ、抱きしめる!?)
驚きすぎて、今度は私の方が倒れるかと思った。
61
お気に入りに追加
3,891
あなたにおすすめの小説
身投げしたら川の神様に愛されました
鳥柄ささみ
恋愛
資産家の娘で、幼少期に父を亡くし女手一つで育てられたものの何不自由なく育った志乃は、茂平と結婚したことで生活が一変する。
義家族から虐げられ、家屋や遺産など全て奪われ、義家族に言われるがまま働かされる志乃。
きっと言われた通り頑張れば、以前のようにまた茂平が自分のことを愛してくれるようになると信じて日々過ごしていた。
だが、あるときそれが幻想だったと知ってしまう。
真実を知ったことで生きる希望を失くし、自らの命を断とうと近所の暴れ川に飛び込む志乃。
するとなぜか温かい何かに包まれて……
「死ぬくらいなら我のところに来ないか?」
虐げられる人生に絶望して身投げしたら川の神様からの溺愛されるハッピーエンドの物語。
私の望みは復讐です。~虐げられ令嬢は精霊王と共に時を戻し未来を変えます!~
瑚珀
恋愛
結婚式の前日、顔に大きな傷を負った公爵令嬢 ラステル
義母と異母妹からは虐げられ、実の兄からは見放される始末
顔の傷が原因で婚約解消となり精神的にも肉体的にも疲弊する日々
そんな中で唯一の心の拠り所で癒しとなっていたのは幼い頃から話し相手の“精霊達”
しかしある日、ラステルは義母と異母妹からの仕打ちに耐えきれず
身投げし生涯の幕を閉じようと決意した
そこへ突風が吹き荒れ長髪の男性が現れこう告げる
「貴女の望みを叶えましょう」
※3話にて一部流血表現・殺傷表現があります
苦手な方はご注意ください
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました
柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》
最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。
そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。
【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして
Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。
伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。
幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。
素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、
ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。
だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。
記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、
また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──……
そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。
※婚約者をざまぁする話ではありません
※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜
影茸
恋愛
妹であるアメリアを好きになったからと、一方的に婚約破棄された伯爵令嬢サーシャリア。
明らかに不当な婚約破棄に関わらず、家族はサーシャリアに可愛げがないのが行けないの一点張り。
挙句の果て、それでも認めないサーシャリアを家から放り出してしまう。
だが、彼らは知らない。
サーシャリアが今までの努力と、それが伯爵家を大きく支えていたこと。
そんなサーシャリアを多くの人間が慕っており。
──彼女を迎えに来た人間がいたことを。
これは、自分を認めない環境から逃げ出せたことを機に、サーシャリアが幸せを手にするまでの物語。
(旧タイトル) 妹に全てを奪われた私が愛されることを知るまで
(タイトルで悩んでおり、変更あるかもです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる