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345. 相変わらずだった

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「お兄様たちにゆっくり休んでもらう計画のはずが、何だか逆にげっそりしていましたわ?」

 振り返ってみればバタバタだった実家訪問。
 騒動を終えて馬車に乗り込んだ私がそう言うとリシャール様はクスリと笑った。

「フルールが一緒だと、本当に毎日が刺激的だよね」
「旦那様……」
「そして、ミレーヌとテオフィルが生まれてもっと刺激が増えたかな」
「おとーたま?」
「う?」

 リシャール様がとっても幸せそうな顔で笑ったので胸がキュンとしましたわ!
 私も毎日が刺激的ですわよ!

「でも、ミレーヌ。これからクルクルする時は、しっかり周りを見るんだぞ」
「くるくる~」

 ミレーヌは嬉しそうにハーイと手を挙げた。
 まだ、あまり分かっていないかもしれません。
 リシャール様は肩を竦める。

「うーん……我が家モンタニエ公爵家も花瓶は消耗品かな……」
「しばらく、様子見ですわね!  あ、テオくんはステファーヌくんにハイハイの秘訣を教われました?」
「あう?」

 テオフィルはぐっすり眠ったおかげで今、目が冴えているようでニパッと笑った。

「僕には……ステファーヌがミレーヌとテオフィルに振り回される未来が見えたよ」
「あら旦那様?  どうしてですの?」
「え?」

 リシャール様が目を丸くして私を見る。

「テオくんとステファーヌくんは目が覚めたあと、とっても仲良く遊んでいましたわ?  ね~?」
「あうあ!」

 ほら、テオフィルも楽しかったと言っています。

「ステファーヌ…………テオのズリズリにかなり脅えているように僕は見えたけど?」
「いいえ、きっとズリズリされるのが新鮮だっただけですわ」

 私の脳裏に、ズリズリしながら自分に向かってくるテオフィルを見て、あぅ……あぅぁ……!?  と声を発してその場に固まっていたステファーヌの姿が浮かぶ。

「新鮮?」
「ええ。ステファーヌくんは自分より小さい子と遊ぶのが初めてのようでしたから」
「あー……、ま…………前向きに捉えるとそうなる……のかな?」

 ははは、と苦笑するリシャール様。

「今のところは、テオくんが一番ちびっ子ですわね~」
「ううっう~」
「そう、ちびっ子ですわよ!」

 テオフィルが手足をパタパタさせながら笑う。
 ふふふ、可愛いですわ!

「───さて、ミレーヌちゃん、テオくん。お家に帰りますわよ~と言いたい所ですが、ちょっとその前に寄り道ですわ!」
「おかーたま?」
「あう?」

 きょとんとする二人に私はニンマリと笑った。


─────


「…………な、な、なんなんだ!  そのめちゃくちゃ可愛い顔をした二人は!」
「噂の可愛いモンタニエ公爵家我が家の子どもたちですわ~」
「う、ぐっ……」

 私は満面の笑みで子どもたちに説明する。

「───さあ、ミレーヌちゃん、テオくん。目の前にいるおじさまはこの国の国王陛下ですわよ?」
「へーか?」
「うぅうあ?」
「一応、この国の中でとっても偉い人ですのよ。ご挨拶しましょう!」

 私がそう言うと、お利口さんのミレーヌとテオフィルはそれぞれニパッと笑顔で挨拶した。

「……一応とっても偉い人って……私をそんな風に紹介するのは……夫人くらいだろう」

 陛下がうーん……と眉間を押さえながらそう言った。

「まあいい……それより、夫妻揃ってしかも子どもたちも連れて王宮に来るとは……何か緊急事態か?」
「いいえ、お母様からの伝言があったので寄らせて貰っただけですわ?」
「……ブランシュからの?」

 一気に、陛下の眉間の皺がグッと深くなる。
 これは無性にのばしたくなりますわね……

「えっと…………オーホッホッホ!  そのすっとぼけた目でしかとご覧なさい、私のとっても可愛い可愛い国宝級の孫たちの姿を!  最高でしょう?  ……だそうですわ?」
「すっとぼけた目でいいんだ……?」

 リシャール様が怪訝そうに小声で呟く。
 しかし、陛下は全く聞いておらず悔しそうに叫んだ。

「ブ、ブランシュッ……!  ついに生身で寄越してきたか……くっ!  この二人、めちゃくちゃ可愛いじゃないか!」 

 陛下がミレーヌとテオフィルを見て悔しそうに唇を噛み締める。

(お母様……)

 どうやら陛下との孫自慢対決は今も続いているようですわ?
 きっと今回はお母様のターンでしたのね……

「こっちは野菜に恋する息子と、変な方向に色々拗らせて行き遅れ予感しかない娘が残されていて……ナタナエルとアニエス嬢しか結婚していないんだぞ!  三対一!」
「────そんなこと私に言われても困りますわ?」
「わぁ!」
「うぅ~!」
「ぐっ!」

 陛下は私とミレーヌとテオフィルにも迫られて、思いっきりたじろいだ。

「……っ!  ま、待て。な、何でわざわざそんなに近付いて来るのだ……」
「え?  ですが───」

 陛下は老眼でしょう?
 そう言いかけて、直接はっきり言うのは失礼ですわね、と思い直した。
 コホンッと軽く咳払いをする。

「えっと、そうですわね……陛下の目もお年を召したようですので、そろそろ物の見え方がお辛いのではないかと……」
「~~~~夫人っ!!」
「!」

 な、何故ですの?
 とってもとっても気を使って言葉を選んだのに凄く怒られてしまいましたわ?
 理解不能ですわ……!?
 私はリシャール様の顔をチラリと見る。

「……」

 リシャール様は何か言いたそうな目で私を見ています。

「あっうぁ~!」

 でも、テオフィルはとっても楽しそうに笑っています。

(うーん?)

 私が不思議に思っていると、ミレーヌが私の手をクイッと引っ張った。
 そしてある物を指さす。

「おとーたま、おかーたま、あれいっしょ?」
「ミレーヌ?  一緒って?」
「ミレーヌちゃん?  いったい、何を指して…………まあ!」

 リシャール様と二人でミレーヌが必死に指をさす方向に顔を向けた。
 そして私たちはハッと息を呑んだ。

(あれは……!)

 そこには、なんと二又や三又のちょっと艶かしい形をした人参が並べて飾られていましたわ。
 モンタニエ公爵家にもあるので確かに一緒……
 ですが───……

「んー?  私の収穫した人参ではなさそうですわ?」
「フルール!  そこ!?  まずは王宮の陛下の部屋に人参が飾られていることに驚こうよ!?」

 リシャール様のその言葉に私はうーんと首を捻る。

「え?  ですが……廊下に並べるよりはいいのでは?  と」
「そ、それはそうだけど!」
「にんじー?」
「う?」

 きょとんとする子どもたちに私は説明する。

「二人とも、あれは人参ですわ?  少々形は変わっていますがお野菜ですわよ」
「おやさい……?」

 ミレーヌは野菜が飾られていることに納得がいかないらしい。
 変な顔をしていた。
 テオフィルは、二又人参に向かって手を伸ばしてキャッキャと笑っている。
 気に入ったようです。

「陛下、いつから人参を飾る趣味が出来ましたの?」
「違う!  そんな趣味は無い!  ───決まってるだろう!  レアンドルだ!!」

 陛下は間髪入れずに声を荒らげた。

「…………レアンドルが初めて一から自分で畑を耕して育てて収穫した野菜第一号、だ」
「まあ!」
「いくつかこういった形の人参が収穫出来たようで、な……」

 陛下はここで、ふぅ……とため息を吐いた。

「……嬉々として王宮に持って来て廊下に並べようとしていたから止めた。その結果があれだ」
「なるほど……廊下が駄目なら部屋があるじゃん!  ですわね?」

 私がうんうんと頷く横でリシャール様がポツリと言う。

「公爵家の屋敷に置いておく選択肢は無かったのかな……」
「いいえ旦那様!  きっと、もっと多くの人の目に触れさせたかったのですわ!」

 手塩にかけて育てた野菜たちは、自分の子どものようなものですもの。
 その気持ち、とっても分かりますわ~

「……嬉々としてナタナエルの所にも送っていた」
「まあ!  それはアニエス様がヴィクトルくんと大喜びですわね!」
「気絶だよ、フルール……」

 箱を開けて大感激するアニエス様と、ヴィクトルくんのはしゃぐ姿も想像出来ます。

「あぅ~あうあぁぁ~」

 ヴィクトルくんの名前を出したからか、テオフィルが少し腕の中で暴れた。

「ええ、テオくん!  未来の大親友(予定)のヴィクトルくんですわ!」
「あぅあ~」

 私のその言葉に陛下がピクッと反応する。

「大親友……だと!?」 
「そうですわ!  歳も同じ、生まれも近い二人ですからきっと将来は仲良しになりますわ~」
「なっ……!」
「既に対面済みの二人ですが、仲良くズリズリして交流を深めていましたわ?」
「す……すでに、仲良し……!  ブランシュと私のま、孫が…………親友!?」 

 陛下は、うわぁぁぁ、ヴィクトルゥゥゥ~と嬉しそうに孫の名前を叫んで頭を抱えた。

「旦那様!  陛下も二人の友情を喜んでくれて良かったですわ!」
「う…………うん、喜……び」
「テオくん!  あちらのおじい様のお墨付き!  安心して友情を育んでいってくださいませね!」
「あう!」

 お利口さんなテオフィルは、ニパッと可愛い顔で笑った。

「……外堀が……パンスロン伯爵家の彼の外堀が……」
「旦那様?  何か言いました?」
「いや……」

 リシャール様はニコッと国宝級の微笑みを浮かべた。



 そうして陛下にお母様の伝言を伝える用事も終わり、今度こそ帰宅しようと王宮の廊下を四人で歩いている時だった。

「……おとーたま、おかーたま」
「ん?」
「ミレーヌちゃん?」

 突然、ミレーヌがピタッと足を止める。

「くゆ……」

 来る?
 どうしたのかしら?  と顔を覗き込むと、ミレーヌは前を見据えながらとっても険しい顔をしていた。
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