王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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347. 最強の家族

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「真っ黒……うーん、ミレーヌはフルール譲りの野生の勘が色か何かで視えているのかな?」

 よいしょっとリシャール様がミレーヌを抱っこする。

「おとーたま!」

 抱っこされたミレーヌがとても嬉しそうに笑った。

「色、ですの?」
「うん、僕の想像だけどね」
「さっきのモッサリ眉毛元侯爵の元夫人は真っ黒……」

 なるほど、つまり良からぬことを考えている人はミレーヌに筒抜け……

「すごいネーミングになったね……うん、フルールに危害を加えそうだったし……ミレーヌにはそう見えたんじゃないかな?」
「ミレーヌちゃん……私を守るってそういう……?」

 私がミレーヌの顔をじっと見つめると、ミレーヌはえへへっと照れくさそうに可愛く笑った。

「───ミレーヌちゃん!」

(やっぱりこの子は天才ですわーーーー!)

「テオくん!  もしかしてテオくんにも何か見えますの?」
「う?」

 興奮した私は自分の腕の中のテオフィルに訊ねてみる。
 しかし、テオフィルはきょとんとした目を向けるだけ。

(くっ!  その純真無垢なお顔───とってもとっても可愛いですわ!)

「ははは。フルール、さすがにテオはこれからじゃないかな?」

 リシャール様は笑いながらそう言った。

「でも、テオフィルはミレーヌの呼び掛けで急に泣いたと思ったら泣き止んで……あれは何だったのかな?」
「あうあ~」

 テオフィルがニパッと笑う。

「あれが姉弟の絆ですわ、旦那様!」
「絆?」
「ええ、私のお願いが届いたようですわ!」

 私はえっへんと胸を張る。

「ミレーヌちゃん、テオくん!  これからも仲良く絆を深めていってくださいませね?」
「あい!」
「あう!」

 二人の元気いっぱいの返事を聞いて私は満足した。

「ところでミレーヌちゃん!」
「?」

 私はグイグイとミレーヌに迫る。
 ミレーヌが首を傾げる。

「あなたのおかあさま……私はいったい何色ですの?」
「おかーたま?  いお?」
「ええ。とっても気になっていますのよ。このままでは気になって気になって気になって、この後のご飯のお代わりが五杯までになってしまいそうですわ!  それでは腹ぺこです」
「…………充分だと思うよ?  フルール……」

 リシャール様が小さく呟く横で私は更にグイグイとミレーヌに迫る。

「おかーたま……いお……」

 私の問いかけにミレーヌはしばし黙り込んだ。
 そして、ニパッと笑った。

「きあきあ!」
「き……?」

 きあ……って、もしかしてキラキラ?
 それは、国宝のリシャール様のことではありません?

「ミレーヌちゃん。キラキラはリシャール……おとうさまのことでは?」
「おとーたま?」

 ミレーヌはじっとリシャール様の顔を見上げる。
 そしてまた、しばし黙り込んだ。

「おとーたま、ふあふあ!」
「ふ……?」

 何だか独特の表現になって来てよく分からなかった。

(さすがミレーヌちゃん!  奥が深いですわ~)

 私が感心しているとリシャール様がハハハッと嬉しそうに笑った。
 そして、ミレーヌの頭を優しくヨシヨシと撫でた後は、私の頬に腕を伸ばしてこっちも優しく撫でる。

「旦那様?」
「……うん。フルールはやっぱり、キラキラしてるんだなって」
「え?  やっぱり?」

 リシャール様が優しく微笑む。
 国宝の笑顔……相変わらず素敵でドキドキしますわ。

「そうだよ。僕にとってのフルール。君は出会った時からずっとキラキラ輝いているから」 
「リシャール様……」 
「何年経っても、こんなに可愛い子どもたちの母親になってもそれはずっと変わらない」
「!」

 リシャール様がコツンと私と額を合わせてくる。
 国宝のドアップですわ~~!

「ミレーヌもテオももちろん規格外で凄いんだけど…………でも、やっぱり僕の最強はいつだって君だよ、フルール」
「……!」

(リシャール様……)

 リシャール様のその言葉に私はニンマリ笑ってからドーンと胸を張る。

「当然ですわ!  私は誰よりも最高の最強で魅力溢れる公爵夫人、そして子どもたちの最強のお母様…………と、とにかく何においても最強を目指していますもの!」
「フルール……」
「ふっふっふ。ミレーヌちゃんとテオくんにはまだまだ負けませんわよーー!」

 私はきょとんとした顔を向ける子どもたちにも堂々とそう宣言した。



 私たちは、騒ぎを聞き付けて集まった人たちが多くいる王宮の廊下で立ち止まったままそんな話をしていたものだから───
 私、モンタニエ公爵夫人、フルールの最強説はここから更に広がっていくことになった。


─────


 それから間もなくして、テオフィルが待望のハイハイを開始。
 我が家は更に賑やかになった。


「ミレーヌお嬢様~、テオフィルお坊ちゃま~~!」
「お待ちくださーーい」

 ドタドタ……

「いや!  いくあよ、テオ~」
「あう!」

 パタパタパタパタ……
 ペタペタペタペタ……

 今日も屋敷内を可愛い子どもたちと使用人が元気いっぱいに走り回っている。

「は!  あっちは危険!  まだ壺が飾ってあるぞ!」
「なに!?  壺だと!?  それは隠せ、しまえ、とにかく急げーー」

 どうやら二人が向かった先にはまだ割れ物があるらしい。

(危機管理能力が素晴らしいですわ……!)

 使用人たちの汗と涙と努力によって、モンタニエ公爵家の平和は今日も保たれているのだと実感する。

「旦那様、今日もミレーヌちゃんとテオくんは元気いっぱいですわ!」
「う、うん。でもやっぱり駆けずり回るのが二人になると使用人たちの体力が……」

 テオフィルがハイハイ開始する前までに身体を鍛えなくては!  と頑張っていた使用人たち。
 廊下の至る所に力尽きた使用人たちの山が出来ている。

「ええ。まるで、モンタニエ公爵家使用人たちによる体力比べ大会みたいになっていますわ」
「シャレになってないよ、フルール……」

 パタパタペタペタと好きなだけ元気いっぱいに動き回るミレーヌとテオフィル。

「テオ、たのちー?」
「あうあ!」

 すでに長いこと駆け回っているというのに、二人はまだまだ元気が有り余っているようです。

「───フルール。そろそろ行く?  残り少ない使用人たちも瀕死だよ」

 私とリシャール様は廊下に出てそれぞれに声をかける。

「ミレーヌ、おいで?」
「……!  おとーたま!」

 パッと笑ったミレーヌが全速力でリシャール様の元に駆け寄る。

「テオくーーん!  こっちですわ~」
「……!  あう、あぅぅあぁーー」

 ペタペタペタペタペタ……
 テオフィルも、ものすごい速さで手足を動かして私の胸に飛び込んでくる。

「まあ!  今日は一段と早くなっていますわ。新記録ですわよ、テオくん!」
「あうあっあ~!」

 テオフィルは当然だよ!  と言わんばかりの顔で笑った。
 なかなかの自信家ですわ。

「これなら、ステファーヌくんにも負けていませんわよ?」
「う!」

(親バカと言われようとも、我が子が一番ですわ~)

「テオくん。あなたはこのまま足腰をたくさん鍛え続けた方がいいと思いますの」
「あう?」
「あなたのそのお顔は未来の国宝。絶対、将来肉食令嬢たちに追い回されてしまいますからね……逃げ足は鍛えておかないといけません」
「あう~?」

 リシャール様みたいに幼い頃から婚約者がいれば肉食令嬢たちも多少は大人しくしてくれるかもしれません。
 そうは思うけれど……婚約を強制したくありませんもの。

「フルール……何を教えてるんだい?」

 ミレーヌを抱っこするリシャール様が苦笑する。

「肉食令嬢への心得ですわ」
「にく~」

 ミレーヌがお肉と聞いてはしゃいだ。

「……ミレーヌちゃん、残念ながらそっちのお肉の話ではありませんの」
「ちあう?」
「ええ、肉食令嬢……こっちのお肉は全く美味しくありませんのよ……」
「……おいちく、ない?」
「ええ」

 ミレーヌが絶望の表情になった。
 私はふふっと笑いながらミレーヌの頭を撫でる。

「私はミレーヌちゃんにもテオくんにも、“この人だ”って感じた素敵なお婿さんとお嫁さんを連れて来て欲しいんですの」
「おむこ?」
「おうえ?」

 きょとんとする二人に私は言い聞かせる。

「いいですか?  二人とも。ですから、うっかり流されて婚約を決めたらダメですわよ?」
「フルール……」
「こーにゃく?」
「う?」

 私みたいになってしまいますわ。

「いいですか?  真実の愛なんて軽々しく口にする人は特に要注意ですわよ?」
「フルール……」
「しんじちゅ?」
「あう?」

 やっぱり、私みたいになってしまいますわ。
 もちろん、何かあっても慰謝料はもぎ取りますけども。

「ふふふ───ですが、もしも行き倒れている人がいたら拾って助けてあげましょうね?」
「…………それは僕とオリアンヌ夫人のことかな?」
「あい!」
「う!」

 二人はニパッと可愛く笑って頷いた。

「いい笑顔ですわ。ミレーヌちゃん、テオくん!  さあ、屋敷内をもうひとっ走り……ひとっハイハイ行きますわよ~」
「あい!」
「あうあ~!」
「え!  まだ体力あるの!?」

 リシャール様がギョッとする。

「ふっふっふ。テオくんもお外を走れるようになりましたら、家族みんなで外で走り込みですわよ!」
「あい!」
「あう!」
「うん…………もっと賑やかになりそうだ」

(そうですわね~)

 ワンちゃん飼って一緒に走るのも楽しそうですわ~

「いいお返事ですわね!  ───目指せ、最強家族!」
「さいきょ~」
「えぅあ、あうあうあ!」
「あははは、二人とも意味分かっているのかなぁ?」

 そんな私の元気いっぱいの掛け声と共に、私たちは四人で走り出した(一人はハイハイ)


 ─────モンタニエ公爵家、最強家族への道はまだまだ続く……

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