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19. こんなはずでは無かった! (ヨーゼフ視点)
しおりを挟む私が選ばれない……だと!?
嘘だ、嘘だ、嘘だ!!
こんなのは嘘に決まっている!!
私のオリヴィアが忌々しいヒューズの事を本当に好き?
有り得ない!!
そんな事はあってはいけない。
なのに、二人は私の目の前で微笑み合い何度も口付けを交わしている。
まるで、本当に愛し合っている夫婦のように。
その様子に私は雷を撃たれたような衝撃を受ける。
(オリヴィア……私には全く触れさせようとしなかったのに!! どうしてなんだ!?)
婚約期間中、オリヴィアはあまり私に触れられる事を好まなかった。
手を握る事すら稀だった……
(照れ屋で恥じらっているだけだと思っていたのに……)
ヒューズの前で見せていた顔とはかなり違う気はしたが、時が経つにつれて微笑みも見せてくれるようになっていたので、好かれていると思っていた。
あんな形で無理やり横入りをしたという自覚も一応はある。
が、こうなる事が正しい道!
(侯爵令息と結ばれるよりも王子である私と結ばれた方がオリヴィアも幸せに決まってるからな)
私はそう信じて疑わなかった。
──オリヴィアと初めて会ったのは、王宮で開かれたお茶会だったと思う。
私と歳の近い令息、令嬢を集めたお茶会。
私の将来の伴侶や側近となるべく人間を見極めるという目的を持ったお茶会だった。
そこにオリヴィアはいた。
(最初の印象は、私に見向きもしない女)
あの茶会に集まった者達は多かれ少なかれ野心を抱いてやって来ていた。
親から私に取り入るよう強く言われていた者もいた事だろう。
特に多くの令嬢が媚びながら私に近づいて来る中でオリヴィアは完全に異質だった。
オリヴィアは、私の事なんかそっちのけで、見向きもせずお菓子に目を輝かせては近くに座っている男と「これ美味しいよ」と、ひたすら笑い合っていた。
ただ、その笑顔が可愛くて気づくと私は見惚れていた。
───オリヴィア・イドバイド侯爵令嬢。
身分も年齢も私と釣り合っている。問題はない。
だが、隣で笑い合っていた仲の良さそうな男が気になった俺は、その男の事を調べる事にした。
「ヒューズ・カルランブル侯爵令息……」
(侯爵令息か。思っていたより身分が高いな)
身分が低ければ手を出せたかもしれないが侯爵家相手ではそう簡単に手出しは出来ない。面倒だった。
「しかも、男のあの様子……明らかに彼女に惚れている! やはり、邪魔だ……」
確実にオリヴィアを手に入れるため、私はあのヒューズ・カルランブルを追い出す事を決めた。
そして、私のお抱えの魔術師の力も借りて……
(全て上手くいったと思ったのに!!)
私に騙され呪いをかけられたヒューズ。
傷心であろう彼に辺境行きを命じたらあっさり受け入れていた。
──よし! これで邪魔者は……消えた!
オリヴィアの父親、イドバイド侯爵は王家との繋がりを求めている事もあり、その後はトントン拍子で私とオリヴィアの婚約は結ばれた。
───だが。
“何故、彼女は昔みせていた笑顔を見せないのだろうか”
私はオリヴィアにそんな思いも抱いていた。
微笑んではくれるが、あの忌まわしい男といた時の笑顔とは違う。
私の欲しかったあの笑顔はどこに行ったんだ?
これでも充分なのかもしれないが、私はオリヴィアの全てが欲しいのだ。
もっと強い想いで私を見て欲しい!
そう思った。
そんなある日、オリヴィアをパートナーとして出席していたとあるパーティー。
彼女と離れて談笑していた私は、そこでシシリーと出会った。
『リューイ様、私、あなたの事が好きなんです~』
『いや、待ってくれ! 僕には婚約者が……』
『えぇ? そんなぁ……私ではダメですかぁ? 魅力ないですかぁ?』
『そ、そんな事は……』
シシリーはそう言ってどこかの令息に迫っている所で、私はそれを偶然目撃した。
(下品そうな女だな……)
その後、茂みに隠れてよろしくやっている所を、どうやら姿が見えないからと探していた男の婚約者令嬢が浮気現場を目撃…………まぁ、その後は大きな修羅場に発展した。
(その時に激しい嫉妬を見せていた令嬢を見て思ったのだ)
この下品な女を利用すればオリヴィアも私に嫉妬してくれるのでは……と。
だから、私は話を持ちかけた。
シシリーは、笑顔で話に乗ってきた。
『私、カップルが揉める所を見るの大好きなんですぅ~』
そう言ってシシリーは多くの婚約者カップルの仲をめちゃくちゃにして来たらしい。
この女ならさすがのオリヴィアも嫉妬してくれるだろう。
俺はそう確信していた。自分の作戦は完璧だと!
だが、オリヴィアは私の行動を嗜めはしたが、嫉妬……それも激しい嫉妬の様子は見せない。
ならば、最終手段。
“婚約破棄”のでっち上げ。これならさすがのオリヴィアも私と離れたくないと言ってくるはずだ!
そう信じたのだが……
────……
「そういうわけで、俺達はこれで失礼させてもらうよ。行こう、オリヴィア」
ヒューズがオリヴィアの肩を抱いて部屋から出て行こうとする。
オリヴィアは顔を赤くしたままどこかうっとりした表情でヒューズを見つめながら頷いていた。
(何だあの顔は!!)
今まで見た事もないような可愛い顔を私ではなくヒューズに見せるとは!!
そしてその顔は私が欲していたオリヴィアの顔……
悔しさだけが込み上げてくる。
「待て! オリヴィアは……」
「……」
「っ!」
ヒューズに無言で睨まれる。
なぜ王子の俺が侯爵家の令息如きに睨まれないといけない?
(くっ! なぜ、私も怯んだのだ……)
ヒューズは今も呪われている。オリヴィアに一言も愛の言葉を囁けない。
だから、二人の距離が縮まるはずは……無い……のに。
目の前の二人は……今……
(畜生! これで済むと思うなよ!?)
……幸い、オリヴィアの父親は私寄りだ。
復縁を仄めかしたら簡単に食いついてきた。だから、今日もこうしてオリヴィアが実家を訪ねて来ると連絡を貰えたのだ。
これはオリヴィアを攫うチャンスだと思い、ヒューズの動向も探らせた上でシシリーを送り込んだのに……
(あの女……役に立つと思っていたのに、まさか失敗するとはな)
役立たずならばそろそろ用済みかもしれないな。
オリヴィアは嫉妬しないし、ヒューズの誘惑も出来ない女に価値は無い。
(しかし、次なる手を考えねばならん……また、魔術師の力を借りるか?)
だが、魔術師の力は簡単に借りられるものでは無い。それ相応の対価が必要だ。
私の静止も聞かずに出て行こうとするオリヴィアとヒューズ。
幸せそうに微笑み合っているがそれも今だけだ!
──絶対にその仲を引き裂いてやる! そして、オリヴィアを再び私のものに……!
だが、私は知らない。
私が気まぐれに目障りな奴や邪魔だと思った者を軒並み辺境送りにした事で、相当な恨みを買っていた事も。
ヒューズが着々と私を引きずり落とす手段を考えていた事も──……
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