誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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14. ガーネットの狙い

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(本っっっ当になんなの……!)

 ジョルジュと出会ってから振り回されてばかり。
 こんな意味不明な人は初めてよ……

「───ガーネット」
「……」

 そんなことを考えていたら、ジョルジュが私の名を呼んだ。
 その声は少し真剣だったので私も手を顔から離して顔を上げる。
 私たちの目が合った。

「君の計画した今回のフォースター伯爵令嬢との面会だが」
「……」
「ガーネット。この間はなぜか話がズレて聞けなかったが本当は、イザード侯爵令息と伯爵令嬢の婚約を潰す気なんじゃないのか?」
「…………なぜかって。話がおかしな方向にズレたのはジョルジュ、あなたが原因だと思うけど」
「?」

 私がそう言うとジョルジュは意味が分からないという顔をした。

「───まあ、いいわ。なら聞きましょう。あなたはどうしてそう思ったの?」
「ガーネットのことだ。本当は全部知っていたんだろう?」

(!)

 ジョルジュのその指摘に私の眉がビクリと動く。

(へぇ……)

 私はゆったりと微笑む。

「あら?  私が何を知っていたと言うのかしら?」
「…………俺は今回の訪問を取りつける際にフォースター伯爵令嬢について調べてみた」
「……」
「調べたところによると───イザード侯爵家との婚約について彼女は……強く難色を示していた」
「!」
「その理由は……」

 私は小さく息を吐く。
 本当にこの男……有能なのかポンコツなのかどっちかにしてよ!

「ええ、その通りよ。あなたも調べたのなら話が早いわね」
「ガーネット……」

 私は静かに微笑むと、ジョルジュの前に指を二本立てた。

「フォースター伯爵令嬢はね、デイモン・イザードとの婚約で諦めたことが二つあるのよ」
「二つ……?  一つではないのか?」

 ジョルジュは怪訝そうに眉をひそめた。

「二つ、よ」
「……」
「ホホホ、残念ねジョルジュ。まだまだ調査が足りなくってよ」

 そうは言ったものの、きっともう少し調査する日にちと時間があったなら、きっとジョルジュはすぐにもう一つにも辿り着いたはず。
 ……そんな気がした。

「ガーネット……」
「───私はね?  今日はそのことについて彼女とお話がしたいのよ」  
「……」
「まあ、その結果として可能性は否定しないけどね?」
「!」

 私はジョルジュに向かってにっこりと笑った。


─────


「───え!  な、なぜガーネット様までご一緒に!?」

 フォースター伯爵家に到着した私たち。
 ジョエルと共に現れた私の姿を見てフォースター伯爵令嬢、マーリーンは驚きの声を上げた。
 その後ろでは伯爵も目を白黒させている。

(似た者親子ねぇ……)

「ご機嫌よう、マーリーン様。今日は私も同席させていただいてもよろしいかしら?」
「あ、は、はい……!」

 マーリーン嬢はコクコクコクと凄い勢いで頷く。
 驚きすぎたせいか声も上擦っていた。



「えっと、ギルモア侯爵令息、ジョルジュ様とガーネット様はお知り合いだったのですか?」

 応接室に案内されて挨拶もそこそこ、腰を落ち着けるなりマーリーン嬢の口から出たのはこれだった。

「ええ、そうね。私たちは───」
「そうだ。俺とガーネットは友人であり、こ…………」

(ジョルジューーーー!)

 私は慌ててジョルジュの口を塞ぐ。

(今!  絶対、友人であり恋人でもある……と言おうとしていたわよね!?)

 全く!
 この男、ただでさえ混乱している人を更なる迷宮に叩き落とすつもりなのかしら!?

「え……あ、あの?」
「───失礼。私たち、実は友人なのよ」

 コホンッと咳払いをしてマーリーン嬢にそう説明する。
 その間も、ジョルジュはチラチラチラチラ私を見て来たけれど、目で圧力をかけて黙らせた。

「そ、そうだったんですね……えっと、それで……今日は?」
「驚かせてごめんなさいね?  それで実は今日、私がマーリーン様に会いたくてジョルジュにお願いしたのよ」

 ここは勿体ぶってもしょうがないので、私はさっさと本題に入る。
 もちろん必要とあらば社交界特有の遠回しな会話だってする。
 けれど、今はそれは必要ない。

「え?  ガーネット様が私に、ですか?」

 マーリーン嬢が目を大きく見開く。
 驚くのも無理はない。  
 私たちは同い年の令嬢同士だけどこれまで深い付き合いと言える程の関係ではなかったから。

「でもなんで、わざわざギルモア侯爵令息を通じて…………あ!  デイモン…………様」

 マーリーン嬢は自分で口にしながら、すぐに理由を察したようで気まずそうな表情を浮かべる。

「殿下との婚約破棄の件は気にしないで大丈夫よ」

 私はにっこり笑う。

「ガーネット様……」
「でも、いくら私が良くても周りが煩いかもしれないでしょう?  だから、ね?」

 私はウインクしながら口元に指を一本立てる。
 ───この訪問は内密に、ね?  
 そんな意味を込めて。

「……っ!  は、はい!」
「ふふ、さて本題に入りましょうか。今日私があなたに会いたかったのは話がしたかったからなの」
「話……」

 怪訝そうなマーリーン嬢に向かって私は言う。

「ええ、話。まあ、交渉とでも言うのかしら?」
「交……渉?」
「マーリーン様。あなた、貴族学院に通っていた時、とても素晴らしい成績を納めていたわよね?」
「え……?」

 今度は驚きの表情になったマーリーン嬢に私は優しく微笑む。

「それも……とある分野───薬学の分野にあなたはすごく長けていたわ」
「ガーネット様、そんなことをご存知で……!?」
「当然でしょう?  実は私ね、在学中からあなたのその頭脳に目をつけていたのよ」
「え……?」
「───絶対にいい薬師になれるだろうから我が家に欲しい人材だわ……てね」

 その言葉にマーリーン嬢はハッと息を呑んだ。
 そしてすぐに悲しそうな表情で目を伏せた。

「……」

 そう。
 デイモン・イザード侯爵令息との婚約で彼女が諦めたものの一つ。
 それは将来は薬師になって働きたいという夢だった。

(デイモン・イザードはイザード侯爵家の嫡男だから……)

「それでね?  私の話と言うのは……」
「……」
「マーリーン様。これはあなたに“やる気”があるのならだけど、今からでも薬師を目指すための勉強をしません?  という話よ」
「!?」

 ガバッとマーリーン様が顔を上げる。

「し、したい!  …………です」

 目を輝かせてそう口にしたマーリーン嬢。
 けれど、すぐにそれは悲しそうな瞳に変わってしまった。

「で、ですが……私は……私はデイモン様との……婚約……が」
「ええ、そうね。結婚することでフォースター伯爵家が進めている事業をイザード侯爵家が援助してくれるそうね?」
「…………はい」

 我が家程じゃないけれど、お金にまあまあ余裕のあるフォースター伯爵家。
 お金は無いけど技術のあるイザード侯爵家。
 双方の利害が一致した故の政略結婚。

「───ここからはフォースター伯爵にも同席してもらいましょうか?」
「え?」

 私はフフッと笑う。
 そして隣に静かに座っているジョルジュを呼んだ  

「……ジョルジュ」
「ああ。これの出番だな?」
「ええ、そうよ」

 ジョルジュは顔を上げると、懐から手紙を一通取り出した。
 これは出発してから、予め私がジョルジュに預けていたもの。

 手紙を見たマーリーン嬢は不思議そうに首を傾げた。

「手紙……ですか?  どなたからの?」
「これは、私の父───ウェルズリー侯爵家当主からの手紙よ」
「こ、侯爵様からですか!?」

 マーリーン嬢は慌てて父親を呼びに行った。




「───え?  えっと?  つ、つまり、マーリーンが薬師になるためにウェルズリー侯爵家が全面的にサポートを、お、行う?」

 娘に呼ばれて同席したフォースター伯爵が汗をかきかきしながら訊ねてくる。

「ええ、そうよ。でも、“マーリーン様にやる気があること”が前提ですけどね」

 私はマーリーン嬢の顔を見て言った。
 マーリーン嬢はグッッと何かに耐えている。

(表情はやりたい───そう言っているわねぇ)

 しかし……
 父親の伯爵が困ったように口を開く。

「ですが、わ、我が家はイザード侯爵家と……侯爵家の援助が無ければ……進めている事業が……」
「───それなのだけど、ちょっとフォースター伯爵家の進めているという事業について調べさせてもらったのだけど」
「?」
「土木関連事業で合っているかしら?」
「あ、ああ……」

 伯爵は頷いた。

「なら、その技術援助って別に絶対に何がなんでもイザード侯爵家じゃなきゃ出来ない……ことではないわよね?」
「……ウェルズリー嬢?」 

 伯爵が怪訝そうに眉をひそめる。

「ご存知かしら?  これ、我がウェルズリー侯爵家の人材でも充分、援助出来ることなのよね」
「そ!  れは……確かにそうですが……し、しかし、ウェルズリー侯爵家の技術者の大半は王宮に派遣しているはず……で」
「───それなのだけど」

 私はにっこり笑った。

「ご存知だと思いますが───私、先日……ちょっと色々あったでしょう?」
「!」

 伯爵とマーリーン嬢がハッとして顔を見合わせる。

「実は、その関係で王宮に派遣していた我が家の技術者たちは既にもう全員引き上げていて───」
「え……?  ひ、引き上げ……た?  全員?」
「そう。全員よ」

 伯爵は、えっ!  と驚きの声を上げて目を剥いた。

「ふふ。それで今、我が家は新しく派遣出来る“仕事先”を探している、というわけ」
「!」
「そして───」

 私はお父様から預かった手紙を指さす。

「このウェルズリー侯爵家当主からの手紙。中を読んでいただければ分かりますが」
「……?」
「───この件は私、ガーネット・ウェルズリーに一任する、と」
「!!」

 伯爵がすごい顔で私を見てくる。
 同時にジョルジュも感嘆の声を上げた。
  
「……ガーネット!  この手紙はそんな内容の手紙だったのか!  君はいつの間にそんなことまで準備をしていたんだ!?」
「ホホホ!  そんなのお父様を脅し……ケホッ、念入りにお願いして書かせたに決まっているでしょう!」 
「ガーネット……」

 ポカン顔のジョルジュに向かって私はクスッと笑う。
  
「ホホホ───随分と面白い顔をするわね、ジョルジュ。あなたこの私を誰だと思っているのかしら───?」

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