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おまけ番外編② ~過去と未来と~ (マーカス視点)
しおりを挟む「フラン、入るよ」
「あ、マーカス……ちょっと待って」
コンコンと扉をノックしたら、フランのそんな声が聞こえたけれど、つい勢いで扉を開けてしまった。
「……あ」
「もう! まだ合わせてる途中なのに!! ちゃんと呼ぶまで待ってて!」
「分かった、分かった、ごめんって」
怒られてしまったので一旦、退散する。
そんな顔しても可愛いだけなのにな、なんて考える。
やっぱりフランは怒ってても可愛いなぁ……
まぁ、1番可愛いのは笑顔だけど。
今日は、ウェディングドレスの試着の日だ。
あの騒ぎの後、ようやく……ようやく父上が認めてくれて、無事に正式な婚約者となった僕とフランシスカ。
僕はこれ以上の横槍は本当に本当に本当に勘弁なので、学院卒業と共に結婚出来るように諸々の日程を組み替えた。
フランは、「本気なの……?」と半信半疑そうな様子だったけど、僕は本気だ。
(ずっと、ずっと好きだった。いつかフランを自分のお嫁さんにする事ばかり僕は考えてた)
その夢が叶う事になったんだ!
1日だって待つ気は無い。
「しかし、ドレス姿はチラッとだけ見えたけど、やっぱりフランは何を着ても可愛い」
初めて会った10歳の頃から変わらない。
────……
10歳の時初めて会ったフランシスカ。
『フランシスカ嬢、初めまして。マーカス・フリーデンです』
『初めまして、マーカス様。フランシスカ・マドラスです』
同い年の子爵家の令嬢だ、とだけ父上からは聞いていた。
(彼女も最近、引き合わされる令嬢達と変わらないのかな……)
そんな風に最初は思っていた。
この頃から、おそらく将来の事を考えてだろうか、爵位も高くまた歳の近い令息令嬢にやたらと引き合わされるようになっていた。
令息達はまだいい。友人として付き合っていける。
問題は令嬢達だ。
彼女達も親から言い含められているのだろう。
明らかに未来の公爵夫人に座を狙っているかのような肉食獣のような目に、正直怯えた。
そんな中でフランシスカが唯一他の人達と違ったのは、本当に“友人”として引き合わされた事だった。
父上の中で子爵家の令嬢を婚約者にするなどまるで考えられていなかったからだろう。
僕の顔を見てフランシスカは言った。
『……王子様みたい』
『え?』
王子様……まさかそんな事を言われるとは。
しかも、本人もついうっかり口にしてしまった!
という様子で、計算とか打算とかいっさい感じられない。素直な子なんだろうな。
そんな事を思ったからか、自然と笑いと照れくささが込み上げてきた。
『あはは、初めて言われたなぁ。……でも、ありがとう』
『……っ』
何だかこの子とは仲良くなりたいな、そう思った。
****
『フラン!』
『なぁに? マーカス?』
それから、フランは父親が仕事で我が家に来る時は決まって着いてくるようになった。
僕はフランと遊べる時間が楽しくて仕方が無かった。
……待ち遠しいってこういう事なんだろうな。
フランは他の子達と違って僕に媚びを売ることもなく、本当に友人として付き合ってくれる。身分差も気にしている素振りもない。
ドレスが汚れるのも気にせず一緒に庭を駆け回れるフランは貴重な友人……のはずだったんだけど、いつしか僕の中では違う気持ちが芽生え始めていた。
(ずっとフランと一緒にいられたらいいのに……)
それが“恋”だと知ったのは母上の一言だった。
「マーカス、あなたフランちゃんの事が好きなの?」
「好き?」
「そう、好き……特別な“好き”よ」
……特別な好き。
その言葉が胸にストンと落ちて来た。
最近、フランを見ながら思うこのぼんやりとした気持ちに名前がついた。そう思った。
「……母上、僕はフランの事が好きみたいだ」
「…………そう。可愛くて素直でいい子よね。私もフランちゃんは好きだけど、旦那様が……」
自分の気持ちに気付いた僕の事を母上は困った顔で見ていたのだけど、その時の僕は気付いていなかった。
フランの事が好き──
そう気付いてからは、僕もフランに好きだと言って貰える男になりたい! そう思うようになった。
勉強出来る男がカッコイイと言われので、それまではあまり好きではなかった勉強にも身が入る。
──フラン。いつか君も僕を好きになってくれないかな? そして将来は……
「──駄目だ」
「何故ですか?」
「……」
「……父上!!」
そろそろ、婚約者を決めようと思うんだが。
ある日、そう言い出した父上に僕は言った。
「フランシスカの事が好きだから、将来はフランシスカと結婚したい」
その答えが“駄目だ”だった。
「フランシスカ嬢は子爵家の娘だろう? いい子だとは思うがやはり……」
やはりそこは友人として付き合うべきだとかなんだとか父上は言い出した。
なんでだよ!!
父上は何度説得しても聞いてはくれなかった。
───そして、あの日。
フランシスカが木から落ちて怪我をした。
庇おうとした僕自身も怪我を負ったけど、僕は彼女の額の傷が気になって仕方ない。
しっかり庇えなかった事が悔しい。
いや、そもそもちゃんと止めるべきだったんだ。
……でもフランの楽しそうな笑った顔が見たかったから……
(どうしよう。顔に傷が残ってしまったら……)
僕の気持ちは変わらない。傷があろうが無かろうがフランが大好きだ。
だが、きっとフランに対する周りの反応は……変わってしまう!
そしてその嫌な予感は当たり、フランの両親は彼女をもう貴族令嬢としては不要だと言わんばかりだった。
(フランを修道院に? そんな事になったら二度と会えないじゃないか!!)
だから、僕は嘘をついた。
「フランシスカは僕のせいで怪我をしました! だから責任を取らせてください!!」
父上はそれでも渋った。子爵家には慰謝料を払えばいいだろう、と。
それでも以前のように頭ごなしに反対されないのは、僕のついた嘘を信じて“責任”があると内心少しは思っているからだろう。
──嫌だ! 僕はフランじゃなきゃ嫌だ! 僕はこの嘘を突き通してでもフランと結婚するんだ!! 僕は一歩も引かなかった。
「……当面は婚約を認める……が、少しでもお前に次期当主としての素質がー……」
「ならば、父上!」
僕は学院に入学後、トップの成績を維持する事と、生徒会長に抜擢される事が出来たら正式に認めてくれと申し出た。
「……どうしてそこまでするんだ?」
不思議そうに尋ねる父上に僕ははっきりと告げた。
「フランシスカの事が好きだからです。彼女の為なら僕は何でも頑張れます。だから見ていて下さい!」
その後、どんどん可愛くなっていくフランシスカに、思春期特有の謎の照れが発生し、うまく接する事が出来なくなったり、(照れくさくてフランと呼べなくなってしまった)
勉強に力を注ぎすぎて肝心のフランシスカとの距離が出来てしまったり……と完全に空回りを繰り返しながらも、ようやくフランと気持ちを伝え合う事が出来た。
……婚約解消したいと言われた時は目の前が真っ暗になったけども。
****
「……マーカス」
フランがひょっこり顔を出す。
「着れた?」
「えぇ、どうかしら?」
そう言って試着したウェディングドレス姿を見せてくれるフラン。
(僕の……僕との結婚式に着るドレス……)
「可愛い……」
「え? そうじゃなくて、もっと具体的なー……」
「可愛い……とにかくフランが可愛い」
「いや、私でなくウェディングドレスの感想を……ってマーカス?」
ダメだ……泣きそうだ。
え、これ本番大丈夫かな? 号泣する自信があるんだが!
「……マーカス」
「!?」
涙を堪えているとフランがそっと僕の頬にキスをした。
「フ、フ、フラン!?」
「マーカスったら泣きそうな顔をしているんだもの」
「……」
「そんなに感動しちゃった? 私のこの姿!」
フランがいたずらっ子のように笑いながら言う。
「する。感動しかない」
そう言ってフランを優しく抱き締める。
本当はギュッとしたいけど、ドレスがあるからなぁ……残念!
フランはちょっと驚いた顔をしたけど笑ってくれた。
──この笑顔が昔から大好きなんだ。
「フラン……大好きだよ。早くこれを着た本番の日の君が見たいよ」
「マーカス?」
僕はそう言いながらそっとフランに顔を近付ける。
フランもそっと、瞳を閉じる。
僕はそっと愛しい愛しいフランの唇に自分の唇を重ねた。
「……」
「……」
最近はキスだけでは足りなくなって来た。
もっと色々したい!
したい! けど、今は我慢だ。
「フラン……愛してるよ」
今はこれで我慢だ。必死に自分に言い聞かす。
「……マーカス……私も、私もあなたを愛してるわ」
くっ! 今すぐ押し倒したくなるくらい可愛い!
その笑顔でその言葉は反則だ!!
僕はもう一度、フランにキスをして何とか耐えた。
──あの騒動を境にフランは凄く変わった。
あのルーシェ嬢が反省した、というのもフランのおかげなんだろう。
(あの時、フランは本当に何をしたんだろう? あの何かを切る動き……そう、まるで……)
「…………赤い糸」
僕が小さくそう呟くと、フランが「えっ!?」と驚いた声を上げた。
何でそんなに驚く?
ちょっと思いついた事を言ってみただけなのに。
「ねぇ、フラン。運命の男女で結ばれているって言われている赤い糸って切れたりする事もあるのかなぁ?」
「っっ!!」
フランの顔が何故か引き攣った。
……僕と繋がっているであろう赤い糸が切れる心配でもしたのかな?
そんな心配はいらないのに。
「そ、そ、そうね……」
「?」
「で、でも、私は例え切れても何度だってマーカスとの赤い糸は結び直せるって信じてるわ」
「……僕達の赤い糸はきっと切れないよ」
僕はフランの左手を取りそっとその手にキスを落とす。
「マーカス!?」
目には見えないけど、僕らの赤い糸は繋がっているはずだ。
「フラン……フランシスカ。赤い糸に誓って僕は絶対に君を幸せにする」
「……」
フランが驚いた顔をして僕を見る。そして微笑んだ。
「……私も。私もマーカスを幸せにしたいわ…………私達の赤い糸に誓って」
互いにふふっと微笑み合う。
僕達は互いの手をしっかり握りながら、改めて未来を誓った───
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
完結したと言っておきながらしつこくてすみません……
昨日のジェイ様視点書いたらマーカス視点が書きたくなってしまいまして。
ひたすら、フランを可愛いと言っているだけのマーカスでした!
(私の書くヒーローはだいたいこんなです)
ちなみに、余談ですが、
私がこの話で最も書きたかったシーンは9話でマーカスが「運命なんて……」と言って現物の赤い糸で無理やり糸を結ぶシーンです。
どうぞ、この先の2人の幸せを願ってやって下さいませ。
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ジェイ様視点のリクエストありがとうございました(⋆ᵕᴗᵕ⋆)
ですが、こちらはちょっと切なくなってしまいましたね……
私もジェイ様の幸せを願っています!
きっと良い人見つかるよ( *˙ω˙*)و グッ!
そして、マーカスはもう必死です!
(*´艸`)フッフッフ……
どれだけフランの事が大好きなの?
って、感じですね!
皆、きっとこの先は幸せいっぱいですヾ(*´∀`*)ノ
最後までお付き合い下さりありがとうございました~♪