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18. 今更、好きだと言われても
しおりを挟む「私は君の事が好きなんだ」
「!?」
バカ王子は私に手を差し出しながら確かにそう言った。
(私の事が好き?)
好きだったから私にヤキモチを妬かせるために、わざとシシリーさんとあんなにベタベタしていた?
あの婚約破棄宣言も私の気持ちを確かめる為ですって?
(嘘でしょう……?)
私は愕然とする。
この人は多くの人を巻き込んで何やっているの? どれだけ自分勝手なの?
本当に本当にバカ王子……!
好きだと告白されても、嬉しいなんて気持ちは微塵も生まれず、
“迷惑、困る”
私の中にはそんな気持ちしか生まれない。
そして、もう一つの疑問。
この期に及んでバカ王子は何故、私が自分の事を好きだと思っているの?
たった今、私はこの人の目の前でヒューズに愛の告白をしたというのに。
「オリヴィア……私は初めて会った時から、ずっと君の事が好きだった!」
「……」
──気持ち悪い……
念を押されたけれど、私は目の前のバカ王子に対してそんな気持ちしか抱けなかった。
「だから……な、オリヴィア。君の気持ちを試すような真似をした事は私も悪かったと思っている」
「……」
「まさか、本当に婚約破棄を真に受けてしまうなんて夢にも思わなかったんだ……それに、まさか私に当て付けるように結婚までするなんて……君はいけない子だ」
「……」
「私は、“婚約破棄なんて嫌です”“シシリーさんより私を見て下さい”そんな君からの言葉をずっと期待して待っていたのに」
「っ!」
ここまでのセリフ、全て大真面目な顔をして言っているからなのか、背筋がゾワゾワした。
「好きだよ、オリヴィア。だから君もいい加減に素直になってくれないか?」
「……素直に、ですか?」
「そうだ」
「つまり、はっきり申し上げて構わないのですか?」
「ああ!」
私のその言葉にバカ王子は当然だとばかりに頷いた。
「君が素直になってくれたなら、そこのヒューズとの婚姻は私が責任をもって無効にー……」
「…………今更、何を言っているのですか?」
自分でも思っていた以上に低い声が出た。
「………………うん?」
「全部、私の事が好きだったから? ふざけないで下さい……」
「オリヴィア?」
このバカ王子は、婚約している間にシシリーさんを侍らかした事と婚約破棄宣言の事しか謝っていない。ヒューズの事には一切言及していない。
(私に告白をしようとしていたヒューズを、呪いだなんて卑怯な手で陥れた事を悪いなんて全く思っていないんだわ)
私はその事がどうしても許せない。
あの日から今日までの私とヒューズの過ごした5年間。その前から私達が二人で築き上げてきたものをあんな風に身勝手に壊しておいて……
何よりヒューズは今も呪いで苦しんでいるというのに!!
私はバカ王子に冷たい目を向けて畳みかけるように言う。
「困ります! 迷惑です! 嫌です! あなたなんか絶対にお断りです!!」
「オ、オリヴィア? ははは、何を言っているんだ。て、照れ隠しにも程があるだろう?」
バカ王子の顔がピクピクと引き攣っている。
まさか、こんな事を言われるとは思っていなかった。そういう顔をしている。
私が拒否している事をとにかく認めたくないのだろう。
(……どこまで頭の中がおめでたいの?)
「全部、全部、今更です! 照れ隠し? 勘違いしないで下さい。私の想い人はあなたなんかじゃありません! あなたに対して照れる所なんか一つもありません!! あるのは……嫌悪感だけです!」
ヒューズの言葉を信じて鵜呑みにして、初恋の人に嫌われたと思い込んだまま私はこの人の婚約者になった。
ヒューズに抱いたような気持ちは持てなくても、せめて互いを尊重し合える夫婦になれれば良いと割り切って生きていくつもりだったのに。
この人は自分の手で全てを壊して崩した。
──だから、全ては今更。もう遅い!
「今更、あなたの気持ちなんて要りません……気持ち悪い」
「気もっ!? オ、オリヴィアっ!!」
バカ王子の顔が怒りで真っ赤になる。
「誰がなんと言おうと、私はヒューズ・カルランブルの妻ですから」
「~~~っっ! ヒューズ! 貴様ぁぁ!!」
バカ王子の怒りの矛先が再びヒューズの方に向いた。
これまで黙って聞いていたヒューズが私を腕に抱きしめながらバカ王子に向かって言う。
「……王子とは思えない言葉づかいですね? てっきりその辺の破落戸かと思いましたよ」
「なっ!? この私をよりにもよってその辺のごろ……」
「ほら、だって言動だけでなく、やってる事も彼らとそう変わりませんしね」
「黙れ! 私のオリヴィアを横から掠め取っておいてよくも!!」
その言葉にヒューズの眉がピクリと動いた。
(あ、ヒューズが怒った……)
「私のオリヴィア……? 横から掠め取った? あなたは5年前に自分のした事を棚に上げて何を言っているんですか?」
「何がだ!」
「卑怯な手を使って最初にオリヴィアを俺から奪ったのは誰だと言っているんです」
「知らないな」
バカ王子は絶対に認めようとしない。
「……あくまでもシラを切り通すんですね」
「……」
「殿下、ですが無駄ですよ。あなたが焦がれたオリヴィアはもう俺の妻です。あなたは俺が呪われているからうまくいかない夫婦だと思っているかもしれませんが、俺達はさっき互いの気持ちをしっかり確認し合いました。あなたが入る余地はもうどこにもありません」
「っ!」
「そうだろう? オリヴィア……」
そう言ったヒューズが私に顔を近づけて来てそっと口付けをする。
チュッ
部屋の中にはそれなりに人がいるはずなのに、誰も言葉を発しないせいで私達の口付けの音だけが響いている。
チュッ……チュッ
(~~は、恥ずかしくなって来たわ)
赤くなった私の顔を唇を離したヒューズが、まじまじと見つめる。
「オリヴィア……顔が真っ赤だ。とても、か…………」
「ん、だってヒューズが……!」
(か……は可愛いと言ってくれているのかしら?)
愛してる、可愛い……
ヒューズは言葉には出来ないけれど、可能な限り伝えようとしてくれているのだと分かった。
(嬉しい……)
「ヒューズ、大好き……」
私は笑顔でギュッとヒューズに抱き着いた。
ヒューズも笑顔で私を抱きとめながら言う。
「ヨーゼフ殿下? これでもお分かりになりませんか? あなたではオリヴィアにこんな顔をさせる事は一生かけても出来ない。出来るのは俺だけなんですよ」
「っっっ!!」
ヒューズの言葉にバカ王子は悔しそうに唇を噛む。
「いい加減に認めるのはそっちですよ、殿下。あなたは決してオリヴィアには選ばれない!」
静まり返っている部屋にヒューズのその声はとても良く響いた。
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