誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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45. ドキドキの新婚初夜?

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「ホーホッホッホッ!  皆の記憶に残る素晴らしい結婚式になったわね!」

 無事(?)に式を終えた私。
 着替えて控え室で笑っているとお父様とお兄様が複雑そうな顔で私を見ていた。

「二人とも何か言いたそうな顔ね?  何かしら?」
「……」
「……」

 顔を見合せたお父様とお兄様が深いため息を吐いた。
 そして、お兄様が口を開く。

「遅れてくる新郎新婦の身代わりになってぬいぐるみが結婚式を進行するなんて前代未聞だ。そりゃ皆の記憶にも残るだろうよ」
「ホホホ!」

 私はチラッと身代わりの役目を果たしてくれたぬいぐるみを見る。
 結婚のお祝い用のためペアで売られているという、この可愛らしいクマのぬいぐるみ……
 ちゃんと新郎新婦らしくタキシードとドレスを着ている。

(お兄様から、結婚祝いとしてこれが贈られて来た時はどうしたものかと思ったけれど……)

 まさかこんなにも役に立ってくれるなんて!
 ちなみに本日、私が式場にぬいぐるみを持ちこんでいた理由は式場に飾るためだった。

「このこたちを入場させた時の皆の顔が忘れられない……!」
「お兄様……」

 お兄様がぐあぁぁ、と頭を抱える。
 そんなお兄様の横でお父様も嘆いた。

「神父もずっとずっと困惑していたしな」
「ホホホ!  それでも式進行させるなんて流石よね!」
「笑い事じゃないぞ、ガーネット!」

 私はフフッと笑う。

「誓いの言葉にはギリギリ間に合ったし、神父としても今後、予測出来ない事態が起きた時のいい勉強になったんじゃないかしら?」
「…………さすがに、ぬいぐるみを身代わりに立てるような猛者はいないと思うぞ」
「そうかしら?」
「あるとしたら、お前の夫のように、当日に式場に来ないとかじゃないのか?」

 お兄様は、じとっとした目で私を見てそう言った。

「ジョルジュは気持ちだけはちゃんと式場に向かっていたわよ?」
「気持ちだけじゃなくて生身が来い!!」

 お兄様とそんな話をしながらふと思った。

(当日になって式に来ない?  ……それはかなり許し難いわね?)

「────ガーネット。お前とジョルジュ・ギルモアはとってもお似合いだよ」

 お兄様はやれやれと肩を竦めて言った。

「あんなマイペースな男に付き合ってついていけるのはガーネットくらいだし、こんなめちゃくちゃなガーネットについていけるのも、あの男くらいだよ」
「?」

 この私がめちゃくちゃ?
 そんな疑問は浮かんだものの、お似合いと言われれば嬉しいことに変わりはない。

「オーホッホッホ!  ありがとうお兄様!」

 私が高らかに笑ってお礼を言ったところで控え室の扉がノックされた。
 扉を開けると、ジョルジュとギルモア公爵夫妻が立っていた。

「ガーネット、支度は終えたか?」
「ええ、大丈夫よ。ジョルジュ」   
「では、そろそろ行くか」
「そうね」

 私は静かに微笑んだ。
 結婚式を終えた私は、今日からこのままギルモア侯爵家で暮らす。

「……」

 私はくるりと後ろを振り返る。
 そして家族───ウェルズリー侯爵家の三人の顔を見つめたあと静かに頭を下げた。

「──お父様、お母様、お兄様。これまでお世話になりました」
「ガーネット……」

 私の言葉にそれぞれ三人が涙ぐむ。
 まず、お父様がボンッと私の肩を叩いた。

「とりあえず、お前の夫の失踪事件が起きないことを願っている」
「お父様……」

(それは……難しいわね)

 次はお母様。
 お父様と同じように私の肩を叩いた。

「いい?  どんなにどんなに頼みこまれても、踏みつけるのは程々にしなさいね?」
「お母様……」

(それも……難しいわね)

 言っている内容は二人ともちょっとアレだけど、私の幸せを願ってくれていることは伝わって来て嬉しくなった。

「ガーネット!  ギルモア邸には新作のぬいぐるみを贈るからな!  楽しみにしていろ!」
「お兄様!  ……なんでいつもぬいぐるみなのよ!?」

 私が文句を言ったらお兄様がフッと笑って私の頭を撫でた。

「しょうがないだろう?  ガーネットはずっと俺にとっては可愛い可愛い妹なんだよ」
「っっ!」

 何だかその言葉には胸の奥がムズムズした。

「コホンッ────で、では私、そろそろ行くわね?」
「ああ」
「体に気をつけて」
「元気で頑張れよ!」
「オーホッホッホ、当然よ!」

 こうして私は笑顔で家族に別れを告げた。

「ガーネット」
「ジョルジュ?」

 控え室を出るとジョルジュが私に向かって手を差し出す。
 私は微笑みながら、そこに自分の手をそっと重ねた。


─────


 そして、その日の夜……
 私は“夫婦の寝室”にて夫───ジョルジュの訪れを待っていた。
 ベッドで待つのは何だか生々しいのでソファに座りながらこの後のことを考える。

(とうとう来たわ────新婚初夜!)

 つい先程まで、私はギルモア侯爵家の使用人に身体中をピカピカに磨かれていた。

「すっごいスベスベ……」

 自分で触ってみると驚くほど肌がスベスベしていた。

「これから、この肌にジョルジュが触れ…………」

 そこまで言いかけてふと思った。

「…………相手はあのジョルジュよ?  まずは新婚初夜を理解しているのかどうかすら怪しいわ。でも──……」

 きっとジョルジュの人生の指南書が何かしらの指示を出してくれていると信じたい。

「───ガーネット!」
「!」

 ジョルジュの弾んだ声とともに部屋の扉がバーンと開く。
 私は顔を上げた。

(き、来たーー!)

 ジョルジュの寝巻きの格好……
 初めてみるその姿に胸がときめく。 

 ジョルジュは私が座っているソファまで歩いてくるとそっと私の手を取った。

「すまない。待たせたか?」
「う、ううん」

 首を横に振るも、何だか色々と意識してしまって頬がどんどん熱くなっていく。

「よく分からないが、今日はとにかく身体をたくさん磨かれていてな。遅くなった」
「そ、そう……」
「───それより、ガーネット!  早くベッドこっちに来て欲しいんだ!」
「え!?  こっちってベッド、よね?」

 ジョルジュは私の手を引いてベッドに向かう。
 そんないきなりの大胆な誘いに私は戸惑った。

「ジョルジュ!  も、もう寝るの?」
「そうだ!  早くガーネットに堪能して欲しい!」
「た……!?」

(ジョルジューーーー!?)

 知らなかった。
 草食みたいな顔をしていながら、実はジョルジュはガッツリ肉食だったなんて!
 ドキドキ破裂しそうな胸を押さえながら、ジョルジュに手を取られた私はベッドに到着し、まずは座った。
 ジョルジュも当然のように隣に腰を下ろす。

(い、いよいよね!?)

 覚悟を決めた私はギュッと目を瞑る。
 えっと……まずはキス?  
 それともいきなり押し倒されるのかしら?

 これまで、どんなことだってそつなくこなして来たつもりの私だけど……
 さすがにこれは、未知の領域過ぎて緊張するわ……

「……」
「……」
「……」
「……」

(…………んん?)

 しかし、少し待ってみたけれど、何も起きない。
 何で?  と思って目を開けるとジョルジュは隣に座ったまま私の顔をじっと見ていた。

「えっと……ジョルジュ?  あなた……何しているの?」
「どうだ!  ガーネット。堪能出来てるか?」
「……ど、どうだ?  堪能……?」

(だって、ま、まだ、キスすら……してない、わよね?)

 私が目をパチクリさせて聞き返すと、ジョルジュは大真面目な顔で言った。

「このベッドだ!」
「は?」
「これからのガーネットの安眠のために、と最高にふっかふかで気持ちいいベッドを用意した!」
「…………は?」

 そう言われて、私は改めてベッドに触ってみる。

(確かに柔らかくてふっかふか……気持ちよさそう)

「どうだ?  座り心地も中々だろう?  これなら横になって眠ると最高に気持ちいいはずだ!」
「…………た、堪能っていうのは」
「ああ!  このふっかふかを思う存分に堪能してくれ!!  ガーネット!」
「~~~~!」

(ジョルジューーーー!)

 ドキドキの新婚初夜でも、やっぱりジョルジュはジョルジュだった。
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