【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!

Rohdea

文字の大きさ
上 下
4 / 27

4. 夫となった幼馴染

しおりを挟む


  (夫婦に……書類上はヒューズと夫婦になってしまった)

  そこでハッと気付く。
  これまでの私はどこかお客様といった様子だったので、当然、あの夫婦の部屋も使っていなかった。
  でも、今夜は?  今夜はどうなるの??

「……」
「オリヴィア?」

  ビクッ!

  (あ……)

  肩を叩かれただけなのに、身体が思いっ切り過剰反応してしまう。
  そんな私の反応にヒューズが少し驚いた顔をした。

「……」
「あ、ごめ……」
「オリヴィア。今夜、話がある」

  謝ろうと思ったのに、真剣な顔をしたヒューズに遮られてしまった。

「は、話?」
「そうだ」

  (うっ!  やっぱり胸が……ドキドキする)

  このドキドキは何?
  自分で自分の気持ちがよく分からなくてもう戸惑いしかない。

「オリヴィア───今夜は、夫婦の寝室あの部屋に来てくれ」

  (!!)

  私の心臓、飛び出して破裂するのでは?  というくらいにバクバクしていた。



─────


「奥様、顔が怖いです」
「え?  怖い?  これでも私、笑っているつもりなのだけど?」

  ヒューズとの、よ、よ、夜の為に鏡の前で笑顔の練習をしていたら、メイドの一人がドン引きした顔で私に話しかけて来た。

「はい、子供ですとその場で大泣きして逃げてしまいそうになるくらいのお顔をされています。これは確実に夢に出て来て、その子のトラウマになるでしょう」
「そ、そんなに!?」

  それはもう、絶対に笑顔なんかじゃない。ホラーだわ。

「若君の事を気にされているのですか?」
「……作り笑いは得意だったはずなのに、ヒューズの前では上手く笑える気がしないんだもの」
「……奥様」

  ヨーゼフ殿下の前で笑顔を張り付けるのはとっても簡単だった。
  どれだけ殿下が私の目の前でシシリーさんとイチャイチャして、私も口では苦言を呈していても笑顔は崩す事なく保っていられたのに。

  (ヒューズの前では感情が剥き出しになってしまう)

「……奥様が無理に笑顔など作らなくても若君は……」
「?  何か言ったかしら?」
「あ、いいえ、何も」
「そう?」

  何か言いかけていた気がしたけれど。
  
  (もういいわ。無理に笑顔なんか作っても疲れるだけだもの)
  
  ヒューズだって笑顔なんて期待していないわよね。

「そう言えば、カルランブル侯爵夫妻は領地にいるとヒューズから聞いたのだけれど、それなら、この屋敷はずっとヒューズが一人で過ごしていたの?」

  ふと気になったので訊ねてみた。
  ヒューズは私の前から姿を消したと思っていたけれど、本当はずっとここに居たのかしら?

「違いますよ、若君は最近こちらに戻られたばかりです」
「え?」
「私達も驚きました。突然、戻って来たと思ったら“結婚する!”などと言い出したので。慌てて奥様を迎える準備をしたのですよ」
「そ、そう……」

  (戻られた?  それってやっぱり何処かに行っていた……という事よね?)

  そっか。
  本当は近くにいるのにわざと避けていた……とかそういう事では無かったんだ……

  (だけど、それなら彼はどこに行っていたのかしら?)

  気にはなったけれど、本人のいない所であまり根掘り葉掘り聞くのもどうかと思ってそれ以上訊ねるのはやめた。



  ────そして、迎えた……夜。


  私は、全身をピッカピカに磨かれた状態で夫婦の寝室でヒューズを待っていた。
  しかし、そんな私は夜はこれからだと言うのに既に疲労困憊だった……

「…………」

  (あのはりきり様は何なのーー!?)

  ───奥様、全身スッベスベにして若君を虜にしてしまいましょう!

  (しなくていいわよーー!!  あの人は私の事が嫌いなんだからー!)

  ───お召し物はこちらの悩殺用でよろしいでしょうか?

   (面積少なっ!!  あと、悩殺用って何!?)

  慌ててガウンをキッチリ着込んだわ!  恐ろしい……
  突然やって来た嫁を温かく迎えてくれた事は純粋に嬉しいし、有難いとも思っている。
  でも!
  
「つ、ついていけない……」

  私がそんな独り言をこぼした、まさにその時!

「何がついていけないんだ?」
「!!」

  その声にドクンッと心臓が大きく跳ねた。

「ヒュ、ヒュ、ヒュヒューズ!」
「……」

  声が完全に裏返ってしまった。
  それに、いつの間に入室していたのか。ぐるぐる考え事をしすぎていて全く気付かなかった。

「ヒュヒューズって何だよ……動揺しすぎだろ」
「そ、そ、そ、そんな事はな、な、な、ないわよ!」
「……呂律が回ってないじゃないか」
「うっ!」

  ぐうの音も出ない。

「とにかく、少し落ち着け。何か飲むか?」
「の、の、の、飲む……」

  ほら、と渡された果実水を受け取った瞬間、ヒューズからフワッと石鹸の香りがした。

「っ!」

  それは、私からもしている同じ香りで一気に照れ臭くなる。
  いたたまれなくなった私は一気にグイッと果実水を飲み干した。
  そして、

  ケホケホ……

  むせた。

  (く、苦しい!)
  
「オリヴィア!?  大丈夫か?  何だってそんなに勢いよく飲むんだよ」
「……ケホケホ」
「大丈夫か?  オリヴィア?」

  慌てたヒューズが、近寄って来て背中をさすってくれた。

  (嫌いな私の事なんて放っておいてくれていいのに……)

  ついつい私の中でそんな可愛くない思いが生まれてしまう。

「だ、大丈、夫だから……」
「そうは見えないぞ」
「い、いいから……ケホケホ」
「ほら、落ち着け」

  (優しさなんていらないのに……)




「……お騒がせしました」
「本当にな」
「……ありがとうございました」
「……」

  ようやく落ち着いた私は深々と頭を下げる。
  ヒューズはそんな私を少し呆れた様子で見ていた。

「それで、オリヴィア。話なんだが」
「!」

  ヒューズは先程までの事は忘れたかのように、ベッドに座っている私の隣に移動して来た。

  (ち、近いーー!!)

  何故、わざわざ座る場所まで移動して来たの!?  さっきまでの場所でも良かったじゃない!
  もはや、私の頭の中は大混乱だった。

「オリヴィア」
「……っ」

  ヒューズの真剣な瞳が私をじっと見つめる。心臓が再び大きく跳ねる。

  (ま、また胸が……)

「オリヴィア、俺は」

  そして、ヒューズが意を決したように口を開いた。
  私のドキドキも最高潮に…………


「俺はお前を愛してなどいない!」


  聞き間違えようの無いヒューズのとてもハッキリしたそんな声が部屋の中に響き渡った。


しおりを挟む
感想 201

あなたにおすすめの小説

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

陰で泣くとか無理なので

中田カナ
恋愛
婚約者である王太子殿下のご学友達に陰口を叩かれていたけれど、泣き寝入りなんて趣味じゃない。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。 しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。 夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。 危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。 「……いつも会いに来られなくてすまないな」 そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。 彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。 「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」 そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。 すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。 その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

処理中です...