【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!

Rohdea

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23. 王子は墓穴を掘る

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「───まどろっこしい話は無しにしよう。ヒューズ・カルランブル。我が息子、ヨーゼフが、そなたに卑怯な手でかつての婚約者だったオリヴィア・イドバイド元侯爵令嬢を奪われたと言っている」

  (───バカ王子ーー!!)

  陛下からそう告げられた瞬間、私はバカ王子に対して本気で殺意を覚えた。


  謁見室に通された私達は、陛下の登場をしばらく待った。
  そして、現れた国王陛下は挨拶もそこそこに私達にこう切り出した。
  私の頭の中は怒りで沸騰しそうだったけれど、ヒューズはあらかた予想していたのか冷静に返していた。

「……卑怯な手、でございますか?」
「ヨーゼフはそう言った」
「陛下。お言葉ですが、ヨーゼフ殿下は公の場で我が妻、オリヴィアに婚約破棄の宣言をしました。そして話し合いの末、二人の婚約は正式に破棄されています」
「その通りだ」

  陛下は頷く。
  それもそのはず。私とバカ王子の婚約破棄に裁可をしたのは他の誰でもない国王陛下だもの。

「その後、私がオリヴィアに求婚し婚姻した事に関して問題があったとは思えません。にも関わらず、卑怯な手……と言うのはいったいどういう事なのでしょうか?」
「私もそう思っておる。そなた達の婚姻の裁可も私がしているからな。だが、ヨーゼフが頑なにそう主張するのだ。だから、すまないがそなた達に話を聞いてみようと思った」

  つまり、バカ王子がキャンキャン騒ぐので陛下としてはもう埒があかなくて、当事者の私達を呼び出して話を聞いた方が早い、と判断したということね。

  (バカ王子の話だけを鵜呑みにしない方で良かったわ)

「ヨーゼフ殿下の主張とは?  卑怯な手とはどういう事でしょうか?」

  ヒューズが訊ねる。

「うむ。ヨーゼフはヒューズ・カルランブル、そなたに騙されてオリヴィア嬢との婚約破棄を宣言してしまったと主張している」
「私に騙された……?」
「何でもオリヴィア嬢の悪い噂を吹き込まれた……とか。そして、騙されて婚約破棄をし、自分とオリヴィア嬢の婚約が無くなったと知るや否やすぐに彼女を奪っていったのだと」

  呆れてものも言えないとはこの事かしら。
  バカ王子はやっぱりバカ王子だと思う。そんな見え透いた嘘はすぐに暴かれてしまうでしょうに。

「陛下。恐れながら、私はヨーゼフ殿下がオリヴィアと婚約している5年間は辺境伯領におりました。その間、王都には一度も足を踏み入れておりません」
「それは知っておる。だが、ヨーゼフは手紙を貰ったと主張しておる」
「手紙……?  私には全く覚えがありませんが……」
「ふむ。覚えはない……か」

  分かってはいたけれど、バカ王子の主張はとにかくめちゃくちゃで陛下からも困惑が伝わって来る。

「それに、ヨーゼフ殿下は婚約破棄を宣言する前に、婚約者であるオリヴィアを蔑ろにして一人の男爵令嬢と仲を深めていたとも聞いておりますが?」
「む……」
「責められるべくはヨーゼフ殿下の方ではありませんか?」

  ヒューズがシシリーさんの存在を仄めかすと、陛下も渋い顔を見せた。

「ヨーゼフは親しい友人の一人だと主張しており、やましい関係などでは無いと言っている」
「お言葉ですが、仮にも王子のご学友なら、人選はしっかりと選定されるべきかと存じます」

  (ひぇ!?  ヒューズったら、はっきり言っちゃったわ!)

  ヒューズが毒を吐いたので少しヒヤヒヤした。

「それは耳が痛い話だな…………そんなヨーゼフ曰く、自分を陥れたいが為に卑怯な手でオリヴィア嬢を奪ったヒューズ・カルランブルはオリヴィア嬢を愛してなどおらず、オリヴィア嬢は不幸な結婚生活を送っていると言っているが……」

  陛下はそう言って私の方へと視線を向けてくる。
  シシリーさんの件は一旦置いておくつもりらしい。

  今度は私が答える番だ。私は一歩前に進み出る。

「陛下、ご無沙汰しております、オリヴィアです」
「あぁ、久しいな」

  私が腰を落として挨拶すると陛下も軽く挨拶を返してくれた。
  私とバカ王子はこれでも一応、5年間も婚約をしていた。その間に陛下や王妃様と顔を合わせる事もそれなりにあった。

「陛下。ヨーゼフ殿下の仰った“不幸な結婚生活”という話ですが、それは完全にヨーゼフ殿下の誤解です」
「誤解?」
「ヒューズ……夫は何よりも私を愛し、大切にしてくださっています」

  (夜はあまり寝かせてくれないけど!)

「ヨーゼフは愛の言葉一つも囁かない冷たい夫でそなたを冷遇しているようだと言っていたが?」
「それは大きな誤解です!  私達は心から互いを愛していますし、私は彼と幸せな結婚生活を送っています!」

  私がそう主張したその時、遮るような声が謁見の間に響いた。

「それは嘘だ!  オリヴィアはそこの極悪人の夫にそう言わされているに過ぎない!」
「っ!  ば……ヨーゼフ殿下」
「ヨーゼフ……殿下」

  私とヒューズは、それぞれ“バカ王子”と“ヨーゼフ”といつもの癖で呼びそうになってしまって慌てて言い直す。
  何であれ、この場にヨーゼフ殿下バカ王子が現れた。

「ヨーゼフ、お前の事はまだ呼んでいないが?」
「申し訳ございません、父上。ですが、偽りの言葉を口にするよう強要されているオリヴィアがあまりも不憫で耐えられず出て来てしまいました」

  神妙な顔をして流れるように嘘をつくバカ王子。
  何も知らない人から見れば、可哀想な女性を助ける為にやって来たヒーローに見えるかもしれない。

「……ヨーゼフ殿下。わざわざ(余計な)ご心配をありがとうございます。ですが、私、嘘など申しておりませんわ。夫とは本当に幸せな結婚生活を送っていますので」
「強がるな、オリヴィア。私は全てを分かっている」

  本当にこの人は私をイラッとさせる天才だわ。
  私はバカ王子に向かってにっこりと微笑んだ。

「強がってなどおりません。あ、ですが、特に最近は毎晩夫からの愛が強くて違う意味では困っておりますけども」
「……なっ!?」
「カルランブル侯爵家の跡継ぎの顔を紹介出来る日も近いかもしれませんわ」
「…………!?」

  言葉を失ったバカ王子が目を大きく見開いて私を見る。
  正直、そんなに驚かれる理由がさっぱり分からない。
  あの日、この人の目の前で私とヒューズは互いの想いと愛を伝えあったし、何度も口付けを交わした。それで結ばれないと思う方がおかしい。

「嘘だ!  ヒューズは愛を囁けない!  だから……」
「殿下、想いを交わすのに必要なのは何も言葉だけではありません。言葉に出来なくても伝わる気持ちはあるのです。5年前は確かに誤解も生じましたが、もう私達は誤解したりはしません」
「ふ、ふざけるな……!」
  
  バカ王子は明らかに狼狽えていた。

「ヨーゼフ殿下。私はヒューズ……夫を愛しています」
「それは、私も同じ。私も妻、オリヴィアを心から

  ヒューズも私の横で同じように私への愛を告げる。
  バカ王子はその言葉にハッとして途端に青ざめた。

「ど、どういう事だ!!  ヒューズ、き、貴様は……」
「おや、殿下?  顔色がよろしくないようですが大丈夫でしょうか?  何かおかしかったですか?  私は妻のオリヴィアをと口にしただけですが?」
「な、な、何故だ……何故、呪いが解けたんだーー!?  何の為に私が魔術師アイツを使ってお前を呪ったのだ…………はっ!」

  バカ王子はよほど動揺したのか、自分で自分の悪事を暴露した。
  それも、ご丁寧に陛下の目の前で。

「…………ヨーゼフ?  呪いとは何の話だ?」
「あ、う……ち、父上……」

  陛下の鋭い眼光がバカ王子を射抜く。バカ王子は一瞬でタジタジになった。

「……ヨーゼフ、お前はまさか、魔術師を使って人を呪ったのか!?」
「違っ……こ、これは、そ、その……」

  はっきりしない様子のバカ王子息子に苛立った陛下は大声で叫ぶ。

「──誰か、ここに魔術師を呼べ!  奴にも話を聞く!!」
「はっ!」
「ついでにヨーゼフが懇意にしている男爵令嬢も王城に来ていたら連れて来い!  何か知ってるかもしれん!」
「はっ!」

  部屋の隅に控えていた陛下の侍従達がその声を受けてそれぞれ走り出す。

「ヒュ、ヒューズ……」
「うん、これで役者は揃う。これもそろそろ出番かな」

  そう言いながらヒューズは懐に収めていた紙──報告書をそっと取り出した。

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