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104. 暴走ベビーたちとガーネット
しおりを挟むそれからもギルモア家のドタバタな日々は続いた。
トタトタトタトタ……
「あうあ!」
「───ジョシュアッ!!」
ニパッと可愛い笑顔を振り撒いてやんちゃに走り回るジョシュア。
ペタペタペタペタ……
「…………ぅぁ!」
「───アイラッ!!」
無表情なのに猛スピードで這いずり回るアイラ。
ギルモア家が静かになるのは二人がお昼寝している時くらいだった。
────
「……ふぅ、今日も疲れたわね。セアラさん、二人は寝た?」
「あ、お義母様! はい。二人とも今、眠ったところです」
午前中、元気いっぱいに邸内を動き回った二人は、昼食後はだいたいお昼寝に入る。
今はちょうど寝入ったところらしい。
セアラさんがじっと私を見つめてきた。
「セアラさん? どうかした?」
「いえ、最近のお義母様は以前よりも若々しくなられたような……」
不思議そうなセアラさんに向かって私は笑い飛ばす。
「ホホホ! それは……あれね」
「あれ?」
「このベビーたちと張り合うために鍛え始めたからよ!」
「あ!」
まさかまさかのジョエルからのプレゼントが役に立つ時が来るなんてね!
人生何が起きるか分からないわ~!
「セアラさんもやる?」
「私も体力つけた方がいいのでは? とは思ったのですけど」
「けど?」
私が首を傾げるとセアラさんが苦笑する。
「ジョエル様が、私までお義母様みたいにムキムキを目指すのはちょっと……と眉をひそめまして」
「ムッキムキーー!? あの子、何を言っているのよ。さすがの私もそこまでは目指していないわよ!?」
あまりの暴論に声を張り上げるとセアラさんが目を丸くした。
「え? でもジョエル様はそう言っていましたよ?」
私は頭を抱える。
「~~っ! あの子は昔っから考え方が一か百かしかないのよ!」
「でも、お義母様。身体を鍛えるのかなり楽しんでます、よね?」
「……う!」
それは図星だった。
なかなか面白くて楽しいのは事実。
それに……
(私の性格とよく合っているのよねぇ……)
コホンッ
私は軽く咳払いをして誤魔化す。
「そ、それで? 暴走ベビーたちは?」
「え? ふふふ、こちらで仲良く並んで眠っていますよ? スヤスヤです」
二人の眠ってるベッドを覗き込む。
「…………ぁぅぁ」
「ぅぁ……」
(……天使)
ジョルジュとジョエルによく似たジョシュアとセアラさんによく似たアイラ……
どちらも天使のような寝顔だった。
しかも、可愛い寝言つき。
「全く! 二人とも周りを振り回すだけ振り回して気持ちよさそうにスヤスヤと……」
「ふふ、ジョエル様が言ってましたよ? ジョシュアはお義母様の反応が嬉しくて楽しくて走り回っているって」
「……はぁ?」
「男の人よりも、美しい女の人に追いかけられる方がボクにはご褒美なのです───って言っているそうです」
「……え! ご褒美!?」
私はスヤスヤ安眠中のジョシュアの顔を見る。
「…………ぁぅ、ぁ……」
「ジョシュア……」
(やっぱり、色んな意味でやべぇ男になりつつある……ような)
変な世界の扉が開きつつあるのは、ジョルジュに似たのかしら?
もともとの素質はあったにせよ、そのジョルジュを目覚めさせたのは自分だと思うと複雑な気分になった。
(えーー……)
「───屋敷が静かになったな。我が家の天使たちは休息中か?」
「ジョルジュ!」
そんな話をしていたら、ジョルジュが手馴れたスコップを手に外から戻って来た。
ひょいっと廊下から部屋の中を覗いている。
「おかえりなさい。今日は土いじりの時間が少し長かったわね?」
私は時計を見ながら訊ねるとジョルジュはああ……と頷いた。
「今日は、そこでスヤスヤ安眠中のお姫様が庭で暴れていたからな」
「え? アイラ?」
再び頷いたジョルジュは語る。
「そうだ。ちょうどガーネットがジョシュアを追いかけている最中だったな。俺が庭に出ようとしたらアイラがペタペタと床を張って着いて来た」
「アイラ……」
「躱そうとしたんだがな。すごい執念でペタペタ着いて来た」
「アイラ……」
(さすが、行動力の塊……)
「アイラも庭に行くか? と訊ねたら小さな声で“ぅぁ”と頷いた」
そうしてジョルジュはアイラを抱っこして一緒に庭に行ったという。
使用人や庭師たちと危険のないように最前の注意を払いつつも、当初のアイラは物珍しさから大人しくしていたという。
しかし……
「俺が掘っては庭師が植えて、また掘っては植えての作業が面白かったのか……」
「……」
「横から四つん這いで、ぁぅ? と俺に何かを呟いたアイラは───」
「アイラは……」
その先は非常に嫌な予感がする。
「もっとやってと言わんばかりに、目に付いた草花を手当り次第引っこ抜き始めた」
「!」
(アイラーーーー!)
「だから今日は、その修復に時間がかかった」
「……そ、そう。そんなことが……」
まさかの行動に唖然とした。
「そして、引っこ抜いている最中の楽しそうな笑い方があまりにもガーネットによく似ていてな……」
「は?」
「うっとり見惚れてガーネットの小さな頃を想像して───気付いたらかなり荒らされていた」
「……ジョルジュっっ!」
アイラは、ォ~ォッォッォ! と笑いながら草花を引っこ抜いていたとジョルジュは嬉しそうに語った。
「見惚れてないでそこはすぐに止めなさいよ!」
「庭師はもう少し大きくなるまで出禁にしてくださいと泣いていた」
「…………でしょうね」
そりゃそうなるわよ!
「あんなに大人しそうな顔して中身は豪快。アイラの将来はさぞモテるだろうな」
「!」
「きっと、男を踏んで踏んで踏みまくるに違いない!」
俺も早く踏まれたい!
そう豪語するジョルジュの横で私は思った。
(アイラ……こっちも色んな意味でやべぇ女になりつつある……ような)
────
このままでは、まずい。
ジョシュアとアイラの将来を心配した私は後日、兄を呼び出した。
「なに? お前の孫二人がやんちゃで困っている?」
「ええ。ジョエルと違って────凄いのよ」
お兄様はふむ……と頷いた。
「兄の方だったか? プレゼントしたクマちゃんを毎日、どこへでも連れ歩いてはズルズルと引きずり回し、共に食事を摂り共に入浴し共に寝入っていたという話は聞いたが……」
「今思えば、あれはまだ可愛いかったわ……」
結果、ジョシュアベアーはかなりボロボロになったけど。
「では、具体的にどうやんちゃなんだ? 赤ん坊や幼少期なんて皆、そんなものだろう?」
「そうは言うけど! えっとね───」
私がジョシュアやアイラの話を語り終えるとお兄様は、ハッハッハとお腹を抱えて笑いだした。
「なんだ、その程度か!」
「お兄様?」
その程度?
私が眉をひそめると、お兄様はクックックとまだ笑いながら言った。
「ガーネット。お前は覚えていないだろうが……」
「?」
「二人のしていることはお前が赤ん坊だった頃や幼少期の行動にそっくりじゃないか」
「は?」
「むしろ──口が達者だった分、ガーネットの方が性質が悪かった気すらするぞ?」
「……は?」
遠い過去を探るようにお兄様は遠い目をした。
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