王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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353. 野菜のお裾分け

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 そして翌日。
 私は朝からせっせと野菜たちの収穫をしていた。

「──フルール。朝から頑張るね?」
「おかーたま!」
「あうあうあ!」

 後ろから声をかけられたので振り返ると、そこにはリシャール様とミレーヌ。
 そしてリシャール様に抱っこされたテオフィルがいた。
 皆、おそろいです。

「フルール。庭に出た後、なかなか戻って来る様子がなかったから様子を見に来たよ」
「もうそんな時間でした?」
「う!」

 何故かリシャール様ではなくテオフィルが返事をしてくれた。

「今日も可愛い野菜がたくさん収穫出来そうな予感がして夢中になってしまいましたわ」
「…………可愛い、か」

 私がふふんと笑って答えるとリシャール様は何故か黙り込む。
 そしてチラッと収穫済みの人参の山に目を向けた。

「……相変わらずフルールの育てた野菜は独特のフォルムをしてるよね」
「はい!  今日も可愛いがたくさんですわよ~!  ミレーヌちゃんとテオくんもそう思うでしょう?」
「あい!  かあいー」
「あいあー」

 ほらほら、いい感じの反応ですわ!
 私はニンマリと笑う。

「今日はこの後、実家───シャンボン伯爵家に行きますから、ステファーヌくんにこの可愛い野菜たちをお裾分けしてあげようと思いましたの」
「え!  お裾分け……!?」
「そうですわ!」

 リシャール様は驚いたのか目を大きく見開いた。

「テオ!  これ、かあいーわよ?」
「あいあー」

 ミレーヌが収穫済みの山の中から、三本足の人参を両手に掴んでテオフィルに見せている。
 テオフィルはキャッキャと笑ってリシャール様の腕の中で手足をパタパタさせている。

「旦那様!  ミレーヌちゃんやテオくんは、私の育てた可愛い野菜たちを見てこのようにキャッキャと楽しそうに笑ってくれていますから───」
「う、うん……?」

 リシャール様がミレーヌとテオフィルを交互に見つめる。

「きっとステファーヌくんも可愛くて気に入ると思いますわ」
「……う、うん……?  気に、入る……かな?」
「当然ですわ!」

 私がえっへんと胸を張るとリシャール様はポソッと呟いた。

「アンベール殿が頭を抱える姿が目に浮かぶ」
「え?  お兄様?  もちろん!  お兄様も喜んでくれるに決まってますわ!」

 お馴染みの今にも踊り出しそうな人参に始まり、人の頭くらいの大きさのトマトに、人の顔みたいに見えるナス……
 どれもこれも可愛い!

(今日も順調ですわ~)

「大きくなると野菜嫌いになってしまう子もいますから、ステファーヌくんには小さな頃から、なるべくお野菜には親しんで欲しいところです」
「!」

 リシャール様がピクッと顔を引き攣らせる。

「し、親しめる……かな?  むしろこれを見たら逆にトラウ……」
「まああ!  これを見てください旦那様!」

 私はかなり巨大化したピーマンをリシャール様にバーンと見せる。

「おっきいわ……!」
「おうお……!」

 ミレーヌとテオフィルも興味津々でピーマンを見つめている。

「なんと!  苦手な子が多いと聞くピーマンは、かなりの特大サイズになりましたわ!」
「うっわぁ……今日は一段と凄いや……」
「いい感じです。あ、そうですわ!  せっかくですから、ステファーヌくんのお土産にするお野菜はミレーヌちゃんとテオくんにこの中から選んで貰いましょう!」
「え?」
「う?」

 二人がキョトンとした顔で私を見つめる。
 私に似てセンスの塊のようなこの子たちなら、きっとステファーヌくんが喜ぶ野菜も野生の勘でいい感じに分かるはず!

「え!  二人に選ばせるの!?」

 リシャール様がギョッとした。

「ええ。ベビー同士ですし従兄弟ですし……必ず通じ合うものがあると思いますわ!」

 私はどーんと胸を張ってそう主張する。

「さあ!  ミレーヌちゃん、テオくん!  ステファーヌくんが気に入りそうなお野菜たちをこの中から選んで下さいませ!」
「あい!」
「あう!」

 二人はニパッと笑って、私の収穫した可愛い可愛い野菜たちに手を伸ばした。




「さぁて、無事にお土産にするお野菜も決定したので、これからシャンボン伯爵家へ突撃ですわ。準備はよろしいかしら~?」
「お~」
「おあおー」

(ふっふっふ!  可愛いですわ~)

 元気いっぱいに手を挙げて答えてくれた子供たちが可愛くてニマニマしてしまう。
 しかし、何故かリシャール様は私の横で渋い顔をしていた。
 その視線はミレーヌとテオフィルが“ステファーヌくんへのお土産にする”と決めた野菜の山に向かっている。

「……」
「旦那様?  どうしました?  あ!  もしかして野菜が食べたくて仕方ないんです?」
「え!  いや、違うよ……!」
「ですが、視線がお野菜の山に向かっていますわ?」

 私がそう言うとリシャール様が小さくウッ……と声を上げた。

「う、うん……“あれ”を贈られてステファーヌは大丈夫かな、て」
「大丈夫?」
「ほら、まだ小さいし、変わった野菜がたくさんで驚くんじゃないかな?」
「まあ、そうですわね……」

 リシャール様はもう一度、二人が選んだ野菜の山を見つめる。

「なんで、ミレーヌとテオフィルはよりにもよって、巨大化したやつや呪われそうな形をしたものばかり選んだんだろうか……」
「呪?  とても可愛いのばかりですわね……!  二人のセンスはやはり思った通り素晴らしいですわ~」
「フルール……」
  
 私が手を叩いてはしゃいでいるとリシャールは苦笑した。

「旦那様!  大丈夫ですわ!  ミレーヌちゃんは昔からこの野菜の山を見てもキャッキャキャッキャと楽しそうにしていましたし、ステファーヌくんより小さいテオくんも野菜を見てニッコニコしていますわ!」
「ん…………そう、なんだけどね」
「?」

 リシャール様はとても小さな声で、
 ミレーヌやテオフィルを基準にはするのはなぁ……と呟いていた。




 そして私たちは、お土産の野菜を持ってシャンボン伯爵家へと出発。

「巨大化した野菜が沢山あるので結構かさばりますわね?」

 私は野菜が乗った方の馬車を見ながらそう口にする。
 するとリシャール様は苦笑しながら言った。

「万が一にもあっちの馬車が横転して、中身が車外に飛び出そうものなら色んな意味で街が大惨事になるよ」
「あまりの可愛いさに大人気で取り合いになってしまいますものね!」
「……」

 私がうんうんと頷いているとリシャール様は、静かに微笑んで優しく私の頭を撫でた。

「はっ!  おとーたま!  いいこいいこ、して!」
「ん?  ミレーヌ?」

 そんな私たちの様子を見ていたミレーヌがリシャール様にグイグイ頭を押し付け始めた。

「え?  ミレーヌ!?」
「いいこいいこ!」

 グイグイグイグイと、ミレーヌがリシャール様に迫る。

「ふふ、テオくん。ミレーヌちゃんは旦那様にいいこいいこって撫でられたいみたいですわね?  可愛いですわ」

 私は微笑ましい光景に癒されてニコニコしながら腕の中のテオフィルに語りかける。

「……」
「テオくん?」

 いつもなら元気なお返事をくれるテオフィルが黙ってじぃぃっと私を見つめてくる。

「……」
「……えっと?」
「……」
「テオ、くん?」
「……」

(こ、これは────凄い……凄い圧を感じますわ……!)

 リシャール様とそっくりなミニ国宝の整った顔!
 ぱっちりお目目に純真無垢な瞳……
 そのお顔が、ボクのアタマも撫でろと言っていますわーー!
 なんて恐ろしい0歳児!

「テ、テオくん。それではあなたの頭を少し失礼します、わね……?」
「う」

 私は未来の国宝の頭を思う存分、撫で撫でさせてもらい至福の時間を堪能した。



────



 そんなこんなで馬車はあっという間にシャンボン伯爵家へと到着。

「ミレーヌちゃん、足元には気を付けて降りましょうね?」
「あい!」

 ご機嫌な様子の足取りで馬車から降りようとしたミレーヌが何かに気付いたようにハッとして足を止める。

「ミレーヌちゃん?」
「……おかーたま」

 そして、ミレーヌはシャンボン伯爵家の庭の方をじっと見てこう言った。

「なんかいゆ」
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