【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!

Rohdea

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第8話

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「セシリナとのお話は終わりましたの?」
「あぁ、うん……」

  あぁ、エリオス殿下ったらものすごく歯切れの悪い返事をしている。
  これは心を読まなくても分かるわ。
  今、逃げたいって思っているわね……同感!  私もよ!

  お姉様はニッコリ笑っている。
  だけど怖い。まるで獲物を狙う人の目だわ……
  
「あー……申し訳ないマリアン嬢」

  エリオス殿下はまた私を抱き寄せながら言った。

「僕は先程、セシリナに交際を申し込んでね?  了承をもらったんだ」
「は?  交際?  了承?  セシリナと?」

  お姉様が目を丸くして驚いている。

「僕もさ、これからは一人を大切にしようと思ってね?  だから、君との時間は取れそうにないんだ、ごめんね」

《頼むから引き下がってくれ!》

「は?  本気で言ってますの?」

「本気だ!」

《本気だ!》

  あら……初めてこんなピッタリの心の声との一致を聞いたわ。
  こんな時なのにそんな所に感心してしまった。


「殿下は色んな噂がありますから特別な方は作らないと思っていましたわ」
「そう?」

《まぁ、否定はしない。でもそうも言っていられなくなったからな》

「……それが、どうしてよりにもよって……セシリナなんです?」
「出会ってしまったからだよ」

《そう……僕の上に突然、降ってきた》

「!」

  あの日の事を持ち出されたので吹きそうになった。
  恥ずかしいから勘弁してください……!

「で、殿下は趣味が悪いのではありませんか!?  よく見て下さい!  セシリナですわよ!!」
「……」

《本当に酷い言い草だな》

  お姉様がプルプル震えながら叫ぶ。自分ではなく私が選ばれた事にプライドが許さないのだろう。
  でも、本物の恋人じゃないとはさすがに言えないし。

「だって私の方が可愛いでしょう?  セシリナは笑いもしないし!  そもそも何て世間に呼ばれているのか殿下だってご存知でしょう?  薄気味ー……」
「その呼び方は止めてくれないか?  何と言われても僕はセシリナが良いんだ!」

《何で実の妹をそんなに見下せるのか全く分からない》
《セシリナ嬢は確かに笑いはしないけど、ちゃんと表情豊かな子だ!  薄気味悪くなんて無い!!  噂とは違う!》
《……あと、笑ったら絶対に可愛いはずだ!》

  殿下の心の声がばんばん流れてきて私はこそばゆくて仕方ない。

  (それより最後の笑ったら可愛いはずって何……!?)

  どうして殿下の心の声はこんななの……聞いていたら心臓が持たなそうで困る。

  お姉様は、エリオス殿下の言葉が理解出来ないという顔をしていた。

「マリアン嬢」
「……何ですか?」
「君がどう思おうとセシリナはもうなんだ」
「……は?」

  殿下がとても冷ややかな目でお姉様を見る。

「もしも、もしもの話だけど僕のが傷付けられるような事があれば……その時は分かっているよね?」
「な、なんの事です?」
「まさか僕が何も知らないとでも思ってる?  君が兄上を追いかけていた頃に何をして来たか」
「……!」

  エリオス殿下の言葉にお姉様の顔色が分かりやすく変わった。

  (え?  やだ……いったいお姉様は何を?)

  と思った所で、そう言えばお姉様は王宮に出禁寸前だった事を思い出した。
  そうなるには、やはりそれなりの理由が……?

「君がこれ以上こんな風にセシリナを罵ったり、まさかとは思うけど手を出したりしたその時はね……僕も黙ってはいられない。ほら、君もまだ社交界に居たいよね?」
「……ひっ!」

《今はこんな牽制しか出来ないけど、とりあえずの効果はあるはずだ》

  殿下の言葉にお姉様が脅えた声を出す。
  心当たりがありまくりな様子だ。

「ねぇ、マリアン嬢?  分かってくれたかな?  くれたよね?」
「……」
「マリアン嬢?」
「わ、分かりましたわ!  ですが、エリオス殿下!  い、いつか、私を選ばなかった事を後悔しますわよ!  その時に縋って来てももう遅いですから!!」

  お姉様はそれだけ言い捨てて逃げる様に部屋へと戻って行った。
  その際にはまたしてもすごい目で睨まれた。

  (あの目……まだ諦める気は無さそう)

《マリアン嬢に縋るって……絶対に後悔する事は無いんだが》

  殿下の心の声はどこまでもお姉様に冷たかった。

《しかし、まさか僕に狙いを変えて来るとはな。兄上に執心していたのではなく、王族の嫁目的だったのか》
《……脅しはしたもののセシリナ嬢は大丈夫だろうか?  心配だな。牽制が聞いているうちに早急に手を打たないといけないな》
《だけど、セシリナ嬢には申し訳ないや。僕がこんな事を頼んだからだとは分かっているけど……それでも僕は……》

「……?」

  エリオス殿下がちょうど私から身体を離したので、それでも僕は……の続きが聞けなかった。
  何を言いかけたのかしら?

  身体を離した殿下が私を見つめながら言った。
  
「セシリナ嬢……いや、セシリナで良い?」
「は、はい!」
「マリアン嬢に何かされたら、どんなに些細な事でもいいから教えてくれ」

  殿下の目は真剣だった。
  これ、本気で私の心配をしているわね。
  だって、雰囲気が心の声と同じなんだもの。

「……多分、大丈夫です」
「そうかな?」

  お姉様は、いつもあんな感じだけれど基本は口撃だから、きっと嫌味が増えるくらいのはず。
  今更、お姉様からの嫌味が増えたくらいで私は傷付いたりしないもの。
  ただ、殿下の脅していた理由が気になるけれど……

「ですが、何かあればちゃんと報告しますね?」
「……うん」
「!」

  殿下がちょっと泣きそうな顔に見えたのでそっと手袋越しに殿下の服の袖に触れてみた。
  “心配”という、感情だけが流れて来た。

  (やっぱり……心配されている)

  本当にエリオス殿下は、よく分からない。
  恋人(仮)として付き合っていったら少しは分かるようになるかしら?
 
  なんて事を思った。




 
  そうして、私とエリオス殿下の恋人(仮)生活が、始まったのだけど───





  翌日、迎えを寄越すから王宮に来て欲しいと言われていたので私はその通り殿下の元を訪ねた。

  まず、殿下はお姉様から私が何もされていないかを心配し確認をした。
  とりあえず今は大人しいですよ、と言ったら安心したように笑ってくれた。

  そしてその後に殿下は突然、一つお願いがあるんだと切り出したのだけど……





「え!?  そ、それは、ちょっと待ってください!!」

  私の必死の叫び声が部屋中に響き渡った。

「セシリナ、そう言いたい気持ちは分かるけど……これは“恋人”からの頼みだよ」
「でも……!」
「やっぱりその長さは目に良くないと思うんだ」

  今、私はエリオス殿下から“恋人”からのお願いとして頼み込まれているのが、

  前髪を切る事だった。
  確かに初対面の時から「目に悪そう」とは言われていたけれど。

「どうしても嫌?」
「っ!」

  ずるい!  そんな顔をして聞いてくるなんて。
  エリオス殿下は明らかに落ち込んでいた。

  確かにこれからの自分が、今までと違い人前に出る機会が増えるであろう事を考えると、私だってこの前髪のままで良いとは思ってはいない。

  (ただ、何となく決心が……)

「……」
「……」

  けれど、こんな美男子にしょげた犬みたいな顔をさせてしまっている事が、だんだん申し訳なくなって来る。

「……君の瞳を見てとやかく言う奴がいたら僕が絞めて回るからさ」
「え?」

  なんて物騒な事を言うの。そして、エリオス殿下なら本当にやりそうだわ。
  
「……駄目……かな?」

  殿下はますます、しょぼんとした。

「うっ…………わ、かりました……」

  圧倒的な敗北感を味わわされて、私は前髪を切る事を受け入れた。

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