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11. 伝わらない気持ち
しおりを挟む落胆した様子のヒューズが戻って来た後、侯爵夫妻は「新婚なのだから二人でゆっくりどうぞ」と言った。
(二人で!?)
私が動揺している間にも、侯爵夫妻はそそくさと出て行き、部屋には私とヒューズだけが残された。
チラッとヒューズを見ると、誰がどう見ても落ち込んでいる。
部屋を出て行く時の夫人……お義母様は私にアイコンタクトを送ってきていて、あれは、明らかに“ヒューズをよろしくね、慰めてあげてね”と言っているように感じた。
(えぇぇ!?)
とは言っても、部屋に二人っきりになったのは事実。
慰める……事が私に出来るかは分からないけれど、やれる事はやってみようと決意した。
(だって、落ち込んでいるヒューズの顔を見ていると私も悲しい)
私はお茶を一口飲んでから切り出す。
「えっと、ダメだったの?」
「あぁ……」
やっぱりヒューズはかなり落ち込んでいた。
出されたお茶に手をつけようともしないでひたすら打ちひしがれている。
「……最終手段……だったんだ」
「最終手段?」
「……」
首を傾げながら聞き返す私を、ヒューズはじっと見つめる。
そして、手を伸ばすと私の頬にそっと触れた。
「…………俺の、の…………をオリヴィアに伝える……最終手段」
「……!」
ヒューズは私にこのおかしな様子の理由を伝えようとしていた?
その為の方法を求めて領地にいる侯爵様……お義父様の所に?
「もう嫌なんだ」
「嫌?」
「いつもオリヴィアに困った顔……をさせてる事だ」
「ヒューズ……」
ヒューズが私の頬をそっと撫でる。何だか擽ったい。それに……
(胸が……ドキドキする)
「そんな顔をさせたかったわけでは無かったのに」
「……」
「の……を……は無理でも昔みたいに……二人で……」
昔みたいに───
私の脳裏にヒューズと過ごしたたくさんの思い出が浮かぶ。
どれも大事な大事な思い出。
(ヒューズの本心は……)
「オリヴィア……」
「?」
私の名前を呼んだヒューズの顔が近づいて来たと思ったら、
……チュッ
「!!」
ヒューズは私の前髪をかきあげると、そのままそこに口付けを落とした。
一気に私の顔が赤くなる。
「……赤くなった。やっぱりオリヴィアはか……」
「も、もう!! なんて事をするのよ!」
ヒューズは私の事を嫌──……
(!!)
そこで、ようやく気付いた。
5年前から様子がおかしくなったヒューズ。
私に「嫌いだ」と暴言を吐いたあの時も既におかしかった?
「……」
「オリヴィア?」
領地に来る時に立ち寄った屋台での串焼きを好きなはずなのに「嫌い」と言ったヒューズ。
───好きなのに……嫌い?
(まさか!!)
ボンッと一瞬で私の顔が赤くなる。
「オリヴィア!? どうした!?」
「っっ!」
「顔が…………か…………顔が真っ赤だぞ!? まさか熱か!」
ヒューズが慌てて見当違いの方向に心配してくれる。
「違っ……熱じゃないわ」
「そ、そうなのか? だが……」
「ほ、本当に違うの!!」
「な、なら良いのだが……」
「……」
だって! だって、もしそうなら。
私が考えた通りなら……私はずっとずっと大きな勘違いをしていた事になる。
───オリヴィア! 俺はお前の事がずっと嫌いだった!
あれは……
───俺はお前を愛してなどいない!
あれも……
「っっっっ!!」
「!? おい、オリヴィア!?」
「……」
「しっかりしろ、オリヴィアーーー……」
(無理──……)
頭の中が大混乱でパンクした私はそのまま卒倒した。
◇◇◇◇◇
『聞いてヒューズ! あのね? 私の理想の結婚式はね、キレイなドレスを着て大好きな人といっぱい笑い合って皆に祝福されて、あ、そうそう。あれも外せないわ。あのね……』
『ちょーーーっと待て。オリヴィア! 情報量が多すぎる!』
『えー? どこが?』
『どこがじゃないだろーー!? キレイなドレスしか分からなかったぞ!!』
ヒューズったら怒りっぽいわね。
でも、ちゃんと話を聞いてくれようとするその姿勢がとっても好き!
『キレイなドレスは外せないの。あ、色は絶対に白! これ以外は嫌よ』
『白……』
『それからそれから、アクセサリーの交換よ!』
『アクセサリー?』
ヒューズが不思議そうに首を傾げる。
どうやら知らないのね!
『お揃いのアクセサリーを用意して結婚式で互いに交換するの』
『交換?』
『そうよ、それをずっと身につけていればずっと仲良く幸せに暮らせるんだって!』
『ふーん……』
何だか呆れたような目で見られている気がするわ……
乙女の夢なのに!
『──で? 何がいいんだ?』
『え?』
少し不貞腐れていたらヒューズがぶっきらぼうな声で訊ねてきた。
『何がって?』
『その、お揃いのアクセサリーだよ! オリヴィアは何のアクセサリーが欲しいんだ?』
そんな質問を返されると思っていなかったから私は驚いた。
思わず色々と期待しそうになる。
『え? えっと、私は───』
──────……
「……っ!」
ハッと目が覚める。
見慣れない天井に一瞬あれ? と思うも、ここは家では無いことを思い出す。
(そうだ! 私、倒れて……)
色々ぐるぐる考え過ぎて倒れてしまった。
我ながら情けない。
「……ん?」
何だか手が温かい?
そう思って視線を移すと、そこにはベッドの脇で私の手をしっかり握ったまま寝入っているヒューズの姿!
「ヒューズ……!」
(ずっと手を握っていてくれたの?)
寝ているのに絶対に離さない。そんな意思が感じられるくらいがっちりと握られていた。
「もう!」
───あなたに何があったの?
どうして話せないの?
聞きたい事はたくさんある。でも、きっとヒューズは答えられない。
「……ねぇ、ヒューズ。あなたは……本当は私の事をどう思っているの?」
──知りたい。
いいえ。私は知らなくちゃ! あなたに起きている事を。
だって……
「私ね……やっぱりあなたが…………今でもヒューズの事が……好きみたい」
「……」
そう口にしてみたけれど、ヒューズは私の手をしっかり握りしめたまま、気持ち良さそうにスヤスヤと寝入っていた。
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