誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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47. ここ、どこだ?

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「目は開いているのに無反応……これは想像以上に寝起きが悪いわね?」

 普段から寝起きがこれならばあの時、私に思いっきり踏まれたのにも関わらずしばらくぼんやりしていたのも納得よ!

「覚醒するまでに時間がかかる、ということのようね?  全く……面白い人」

 私は置物になったジョルジュを見ながらふふっと笑う。

「朝はなかなか動けずに始まるジョルジュの一日のスケジュールのサポート!  ……ふふふ、これは妻としての腕の見せ所、非常にやりがいがあるわ!」

 王太子妃になって私の手のひらの上でアワアワする国のお偉いさんたちをコロコロ転がすのも楽しそうね、と思っていたけれど……
 ジョルジュを転がす方がその何倍も難しくて楽しそうな気がする。

「ホーホッホッホッ!  覚悟なさいジョルジュ!」
「……」
「この私の溢れんばかりの魅力でもっともっとあなたを私に夢中にさせてあげるわよ!」
「……」

 私は置物ジョルジュの前で高らかに宣言した。

「まずは、今夜、初夜のリベンジよね……?」

 さすがに今夜は疲れて眠ってしまうことはないと思いたい。

「今日は、日中に飛んだり跳ねたり走ったり……激しい行動するのは禁止にするわよ、ジョルジュ!」
「……」

 貴族に嫁いだ妻として、その家の跡継ぎを産むことは必須。
 でも、それよりも……

「あのね───ジョルジュ。気が早いかもしれないけれど……私、あなたに似た子が欲しいわ」
「……」

 私は置物ジョルジュの肩にそっと寄り添いながら囁いた。

「だって、あなたに似たらとってもとっても楽しい子になりそうじゃない?」
「……」
「そもそも、私に似てもたいして面白味がない子になると思うのよねぇ」
「……」
「だから!  今夜こそ頑張るわよ?  いいわね?」
「……」
「それから───」



 こうして私は、あまりにも起床の遅さに使用人たちが心配して起こしに来るまで、置物ジョルジュ相手にひたすら喋り倒した。

 そして、何故かジョルジュを起こしに来た使用人は複数だった。
 普通は一人来れば充分じゃないの?
 そう思って訊ねた所、使用人たちはものすごい勢いで首を横に振った。

「なかなか起きてくれないので一人では駄目なんです」
「反応によっては食堂まで運ぶ人間が必要になりますので男手も必須なのです」
「……運ぶ」
「運びます!」
「!」

(ジョルジューー!  あなた荷物扱いになっているわよーー!?)

 私はチラッと置物ジョルジュに視線を向けてみる。
 けれど、ジョルジュは荷物扱いまでされているのに、やっぱりピクリとも動いていなかった。

「それにしても、無反応の若君……ジョルジュ様に向かってあれだけペラペラ喋り続けられる方には初めてお会いしました!」
「あら、そうなの?」

 ジョルジュの両親がいるでしょうにと不思議に思った。

「はい!  旦那様や奥様は少し話しかけて無反応と分かるとすぐに諦めてしまうんですよ」
「それなのに若奥様……ガーネット様は凄いです!!」
「やはり、奥様となられる方はひと味もふた味も違いますね!!」
「……」

(めちゃくちゃ褒められた……)

 なぜか、こうして私はたった一日で……いや、ほんの少しの朝の一幕でギルモア家の使用人たちからキラキラした目で見られることになった。

 ちなみにこの日、ジョルジュが覚醒したのはお昼に近い時間。
 よほど昨日がお疲れだったのか、お義母様が言うにはここ数年の中では珍しく覚醒がかなり遅かったらしい。


────


(さて、今日から本格的にギルモア家の嫁としての時間がスタートよ!)


 ギルモア家の嫁としてはまず、屋敷の中を知らなければならない。
 というわけで、本日は屋敷の中を案内してくれることになったのだけど……

「…………案内人の人選、間違っていないかしら!?」
「何の話だ?」
「…………なんで案内は使用人じゃないのよ!?」
「だから、何の話だ?」

 私の隣に立ったジョルジュが首を傾げる。
 そう。なんと案内人はジョルジュ……!  見事な人選ミス!

『ガーネットに屋敷の案内をする?  もちろんそれは夫である俺の役目だ!』

 そう言ってジョルジュが強く志願したらしい。
 強く躊躇う使用人を当主の息子パワーで黙らせた……と聞いた。

「何の話……じゃないわよ?  あなた自分が方向音痴だという自覚はないわけ!?」
「……方向音痴?」

 ジョルジュは、きょとんとした目で私を見る。

「…………フッ、そこできょとんとした顔が出来るあなたがとってもとっても素敵よ、ジョルジュ」
「そうか!  俺は素敵か!」
「……」

 言葉をそのまま素直に受け取って目を輝かせるジョルジュ。

「ガーネットに言われるのは、他の誰より嬉しいぞ!」
「……っ!」
「ガーネット、見ていてくれ!  俺はもっと頑張っていい男になって必ずや君を夢中にさせてみせる!」
「……っっ!」

(なんだか朝の私みたいなことを言っているし……!)

 私の頬がほんのり熱を持つ。

(なんだか不思議。夫婦は似るとは言うけれど、まだ私たちは夫婦になって一日なのに……)

 もう似てしまったのかしら?
 そう思った私は苦笑しながらジョルジュの手をギュッと握った。

「…………それで?  本当の本当にあなたが屋敷の案内なんて出来るの?」
「ガーネット。さっきから君はなんの心配をしているんだ。ここは俺の家だぞ?」
「それはそうなのだけど……」

(だってジョルジュよ?  真っ直ぐ進む……ですら出来なかったのよ?)

 自分の家の中でも首を傾げていても全然不思議じゃないのよ……

「……信用ならんって顔をしているな」
「だって……」

 半信半疑な様子の私に向かってジョルジュはやれやれと言いたげな様子で肩を竦めた。

「ガーネットは仕方がないな」
「ジョルジュ?」
「家のことなら任せろ。そうだな。例えばあの先……あの突き当たりの角を曲がると当主の───父上の書斎があるぞ!」
「へぇ」

 ジョルジュがあまりにも自身満々に言うので、そうなのねと思って私は足を進めて角を曲がった。
 しかし、私は目に飛び込んで来た光景にビクッとして足を止めて立ち止まる。

(しょ、書斎……?)

「………」
「……ガーネット?  どうした?」

 私が変な様子で足を止めたので、後ろからジョルジュが焦って小走りでやって来る。

(……ジョルジュ)

 内心で大きなため息を吐きながら、私は目の前に見えている部屋に向かって指をさす。

「ねえ……ジョルジュ、ここ本当の本当に当主の書斎?」
「……」

 目の前に現れた光景にジョルジュもしばし黙り込む。

「……」
「……」
「ジョルジュ…………どこからどう見ても私には別の部屋……いえ、むしろ物置部屋に見えるんだけど?」
「なあ、ガーネット……」

 ジョルジュがそっと口を開く。
 その顔は酷く険しい。

「ここ、どこだ?」
「ジョルジューーーー!」

 ジョルジュが物置部屋を見て首を傾げている。

「なぜ、俺はこんな物置部屋に辿り着いたんだ?  知らないうちに書斎と場所を入れ替えたのか?」
「な・ん・で!  そんなことする必要があるのよ!  例えそうなってもあなたが知らないのは、おかしいでしょう!?」

 私が叫ぶとジョルジュはますます不思議そうに首を捻る。

「では、なぜだ?」
「そんなの!  私が聞きたいわよ!  俺に任せろ!  って自信満々だったくせに!」
「なら、不思議だな?」
「この、ポンコツ方向音痴ーーーー!」


 未来のギルモア侯爵夫妻の私たちはこの日、屋敷内で(前代未聞の)夫の手によって迷子になりフラフラと盛大に屋敷内を彷徨うはめになった。


 結果、その日の夜は私の方が疲れに疲れてジョルジュより先にダウンして、二夜連続初夜は失敗するというこれまた不甲斐ない結果となった。


 それでも結婚式から一週間目の夜。
 なんやかんやそれからも数日間は失敗続きだったものの……
 ようやく、ようやく“その時”が訪れ───……


 ────結婚してもうすぐ一年経つかという頃、
 私のお腹の中に新しい命が宿ったことが判明した。




❋❋❋❋❋


いつもありがとうございます!
昨夜は更新出来ず、申し訳ございません。
ジョルジュじゃないけど眠気に勝てず……
あと普通に忙しい。

こちらの話、そろそろ終わりそうな雰囲気出てますが、
ベビージョエルを書きたいのでもう少し続きます。

この話でクスッとでもいいから、笑えてもらえていたら嬉しいです。
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