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352. つまり、遺伝

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「ミレーヌちゃん、テオくん!  ヴィクトルくんとの追いかけっこは楽しかった?」
「あい!」
「あう!」

 馬車の中で二人にそう訊ねると、ニパッと可愛い笑顔で頷いて笑い返してくれた。

(可愛いですわ~)
  
 この笑顔だけでご飯は十杯は食べられそうですわ!

「ふふふ。ヴィクトルくん、ずっと元気いっぱいでしたものね!」
「あい!」
「う!」

 だから眠くなってしまうのも分かります。
 きっと今頃、アニエス様に寝かしつけてもらってスヤスヤ眠っているに違いありません。
 想像するだけで可愛いですわ。

「ところで、ミレーヌちゃんとテオくんは眠くありませんの?」
「なーい」
「あうっあ~」

 あんなに走り回っていたのに、馬車の中でもキャッキャとはしゃいでいるので訊ねてみると二人はフルフルと首を横に振る。

「まあ!  さすがミレーヌちゃんとテオくんですわね!」
「えへ」
「う!」

 エヘッと笑うミレーヌと、ニパッと笑うテオフィルはやっぱりとっても可愛かった。



 そして、私たちの乗った馬車はあっという間に屋敷に到着。

「あら?  ミレーヌちゃん、テオくん。旦那様……お父様が帰って来ていますわよ!」

 既に先に馬車が止まっているのが目に入った。

「おとーたま!」
「おうおうあ!」
「まあ!  リシャール様の名前を聞いてそんなに嬉しそうにするなんて……ふふふ、二人ともお父様が大好きですのね?」

 私がそう訊ねると二人はニパッと笑う。
  
「だーちゅきー!」 
「あっあうあ~!」
「ふふふ、お母様も大好きですわよ~」

 本当はリシャール様も一緒にアニエス様の元に突撃したかったのだけれど、今日は王宮に行かなくてはならなかったそうで同行出来なかった。

(リシャール様は朝からとっても心配性でしたわ~)

『フルール……本当の本当の本当に今日行くの?』
『僕がついていける他の日じゃダメかな?』

 何度も何度も心配そうにそう聞いてきた。
 きっとミレーヌとテオフィルを留守番させずに連れていくと言ったので、元気いっぱいな二人の面倒を私が一人で見ることを心配してくれていたに違いありません。
 さすが国宝旦那様。
 ですが、ヴィクトルくんに会わせたかったので、子供たちが留守番という選択肢はありませんでしたわ!

(ここは早くリシャール様にも二人の元気いっぱいのお顔を見て安心して貰いましょう!)



「戻りましたわ~」
「たあいまぁ~」
「あうあうあー」

 玄関に入り声をかけると、どの使用人より誰よりも早くリシャール様が駆けて来た。

「フルール!  ミレーヌ!  テオフィル!」
「旦那様!」

 私が笑顔を見せるとリシャール様も国宝級の笑顔を返してくれた。

「フルール、おかえり」
「ただいまですわ!」
「おとーたまー!」

 ミレーヌがトタトタとリシャール様に駆け寄る。

「ミレーヌもおかえり。パンスロン伯爵家への訪問は楽しかったかい?」
「あい!」

 リシャール様がミレーヌをよいしょっと抱っこしながら訊ねる。
 その質問にミレーヌは満面の笑みで頷いた。
 次にリシャール様は私の腕に抱かれているテオフィルの頭を撫で撫でしながら訊ねる。

「テオフィルも楽しかったかな?」
「う!!」

 テオフィルも満面の笑みで手足をパタパタさせながら答えた。

「そうか。それは良かった」

 リシャール様は優しく笑い返す。
 その笑顔に胸がキュンキュンします。

(国宝とミニ国宝の会話する姿は最高にキラキラですわ~)

 そんなリシャール様にミレーヌが、照れ照れしながら話しかける。

「おとーたま。あのねー?  ヴィーがぎゃぁぁぁあぁ~してたの」
「……」

 ピシッとリシャール様の笑顔が固まった。
 そして、少しだけ沈黙してからミレーヌに聞き返す。

「…………ぎゃぁぁぁあぁ?  ヴィーって言うのは伯爵家の令息───ヴィクトルくんのことだよね?」
「あい!  テオとあそぶしてたら、 ぎゃぁぁぁあぁ~したのよ」
「…………へぇ。ぎゃぁぁぁあぁ、か……」

 ミレーヌの説明にウンウンと頷いていたリシャール様がチラッと私の顔を見た。
 目が合ったので私はにこっと笑う。

「テオくんが高速ハイハイでヴィクトルくんを追いかけて、更にその後ろをミレーヌちゃんが追いかけて仲良く遊んでいましたわ!」
「仲良く…………えっと?  つまり、彼はミレーヌとテオフィル……二人に追いかけられていた、ということかな?」
「そうですわ!」
「あっぅあぅあ~」

 テオフィルも、そうだよ~と言わんばかりに手足をパタパタさせる。

「…………テオの高速ハイハイ」
「はい!  テオくんお得意の高速ハイハイですわ」
「…………満面の笑みのミレーヌ」
「はい!  ミレーヌちゃんの笑顔は可愛いですわ」
「……」
「旦那様?」

 何故か渋~いお顔で黙り込むリシャール様。

「……フルール。以前、同じような感じでアンベール殿の所の……従兄弟のステファーヌもミレーヌに追いかけられて泣き叫んでいなかった?」
「泣き……?  そういえばそうですわね?  ふふふ、あの時と同じくらい微笑ましい光景でしたわ」

 確かにあれも元気いっぱいでしたわ。
 あの時のテオフィルはまだハイハイ前でしたけど。

「…………なるほど、あんな感じか。あれが今日は二人がかり…………恐ろしいな」
「どうかしました?  旦那様」

 リシャール様がブツブツと呟いているので聞き返すとリシャール様は苦笑した。

「…………いや……なんでもないよ?」
「そうですの?」
「うん……」

 リシャール様は優しく私の頭をポンポンしながら、何やら使用人にパンスロン伯爵家に贈り物を手配するように、と言付けていた。


────


「おかーりー!」
「え!?  ミレーヌちゃん?  もうご飯、三杯目よ?」
「おかーりー!」
「あうあうあ~!」

 その日の夕食。
 お代わりの声を上げたミレーヌの横で何故かテオフィルまで同じ動きをしている。

「え?  テオくんもお代わりですの!?」
「あうあうあ~」

 その夜のミレーヌとテオフィルは、いつもよりたくさん食べて、たくさん動いて……
 そしてあっという間にコテッと眠ってしまった。

 私はスヤスヤと気持ちよさそうに眠る子供たちの寝顔を見つめる。

「旦那様!  見てください……天使ですわ」
「うん、そうだね。そして、二人ともそっくり」

 私に呼ばれて同じように子供たちの寝顔を覗き込んだリシャール様も小さく笑う。

「さすが、ミニ国宝たちですわ~」
「ははは!  それにしてもいつもなら眠れない時は、ずっとはしゃいでウニャウニャ言ってるのに今日の二人はすぐに寝ちゃったね?」
「昼間にたくさん動いたからかもしれませんわね」

 リシャール様がもう一度、ははは……と笑う。

「ところでフルール?  そのなんだっけ?  ミレーヌに“ざまーみろ”って言葉を仕込んだ人は分かったの?  それを聞きに悪女のことといえばアニエス様ですわ~と言って、今日はパンスロン伯爵家に行ったんだよね?」

 その言葉に私はハッとする。
 そうでした!
 その為にアニエス様の元を訪ねたのでしたわ。
 私はえっへんと胸を張る。

「アニエス様のおかげで分かりましたわ!」
「え?  そうなの?」
「はい。さすが私の大親友───ばっちり私の求めていた答えをくれましたわ!」
「…………彼女も苦労するなぁ」

 リシャール様はクククと笑う。
 苦労とは何でしょう?

「それで?  結局、誰だと分かったの?」
「その相手は…………とてもとても身近にいましたわ」
「身近?」

 キョトンとするリシャール様に向かって私は大きく頷く。

「旦那様……ミレーヌちゃんは今、未来の舞姫を目指してクルクルしにシャンボン伯爵家へ定期的に訪問していますわ?」
「うん?  そうだね。我が家でも毎日楽しそうにクルクルしてるよね」
「そうですわ」
「ん……?」

 そこで、リシャール様がハッとして口元を押さえる。
 さすが、私の愛する夫のリシャール様。
 とてもとても理解が早いですわ~

「───あ!」
「ええ、そうです旦那様。お分かりいただけましたか?」

 コクコクと頷くリシャール様。

「うん、分かった……言いそう。すごく口にしてそうだ……!」
「…………特に陛下との孫自慢対決は、毎回毎回白熱しているそうですから」
「あー……」

 そう。
 名探偵フルールが大親友のアドバイスによって導き出した結論。
 それは……

「つまり────私のお母様の影響を受けていたのですわ!」
「ミレーヌ……!」

 可愛い可愛い愛娘でミニ国宝の一人、ミレーヌは、
 舞姫の才能だけでなく、あの怖いもの知らずな私のお母様の血もバッチリ受け継いでいた。

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