誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

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108. ヤケ酒最高! ~ガーネットの幸せ~

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 お兄様の訪問により、思わぬ昔話を聞かされ、アイラ画伯の腕前と観察眼にも驚愕させられたその夜。

 グビッ

「はぁぁ、今日はとっても、疲れたわ……」

 グビッ、グビッ

「……ガーネット」
「ホホホ、今日もお酒が美味しいわよ?  ジョルジュ、あなたも飲む?」
「……」

 グビッ、グビッ、グビッ

 私は勢いよく飲み干してグラスを空にする。

「今頃、暴走天使のベビーたちはスヤスヤといい夢でも見ている頃かしら?」
「だろうな」
「……全く。私たちの気も知らずにどこまでもやんちゃなんだから」

 グビッ
 私は新しいグラスを手にしてそれもまた勢いよく飲み干す。
 グビッ、グビッ、グビッ

「……ガーネット。何杯目だ?」
「ホホホ、知らない。とにかく今日もお酒が美味しいことだけは確かよ!」

 グビッ!

「……」

 何か言いたそうな目で私を見るジョルジュ。

「ん……そういえば、あなたは全然飲まないわねぇ?」
「……」
「こんなに美味しいのに、なんで?」
「……」
「?」

 何故かジョルジュが黙り込む。
 その間も私はグビグビと新しい酒を飲み干す。

「…………くくっ」

(あら?  今……)

 珍しくジョルジュが笑った気配がした。

「…………ジョルジュ」
「どうした?」

 私は酒のグラスをテーブルに置いてジョルジュにグイッと顔を近付けるとニンマリ笑った。
 ジョルジュは目を瞬かせている。

「楽しい?」
「え?」
「ホホホ、ギルモア家、賑やかになったでしょう?  家族でワイワイ……どう?  楽しいかしら?」
「……」

 ジョルジュは一人っ子。
 更に留学していたこともあり、家族でワイワイという経験はあまり無かったはず。

「ジョエルも一人っ子なうえに無口だったでしょ?」
「ああ……」
「だから、ギルモア家は今が一番、賑やかだと思うのよね」

 いつでもどこでも、あうあ!  とニパッと可愛い笑顔を振りまいて元気いっぱいに走り回るジョシュア。
 ……ぅぁ、をメインとしたか細い声ながらも、行動力は抜群で予測不能なことばかりするアイラ。

 孫のあの子たちがいるだけで毎日がかなり賑やかだ。

「確かに賑やか、だな───楽しい」
「ホーホッホッホッ!  ジョルジュ。なら、この私と出会えて良かったでしょう?」

 私が高笑いしながら胸を張ると、優しく頬を撫でられた。

「そうだ。俺は君以上に最高な女性を知らないからな」
「!」

 その後は更にいい感じにお酒がグビグビ進んだ。


────


 そして翌朝。

「ホ~ホッホッホッ!  今朝も素敵な置物ね!  そして何故かちゃっかりジョシュアも置物デビューしているわ!」

 三人がそっくりな体勢で固まって朝日を浴びている。

「お義母様、今朝のジョシュアは起こしても起こしても全然起きなかったんですよ」

 セアラさんが苦笑しながら言った。

「ホホホ!  なら、ついに来たのね……ジョエルの置物化の始まりもそうだったわ」
「朝からジョシュアの“あうあ!”が聞こえないのは変な感じです」

 少し寂しそうなセアラさんに私は笑いかける。

「それも成長よ、成長!」
「お義母様……」
「まあ、あの子の“あうあ”は中毒になりそうだから聞こえないと寂しくなるのも分かるけれどね」
「ふふっ」

 私がそう言うとセアラさんは可愛く笑った。
 今日も義娘は天使だわ。

「…………ぅぁ!」

 ペタペタペタペタ……
 そこへ、そんなセアラさんにそっくりなもう一人の天使・アイラが床を這って現れた。

「アイラ!  おはよう」
「ぉぁぉ……」

 私はペタペタと近付いて来たアイラをそっと抱き上げた。
 アイラは無表情で三体の置物をじぃぃっと見つめる。
 そして、ジョシュアに向かって指をさす。

「ぅぁ」
「ええ、そうよ。すっかり見慣れた朝の光景に今日からあなたのお兄様が加わったわよ?」
「ぅぁ!」
「どうかしら?  置物三体。玄関に飾られている私の描いた絵にそっくりでしょ?」
「……………………ぅぁ」

(……?)

 気のせい?
 返事が遅くなったような?
 ……ま、いっか。

「あの日はたまたま見られた光景だったけれど、これからはこれが日常になるのよ?」
「ぅぁ~」

 私の説明に答えるようにアイラが手足をパタパタ動かし始めた。

「アイラ?」
「……ぁぅ!」

 ジョルジュに向かって指をさす。

「……ぅ!」

 続いてジョエル。

「……ぁぅぁ!」

 最後にジョシュア。

「ぅぁー!」

 三人ともそっくりですわー!  とアイラは驚いている。

「ホホホ、でしょう?  それが分かったところでアイラ」
「ぅぁ?」
「こういう理由だから───ギルモア家の男たちはね、午前中は役に立たないのよ」
「!!」
「朝は私たちの時間よ!  さあ、まずは朝食の前にひとっ走りと行くわよ!」
「ぅぁ!!」

 私はアイラをそっと床に下ろす。
 するとアイラは元気な返事をしてから、一瞬で私たちの目の前から消えた。

「……お義母様!  アイラが一瞬で消えました!」
「ホホホ、相変わらずね……いえ、前よりスピードアップしてないかしら?」

 ───ォ~ォッォッォッォ!

 そして風に乗って微かに聞こえてくるアイラの高笑い。

「ホホホ!  さあ、今日も元気に追いかけっこの開始よ!」

 私は朝から全速力でアイラを追いかけた。




 そしてお昼。
 覚醒したギルモア家の男たちはそれぞれの仕事や活動へと向かった。


「あうあ!」
「ジョシュア、さすがだな。筋がいい」
「あうあ!」
「なに?  おじーさまの教えが素晴らしいのです?  君は本当に口が上手いな」
「あうあ!」

 庭に顔を出してみるとジョルジュとジョシュアが仲良くお揃いのスコップを手にせっせと庭を掘っている。

(そっくりねぇ……)

 祖父と孫。
 そっくりな姿に思わず笑がこぼれる。
 そんな二人は私には気づかずにザクザク庭を掘り続けている。

「あうあ!」
「ああ、そうだな。ジョシュアの植えた花を見たらきっとみんな喜ぶ」
「あうあ!」
「花が咲いたらおばーさま、おかーさま、アイラに花束を作ってプレゼントするです?  そうか……ガーネットなんて大喜びで永久保存出来る方法を編み出しそうだな!」
「あうあ!」
「おばーさまならやれるです!  か。さすがだ。よく分かっているじゃないか!」
「あうあ!」

 ニパッ!
 ジョルジュに褒められたジョシュアは満面の笑みで微笑んだ。

「……ジョシュア」
「あうあ!」

 何だか勝手なことを言っているわ……と見守っていたら、ジョルジュが少し真面目な声でジョシュアに語りかける。

「俺はガーネットに出会えて幸せだ」
「あうあ!」
「将来、ジョシュアやアイラにもそんな相手と巡り会えるようにと俺は願ってるぞ?」
「あうあ!」

(……ジョルジュ)

 とても、胸がキュンとしそうなカッコいいセリフなのに。
 なぜ、庭を掘りながら言うのよ……そんな所も好きだけど!

(でもね……───私も幸せよ?)

 あの日、婚約破棄されてヤケ酒なんてしていなかったら。
 今のこの幸せはなかったのかなと思う。

「────ホホホ! つまりは……ヤケ酒最高ってことね!  今夜もガブガブ飲みまくるわよ~」

 私は空を見上げながらそう宣言した。

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