353 / 354
353. 野菜のお裾分け
しおりを挟むそして翌日。
私は朝からせっせと野菜たちの収穫をしていた。
「──フルール。朝から頑張るね?」
「おかーたま!」
「あうあうあ!」
後ろから声をかけられたので振り返ると、そこにはリシャール様とミレーヌ。
そしてリシャール様に抱っこされたテオフィルがいた。
皆、おそろいです。
「フルール。庭に出た後、なかなか戻って来る様子がなかったから様子を見に来たよ」
「もうそんな時間でした?」
「う!」
何故かリシャール様ではなくテオフィルが返事をしてくれた。
「今日も可愛い野菜がたくさん収穫出来そうな予感がして夢中になってしまいましたわ」
「…………可愛い、か」
私がふふんと笑って答えるとリシャール様は何故か黙り込む。
そしてチラッと収穫済みの人参の山に目を向けた。
「……相変わらずフルールの育てた野菜は独特のフォルムをしてるよね」
「はい! 今日も可愛いがたくさんですわよ~! ミレーヌちゃんとテオくんもそう思うでしょう?」
「あい! かあいー」
「あいあー」
ほらほら、いい感じの反応ですわ!
私はニンマリと笑う。
「今日はこの後、実家───シャンボン伯爵家に行きますから、ステファーヌくんにこの可愛い野菜たちをお裾分けしてあげようと思いましたの」
「え! お裾分け……!?」
「そうですわ!」
リシャール様は驚いたのか目を大きく見開いた。
「テオ! これ、かあいーわよ?」
「あいあー」
ミレーヌが収穫済みの山の中から、三本足の人参を両手に掴んでテオフィルに見せている。
テオフィルはキャッキャと笑ってリシャール様の腕の中で手足をパタパタさせている。
「旦那様! ミレーヌちゃんやテオくんは、私の育てた可愛い野菜たちを見てこのようにキャッキャと楽しそうに笑ってくれていますから───」
「う、うん……?」
リシャール様がミレーヌとテオフィルを交互に見つめる。
「きっとステファーヌくんも可愛くて気に入ると思いますわ」
「……う、うん……? 気に、入る……かな?」
「当然ですわ!」
私がえっへんと胸を張るとリシャール様はポソッと呟いた。
「アンベール殿が頭を抱える姿が目に浮かぶ」
「え? お兄様? もちろん! お兄様も喜んでくれるに決まってますわ!」
お馴染みの今にも踊り出しそうな人参に始まり、人の頭くらいの大きさのトマトに、人の顔みたいに見えるナス……
どれもこれも可愛い!
(今日も順調ですわ~)
「大きくなると野菜嫌いになってしまう子もいますから、ステファーヌくんには小さな頃から、なるべくお野菜には親しんで欲しいところです」
「!」
リシャール様がピクッと顔を引き攣らせる。
「し、親しめる……かな? むしろこれを見たら逆にトラウ……」
「まああ! これを見てください旦那様!」
私はかなり巨大化したピーマンをリシャール様にバーンと見せる。
「おっきいわ……!」
「おうお……!」
ミレーヌとテオフィルも興味津々でピーマンを見つめている。
「なんと! 苦手な子が多いと聞くピーマンは、かなりの特大サイズになりましたわ!」
「うっわぁ……今日は一段と凄いや……」
「いい感じです。あ、そうですわ! せっかくですから、ステファーヌくんのお土産にするお野菜はミレーヌちゃんとテオくんにこの中から選んで貰いましょう!」
「え?」
「う?」
二人がキョトンとした顔で私を見つめる。
私に似てセンスの塊のようなこの子たちなら、きっとステファーヌくんが喜ぶ野菜も野生の勘でいい感じに分かるはず!
「え! 二人に選ばせるの!?」
リシャール様がギョッとした。
「ええ。ベビー同士ですし従兄弟ですし……必ず通じ合うものがあると思いますわ!」
私はどーんと胸を張ってそう主張する。
「さあ! ミレーヌちゃん、テオくん! ステファーヌくんが気に入りそうなお野菜たちをこの中から選んで下さいませ!」
「あい!」
「あう!」
二人はニパッと笑って、私の収穫した可愛い可愛い野菜たちに手を伸ばした。
「さぁて、無事にお土産にするお野菜も決定したので、これからシャンボン伯爵家へ突撃ですわ。準備はよろしいかしら~?」
「お~」
「おあおー」
(ふっふっふ! 可愛いですわ~)
元気いっぱいに手を挙げて答えてくれた子供たちが可愛くてニマニマしてしまう。
しかし、何故かリシャール様は私の横で渋い顔をしていた。
その視線はミレーヌとテオフィルが“ステファーヌくんへのお土産にする”と決めた野菜の山に向かっている。
「……」
「旦那様? どうしました? あ! もしかして野菜が食べたくて仕方ないんです?」
「え! いや、違うよ……!」
「ですが、視線がお野菜の山に向かっていますわ?」
私がそう言うとリシャール様が小さくウッ……と声を上げた。
「う、うん……“あれ”を贈られてステファーヌは大丈夫かな、て」
「大丈夫?」
「ほら、まだ小さいし、変わった野菜がたくさんで驚くんじゃないかな?」
「まあ、そうですわね……」
リシャール様はもう一度、二人が選んだ野菜の山を見つめる。
「なんで、ミレーヌとテオフィルはよりにもよって、巨大化したやつや呪われそうな形をしたものばかり選んだんだろうか……」
「呪? とても可愛いのばかりですわね……! 二人のセンスはやはり思った通り素晴らしいですわ~」
「フルール……」
私が手を叩いてはしゃいでいるとリシャールは苦笑した。
「旦那様! 大丈夫ですわ! ミレーヌちゃんは昔からこの野菜の山を見てもキャッキャキャッキャと楽しそうにしていましたし、ステファーヌくんより小さいテオくんも野菜を見てニッコニコしていますわ!」
「ん…………そう、なんだけどね」
「?」
リシャール様はとても小さな声で、
ミレーヌやテオフィルを基準にはするのはなぁ……と呟いていた。
そして私たちは、お土産の野菜を持ってシャンボン伯爵家へと出発。
「巨大化した野菜が沢山あるので結構かさばりますわね?」
私は野菜が乗った方の馬車を見ながらそう口にする。
するとリシャール様は苦笑しながら言った。
「万が一にもあっちの馬車が横転して、中身が車外に飛び出そうものなら色んな意味で街が大惨事になるよ」
「あまりの可愛いさに大人気で取り合いになってしまいますものね!」
「……」
私がうんうんと頷いているとリシャール様は、静かに微笑んで優しく私の頭を撫でた。
「はっ! おとーたま! いいこいいこ、して!」
「ん? ミレーヌ?」
そんな私たちの様子を見ていたミレーヌがリシャール様にグイグイ頭を押し付け始めた。
「え? ミレーヌ!?」
「いいこいいこ!」
グイグイグイグイと、ミレーヌがリシャール様に迫る。
「ふふ、テオくん。ミレーヌちゃんは旦那様にいいこいいこって撫でられたいみたいですわね? 可愛いですわ」
私は微笑ましい光景に癒されてニコニコしながら腕の中のテオフィルに語りかける。
「……」
「テオくん?」
いつもなら元気なお返事をくれるテオフィルが黙ってじぃぃっと私を見つめてくる。
「……」
「……えっと?」
「……」
「テオ、くん?」
「……」
(こ、これは────凄い……凄い圧を感じますわ……!)
リシャール様とそっくりなミニ国宝の整った顔!
ぱっちりお目目に純真無垢な瞳……
そのお顔が、ボクのアタマも撫でろと言っていますわーー!
なんて恐ろしい0歳児!
「テ、テオくん。それではあなたの頭を少し失礼します、わね……?」
「う」
私は未来の国宝の頭を思う存分、撫で撫でさせてもらい至福の時間を堪能した。
────
そんなこんなで馬車はあっという間にシャンボン伯爵家へと到着。
「ミレーヌちゃん、足元には気を付けて降りましょうね?」
「あい!」
ご機嫌な様子の足取りで馬車から降りようとしたミレーヌが何かに気付いたようにハッとして足を止める。
「ミレーヌちゃん?」
「……おかーたま」
そして、ミレーヌはシャンボン伯爵家の庭の方をじっと見てこう言った。
「なんかいゆ」
605
お気に入りに追加
7,204
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています
ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新婚早々、愛人紹介って何事ですか?
ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。
家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。
「結婚を続ける価値、どこにもないわ」
一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。
はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。
けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。
笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる