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第二十四話 眠りの呪い
しおりを挟む私達は自分達が気付かなかっただけで、お互いの事がずっと大好きだった。
だから、本当は呪いなんてかける必要がなかった……
その事を実感した私達はもう一度見つめ合うと、ふふっと笑い合う。
「そっか……だから解呪したのに変わらなかったんだ」
「……? 何がですか?」
「いや……」
フレデリック様が独り言を呟いたけど、意味が分からなかったので聞き返すと、苦笑いだけ返された。
「……ディアナ」
「フレデリック様……」
名前を呼びあい、フレデリック様の顔が再びそっと近付いてくる。
(あ……)
私がそっと目閉じると、程なくして再び柔らかいものが私の唇に触れる。
あぁ、幸せの味がする……
「大好きだ」
「私もです」
お互いに六年分……いえ、それ以上の愛を囁きながら何度も何度もキスをした。
「……ん」
「……ディアナ。そういえば今日は、まだ早いです! って怒らないんだね」
「あ、あれは……」
「まぁ、今更だけどね」
何度目かのキスの後、フレデリック様がイタズラっ子のように笑いながらそんな事を言う。
私は抗議しようとしたのに、再び唇で口が塞がれてしまう。
「んむっ!」
「ははは、可愛いなぁ。そしてディアナの唇は甘いね。何度も何度もこうして触れたくなる……」
フレデリック様が熱っぽい目で私を見つめると、チュッチュッとキス攻撃が再開してしまい全く終わる気配がない。
(もう!)
せっかく私は目が覚めた(らしい)のに、酸欠のクラクラとドキドキでまた倒れるんじゃないかしらと思った。
チュッ……チュッ
(あ、そういえば……えっと、何か大切な事を忘れているような)
フレデリック様にキスをされながらふとそう思った。
チュッ……
(そうよ、ほら……)
「フレデリック様……あの」
「うん、ディアナ可愛い」
チュッ……チュッ
「あ、んっ……そうじゃなくて……です!」
「うん……?」
私はキスの合間に必死に訴えようとする。
油断するとすぐにトロトロにされてしまうので、頑張れ私! と自分に喝を入れた。
「わ、私が眠っていたのは何かの呪いなんですかーー!?」
「……あ!」
ようやく聞きたかった事を口に出来たわ。
すると、フレデリック様がハッとした様子で私から身体を離した。
─────
「……コホッ……えっと、ディアナ」
「はい」
「身体は……平気? えっと、そうなんだ……君は“呪い”で眠ってしまっていたんだよ」
ようやく落ち着いたフレデリック様が気恥しそうに……それと、まだどこか心配そうな表情を浮かべながら私にそう教えてくれた。
「呪いで……?」
「ああ。だけどディアナだけじゃないんだ。侯爵家の屋敷にいた者達、全員が同じように呪われて眠りについていたんだ」
「なっ!」
(全員ですって!?)
「多分、眠りにつく前に変な香りを嗅いだんじゃないか、と思っているんだけど覚えある?」
「あります……! 確か、何か変わった香りがして…………その後の記憶がありません」
「やっぱりね」
フレデリック様が手を伸ばして私の頬を撫でる。
「目が覚めてくれて良かった……」
「あの、フレデリック様が解呪……呪いを解いてくれたのですか?」
誰が呪ったの? その方法は?
気になる事はたくさんあるけれど、なぜフレデリック様はこれが呪いだと分かり、そして解呪が出来たの?
私の問いかけに!フレデリック様は優しく微笑んだ。
「……ディアナも僕に呪いをかけていたなら、やっぱり見たんだよね?」
「え?」
「王家の秘術の本」
「っ!」
あの日の記憶が甦る。
フレデリック様と鉢合わせて慌てて図書室から出て行った。
やっぱり私、本を落としたままあの場から逃げてしまっていたんだわ……!
そしてフレデリック様は残された本に気付いてそれを───……
「実はね、ディアナが目にする前から、僕はあの本を見つけていてね、ちょうどあの時は“ディアナに素直になれる方法”の準備をしていたんだよ」
「え!」
「でも、まさか、ディアナも僕にかけようとするなんて思わなかったなー……」
「だ、だって……!」
「うん、それだけディアナも僕のことを好きで……いてくれた。夢みたいだ」
「!」
フレデリック様がとても嬉しそうに笑う。
その笑顔が可愛くて胸がキュンとした。
「……」
「……」
そして、少しまたお互い見つめ合った後、フレデリック様が慌てた様子で言った。
「コホッ…………は、話を戻そう! あのね、ディアナ。あの秘術の本……行方不明だなんだと騒がれたけど。実は今も僕が持っているんだ」
「…………え!?」
フレデリック様のカミングアウトに私は暫く固まった。
「全く……驚かされましたわ!」
「ははは、ごめんごめん。でも、手元にあったから今回は、ディアナを目覚めさせることが出来たわけだから良かったと思うべきだと思う」
「……」
それは結果論であって……と、言いたかったけど、フレデリック様が一生懸命私を助けようとしてくれた事は事実なので文句は言えない。
ちなみに解呪は呪う時と反対で本に載っていた通りに調合した液体の香りを嗅がせれば良かったらしい。
「犯人がご丁寧に屋敷中に蔓延させる道具を送り付けて置いて行ってくれたからね。有難くそれを使わせてもらったよ」
「……」
(眠りにつかせるなんて悪どい呪いを実行したわりに、何だか間抜けな犯人ね……)
「犯人は私を狙ったのです」
「え?」
「その贈り物……私宛てになっていました」
「……!」
フレデリック様の顔つきが怖い。これは相当犯人に怒っている証拠。
「フレデリック様、犯人は……」
「……ディアナの周囲にいる人が犯人ならそのうち分かるかもしれないよ」
フレデリック様がちょっと悪い顔で笑っていた。
「……? どうしてですか?」
「実はね、よく読むと眠りの呪いのページに書いてあったんだよ」
書いてある? 何がかしら?
「───この呪いを使用すると、必ず呪返しがあるので使用する場合はその覚悟を持って行うべし……ってね」
「の、呪返し!?」
「意地悪なくらい字も小さかったし……犯人は知らなかったのかもしれないね」
「……っ!」
「どんな呪返しか楽しみだね」
そう言いながら笑ったフレデリック様はやっぱりとても悪い顔をしていた。
◇◆◇◆
そして数日後。
しばらくは、フレデリック様だけでなくお父様やお母様にも、しばらくは安静にしていなさい! と言われてしまったので調子が戻るまで安静に過ごす事になり、今日は久しぶりに学園に登校する事になった。
「ディアナ様!」
「お久しぶりです!」
多くの人に声をかけられる中、ふと視界に入ったのは……ライラック。
ピンクの髪はとても、目立つのですぐに彼女だと分かる。
(そういえばすっかり存在を忘れていたわ……)
でも、もう悪役令嬢とかヒロインとかは関係ないもの!
ライラックには悪いけど、もう物語とは関係ないところで私とフレデリック様は深く繋がっているんだから!
と、心の中でライラックには負けない宣言をしていたその時、
「ひっ!? ……いやぁぁぁぁぁ、何これぇぇぇぇーー」
(ん?)
突然、ライラックの悲鳴のような叫び声が学園中に響き渡った。
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