【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!

Rohdea

文字の大きさ
上 下
32 / 39

第29話

しおりを挟む


  何故か装いだけど、私が見間違えるはずが無い。
  あれは絶対にお姉様だ!

「お姉様、何で……」

  私が呆然としている間にお姉様は人混み紛れて見えなくなってしまった。
  追いかけたくても人が多すぎて難しそうだった。

「やっぱりあれはマリアン様なのね?」
「はい、間違いないと思います」
「これは……ギル様に報告しないといけないわ。二人の所に戻りましょう、セシリナ様」
「はい」

  エンジューラ様が厳しい顔でそう言う。
  どのような経緯でお姉様がここに来れたのかは分からない。

  (確実にお姉様を手引きした人がいるはず……)

  人混みの中から無理やりお姉様を探し出すよりも今は報告が先だ。
  そう思って急いで殿下達の元へと戻った。





「は?  何だって?  マリアン嬢が会場内に紛れ込んでいるだと!?」

  私達の報告にギルディス殿下が驚きの声をあげる。
  エリオス殿下も唖然としていた。

「警備は……何をやっているんだ!  招待状の無い者を通したのか!?  エンジューラ!  俺はちょっと確認してくるから君はここで待っててー……」
「いえ、ギル様。私も一緒に行きます」
「そうか……では、共に行こう。あぁ、セシリナ嬢。君はエリオスと離れないように!」
「は、はい」

  ギルディス殿下は私に気をつけるようにとだけ言って、エンジューラ様と連れ立って出て行った。
 



「はぁ……マリアン嬢のあの執念深さはどこから来るんだろう……」

  二人の背中を見送ったエリオス殿下が私の横で小さく呟いた。
  全くもって同感だわ。

「兄上も言っていたけど、セシリナも危険だから僕から離れないようにね?」
「分かっています」

  お姉様の目的が分からない以上、迂闊な行動は出来ない。
  
《本当にどこまでもしつこいな》
《だが、今日は絶対にセシリナから離れないようにしないと》

  エリオス殿下が私の左頬に触れそっと撫でてくる。

「……殿下?」

《諸々の罪に今回の件も上乗せだろうな……》
《そして、二度とセシリナを傷つけさせるような真似はさせない》
《もうすっかり腫れも引いていて跡も残っていないけど》

  (あ……)

  それはお姉様に叩かれた時の事を言っているのだと分かった。

「あ、あの……エリオス殿下……恥ずかしい……です」
「ん?  あ、ごめん!」

《しまった……ついつい触ってた!》
《人前では気をつけてと話していたのに》


  触られている頬が熱い。
  なので、私が頬の火照りを冷まそうとしていたら後ろから声がした。


「ごきげんよう、エリオス様」
「っ!」

  聞き覚えのある声に思わずビクッと私の肩が震える。
  恐る恐る振り返るとアンネマリー様が私達のすぐ側で微笑んでいた。

  (どうしてこのタイミングでやって来るの!)

「あら……セシリナ様も一緒でしたのね?  セシリナ様とお会いするのはあの日のお茶会以来ですわね」

  アンネマリー様はにっこり笑ってそう言ったけれどその目の奥は笑っていない。
  明らかな敵意を私に向けている。

  ──怯むな、私!
  私はグッと拳に力を入れて答えた。

「ご無沙汰しています。あの日は大変失礼致しました」
「そんな……何を言っているの。悪いのは私でしょう?  あなたの大事な手袋を駄目にしてしまったんですもの……本当に申し訳なくて」

  アンネマリー様はいかにも後悔してます、というような顔で言う。
  あの裏の顔さえなければ信じてしまいそう。

「……それで?  アンネマリー嬢、何か用かな?」

  エリオス殿下の声はどことなく冷たい。
  それでもアンネマリー様は怯むこと無く笑顔を向けている。

「もちろん!  だってお二人がどうやら婚約したらしいと耳にしましたから、お祝いの言葉を述べさせて頂きたいと思いましたの」
「……ふーん。お祝い、ね」
「まぁ、エリオス様ったら何でそんな顔をするんですの?  酷いわ!  ねぇ、セシリナ様、あなたからも何か言ってくださいな」

  そう言いながらアンネマリー様が私の腕に縋り付いてきた。

《祝うわけないでしょう》
《婚約ですって?  冗談じゃないわ》
《何でこんな子をエリオス様は選んだの!?》
《本当に許せない》

  ……分かってはいたけれどやっぱりアンネマリー様の心の中の声は酷いものだった。

《今に見ていなさい!  このまま黙っている私ではなくてよ!》
《その為にマリアン様を会場ここに連れて来たのだから》

  その心の声にびっくりして思わず身体が震えた。

  ──えっと?  今なんて……?
  お姉様をここに連れて来たと言わなかったかしら?
  つまり、お姉様を会場に侵入させたのは……アンネマリー様!

「セシリナ?  どうかした?」

  私の身体が変な反応をした事に気付いたエリオス殿下が心配そうな顔を向ける。

「い、いえ……」

  あぁ、説明出来ないのが辛いわ。
  だけど、やっぱりお姉様は何か企んでいる。そしてそれはアンネマリー様もだ。

  (この二人は何をしようとしているの……)

「嫌ですわ、エリオス様ったら。もうすぐ二人の婚約発表の時間ですから!  セシリナ様ったら緊張されてるのよ!」

《なんてね》
《……無事に発表出来れば……ね。ふふっ》
《きっとそれどころでは無くなるもの》


  ──?
  どういう意味かしら?  発表出来れば……とは?  
  その言い方だとまるで婚約発表が出来ないみたいなー……

  心臓が嫌な音を立てる。

  私がそんな疑問を抱いた時、ちょうどギルディス殿下が戻って来た。


「エリオス、セシリナ嬢」
「兄上」

  何故かギルディス殿下はお一人だった。
  エンジューラ様はどこに行かれたのかしら?

「なぁ、エンジューラはこっちに戻って来ていないか?」
「……エンジューラ嬢が?」
「警備の者達に聞き込みしている間に姿を消してしまったんだ」
「「え!?」」

  私とエリオス殿下の驚きの声が重なる。
  エンジューラ様が姿を……消した?

「てっきり先に会場に戻ったのかと思ったんだが……どこにもいないんだ」
「いや、僕達ずっとここにいたけど戻って来ていないと思うよ。会っていない」
「私もお会いしていません……」
「そう、か」

  私とエリオス殿下の言葉にギルディス殿下は肩を落とす。

「……」

  何故かしら?  すごく嫌な予感がする。

《ふふふ、計画通りね!  マリアン様上手くやったみたい》

  ──え!?
  アンネマリー様の心の声に驚く。

  計画通り……?
  それってまさか……

《マリアン様はうまくエンジューラを連れ出せたみたいね》

「っ!?」

《マリアン様ったら、エンジューラに復讐したいとか言い出すから最初は何事かと思ったけれど……》
《ふふふ、上手くいっているなら何よりだわ》
《邪魔なエンジューラを退けたら、その次は私がセシリナ様を蹴落とす手伝いをマリアン様にはしてもらうのだから、ここは上手くやってもらわないと困るのよ》


  まさかお姉様はエンジューラ様の失踪に関わっている……!?
  そしてそれはここにいるアンネマリー様も?



「……アンネマリー様」
「何かしら?」
「……お姉様と企んでエンジューラ様をどこに連れて行ったのですか……?」

  私は我慢出来なくてそう口にしていた。
  今この場でこんな事を口にするのが何をもたらすかは分かっている。
  それでも知ってしまったからには黙っていられない。

  だって、これは悠長になんてしていられない。遅くなればなるほど厄介な事になる。
  こうしている間もエンジューラ様の身が心配なんだもの。


「え?」
「セシリナ?」
「……は?」

  ギルディス殿下、エリオス殿下、アンネマリー様。
  三者三様、それぞれの驚きの声が上がる。

「まぁ、嫌だわ。セシリナ様ったら……いったい何を言っているの?」

《ちょっとどうしてバレてるのよ!?》
《何でよ!》

「誤魔化しても無駄です……分かっているんです。お姉様を会場に手引きしたのもアンネマリー様だって事もです」
「ちょっ……!」
「お姉様はエンジューラ様を恨んでいます。だからエンジューラ様を拐って危害を加えてやろうという計画ですよね?」

《そうよ、王太子妃になれないように男達に襲わせる計画よ!》
《セシリナ様。もちろんこの後あなたも同じ目に……》
《ではなくて!  本当に何でなの。私は一切その事を口になんてしていないのに!》
《どうしてよ……》


  アンネマリー様の顔はみるみるうちに青く変わっていった。

 
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

処理中です...