誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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34. 読めない男

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(なんて、ドキドキしてみたものの……)

 出会ってからほぼ毎日のように顔を合わせている私とジョルジュ。
 過度な期待は、すればするほど虚しくなるだけ。

 私の参考書恋愛小説に、
 押してダメなら引いてみろという言葉を実行して、相手の気を引いて見事にハッピーエンドを掴み取っていた話があった。

(……フッ……ジョルジュ相手に引いてごらんなさい……)

 ───ん?  どうしたガーネット?  今日は静かだな!  空腹か?

(こう言われて、食べ物を貢がれて終了よ!)

 そんなジョルジュが口にした大事な話、という言葉……
 だからきっと私の考える大事な話とジョルジュの考える大事な話は、もう根本から全てが違っているはず!
 私は身構えた。


 話は早く聞きたかったけれど、いくらなんでも玄関で立ったまま話すわけにも行かない。
 なので、いつもの応接室に移動した。
 実質、ここジョルジュの部屋なのでは?
 そう思いたくなるくらい慣れた様子で私たちはソファへと腰を下ろした。


 私は足を組み、肘掛に肩肘を乗せてジョルジュに訊ねる。

「────それで?  珍しいわね。この私に大事な話とは何かしら?」
「……」

 ジョルジュはすぐに答えない。

「あなた、ほぼほぼ毎日まるでお散歩かのようにウェルズリー家にやって来るけど、何が面白いって訪問出来ない時だけ手紙が来る……不思議よねぇ」

 なぜか今日は来ない……!  また走り込みで訪問しようとして迷宮入りしちゃった!?
 なんてソワソワ行き倒れの心配をせずに済むのはとてもいいこと。
 だけど、どう考えても逆なのよね。

「…………ガーネット、とは毎晩夢でも会っているはずなんだが…………俺はガーネットの顔を見ないと……落ち着かないんだ」
「!」

 私はグッと胸を押さえる。
 言葉だけ聞くと熱烈な愛を囁かれているように聞こえるのに……

「毎朝、目覚めるとすぐに本物の君に会いたくなる」
「そ、そう。それは光栄だわ………………もはや、擦り込みの類かしらね……」
「だが、朝食後。いつもそのまますぐに家を出ようとすると、必ず両親に止められる」
「は?」

 色々突っ込みたいことはあったけど、そのまま続きを聞くことにした。

「仕事しろ、と」
「あーー…………そうでしょう、ね」

 ジョルジュはこの時間にフラッとやって来て帰るのは夕刻に近い。
 ギルモア侯爵夫妻の言うことは最もだった。

(なんで息子はこうなった……)

「───つまりだ、ガーネット!」
「つ、つまり?」

(今の話のどこに要約する点があると……?)

 そんな私の疑問を他所にジョルジュは声を張り上げると、私の手を掴んだ。

「君はもう、俺の生活の一部なんだ!」
「!?」
  
 思いっきり胸をときめかせたいのに、ときめけない言葉が飛び出す。

「────だから……その、行かないでくれ!  お、俺と毎日会える距離に…………居てくれ!」
「!?!?」

(何の話ーーーー!?)

 さっきから、一見プロポーズのような言葉に聞こえるのにこれで違うってどういうこと!?
 あと、私は一体全体どこに行くことが前提になっている話なの?

 私は慌てて訊ね返す。

「……ジョルジュ!  話が見えない!  私はいったいどこに行くのよ?」
「リトルトン王国の王子の妃の座について王国を乗っ取りに行くと聞いた!」
「……」
「行かないでくれ、ガーネット!」

(────は?)

「……」
「……」

 私は頭を抱える。
 リトルトン王国の王子の妃……というのは、もちろんあの求婚の件よね?
 これは申し入れの断りを入れるにあたって、どこからか漏れだした話だとして───

(乗っ取りってなに?)

「お、俺は!」
「……!」

 ジョルジュが沈黙を破って口を開く。
 珍しく声に感情が乗っていてドキドキした。

「ガーネットが国を欲しているのは知っている……!」
「…………んぁあ?」 

 また、ジョルジュの口から変な言葉が飛び出したーー!

「だからと言って俺の手の届かない他国に行くのだけは……やめてくれ!」
「!?!?」
「国が欲しいなら、今グラグラに後継者で揺れているこの国の王家を徹底的にって乗っ取ればいいじゃないか!」
「や……やる!?  乗っ取る!?」
「そうだ!  ガーネットが望むなら俺はどんなことでも手伝うぞ!」
「……」

 私は目を瞑ってしばし固まる。
 これは、頭の中を整理しなくては理解が追いつかない……

 まず!
 ジョルジュは、どこかでリトルトン王国の王子から私への求婚の話を聞いた。

(ここまでは分かる)

 ジョルジュは、私に他国に行って欲しくない。

(う、嬉しい)

 ───そんな私が他国へ行こうとしているのは国を乗っ取りたいから。

(…………ジョルジュのここの思考がとにかくおかしい)

 そんなに国が欲しいならこの国の王家を潰せばいい!

(ダメ!)

「いやいやいや!?  ちょっと落ち着いてジョルジュ!」
「なんだ?」
「何処で聞いたのか知らないけど!  私がリトルトン王国に……っていう話はね、国を乗っ取るために出た話じゃないのよ!」
「乗っ取らない?  …………では何だ?」

 ジョルジュが眉をひそめる。

「じゅ、純粋に婚約……えっと、国の乗っ取りは関係なくて、わ、私を好き?  だから結婚して欲しいって言われただけなのよ!」

 私のその言葉にジョルジュは目を瞬かせる。

「……国の乗っ取りは関係なかった?」
「そうよ。そもそも私は国を欲してないからね!?」
「欲して……ない?」

 ブンブブンと私は強く頷く。

「リトルトンの王子は……ガーネットを、好き?」
「…………多分?  そうらしい、わ」

 いまいちというか全く想われている実感はないけれど。
 何となく純粋な気持ちではなく裏に政治臭を感じてはいるけれど、ややこしくなるのでジョルジュには言わない。

「好き……だから結婚……を申し込んだ?」
「───まあ、政略結婚ではなく、相手を好きって気持ちでずっと一緒にいたいと思ったならそうなるわよね?」
「ずっと…………一緒……」

 バッとジョルジュが突然、ソファから勢いよく立ち上がった。

「ジョルジュ?」
「な、なんてことだ…………なんで俺は気付かなかったんだ!」
「?」
「そうか……つまり…………ば!」
「ば?」

 そんなジョルジュがブツブツと大きな独り言を口にし始めた。

「と、いうことは…………待てよ?  …………だ!」
「だ?」

(ジョルジュ……急にどうしたのかしら?)
  
「ねえ、ちょっと、ジョルジュ?  あなた頭でもぶつけた?」
「ガーネット!  すまない。今日はもう俺は帰る!!」
「は?  かえ……る?」

 私が目を丸くしているとジョルジュは大きく頷く。

「ああ。それで、だ……ガーネット。少しだけ待っていてくれ」
「待つ?」
「準備が必要なんだ」
「じゅ、準備……?」
「準備だ!」

 全然、話が見えない。
 見えないけど、とりあえず頷くと、そのままジョルジュは満足そうにして帰って行った。


 ───それから数日。
 ジョルジュは突然パッタリ姿を見せなくなり……

 私は完全にパニックになって頭を抱えていた。

「なぜ?  なぜ急に来なくなったの!?」

 生活の一部とか言ってたじゃない!
 次に顔を見せに来たら文句のひとつでも言ってやらないと気が済まない。

「あまりにも気になって手紙を送ってみたら、まさかの返事はたったの一言……“俺は元気だ”」

 返事も来たし元気で良かった……
 けれど、そうじゃない……そうだけどそうじゃないーー……!

「アプローチも全然進まないし……何かやろうとする方が逆に遠ざかっていく気がする……」


 そんな悶々とした日を過ごした数日後。


「──う、嘘でしょう!?」
「驚きましたでしょうお嬢様。しかし、これは嘘ではございません」
「セバス……う、嘘よ……こんな……だって信じ──られない」

 私は“それ”を手にして全身を震わせる。
 ショックで涙まで出そうになった。

「お嬢様。私も自分の目を疑い……こちらを受け取った際、振って叩いて日に透かして……と、色々試しましたが……どこからどう見ても本物……」
「……」

 ゴクリ。
 私は唾を飲み込む。

「ギルモア侯爵令息からの、でございます!!!!」

(ジョルジューーーー!?)

 初めてかもしれないジョルジュからの先触れによって、ウェルズリー家は大バニックに陥った。

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