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3. 赤い糸が見えるのですが

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「つまりは……生徒会のメンバーが攻略対象者だったわけね……」

  どおりで……マーカスと愉快な仲間達になるはずよ。
  私が思い出せていなかっただけで、とっくにゲームは始まっていた。
  ゲームの開始はルーシェ嬢の編入した日だ。

「誰のルートに……と言ってもまだ序盤よね」

  ゲームの通りなら個別ルートに分岐するのはまだまだ先の事。
  願わくば……マーカスを選ばないで欲しい……

  コンコン

  なんて頭を抱えていたら、扉のノックと共にメイドのリナが入って来た。
  私が目を覚ましている事に気付いて慌てて駆け寄って来た。

「お嬢様!!  お目覚めですか!?」
「え、えぇ……さっき」
「あぁ、良かったです。学院で突然倒れられたとの事で驚きました!」
「あ……」
  
  そうよ。私、学院で倒れたはずなのに、どうして家に帰って来ているの?
  そんな私の疑問を読み取ったのかリナが笑いながら言った。

「マーカス様ですよ!  何でも学院で倒れたお嬢様を発見してそのまま医務室に運んだ後、ご自分の家の馬車に乗せてこちらまで運んで来てくれました」
「え!?  マーカスが……?」

  なら、あの倒れる寸前に聞いた声は彼の声で間違い無かったのね……?
  トクンッと胸が高鳴る。

「血相を変えてらして、フランがフランが……って大変でした」
「まぁ!」

  心配かけてしまった事は心苦しいけれど、
  昔は呼んでくれていた愛称呼び!
  何故か最近はめっきり呼んでくれなくなっていたけれど……
  その事がたまらなく嬉しい。

「マーカスは?」
「下の部屋におられますよ。出来ればお嬢様が目を覚ますまでは帰りたくない、と仰っていまして」
「……!」

  ならば、お礼も言いたいし、急いで顔を見せに行かなきゃ!
  ……そう思った時、ふと気付いた。

  リナの左手の小指に何やら赤い糸のようなものがついている。
  ドアの外まで続くくらいのすごい長さなんだけど……?  なぜ?
  何か繕い物でもしていたのかしら?

「ねぇ、リナ。あなたの指に長い赤い糸のようなものがついてるわ。それ邪魔ではないの?」
「はい?」

  リナが不思議そうな声を上げる。

「お嬢様、何を言っているんですか?  何もついていませんよ?」

  リナが私に手をかざして見せてくれる。
  ……間違いなく赤い糸がついてる。

「え?  そんなはずー……」

  だって、こんなにはっきり見えているのよ?
  気付かないなんて、おかしくないかしら?

「何も無いですよ」

  もう一度ほら、と私に手を見せるリナ。
  やっぱり、どこからどう見てもは左手の小指に赤い糸がついていて、それも外まで伸びている。

  (え、やだ……まさか、私にしか見えていない……?)


  そんな馬鹿な事が?
  それに、よく見ると何だかこの赤い糸って……まるで……

  そこで、私はさっき見た夢……乙女ゲームのフランシスカが、マーカスに婚約破棄されていたシーンを思い出した。

  運命で結ばれる男女の間で繋がっているという赤い糸……その相手がフランシスカでは無い、とそんな訳の分からない理由で婚約破棄を突きつけられたフランシスカは怒鳴っていた。

  “そんなに言うならその“赤い糸”というものを見せなさいよっ!!”

  ……と。

「!?!?!?」

  まさか、あの願いのせいでこんな事に!?

「…………」

  いえ……落ち着くのよ、フランシスカ!
  憶測でものを言うのは良くないわ。

  私はプルプルと首を横に振り考える。

  赤い糸……なんてまぁ、前世の事を考えてもこの世界が乙女ゲームの世界なのだと考えても指してることはたった一つ。
  そして、ゲームの中でも確かに運命の赤い糸という言葉は出てくる。
  実際、(ゲーム内の)マーカスは口にしていて、それを理由にフランシスカに婚約破棄を迫ったのだから。
  そもそも、この世界の乙女ゲームのタイトルこそが『赤い糸の辿った先にある恋』で、赤い糸が入っているわ。

  だけど、ゲームの設定をどう頑張って思い出しても、なんて現象はヒロインですら起こらない!
  
  だから……今、私にだけ見えているこの赤い糸が本当に運命で結ばれている男女の赤い糸とは限らないわ。
  ただの私にしか見えないゴミかもしれない!

   そんなゴミあるはずないのに、一縷の望みをかけて私はリナに尋ねる。

「ねぇ、リナ……」

  リナに声をかけた時、ちょうど新たに扉がノックされ別の使用人が顔を出した。

「おい、リナ。お嬢様の様子はどうだー……って、あぁ、お嬢様!  お目覚めでしたか、良かった」
「え、えぇ。心配かけた…………わ!?」

  そう言って入って来たのは使用人の一人フレッツ。

「…………っ!!」

  私は彼を見てあまりの衝撃に言葉を失った。
  だって……だって!!

  リナとフレッツ……互いの指から出ている赤い糸が繋がっていたから。

  まさか、まさか……これはやっぱり……!?
  そんな思いで私はおそるおそる口にする。

「……ね、ねぇ、リナ。それに、フレッツ……あなた達って……もしかして付き合ってる……?」
「「!!」」

  二人がハッと息を呑んだ。
  その顔はまさに驚いていて、何故バレた?  といった様子。それだけで答えを聞かなくても分かる気がした。

「なっ!  どうしてそれを……!」
「お嬢様……いつからご存知だったのですか……!?」

  あぁぁ、なんて事。やっぱりそうなのね。
  私は頭を抱えた。

  この赤い糸は本物だわ。
  そして、何故か私にしか見えていない……


  どうしてこんな事になったの……



  赤い糸が見えたから分かりました。なんて本当の事を話すことは出来ないので、気付いた理由は何となく二人の雰囲気が……で誤魔化した。


  だって、この時の私の頭の中はそれどころでは無かった。
  ぐるぐる考え事をしていたから。

  だって、運命で結ばれている男女で繋がっているという赤い糸。
  本当にこれがそうだと言うのなら……


  ──どうして私の指からはその赤い糸が出ていないの??

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