誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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23. ガーネットならやれるらしい

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「……そうか!  なるほど。分かったぞ」
「え?  分かった?」

 ジョルジュは腕を組んでうんうんと頷く。

「───さすが、ガーネットだ」
「は、い?」

 ジョルジュが何やら褒めてくれるけれど、他人とズレにズレてズレまくっているジョルジュの言葉をそのまま信じるわけにはいかない。
 だから私は警戒の目を向けた。

「つまり───アレだ」
「あれ?」

 私が聞き返すとジョルジュは口元を緩めて小さくフッと笑った気配がした。

(え!  珍しい!)

 ジョルジュって笑えたのね?
 そう喜んだのも束の間────

「なるほど!  ガーネットはその接待とやらをぶち壊す気なんだな!?」
「ん?  ぶち……」
「あわよくばその手に入れた新鮮ホヤホヤの情報で隣国に揺さぶりをかけて、最終的には国の乗っ取り……という計画か?」
「く……」

(国の乗っ取りぃぃ!?)

 バサーーッ!
 新鮮ホヤホヤ情報が満載の資料を手から滑り落としてしまう。

 ジョルジュの奇行や発言には慣れたつもりだった。
 けれど、さすがの私もジョルジュの今回の飛躍し過ぎたその発想にはドン引きした。

「ジョルジューー!」
「ん?  なんだ?  ガーネットいいのか?  乗っ取り計画の重要書類が風に吹かれて宙に舞っているぞ?」
「そんなもの!  後で拾い集めるからいいのよ!」
「いや、だが、乗っ取り計画を人に知られたら大変だろう?」
「!」

 ジョルジュは頑なに乗っ取り計画から離れてくれない。

(変なところで頑固のようね!?)

「そうじゃないから!!」
「何がだ?  ああ、安心しろ。心配しているんだろう?」
「は?  心配……?」

 何の話かと私が怪訝そうにするとジョルジュは胸を張って言った。

「安心しろ!  もちろんその秘密は守る!  俺は昔から口が固いと評判だ!」
「……口が」
「固い!」
「~~~……っっ」

 相変わらず、すっとぼけたことを言うジョルジュに向かって私は叫んだ。

「まずは、その乗っ取り計画とやらから離れなさーーい!」
「なに!?」
「そ・れ・か・ら!」
「?」
「この私がはっきり言ってあげるわ、ジョルジュ!」

 きょとんとした顔のジョルジュに私は残酷な言葉を告げる。

「あなたはね、口が固いのではなく……ただ話し相手がいないだけでしょうーーーー!?」
「…………!?」

 ジョルジュが目を大きく見開いてギョッとした。

「ホーホッホッホッ!  その顔!  図星のようね!」

 私を初めての友人と呼び、殿下への自己紹介を面倒臭いと避けたジョルジュ。
 そして帰国してからの彼は、毎日我が家に走り込んでは迷子と行き倒れの繰り返し。
 悲願達成後は、馬車で用もないのにこうして我が家への訪問。

 そんなジョルジュに、他に話し相手なんているはずがないわーーーー!

「……くっ!  確かに」
「ホホホ!  そうでしょう、そうでしょう?」
「帰国してからは、ガーネットのことで常に頭がいっぱいだったから……」
「ホホホ! ジョルジュは私のことで頭がいっぱい!  そうでし…………ぅっっ!!」

 グッと胸が苦しくなった私は手で胸を押さえる。

(……また!  こうして変な気持ちに……なってしまう)

「どうした!?  ガーネット?」
「な、なんでもないわよ!  ちょっと私の胸の鼓動が独特の早いリズムを刻み始めただけよっ!」
「独特の……?  そ、そうなの……か?  それは大変そう、だな?」
「え、ええ……大変よ」

(もう!  何で……この胸のドキドキはなかなか静まってくれないの!? )

 私は自分で攻撃を仕掛けて自身に大きなダメージを受けていた。

「……と、とにかく!  話が大きく逸れたけど!  私は隣国を乗っ取る気などありません」
「ないのか?  ガーネットなら絶対にやれるぞ?」
「やれるって…………ジョルジュの目に映る私って本当に何者なのかしらね…………」
「?」

 そうため息を吐きながら私はジョルジュに言う。

「コホッ───乗っ取り計画ではなくて、これはその逆よ」
「逆?」
「……」

 不思議そうな顔をするジョルジュに私はにこっと微笑む。
 そして、手を伸ばして彼の顎をクイッと持ち上げた。

「ガーネット?」
「そんなに気になるならジョルジュ。あなたも明日、王宮に来るといいわ」
「王宮に……?」
「そうよ」
「……」

 そのままジョルジュと私は至近距離で見つめ合う。

「分かった!  行く」
「ふふ、それから言っておくけど───馬車で来るのよ?」
「……馬車」

 一瞬、ジョルジュが不満そうな顔をした。
 私がジロリと睨む。

「わ、分かった……」
「ふふ、良い子ね?  では明日……」

 私はジョルジュの顎からそっと手を離す。
 そして黒い微笑みを浮かべる。

「───ガーネット・ウェルズリー侯爵令嬢の本気を見せてあげるわ」


─────


 翌日。
 私は馬車に揺られながら王宮へと向かう。

「今頃、王宮は隣国の大臣たち彼らを出迎えている頃ね……」

 さすがに出迎えの段階で“何か”が起きることはないでしょう。
 なので私はのんびりと王宮に向かう。
 ふわぁ……
 あくびが出た。

「……んー、さすがの私でもあの量を一晩で読んで記憶するのは辛かったわね……」

 私は目を擦る。

「でも、やっぱり短期間で情勢も流行もかなり変わっていたわ。それなのに……」

 多少の変動はあっても────

「本当に厄介よねぇ。それでいて過去の接待内容も細かく覚えているんだもの」

 私は、やれやれとため息を吐く。
 だから、彼らの接待に“前と同じ”は通用しない。
 それは絶対の禁じ手。

「…………それにしても、いい天気。ジョルジュはちゃんと来るかしら?  ───馬車で」

 いい天気だったから!  風が気持ち良さそうだったから!
 そう言って走り込みでやって来そうな男。
 それがジョルジュ・ギルモア。

「……ま、いっか」

 万が一、ギルモア侯爵家の令息が失踪した!
 なんて騒ぎが起きたら、ギルモア邸から王宮までの道周辺を探せば発見出来るはずだもの。

 私がそんなことを考えてふふふと笑っていたら、馬車が王宮に到着した。

(さて、殿下とラモーナは、ちゃんと彼らを無事にいい子でお出迎えは出来たかしら?)

 馬車から降り立ち、歩き始めた時だった。
 なにやら、王宮の入口がザワザワと騒がしくなっていた。

「───〇✕△■□●ーーーー!」
「も、申し訳ございません!」
「✕△■○ーー!」
「い、今すぐ……今すぐ着替えさせますから…………!!」
「□■○▽●!」

(……騒ぎ声……?  着替える……?  何の話?)

 あまりにも早口でよく聞き取れない声の方は隣国の言葉だと思われた。

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