【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!

Rohdea

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7. 様子のおかしい夫

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「ヒューズ!  待って?  早いわ」
「……!」

  よっぽど早くこの場を離れたいのかヒューズの足取りはとても早くて、私は追い掛けるのに必死だった。
  
「あ……す、すまない……つい」

  私の声に気付いて、一旦足を止めたヒューズが申し訳なさそうな顔で謝ってくる。

「そんなに急がなくても……」
「……いや。一秒でも早くここから離れたい」
「ヒューズ……」

  そこまで言うなんて、相当な事があったとしか思えない。
  ヨーゼフ殿下とヒューズの間にはいったい何があったの……?

  (これは、聞いてもいいものなのかしら)

  さっきよりは足取りがゆっくりになったヒューズと今度は並んで歩き出す。
  とうしても気になるので私は確認してみる事にした。

「ヒューズとヨーゼフ殿下の間には、何かあるの?」
「!」

  ヒューズが分かりやすく固まった。
  これでは“何かある”と言っているようなもの。

「……何でそう思う?」
「何でって、そうね……先程の二人の会話からそう思ったの」

  もっと言うなら、二人の間には何やら火花が散っているように見えた。
  しかも、ヒューズは“あの日以来”と言ったのに対して殿下はそんな事あったかなという反応だった。理由は分からないけれど、きっとあれはヨーゼフ殿下が嘘をついている。

  (ヒューズは酷い事を言っては来たけれど、嘘をつくような人ではないもの。だから嘘をつくなら絶対にあっちよ!)

「……」

  ヒューズがそのまま難しい顔をして黙り込んでしまった。
  そして、暫くして顔を上げる。

「オリヴィア」
「な、何?」
「……俺は、ヨーゼフ殿下を……」

  (……え?)

  苦しそうな声で何かを言いかけたヒューズがそっと手を伸ばして、突然私を抱きしめた。

  (えぇぇぇえ!?)

  何?  どういう事??  でも、ヒューズの温もりが暖かい…………っでは無くて!!

  何故、ヒューズは私を抱きしめているの!?
  こんな事をされるなんて思わなかったから、私もどう反応を返したらいいのか分からなくてひたすら困る。

「ヒュ、ヒューズ?  ヒューズさーん……」
「……」
「ねぇってば!  ヒューズ……」
「……」

  呼びかけてみるも、ヒューズは答えない。答えようとしない。
  むしろ……

  (抱きしめる力が強くなったわ……!)

  それと……震えている?
  気の所為でなければ、ヒューズの身体は震えているような気がした。






「ヒューズ……ねぇ、一秒でも早くここから離れたかったのではないの?」
「……あ!」

  しばらくの間、私はされるがままになっていたけれど、私のそんな言葉にヒューズはビクッと反応し慌てて身体を離した。

「……そうだった。すまない」
「う、ううん……」
「か、帰ろう!」
「そ、そうね……!」

  (頬が熱い……)

  そうして私達は、変な空気を纏わせたまま馬車へと向かった。


──


  (あれぇ?)

  帰るために馬車に乗り込んだまでは良かった。良かったのだけど……

「ヒューズ……どうして、隣に座るの?  向かい側でも……」
「向かい側に座ったらオリヴィアのか……顔が見れない」
「か、お!?」

  ヒューズのそんな突然の発言に私は大きく動揺する。

  (顔?  顔なんて見ても……)

「えっと、私の顔なんて見てもつ」
「つまらなくなんかないし、飽きる事も無い」
「なっ……」

  (何を言い出したのよーー!)

  ボンッと私の顔が赤くなる。

  (いや、待って!  待つのよ!  何で赤くなっているの、私!)

  落ち着けと自分の心に言い聞かす。
  ヒューズの言葉に深い意味なんて無いのよ……
  なのに、どうしてか胸がドキドキしておさまってくれない。

「それより、オリヴィア」
「な、何?」

  声が上擦る。
  だけど、そんなドキドキは次の言葉でキレイさっぱり消え去る。

「……ヨーゼフ殿下の事だが」
「!」
 
  (ヨーゼフ殿下!  あぁ、思い出すだけでムカムカしてくるわ……)

「あの男は、これからも何かしらの難癖や理由をつけては、オリヴィアを王宮に呼び出そうとするかもしれない」
「え!?  何で」

  私が驚いた声を返すとヒューズの表情はかなり真剣だった。

「今日はオリヴィアが王宮に行く事を俺にも連絡するよう指示を出してくれたから、こうしてここに駆けつける事が出来た……が」 
「ヒューズ……」
「頼むから今後も一人でヨーゼフ殿下あいつの元に向かうのだけは止めてくれ!」

  ドキッ!

  真剣な顔をしたヒューズは、そう言いながら私の手を取り握る。

  (何でここで手を握ってくるの……)

「今日は何とか間に合ったが、いつでもこうして俺が駆け付けられるかは……分からない。だから……」
「何故?」
「……心配なんだ」
「!!  ……どうして?  どうしてあなたがそこまで心配してくれるの?」

  聞かずにはいられなかった。

「……オリヴィアは、俺のあ……す……っ!  つ、…………妻だからだ」
「妻、だから」

  妻という言葉の前に何やら口ごもっていたのが、少しだけ気になった。
 
「……オリヴィアは誰がなんと言おうと……もう、俺の妻なんだ」
「ヒューズ……」

  ヒューズのその言い方はまるで自分自身に言い聞かせているようにも感じた。

  ギュッ……
  更に強く手を握られる。
  その強さがまるで“この手を離したくない”そう言われているようで……

  (どうして……)

「何でなの……ヒューズは、私を愛してなんかいないのに」

  思わず私の口からそんな言葉が溢れる。
  ヒューズもハッとした顔をして私の顔を見つめる。そして、すぐに悲しそうな顔になった。

「…………すまない」
「……」

  (その“すまない”はどういう意味?)

  私を愛せなくて……すまない?
  それとも、私に愛せないと口にした事の……すまない?

  苦しそうな顔で、そう口にしながら謝るヒューズ。
  でも、握った手は屋敷に着くまで決して離そうとはしなかった。

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