誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

文字の大きさ
上 下
107 / 119

104. 暴走ベビーたちとガーネット

しおりを挟む

 それからもギルモア家のドタバタな日々は続いた。


 トタトタトタトタ……

「あうあ!」
「───ジョシュアッ!!」

 ニパッと可愛い笑顔を振り撒いてやんちゃに走り回るジョシュア。

 ペタペタペタペタ……

「…………ぅぁ!」
「───アイラッ!!」

 無表情なのに猛スピードで這いずり回るアイラ。
 ギルモア家が静かになるのは二人がお昼寝している時くらいだった。


────


「……ふぅ、今日も疲れたわね。セアラさん、二人は寝た?」
「あ、お義母様!  はい。二人とも今、眠ったところです」

 午前中、元気いっぱいに邸内を動き回った二人は、昼食後はだいたいお昼寝に入る。
 今はちょうど寝入ったところらしい。

 セアラさんがじっと私を見つめてきた。

「セアラさん?  どうかした?」
「いえ、最近のお義母様は以前よりも若々しくなられたような……」

 不思議そうなセアラさんに向かって私は笑い飛ばす。

「ホホホ!  それは……あれね」
「あれ?」
「このベビーたちと張り合うために鍛え始めたからよ!」
「あ!」

 まさかまさかのジョエルからのプレゼントが役に立つ時が来るなんてね!
 人生何が起きるか分からないわ~!

「セアラさんもやる?」
「私も体力つけた方がいいのでは?  とは思ったのですけど」
「けど?」

 私が首を傾げるとセアラさんが苦笑する。

「ジョエル様が、私までお義母様みたいにムキムキを目指すのはちょっと……と眉をひそめまして」
「ムッキムキーー!?  あの子、何を言っているのよ。さすがの私もそこまでは目指していないわよ!?」

 あまりの暴論に声を張り上げるとセアラさんが目を丸くした。

「え?  でもジョエル様はそう言っていましたよ?」

 私は頭を抱える。

「~~っ!  あの子は昔っから考え方が一か百かしかないのよ!」
「でも、お義母様。身体を鍛えるのかなり楽しんでます、よね?」
「……う!」

 それは図星だった。
 なかなか面白くて楽しいのは事実。
 それに……

(私の性格とよく合っているのよねぇ……)

 コホンッ
 私は軽く咳払いをして誤魔化す。

「そ、それで?  暴走ベビーたちは?」
「え?  ふふふ、こちらで仲良く並んで眠っていますよ?  スヤスヤです」

 二人の眠ってるベッドを覗き込む。

「…………ぁぅぁ」
「ぅぁ……」
  
(……天使)

 ジョルジュとジョエルによく似たジョシュアとセアラさんによく似たアイラ……
 どちらも天使のような寝顔だった。
 しかも、可愛い寝言つき。

「全く!  二人とも周りを振り回すだけ振り回して気持ちよさそうにスヤスヤと……」
「ふふ、ジョエル様が言ってましたよ?  ジョシュアはお義母様の反応が嬉しくて楽しくて走り回っているって」
「……はぁ?」
「男の人よりも、美しい女の人に追いかけられる方がボクにはご褒美なのです───って言っているそうです」
「……え!  ご褒美!?」

 私はスヤスヤ安眠中のジョシュアの顔を見る。

「…………ぁぅ、ぁ……」
「ジョシュア……」

(やっぱり、色んな意味でやべぇ男になりつつある……ような)

 変な世界の扉が開きつつあるのは、ジョルジュに似たのかしら?
 もともとの素質はあったにせよ、そのジョルジュを目覚めさせたのは自分だと思うと複雑な気分になった。

(えーー……)


「───屋敷が静かになったな。我が家の天使たちは休息中か?」
「ジョルジュ!」

 そんな話をしていたら、ジョルジュが手馴れたスコップを手に外から戻って来た。
 ひょいっと廊下から部屋の中を覗いている。

「おかえりなさい。今日は土いじりの時間が少し長かったわね?」

 私は時計を見ながら訊ねるとジョルジュはああ……と頷いた。

「今日は、そこでスヤスヤ安眠中のお姫様が庭で暴れていたからな」
「え?  アイラ?」

 再び頷いたジョルジュは語る。  

「そうだ。ちょうどガーネットがジョシュアを追いかけている最中だったな。俺が庭に出ようとしたらアイラがペタペタと床を張って着いて来た」
「アイラ……」
「躱そうとしたんだがな。すごい執念でペタペタ着いて来た」
「アイラ……」

(さすが、行動力の塊……)

「アイラも庭に行くか?  と訊ねたら小さな声で“ぅぁ”と頷いた」

 そうしてジョルジュはアイラを抱っこして一緒に庭に行ったという。
 使用人や庭師たちと危険のないように最前の注意を払いつつも、当初のアイラは物珍しさから大人しくしていたという。

 しかし……

「俺が掘っては庭師が植えて、また掘っては植えての作業が面白かったのか……」
「……」
「横から四つん這いで、ぁぅ?  と俺に何かを呟いたアイラは───」
「アイラは……」

 その先は非常に嫌な予感がする。

「もっとやってと言わんばかりに、目に付いた草花を手当り次第引っこ抜き始めた」
「!」

(アイラーーーー!)

「だから今日は、その修復に時間がかかった」
「……そ、そう。そんなことが……」

 まさかの行動に唖然とした。

「そして、引っこ抜いている最中の楽しそうな笑い方があまりにもガーネットによく似ていてな……」
「は?」
「うっとり見惚れてガーネットの小さな頃を想像して───気付いたらかなり荒らされていた」
「……ジョルジュっっ!」

 アイラは、ォ~ォッォッォ!  と笑いながら草花を引っこ抜いていたとジョルジュは嬉しそうに語った。

「見惚れてないでそこはすぐに止めなさいよ!」
「庭師はもう少し大きくなるまで出禁にしてくださいと泣いていた」
「…………でしょうね」

 そりゃそうなるわよ!

「あんなに大人しそうな顔して中身は豪快ガーネット。アイラの将来はさぞモテるだろうな」
「!」
「きっと、男を踏んで踏んで踏みまくるに違いない!」

 俺も早く踏まれたい!
 そう豪語するジョルジュの横で私は思った。

(アイラ……こっちも色んな意味でやべぇ女になりつつある……ような)


────


 このままでは、まずい。
 ジョシュアとアイラの将来を心配した私は後日、兄を呼び出した。

「なに?  お前の孫二人がやんちゃで困っている?」
「ええ。ジョエルと違って────凄いのよ」

 お兄様はふむ……と頷いた。

「兄の方だったか?  プレゼントしたクマちゃんを毎日、どこへでも連れ歩いてはズルズルと引きずり回し、共に食事を摂り共に入浴し共に寝入っていたという話は聞いたが……」
「今思えば、あれはまだ可愛いかったわ……」

 結果、ジョシュアベアーはかなりボロボロになったけど。

「では、具体的にどうやんちゃなんだ?  赤ん坊や幼少期なんて皆、そんなものだろう?」
「そうは言うけど!  えっとね───」

 私がジョシュアやアイラの話を語り終えるとお兄様は、ハッハッハとお腹を抱えて笑いだした。

「なんだ、その程度か!」
「お兄様?」

 その程度?
 私が眉をひそめると、お兄様はクックックとまだ笑いながら言った。

「ガーネット。お前は覚えていないだろうが……」
「?」
「二人のしていることはお前が赤ん坊だった頃や幼少期の行動にそっくりじゃないか」
「は?」
「むしろ──口が達者だった分、ガーネットの方が性質が悪かった気すらするぞ?」
「……は?」

 遠い過去を探るようにお兄様は遠い目をした。
しおりを挟む
感想 394

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。

雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」 妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。 今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。 私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

結婚が決まったそうです

ざっく
恋愛
お茶会で、「結婚が決まったそうですわね」と話しかけられて、全く身に覚えがないながらに、にっこりと笑ってごまかした。 文句を言うために父に会いに行った先で、婚約者……?な人に会う。

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。 「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」 大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です! 男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。 どこに、捻じ込めると言うのですか! ※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

処理中です...