誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

文字の大きさ
上 下
101 / 119

98. 新たな家族

しおりを挟む

 それから───
 セアラさんのお腹が大きくなるにつれて、ジョシュアは毎日お腹に話しかけるようになっていった。

「あうあ!」

 臨月を迎えて出産予定日が迫っていたその日もジョシュアはニパッと笑ってセアラさんのお腹の中の赤ちゃんに向かって元気に話しかけていた。

「あうあ!  あうあ!」
「ふふ、ジョシュアは今日も元気ね?」
「あうあ!」

 セアラさんがクスクス笑っていると、本日も彼女をがっちり保護しているジョエルが言った。

「──赤ちゃんにはいっぱい話しかけるといいと聞いたです──だそうだ」
「それでなの?  ふふ、ジョシュア。ありがとう」
「あうあ!」

(ホホホ!  なんて微笑ましい光景なのかしら?)

 そんな親子のほのぼのした光景に和んでいると、私の横にいたジョルジュがポツリと言った。

「懐かしいな。ジョシュアの時はガーネットがずっと話しかけては常に喧嘩を売っていたな」
「ジョルジュ!  ……言い方!」

 私はジョルジュをジロリと睨みつける。

「なんだったか……?  たとえ、ジョエルに似てしまって表情筋が死んでいてもこの私の手にかかれば、たちまち表情筋は生き返って陽気な子になーる!  ……だったか?」
「───ジョルジュ!!」
「あんなに威勢よく喧嘩を売ったのにな…………肝心のジョシュアは……」

 ジョルジュの目線がジョシュアへと向かう。

「あうあ!  あうあ!  あうあ!」

 ニパッ!  ニパッ!  ニパッ!
 ジョシュアは身振り手振りをつけてキャッキャと笑っていた。

「くっ……」

 私が何するでもなく、ジョルジュとジョエルの血を引いてるとは思えないほど表情筋がゆっるゆるで生まれてきたジョシュア。
 私は闘う前に敗北したわけだけど。
 果たして次の子はどうなるやら……

 私はじっとセアラさんのお腹を見つめる。
 その時だった。
  
 キャッキャと笑ってセアラさんのお腹を撫でていたジョシュアの身体がピクッと反応した。

「あうあ!」
「どうかしたの?  ジョシュア」
「あうあ!  あうあ!」
「───なに!?」

 キョトンとするセアラさんとは対照的にジョエルが勢いよくソファから立ち上がる。

「セアラ!  ジョシュアが言うには……赤ちゃんが、そろそろこんにちはすると言っています───だ、そうだ!」
「え!?  こんにちは?」
「あうあ!」

 ニパッ!

「そうだ!  産まれるぞ!」
「あうあ!」
「え、え?  ジョエル様?  ジョシュア!?」



 ───ジョシュアの言う通り、
 その後、本当に産気づいたセアラさんは、元気な元気な“女の子”の赤ちゃんを産んだ。




 グビッ、グビッ……

「オ~ホッホッホ!  ついについに二人目の孫の誕生よ~!」
「ガーネット!  追加の酒だ!」
「ホホホ。あら、ジョルジュ。気が利くじゃないの」 

 グビッ
 私は渡されたお酒のグラスを手に取るとこれもグビッと一気に飲み干した。

「美味しいわね~」

 二人目の孫が誕生した夜、私はとても気持ちよく酒を煽っていた。

「女の子よ、女の子!  セアラさんに似た天使のような子!」
「……」

 ジョルジュがじっと私の顔を見つめる。

「何かしら?」
「いや、案外……ガーネット似という可能性も……」
「まぁ!  私に?  ホッホッホッ!  それは最高の人生になるわよ!」

 グビッ!

 私はもう一杯グイッとお酒を飲み干してから、ジョルジュに笑いかけた。

「……さぁて、ジョルジュ。そろそろ寝ましょうか?」
「なに!?」

 ジョルジュの目がクワッと大きく見開く。
 私は首を傾げた。

「なによ?」
「い、いや……いつもより全然飲んでいない……ぞ?」
「ホホホ!  これから新たなベビーちゃんとの闘いの日々が待っているのよ?  酔っ払って二日酔いなどしていられないわ!」
「……」

 じっとジョルジュが私を見つめる。

「そしてこの美貌も保って、ベビーちゃんの自慢の美しいおばあさまになるのよ!  そのためにも夜更かしは禁止なのよ!」
「…………ガーネット」
「?」

(あら?  珍しいわ……?)

 ジョルジュはそっと私の手を取ると小さく笑った。

「本当に君は……俺の思う通りには転がってくれないな」
「転がる?  何の話かしら?」
「……いや?  やっぱり君は最高だ」
「──っ!?」

 そう言って、もう一度笑ったジョルジュがそっと手の甲に口付けを落とす。
 理由はよく分からなかったけど、褒められて気分が良かったので高らかに笑っておいた。



 ────そんなギルモア家、待望の女の子ベビーは、“アイラ”と名付けられた。


「あうあ~!」

 トタトタトタトタ……バキッ!  ビタンッ!

「あうあ!」
「ひっ!  転んだ!?  ちょ……ちょっと、ジョシュア!?」

 アイラが誕生してからずっと誰よりもジョシュアが一番、浮かれている。
 落ち着きなく部屋を走り回っては色んな物に激突を繰り返して転んでばかり。

「あうあ!  あうあ!」

 床に転がったままキョロキョロするジョシュア。

「あなた、少し、落ち着きなさいな。隣の部屋にいるアイラが起きちゃうわよ?」
「あうあ!」
「……」

 ニパッ!
 これは絶対に私の話を聞いていない顔。

「……ジョシュア。あなたはついに待望の“お兄ちゃん”となったわ。気分はどうかしら?」
「あうあ!」

 ニパッと嬉しそうに笑うジョシュア。

「そう……ジョシュア。相変わらずあなたって子が何を言っているのか私にはさっぱり不明よ?」
「あうあ!」
「───おばあさま、大丈夫です。ボクは困ってません!  だそうだ」

 私の隣にいるジョルジュが通訳してくれる。

「なんでよ!  このままじゃ、いつか困るでしょ」
「あうあ!」
「その時はその時です!  ふむ、ジョシュアはやはり強者だな」

 何故か感心するジョルジュ。
  
「強者、以前の問題よ……」
「あうあ!」

 ニパッ!

「全く……もう!  腹立つくらい可愛い笑顔!」
「あうあ!」

 ニパッ!

「ん?  そんなことより、おばあさま。アイラは天使です───と言ってるぞ?」
「天使?」
「あうあ!」

 気のせいかしら?
 ジョシュアの目がキラキラしている。

「あうあ!」
「ふむ。おかあさまのように可愛くて、おばあさまのように気高く美しい天使です!  だそうだ!
 なるほど……いい所取りだな。つまり、アイラは最強じゃないか!」
「あうあ!」
「そうです、まさにボクの理想です───か。なるほど、ならば、ジョシュアは兄としてしっかりお世話してどんな時でもアイラのことを守るんだぞ?」
「あうあ!」
「特に悪い男には気をつけろ!  絶対に変な虫は寄せ付けてはいけない」
「あうあ!」

(何年後の心配をしているのよっ!)

 しかし、ジョルジュは冗談などではなく大真面目な顔で言い聞かせている。
 ニパッ!
 そして、ジョシュアも最高の笑顔で頷き返していた。

(でも……)

 ジョエル、ジョシュアと男の子ばかりだったギルモア家。
 そこに誕生した初めての女の子。
 果てしてどんな子に育つのかしら……とは思う。

 ジョルジュ、私、ジョエル、セアラさん、ジョシュア……
 外見はともかく、
 性格はいったい誰に似るのかしら───……
しおりを挟む
感想 394

あなたにおすすめの小説

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。

雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」 妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。 今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。 私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王太子妃候補、のち……

ざっく
恋愛
王太子妃候補として三年間学んできたが、決定されるその日に、王太子本人からそのつもりはないと拒否されてしまう。王太子妃になれなければ、嫁き遅れとなってしまうシーラは言ったーーー。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

結婚が決まったそうです

ざっく
恋愛
お茶会で、「結婚が決まったそうですわね」と話しかけられて、全く身に覚えがないながらに、にっこりと笑ってごまかした。 文句を言うために父に会いに行った先で、婚約者……?な人に会う。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...