【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!

Rohdea

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第16話

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  翌日、エリオス殿下は約束通り我が家を訪ねて来た。

「セシリナ!」
「エリオス殿下!  お待ちしていました」

  殿下を出迎えると、私の顔を見た殿下が明らかにホッとした顔をする。

「セシリナのその様子だとマリアン嬢には何もされていない?」
「はい。ご心配をおかけしました。お姉様は帰宅した時は突っかかって来ましたけど、ルーベンスお兄様の話を聞いたとたん、顔色を変えて逃げる様に部屋へと戻ってしまったので何もされていません」
「そっか、良かった」

  殿下が安心したように笑う。
  そんな殿下の顔を見ていたら自然と私も微笑んでいた。

「……」

  殿下が無言でじっと私の顔を見つめる。
  そんな風に見つめられると何だか胸がドキドキしてしまうわ!

「ど、どうかしましたか!?」
「え?  あ……い、いや。何でもない、よ」
「そう、ですか……?」
「うん……」

  おかしいわ。
  どうして、こんなにぎこちなくなってしまっているのかしら?

  (あんな変な夢を見たから……)

  つい、昨夜の帰りの馬車の中で見た夢を思い出してしまった。

  (本当に私ってばなんであんな夢を……!)

「た、立ち話も何ですから、い、移動しましょう!」

  ふと気付けばここは屋敷の玄関だ。
  こんな所に王子様を立たせて何やってるの、私!

「あ、うん。そうだね。でも、今日はあんまり長居は出来ないんだ」
「……」

  その言葉を聞いて思う。
  本当に殿下は忙しい合間を縫って私が無事かどうかを確かめる為だけにこうして来てくれたんだ。

  (どうしよう、嬉しい……)

  油断すると頬が緩んでしまいそうになる。
  最近の私は殿下といると、自然と微笑んでいる事が多くなった気がする。

  (笑わない薄気味悪い令嬢と呼ばれていたはずなのに……)

  殿下と過ごす事で少しずつ私は変わっているのかもしれない。




****




「そう言えば、今日はマリアン嬢はどうしているの?」
「あ……今日のお姉様は朝から出かけているのです」
「……だから静かなのか」
  
  お姉様は昨日の事でてっきり朝は機嫌が悪いのでは……と思ったものの何故かそんな事はなく。

  (むしろ、機嫌が良くて驚いたのよね)

「……お姉様はまだ何か企んでいる気がします」
「同感だね、しつこさだけは兄上のお墨付きだ」

  エリオス殿下がうんうんと頷いた。
  そんなお墨付き……嬉しくも何ともない。

「それで昨日のあの男……セシリナの従兄の事だけど」
「はい」

  そうよ、お姉様の事も気になるけれどルーベンスお兄様はどうなったのかしら?

「取り調べ中も言い訳ばっかりなんだよね。“私は悪くない”“セシリナと婚約するのは私だった”とばかり繰り返してる」
「お姉様の事はお話になられたのですか?」
「いや。自分の主張ばっかりしている」
「そうですか……」

《昨日のセシリナと愛し合ってたとか言う発言も許せないが……》
《嘘でもセシリナの“婚約者”だなんて名乗るのはもっと許し難い》

  何で心の声が?  と思ったら殿下が私の頭を撫でていた。

「……ところで、さ。婚約の話は本当に出ていたの?」
「まさか!  全く知らなかったです!」
「そっか……」
「ですが昨夜、お父様に確認したところ、確かに昔、私と婚約するのはどうかと打診した事はあったそうなんです」
「……そうなの?」

《何だって!?  いや、落ち着くんだ……昔の話だと言っている……》

「ですが、ルーベンスお兄様は“薄気味悪い令嬢”なんて冗談じゃない!  と断って来たとか……」
「!」

《また、“薄気味悪い令嬢”の話か!》
《……セシリナは、これまでどれくらいその言葉を言われ続けて来たんだろう?》
《セシリナは慣れている、気にしていないなんて素振りを見せるけど、そんな事を言われ続けてきて傷ついていないはずが無い》

  (……え?)

「なら、今更何を言ってるのかって感じだね」
「え、えぇ……そうですね」

  殿下の心の声の優しさに胸がジワジワと温かくなる。

《セシリナがこれまで傷付いてきた分、君は可愛いと言い続けたい気持ちでいっぱいだ》
《……まぁ、さすがに引かれるだろうけど》
《でも、心の中で思うのは自由だよな、うん》

「……っ!」

  エリオス殿下は心の中でなら平気と言っているけれど……まさか、その心の声を聞いてしまっています!
  とは、さすがに言えない。

  (殿下は仮の恋人の私に優しすぎるわ!)

「引き続き、彼への取り調べは続く事になる。その後、釈放されてもセシリナには絶対に近付けないようにはするから安心して?」
「殿下……ありがとうございます」
「いやいや、お礼を言われる程の事じゃないよ」

《かなり私情が入っているしね》

  ……私情?  

「そうだ、それと今日セシリナに一つ大事な話をしておこうと思って」
「大事な話、ですか?」

  殿下が私の頭を撫でるのを止めたので心の声は聞こえなくなった。

「マリアン嬢が、何を企んでいるのか分からない時に更に不安を煽る様な話はしたくなかったんだけど……」
「不安、ですか?」
「うん、昨日の夜会でかなりセシリナと僕の関係は知れ渡ったからね」

  それは確かに。
 
「これまでは単なる噂の方が先行していたけれど、実際の僕達が一緒にいる姿を多くの人が見ていたし、あの従兄が暴れた事で僕達の関係は単なる噂ではないのだと思われたと思う」
「……ハッ!  私、あの時ルーベンスお兄様では無くエリオス殿下を愛していると口走りました!」

  今更ながら自分の発言を思い出す。
  無我夢中だったとは言え、大勢の前でかなりとんでもない事を口にしていたわ!

「ははは、それはもちろん構わないよ。ただ、確実にその事を面白く思わない人達が出てくるわけだ」
「あぁ……そうですよね」

  お姉様みたいにエリオス殿下を狙う令嬢は他にもいる。

  (皆が本当の殿下を見ようとしているかは分からないけれど)

「セシリナは、スプラウクト侯爵家のアンネマリー嬢を知っている?」
「スプラウクト侯爵家ですか?」

  侯爵家の事も知っているしそこの令嬢がアンネマリー様だと言うのも知っているけれどそれだけだ。

「面識は全くありません」

  これまで参加した事のある数少ない社交の場でも話をした事は無い。

「おそらくその筆頭がそのスプラウクト侯爵家のアンネマリー嬢なんだ」
「アンネマリー様……」
「それでね……」

  と、殿下が続きを語ろうとした時、「申し訳ございません。殿下そろそろ戻らなくては時間が……」と、遮られてしまった。

「もう、そんな時間か?  ……ごめん、セシリナ。続きはまた今度詳しく話すよ」
「は、はい」
「ただ、スプラウクト侯爵家のアンネマリー嬢には気を付けて欲しい。だから申し訳ないけど僕が同伴出来ない社交場には……」
「大丈夫ですよ。私はもともと社交会に殆ど顔を出していませんから」
「セシリナ……」

  エリオス殿下の顔は、また巻き込んでごめん、と言っているみたいだった。
  あれだけ言ったのにこの方は!

「殿下。私、昨日も言いましたけどー……」
「うん、分かってる……だから、ごめんじゃないよね、ありがとう。セシリナ」

  そう言ってエリオス殿下はちょっと情けない顔で笑った。
  そんな顔しても美男子のままなのだから凄いわ。





「スプラウクト侯爵家のアンネマリー様……」

  慌ただしく帰って行ったエリオス殿下を、見送ったあと部屋に戻り、殿下の気を付けて発言について考える。

「基本、私は外に出ないしね。殿下のいない場所で接する機会もそうそう無いはず!」


  ───そう思ったのだけど。


  この日から数日後。

「あぁ……やってしまったわ」
「?」

  私の目の前で使用人の一人が我が家に届いたと思われる手紙の束を落としてしまったようで悲惨な事になっていた。

  (あれは最近入った新人?)

  仕事にまだ、慣れていないのかも。
  そう思って拾い集めるのを手伝おうとした。

「え、お嬢様!?  すみません……って、だ、大丈夫ですから。お嬢様がそんな事を……」
「いいから。さっさと拾ってしまいましょう?」

  私はそう言って散らばった手紙の束を拾い集める。
  目の前でこんな光景見てしまって無視は出来なかった。

「……って、あれ?  これは……」

  その中の一つの手紙を手に取った時にあれ?  と思う。
  それは、お姉様宛の手紙だった。
  その事は珍しくも何とも無い。
  私と違って社交的なお姉様は手紙のやり取りをする相手はたくさんいる。

  ……だけど。

「……この印籠ってスプラウクト侯爵家のものじゃ……あ、やっぱり……!」

  たまたま私が手にしたその手紙はー……
  先日、エリオス殿下から気を付けるようにと言われたばかりのスプラウクト侯爵家のアンネマリー様からお姉様へと宛てた手紙だった。
  

  
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