誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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33. やっぱりあなたがいい

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「リトルトン王国の第二王子って……」

 私はお父様から渡された手紙を開封して中を読んで頭を抱えた。

(───まさかの他国の王子からの求婚……)

 確かに断りづらい相手だ。
 お父様がこんな顔になるはずだわ。

 私も息を吐く。
 リトルトン王国の王子とはエルヴィス殿下の婚約者になってから挨拶したことはあったと思う。
 けれど……顔を合わせて話したのは一、二回程度だったはず。
 何より───

「お父様。私はこの国の王子に婚約破棄された醜聞まみれの女なのよ?」
「……そんなことは関係ないと書いてあるな」
「関係ない、ね」
「むしろ、醜聞まみれの国内で次の相手を探すより他国である我が国の方がいいのでは?  とも書いてあるぞ」

 私はその物言いにムッとする。

「なんか…………腹立つわね」

 ジョルジュにも言われた、嫁の貰い手が~という話を一緒に思い出した。

「私の周りの男はデリカシーというものが無いのかしら?」

 私は手紙を封筒にしまうとテーブルの上に置く。

「なんだってリトルトンの第二王子は私の存在を思い出しちゃったのよ……婚約破棄のことまで知られているみたいだし」
「何を言っている?  ガーネット。最近、お前がリトルトン王国に伯爵令嬢を留学させたじゃないか」
「え?  ええ」
「その令嬢と話をする機会があってガーネットの話題になり、そういうことなら、ぜひ……となったらしいぞ」
「……!」

 そこか!  と、思った。

「……」

 婚約破棄されたという私の醜聞も気にしない。
 以前から……ということは、きっと私の能力も買ってくれている。
 私がリトルトン王国の王族に嫁げば、我が国にとっても繋がりが出来て外交面でもプラス面が多い。

(以前の私なら、考えるまでもなく承諾したでしょうね)

 ────でも……

「……お父様」
「なんだ?」
「───申し訳ないけどこの話、お断りして」

 ガターンッ

「なっ……!?  痛っ……ぐっ!」

 驚いて勢いよく椅子から立ち上がろうとしたお父様がテーブルの足にぶつかって躓いた。

「な、な、ガーネットが…………断るだと!?」
「ええ、お断りするわ」
「他国で第二王子とはいえ、王子の妃だぞ!?」

 お父様の表情が信じられない……と言っている。
 こんな反応になったのは、お父様が私の性格というものをよく知っているから。

「どうしたんだ、ガーネット」

 私はフッと笑う。

「だから、さっきも言ったでしょう?  私の次なる目標はポンコツ男の妻になることなのよ」
「ガーネット……あー、コホンッ……そ、それはつまり好きな男がいるということか?」
「───そうよ」
「……ポンコツ」
  
 お父様は複雑そうな顔をした。
  
「あー……そういうことか。ガーネット」
「あら、お父様。飲み込みが早くて素敵よ」

 私が笑うとお父様がチラッと私が見繕った恋愛小説の山を見つめた。

「……それで、柄にもなく恋愛小説を読もうとしているのか?」
「ホホホ、そうよ!」

 お父様は本の山を見て大きくため息を吐いた。

「参考に……なるのか?」
「どうかしらね」
「そんなことより、ガーネット。お前が望むなら婚約の打診をこちらからすることだって───」
「ああ、それは結構よ。お父様」

 私が首を横に振るとお父様は眉をひそめた。

「何故だ?  向こうはお前の足とやらの虜なのだろう?  きっと縁談の話を持ちかければ断らない───いや、むしろ喜ぶんじゃないのか?」
「───だからよ!」

 ダンッと私は床を強く踏む。
 お父様がビクッと跳ねた。

「それじゃ、ダメなのよ」
「ダ、ダメ?」

 私には分かる。 
 まだ、気持ちも伝えていない状態でギルモア侯爵家に婚約の打診なんかしたら……
 この足につられてあの男は承諾……そんな気がする。
 でも、そうなったら───

(ジョルジュはきっと一生、私の気持ちに気付かない!!)

「お父様。私はね?  この魅惑の足ではなく、ガーネット・ウェルズリーという私自身に惚れさせたいのよ!」
「いや、だが……本当に出来るのか?  なんだかいつも発想が斜め上を走っていてよく分からん男だぞ?」

 お父様が心配そうな顔で私を見た。
 いつも発想が斜め上ですって?

「ふっ……甘いわ、お父様。そんなこと、私の方がよーーーーく知っているわ」
「…………ガーネットの手に負えるのか?」
「ホーーホッホッホッホ!  お父様ったら誰にものを言っているのかしら?」

 私は高らかに笑う。

「ガーネット?」
「この私にやって出来ないことなど、あるはずがないでしょう?」


─────


 そういうわけで、話し合いの結果。
 リトルトン王国の第二王子からの求婚の話は、お父様の方から丁重に断りを入れて貰えることにはなった。

(なんであれ、こういう時に娘の気持ちを尊重してくれる人が父親で良かったと思うわ)


 ────気持ちは嬉しかったけど、私はどんなにポンコツでもやっぱりジョルジュがいい……


 しかし、私は困っていた。
 お兄様の部屋から持ち出した恋愛小説の数々を数日、徹夜して読んでみたものの……
  
「ジョルジュみたいな男を落とす場合においては全っ然、参考にならない……!」

 ここ数日、私はジョルジュに対してアプローチとやらを仕掛けてみた。
 しかし、どれもこれも見事な空振りばかり。

 例えば、昨日はいつもと髪型や装いを思いっきり雰囲気から変えて出迎えてみた。

『ジョルジュ!  今日の私どうかしら?』
『……どう、とは?』
『ええ、いつもと違うでしょう?』
『…………違う?』

 しかし、ジョルジュは一時間悩み続けていたけれど……結局、答えに辿り着くことはなかった。


「────本当に恐ろしい男だわ、ジョルジュ・ギルモア……」

 なんて一人呟いていたら、玄関が騒がしくなった。
 私はチラッと時計を見る。
 昼食を終えたと思われる時間からだいたい一時間。
 思わず笑みがこぼれる。

(慣れって怖いわ……)

 ……もう、すっかり先触れなしが日課となっていて、突然の訪問に驚くこともなくなっちゃったわね。

「さぁて、今日のジョルジュの訪問の理由は何かしらね?」

 私は部屋を出て階段を降り、出迎えのため玄関に向かった。

「───ジョルジュ、いらっしゃい」
「ガーネット!」

 階下に降りると、やはり玄関にはジョルジュの姿。
 だいたい答えはわかりきっているのだけれど、あえて私は訊ねる。

「ジョルジュ。今日はなんの用事かしら?」
「ああ、今日は───ガーネットに大事な話があって来た」
「……え?」

 いつもと違う返答に私の胸がドキンッと跳ねる。
 ジョルジュ相手に期待するのは間違っている。
 頭では分かっているのに!

(こういう時、厄介な恋する乙女の心は変な期待をしてしまう……)

「だ、大事……な話?」
「ああ。とっても大事な話だ」
「……」

 そう口にするジョルジュの顔も声も真剣だった。
 だから、私はドキドキしながらジョルジュの言葉の続きを待った。
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