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21. やり直しの夜
しおりを挟む「……」
「……」
前にも聞いた覚えのあるそのセリフに互いに無言になる。
「俺は……オリヴィア……お前の事が大嫌いだ!」
「ヒューズ……」
ヒューズは頬をほんのり赤く染めて、私に向かってそう口にする。
(5年前の私は傷付いて……初夜の日の私は……イラッとしたんだっけ)
ヒューズの頬は赤い。
過去の二度は言われた言葉の方にショックを受けて気付かなかったけれど、あの時のヒューズの顔もこんな風に赤かったのかもしれない。
「愛してない……嫌いなんだ……」
「ヒューズ」
私はそっとヒューズに近付いて彼を抱きしめる。
だって、私はもう間違えない!
「……ねぇ、ヒューズ」
「……」
「そんなに……そんなにヒューズは私の事が大好きなの?」
私のその質問にヒューズの目は少し驚いた様子を見せたけれど、その後すぐにハッキリと言う。
「す…………嫌いだ。ずっとずっとずっと……誰よりも、す……嫌いだ」
「そう、ふふ……」
「俺以上にオリヴィアを……オリヴィアの事を、あ……愛してない男はいない!」
「ヒューズ……」
傍から聞いたら意味不明だし、嫌いだの愛してないだのといったとんでもない暴言。
それでも、これが私達の……ヒューズが私に愛を伝える言葉なの。
「そんなに?」
「あぁ! オリヴィアはどこのどんな令嬢よりも可愛くないし、愛らしさもない。俺はずっとずっと昔からそんなオリヴィアを愛してない……んだ」
「ヒューズ……」
「……」
「……」
「……フッ」
「ふふ……」
口にしているヒューズ自身も、それを聞いている私も何だかこの状態が可笑しくて。
私達は笑い合う。
(こんな愛の言葉、他では聞けないわ)
「…………ねぇ、ヒューズ」
「うん?」
「私を…………あなたのお嫁さんにして?」
「え?」
真っ赤な顔をしたヒューズが驚いた顔をして私を見る。
「私、あなたの本当の妻になりたい」
「オ、オリヴィア」
───今日、あのバカ王子が現れて、お城に連れて行かれそうになった。
もし、ヒューズが間に合わなくてお城に連れて行かれていたらと思うとゾッとする。
(それこそ、無理やり襲われて……純潔を奪われていたかもしれない)
ヒューズとは白い結婚だったのだとバレてしまい言い逃れも出来ず、離縁させられてバカ王子と結婚させられる……なんて事になったかもしれない。
(嫌だ! 絶対に絶対に嫌!)
ちょっと怖い……けど、ヒューズなら。ううん、ヒューズがいい。彼でないとダメなの。私が好きなのは今も昔もヒューズだけだから。
「お願い、今夜は私を……たくさん愛して? ヒューズ……」
「オリヴィア!」
ヒューズが力強く抱きしめ返してくる。
「いいのか? 嫌だと言っても止められない……ぞ?」
「ヒューズだもん。嫌なわけないじゃない」
大好きなヒューズと結ばれるのに嫌なはずが無い。
「オリヴィア……」
「あ……」
ヒューズの優しい口付けが降ってくる。
そのまま、抱き抱えられた私はヒューズにベッドへと運ばれる。
(し、心臓が……)
あぁぁ……もっとお風呂で初夜となるはずだった日みたいに、ピッカピカに身体を磨いて貰うべきだったわ。
夜着もいつもの夜着だし。
もっと、初夜らしく悩殺するようなスケスケなのを着ておけば良かった……
なんて今更、少しだけ後悔したけれど、そんな事は私達の前ではきっと些細な事。
だって、
「オリヴィア……」
そう言って、ベッドに横にした私に覆い被さってくるヒューズ。
愛しそうに大事そうに私の名前を呼ぶ夫の目が、私を求めている。
ただ、私が欲しい──そう言ってくれている。
「大好きよ、私の愛しい愛しい旦那様……」
「あぁ、オリヴィア、俺のい…………妻……」
(うん……やっぱり私達は言葉が無くても大丈夫)
どっかのバカ王子のように薄っぺらい好きなんて言葉より、今、目の前の呪われて愛を囁けないヒューズの言葉の方が何倍も嬉しい。
「オリヴィア……」
ヒューズは、チュッチュッと顔中に口付けを落としながら、私の夜着を脱がしていく。
「……オリヴィア、柔らかい……それに肌がスべスべして…………」
「んっ、そういう事はわざわざ言わなくても……んん」
「いや、言いたい」
チュッ
「あ、な、何で?」
「オリヴィアが俺のオリヴィアだとより実感……出来る、から」
「……ヒューズ」
チュッ、チュッ……
そう言ったヒューズは、顔以外にも口付けを落としながら私に触れていく。
「……あ…………よ。オリヴィア」
「ええ、私も、愛しているわ、ヒューズ」
───その晩、愛する夫、ヒューズからの愛はなかなか止まらなかった。
「…………ん? 眩し……」
暖かい温もりを感じて目を覚ます。
日の光の位置がいつもより高い気がする。
寝すぎたかも……何で起こされなかったのかしら?
それに、この温もり……
(何だか守られているような……そんな温も……)
そこでハッと昨夜の事を思い出す。
(私! ヒューズと!!)
一気に頭の中が覚醒した。
この温もりはヒューズの温もり!!
(私……ヒューズの妻になれたんだわ……)
私の身体を抱きしめるように回されている手を見て思う。
幼い頃から密かに夢を見て来て5年前に叶わないと絶望した夢、ヒューズのお嫁さん。
その願いが叶ったんだと思うと、嬉しくて思わず顔が綻ぶ。
(……思っていたより激しかったけれど……)
日が高くなっているはずよね……眠ったのは明け方だもの。
ヒューズの私への想いと執着は身体の痛みと身体中に残された跡が全てを語っている。
「…………んん」
「ヒューズ、起きた?」
ヒューズの声が聞こえたので私は体勢を変えてヒューズの顔を覗き込もうとする。
「…………オリヴィアがいる」
「オリヴィアです」
「うん。オリヴィア……俺の……オリヴィア」
まだ、どこか寝惚けているのかヒューズは夢と現実の狭間にいるような様子だった。
(可愛い! ヒューズって寝起き悪かったのね!?)
寝惚けた様子のヒューズをひたすら楽しんでいたら、ヒューズの腕が伸びて私の首に回される。
ん? と、思う間もなくそのままヒューズの顔が近付いて来て、チュッと口付けされた。
「ヒューズ!?」
「……」
これは寝惚けてるの? それとも、朝から求められてるの?? え? あんなにしたのに?
私がドキドキしていたら、ヒューズはうっとりとした表情で言った。
「オリヴィア……オリヴィアがいる。夢? 夢じゃない……俺の……俺の大好きで可愛い愛しい愛しいオリヴィア……」
(────え? 今、なんて?)
「…………愛してるよ、オリヴィア」
(!?)
一生聞けないと覚悟していた言葉が耳に飛び込んで来た瞬間だった。
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