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14. 攻略は明らかに失敗している
しおりを挟むミラージュが嬉しそうに両想いになったと報告してくれた相手の名前を聞いた時は、まさかと思ったわ。
『生徒会役員のラルフ様よ!』
あの時、ラルフ様は攻略対象者なのに!? と叫ばなかった私を褒めてあげたい。
そして、ミラージュとラルフ様の赤い糸が繋がっているのが確認出来た以上、ルーシェ嬢のラルフ様ルートは無くなったと言える。
なのに、その肝心のラルフ様がルーシェ嬢の事で話があるとはいったい何事?
「ルーシェ嬢の事で?」
マーカスが改めて聞き直すとラルフ様は頷き、そして顔を青くして叫んだ。
「俺はもう無理だ!! 限界なんだ……彼女とこれからも一緒に仕事をやっていける気がしない!! 頼むマーカス! ルーシェ嬢をどうにかしてくれっ!!」
「「!?」」
私とマーカスはびっくりしてお互い顔を見合わせた。
「とりあえず、落ち着いてくれラルフ。それから僕達にも分かるように説明してくれないか?」
幸い授業開始までは時間があった為、裏庭に場所を移動して話をする事になった。
マーカスの言葉にラルフ様はチラッと私の顔を見た後、ちょっと言いにくそうに口を開いた。
「……マーカスは分かると思うんだが……ルーシェ嬢は俺達に対して距離が近い時がある」
「そうだな」
「そういう時の彼女は、決まってこう言うんだ」
「「?」」
いったいルーシェ嬢は何を……
「『叶わない恋など諦めて、別の人を見つけるべきです! 赤い糸で結ばれた運命の相手は案外近くにいるかもしれませんよ?』……と」
「はぁ?」
「……!」
その言葉で思い出す。
私はマーカス推しだったせいで、他の攻略対象者のルートはうろ覚えだけれど、
ラルフ様ルートでは確か彼には最初、ヒロインでは無い想い人が他に居る。でもその恋が叶わず落ち込むラルフ様をヒロインが励ましながら距離を縮めていくストーリーだったはず。
(まさかのラルフ様の叶わない恋の相手がミラージュ!!)
思ってもみなかった展開に頭がクラリとする。
隣国で流行った婚約破棄騒動が我が国に持ち込まれた事により、シナリオは狂ってしまったのかもしれない。
だって、ゲームにこんな婚約破棄騒動が巻き起こっているなんて描写は出て来なかったもの。
「その……フランシスカ嬢は聞いてると思うんだが……俺の想い人は……その……」
ラルフ様が言い淀む。
「はい。話はミラージュから聞いています」
私の言葉にラルフ様がホッとした表情を浮かべる。
「先日、俺はずっと想ってた彼女……ミラージュから告白されて、こ、こ、恋人になれたんだ」
ちょっと照れながら話すラルフ様。赤い糸がふわりふわりと浮かんでいる。
うん! 本当に、ミラージュの事が好きみたいだ。
「なのに、ルーシェ嬢は未だに俺を見つけると言うんだ。『私にはラルフ様の苦しい気持ちが分かります』『いつでも話を聞きますよ。一人で悩まないで下さい』……もう、嫌だ! せっかくミラージュの恋人になれたのに、俺はルーシェ嬢のせいでノイローゼになりそうだ!!」
「……」
「むしろ、ルーシェ嬢の事で悩んでるっ!!」
ルーシェ嬢の言動は、ゲームのヒロインの行動そのもの。
だけど、何かしら……ホラーにしか思えない。
なんて恐ろしいの。
「あー、ラルフ。僕は今、ルーシェ嬢を生徒会役員から解任しようと思って動いているんだが」
「そうなのか!!」
ラルフ様の表情が光り輝いた。
それだけで、これまでがどれだけ苦痛だったのかが伝わって来た。
「ルーシェ嬢は、僕の大事なフランを傷付けたからね……許せないんだよ」
「そ、そうなのか……」
マーカスの黒い怒気にのまれて今度はたじろいでいる。
「そうなると、後はロンだな。ロンはー……」
「僕がどうかした~?」
「ひっ!?」
マーカスがそう口にした時、後ろからひょっこりと噂の本人、ロン様が現れた。
(し、神出鬼没!! 心臓が飛び出すかと思ったわ)
バクバク鳴り止まない心臓を必死に落ち着かせる。
今、驚いて変な声を上げてしまったけれど、誰も聞いてなー……
「……」
マーカスと目が合った。
ニコッと微笑まれた。……ばっちり聞かれていたみたいね。
気を取り直して視線をロン様に向けると彼はニコニコ顔を崩さないまま言った。
基本、彼は笑顔だ。
「なんてね、全部聞いてたよ~」
「なら、話は早い。ロンはどう思う?」
マーカスの問いかけに更に笑みを深めて彼は答えた。
「いいんじゃない? 僕、本当はベタベタされるの嫌いなんだよねー。ルーシェ嬢の触り方はちょっと度が過ぎてるな~と思ってたし……」
「そうか、決まりだな」
そう言ってマーカスは話を進める。
「……」
先生だけはよく分からないけれど、ルーシェ嬢……間違いなく攻略失敗しているわ!
全員の好感度……低そうなんですけど!?
(これは、誰か一人に絞らず、5人をどうにかしようとした結果なのかしら?)
5本の赤い糸は、ルーシェ嬢の5人への好意を表しているのだと思う。
やっぱり現実には有り得ないのよ……いえ、ゲームだって……
フラフラせずに一途な想いを貫けば未来は違ったかもしれないのに。
……それでもマーカスは絶対に譲らないけれど!
あ、ラルフ様もダメ! ミラージュが悲しむから。
「そうなると、先生の説得にあたって必要なのは僕達全員の同意と……ルーシェ嬢の調査報告が必要……かな」
「調査報告?」
私が聞き返すとマーカスは神妙な顔をして頷く。
「僕らの話だけでは聞き入れて貰えなそうだったからね、それならちゃんとした解任の理由付けとなる証拠があった方がよさそうだと思って」
「それはあった方がいいが、そんな物をまとめる時間が俺達の何処にあるんだ?」
「今、抱えてる仕事で手一杯だね~」
「……」
マーカスが黙る。
何だかいきなり詰んでるんですけど……
せっかくみんなの意見が揃ったのに。
私も見てるだけじゃなく何かマーカスの為に出来ればいいのに……何だか悔しい。
ん? 私に出来る事……?
……って! そうよ!!
「はい! マーカス、お願いがあるの!」
「フラン?」
私は挙手をして、マーカス達全員の顔を見渡しながら言った。
「その役目、私にやらせて?」
「「「え?」」」
3人の驚きの声が綺麗に重なった。
ずっと、ずっと忙しいマーカスの為に何も出来ない自分が悔しかった。
ルーシェ嬢の言ってた、役立たず、足手まとい……その言葉に強く言い返せなかったのは心の中に自分でもそう思う気持ちがあったから。
だから、こんな時くらい役に立ちたい!
そう思って手を挙げた。
****
話し合いを終えて、マーカスと手を繋ぎながら私の教室へと向かう途中、マーカスがびっくりしたなぁ……と呟いた。
「まさか、フランが自分がやるなんて言い出すとは思わなかった」
「私だって他人事じゃないし、何より、そのマーカスの……力に」
「分かってるよ、ありがとう、フラン」
マーカスが優しく微笑む。
「それに、彼女の暴言をまとめるには私が適任だと思うのよ! たくさん言われて来たもの!」
「……それは、まぁ……」
「なぁに? そんな変な顔して」
「だって、フラン……」
「大丈夫よ。今まで彼女に言われた事なんか気にならないわ。むしろ私は今、こうしてマーカス達の役に立ってお手伝いが出来る事の方が嬉しいくらいよ!」
私が笑って言うと、マーカスもようやく微笑んだ。
「フランは変わったね?」
「えぇ?」
「何だろう……前向きに……いや、強くなった……?」
マーカスが首を傾げながら言う。私はその言葉にふふふ、と笑いながら答える。
「そう見えるなら、全部マーカスのおかげよ?」
「え!?」
「マーカスが私を想ってくれているから、私もその気持ちに応えたい、強くなりたいと思ったんだもの」
「フラン……」
マーカスは私を弱くも強くもする存在だ。
せっかくなら、私はこのまま強くありたい。
「どうかした?」
マーカスが歩みを止めて、私と繋いでいる手と反対の手で顔を覆いながらプルプルと震え出した。
「フランがカッコ可愛い……」
「……? 何それ」
「カッコよくて可愛い……無理、こんなの惚れ直す……」
「!!」
マーカスの言葉に今度は私が顔を赤くした。
ちなみに教室に着いた時、互いに顔を赤くしている私達を見たミラージュに、
「いつまで初々しい事やってるのよ」
と呆れられた。
「それじゃ、詳しい事はまた後で」
「うん、分かったわ……ってそうだ! あのね、マーカス……」
マーカスを一旦引き止める。
話しておかなきゃいけない大事な事を伝えるのを忘れていたわ。
「どうしたの?」
「あのね……一つお願いしておきたい事があるの」
「?」
私のお願いにマーカスはちょっと驚いた顔をしていた。
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