【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!

Rohdea

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第6話

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  は?  ───今、何て?

「エ、エリオス殿下?  今、何と仰いましたか?」
「だから、君に僕のー……」

   エリオス殿下が、再び口を開こうとしたその時、

「セシリナ!  どういう事なのーー!」
「「!?」」

  物凄い剣幕でお姉様がバーンと扉を開けて部屋に乗り込んで来た。
  お姉様に至ってはノックすらも無い。
  
「お、お姉様……」
「何で、エリオス殿下が私でなくあなたを訪ねて来るの!?  説明してちょうだい!!」
「いえ、私にも何が何だか」
「嘘、おっしゃい!!  セシリナなんかがエリオス殿下の心を射止めるわけないでしょう!?  これは何かの間違いよ!」

  そんな事を言われても。
  本当に私にはわけが分からないというのに。
  それよりも、私はさっきの殿下の言葉が気になって仕方ない。

「……マリアン嬢」
「はっ!  エリオス殿下!  大変失礼しました。お見苦しい所をお見せしまして」

  お姉様はようやく部屋にいるエリオス殿下の存在に気付いたらしく、慌てて取り繕っていた。
  ……もう遅いと思う。

「本当にそうだね。まぁ、今だけでなくさっきもだけどね」
「……ぐっ」

  エリオス殿下の言葉にお姉様が押し黙る。
  
「それと。セシリナ嬢を貶めるような言い方は止めてくれないかな?  気に入らない」
「え?」

  お姉様はエリオス殿下の言葉に首を傾げる。

「僕にとってセシリナ嬢は大切な存在なんだから」
「なっ!」
「!?」

  えぇっ!?
  今、この王子様、何を言い出したの!?

  私の頭の中はとにかく混乱していた。
  そんな私をエリオス殿下はそっと肩に手を回し抱き寄せた。

  (ちょっ……!  触れ……)

《セシリナ嬢には申し訳ないけれど、これくらい言わないとマリアン嬢には伝わらないと思うんだよなぁ……彼女は本当にしつこいから》

  あぁぁ、声が……思いっきりエリオス殿下の心の声が聞こえて来る。

「……そ、そんな!  エリオス殿下は私ではなく、本当にセシリナなんかを?」

  お姉様がショックで顔を真っ青にして震えている。

「うん、ごめんね。マリアン嬢。君もとても魅力的な女性だけど僕はセシリナ嬢を気に入っているんだ」

《なんかって何だ?  嫌な言い方をするんだな。セシリナ嬢は可愛い子じゃないか》
《まぁ、マリアン嬢に魅力を感じた事は一度も無いけどな……》

「!?!?!?」

  私は流れ込んでくるエリオス殿下の心の声に驚きが止まらない。
  今、私の事を、か、か、可愛いって言わなかったかしら……??
  耐性が無さすぎて心臓がバクバクいっている。

「嘘でしょう……!」

  お姉様はお姉様で更にショックを受けたのか言葉を失ってその場に崩れ落ちた。

  (何がどうしてこうなったの……)

  エリオス殿下の心の声に動揺して固まる私。
  崩れ落ちて身体を震わせているお姉様。
  ニコニコと笑顔のまま、心にも無いことを口にするエリオス殿下……

  私の部屋は混沌の渦と化していた。





「さぁ、マリアン嬢……僕はセシリナ嬢に用があるんだ。君との時間はまた後で作るから今は出て行ってくれないか?」

《……出て行ってもらうにはこう言うしかないか。本当はそんな時間持ちたくないが……マリアン嬢の相手をするのは疲れそうだし。あぁ、兄上の気持ちが今ならよく分かる!》

  殿下の内心がすごい事になっている。

「……くっ、分かりました……わ。今は出て行きます。ですが後で必ず私との時間も取ってくださいね?」
「もちろんだよ」

《……嫌だなぁ》

  エリオス殿下はとてもいい笑顔でそう答えていた。

「……」

  とりあえず、私は流れ込んでくるエリオス殿下の心の声に困惑しかない。


  お姉様は一応約束を取り付けたからか、どうにか立ち上がり私の部屋からフラフラと出て行く。
  その際、さり気なく私を睨むのも忘れない。
  さすが、お姉様……



  ──それよりも。また、エリオス殿下と2人きりになってしまった。
  そして、この密着!
  心の声が聞こえてしまうのでいい加減離れてもらいたい──……
 
「うーん。さすが、長年兄上を追いかけてた人だねぇ。しつこさが半端ない」

  なのに、エリオス殿下がそのままの体勢で会話を続けようとする。

《兄上があれほど病んでたわけが分かったよ》

「ひぃっ!!  ……も、申し訳ございません!!」

  私は反射的に謝っていた。
  い、今、王太子殿下が病んでたって聞こえた!!

「いやー……って。また、セシリナ嬢……君が謝ってるね」

《もう癖なのかな?  セシリナ嬢は何も悪くないのにな。でもあの姉だもんなぁ……それは苦労するよな》

  しまった、と思い私は思わず俯いてしまう。心の声に反応して謝ってしまった。
  いえ、でも王太子殿下がお姉様のせいで病んでいた、と聞いて冷静でいられるはずがないでしょう?


「それで、さっきの話なんだけど」
「す、すみません。そ、その前に手を……手を離してもらえませんか?」

  私は失礼だと思いながらも、まずは身体を離したい。
  そうでないと私の頭が爆発しそう。

「……あ、ごめん、ごめん!  そうだよね。ついつい君に触れていたくて」

《ハッ!  しまった!!  また許可なく触れてしまっていた……一度ならず二度までも!  あぁぁ……本当に申し訳ない……》

  (また、口では軽い事を言っているけど、心の中は紳士だわ)

  そんな言葉を最後に身体が離れたのでエリオス殿下の心の声は聞こえなくなった。
  とりあえずこれで、ようやくまともに話が出来るわ。
  こんなにも口に出している言葉と心の声がかけ離れていては私の頭の中が混乱してしまってうまく話せないもの。

  ふぅ、と内心でため息をつく。

「それで、お願いなんだけど」

  気を取り直したエリオス殿下が改めて口を開く。

「君に僕の仮の恋人になって欲しいんだ」

  ──いやいやいや、待って!

「……え!?  エリオス殿下……今なんて仰いました……?」
「だから、セシリナ嬢。君にお願いをね」
「えぇ、それは聞きましたけど、その、内容がですね……」

  私はたった今聞いた、そのお願いは何かの間違いだろうと思いながら聞き直す。
  既に充分過ぎるほどおかしくなっている私の耳だけど更におかしくなったのかもしれない。そう思いながら。

「うん。だからね、君に僕の恋人のフリをして欲しいんだよ」

  えっと……?  聞き間違いでは無かったらしい。
  数日前に初めて会ったこのあべこべな王子様……今度はいったい何を言い出したの??

  私は笑顔でおかしな事を言っている王子様を見ながらそんな事を思った。
  しかもって何!?
  いえ、本当の恋人と言われても信じられないしびっくりだけれども。

「別に本当の恋人を望んでるわけじゃないんだよ」
「……ますます意味が分かりません!」

  私は思わず叫んでいた。
  何ですか、それは!!

「ほらね、この間も話したでしょ?  周囲の者達や母上が僕の婚約者をどうにかしようとしているって」
「え、えぇ。それだと遊べなくなる、とあの時は聞きましたが」
「そうなんだよね」

  エリオス殿下はうんうんと頷く。

「セシリナ嬢も僕の噂は知っているでしょう?  だからこそ周りは早く僕に身を固めろと言うし、ぜひ私を!  と言って迫って来る女性も多い」
「……」

  でしょうね、と思いつつ黙っておく。王子様で美男子だから大変そう。

「でもね、あまりにもしつこいからさ。だから僕はしばらくの間で構わないから、煩わしい縁談避け、我こそはと迫ってくる女性避けになってくれる人を探していたんだよ。ようやく1人の人に絞ったのだと思わせてとにかく今は黙らせたい」
「はい!?」

  それが理由?  いえ、エリオス殿下の事だから大変そうのは分かるのだけれど……

  (だけど、どうしてかしら?  何となくだけれどもっと別の理由があると思ったのに)

  そんな事を考えていると、エリオス殿下はニッコリ笑って続ける。

「僕はね、まだたった1人を決めたくないんだ」
「……」

  ……ちょっと待って?  この王子様、とんでもない発言をしているのだけど!
  いえ、確かに噂では遊び人だと聞いていたけれどどうなのこれ。

  (噂…………いえ、待って?  これ本当に本心なのかしら?)

  上手く言えないけれど疑問に思った。
  これは殿下の心の声を何度も聞いてしまったせいかしら?  そんな人では無い気がするのよ……

「そ、それだけお付き合いのある女性がたくさんいるのなら、私ではなくその中の女性の一人にでも頼めばよろしいのでは?  それか、私のお姉様でも……」

  お姉様、噂なんて気にしないって言ってたもの!  喜んで手を挙げるのではないかしら。あわよくば……を狙いそうではあるけれど。

「いやいやマリアン嬢は勘弁して。うーん、他の子もねぇ……」

  エリオス殿下が渋い顔をして首を振る。
  お姉様では駄目らしい。それもそうね、苦手そうだったもの。

「なら、どうして私なのですか?」
「うん?」
「私と殿下は数日前に初めてお会いしました。何故私なのでしょう?」

  私の質問にエリオス殿下は、目をしばし瞬かせた。
  そして少し考える素振りを見せた後、口を開く。

「それはー……」

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