王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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337. 新しい家族、新たな幸せ

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「フルール?  赤ちゃんがどうかした!?」
「おかーたま!?」

 リシャール様とミレーヌが心配そうに駆け寄ってくる。
 私はお腹を押さえながら言った。

 ポコポコ……

「はっ!  赤ちゃんのポコポコの仕方がミレーヌちゃんの時とそっくりですわ!」
「え?」

 不思議そうなリシャール様に私はそのまま説明する。

「お腹の中にいたミレーヌちゃんは、よく私と会話しながらポコポコ蹴ってお返事してくれていましたが、今回の赤ちゃんは控えめでしたのよ!」

 グリングリンとでんぐり返ししながら活発に動いているわりには、ポコの数は控えめだった。
 しかし……

 ポコポコポコ……

(今日は、いつになく活発ですわ!?)

「赤ちゃん!  これはそろそろ出たいなという合図ですの?」

 ポコポコ……

 これはやはり……!
 そう思った時、ミレーヌがトコトコ私のお腹に近付いて来て手を伸ばす。
 そして、ニパッと満面の笑顔でお腹に話しかけた。

「あかたん!  いいこ!」

 ポコッ!
 これは、ミレーヌの言葉に反応していますわね?

「いっしょ、あそぶ!  まってう」

 ポコポコッ!

「あら……」

(赤ちゃん───自分も早く遊びたい!  そう言っているように聞こえますわ!?)

 これは───間違いなく生まれる……出産の準備ですわ!
 そう直感した私は顔を上げてリシャール様に医者を呼んで欲しいと言おうとした。

「旦……」
「フルール。使用人に言付けてあるから、医者はもうすぐ来ると思うよ」
「あら?」

 リシャール様が優しく微笑みながらそう言った。
 とっても素早いですわ?

「実は、医者にはもうすぐだと思うって予め言ってあったんだ」
「え?」

 いつの間に?  と思って目を瞬かせる。
 するとリシャール様は少し照れながら言った。

「赤ちゃんに話しかけている時にさ……なんとなく“もうすぐ”そう言っているように感じたんだ」

 リシャール様は普段からお腹の中に赤ちゃんにたくさんたくさん話しかけてくれている。
 だからこそ何かを感じ取ったのかもしれない。

「まあ!  そうでしたの?  いつ頃から?」
「パンスロン伯爵家に男の子が生まれたと聞いた辺りからかな」
「アニエス様の……」

 その言葉を聞いて私はお腹をじっと見た。
 ポコ……

(なるほど……つまり、赤ちゃん。あなた……)

「早く、未来の大親友(予定)に会いたくなってしまったのね!?」

 ポ、ポコ……
 ちょっと照れた感じのポコが返ってきた。

「だーしんゆー」
「そう。大親友よ、ミレーヌちゃん。前にも説明したでしょう?」
「あい!」

 ミレーヌは元気に可愛く頷いた。
 やっぱり賢い子だわ。

「ふっふっふ。分かりましたわ!  赤ちゃん。そういうことならお母様が全力で協力いたしますわ!」
「フルール?」
「おかーたま?」

 きょとんとする二人に向かって私はえっへんと胸を張る。

「未来の大親友に会いたいから早く産んでくれ───これは可愛い我が子の最初のお願いですわ!」
「おねあい!」
「───最強のお母様である私はそのお願いを叶えるためにも、これからサクッとあなたを産んでみせますわ!  ですから安心してこちらに出てきて下さいませ!」

 ポコッ!

「そして、サクッと大きくなって未来の大親友(予定)に会いに行きましょう!」

 ポコポコ……

「ええ!  あちらはすでに一ヶ月、先に外の世界で赤ちゃん生活を満喫していますわ!  一気に追いかけますわよ~~」
「お~!」

 何故かミレーヌが満面の笑顔で元気いっぱいに片手を上げている。
 ポコポコポコッ!!
 赤ちゃんも元気に反応した。

「凄いな、生まれる前からすでに大親友認定しているよ……」
「ふふふ、同じ年に生まれそうですし、将来、子どもたち同士も大親友になれるかもしれませんわね────というような話をしたら、アニエス様は感激して泣いて喜んでいましたわ!」
「………………泣いて……感激」

 何故か、リシャール様の頬がピクピク引き攣る。

「強制はしませんわよ?  でも仲良しになってくれたならやっぱり嬉しいですわ」

 ポコッ!
 赤ちゃんも同意するかのようにお腹を蹴った。

「ちなみに、アニエス様の隣でその話を聞いていたナタナエル様はお腹を抱えて、それは楽しそうだよね、とケラケラ笑っていましたわ?」
「それ……ナタナエル殿はその後、夫人に詰め寄られてただろう?」
「ええ!  詰め寄るアニエス様のお顔は真っ赤でしたわ」

 その時の光景を思い出して私はクスッと笑う。

「───ミレーヌちゃんから始まり、お兄様とオリアンヌお姉様、アニエス様、そしてこの子……お子ちゃまたちがいっぱいですわ!」
「おこちゃま?」

 私はミレーヌに向かってにっこり微笑みながら頭を撫でる。

「ミレーヌちゃんはその中でも一番のお姉さんよ?  皆の見本となれるような淑女となりましょうね?」
「おねーたん…………あい!」
「うん。さすがミレーヌちゃん。とてもいいお返事ね!」
「しゅくにょー!」

 そんな私たちの会話を聞きながら、リシャール様はポソッと小さく呟いた。

「…………淑女は使用人たちの屍の山は作らないと思うんだよなぁ……」
「おとーたま?」

 リシャール様は、よいしょっとミレーヌを抱き上げる。

「いや、最近油断していると、あちこちでミレーヌに追いかけられた使用人たちがそこらで力尽きているからさ……」
「う?」
「んー……そうだなぁ。ミレーヌは追いかけっこが好きだよねって言ったんだよ」
「すきーーーー!」

 とびっきりの笑顔で答えましたわ!

(ミレーヌちゃん……)

 私にはミレーヌちゃんがそのガッツで将来、リシャール様にも負けないくらいの国宝級男性を追いかけてゲットしに行く姿が目に浮かびますわ───

「……ん!  赤ちゃん!」

 なんて将来のミレーヌを想像してほのぼの気分でいたら、赤ちゃんからの外に出たいという激しい合図がやって来た。




─────
───……



 そうして、モンタニエ公爵家に誕生した第二子は─────

「ゥアゥア~」
「あらあらテオくん!  テオフィルくん!  ご機嫌いかが?」
「……」

 私が声をかけると、ンギャーと大きな声で泣き出した我が子。

「まあ!  今日も元気いっぱいですわね!  その調子ならテオくんの将来は立派な国宝ですわよ!」

 そう───このたび、元気いっぱいに誕生した私たちの二人目の子どもは男の子だった。
 テオフィルと名付けた。

(間違いなく将来モッテモテの国宝美男子の誕生ですわ!)

 そうなると母親である私のお役目は、中身も立派な国宝に育て上げること!
 なんて責任重大!

「とりあえず、元気いっぱいなところは余裕でクリアですわよ、テオくん!」

 ギャーーーー!
 テオフィルはミレーヌとは違ってたくさんグズってくれる。
 これは、ようやくようやく私の子守唄が活躍するかもしれませんわ!

 私はニンマリ笑ってテオフィルに声をかける。

「テオくん!  たっぷりミルク飲んだし……きっと眠い?  眠いのよね?  それなら、これからお母様があなたにとびっきりの───」
  
 その時だった。

「おかーたま、テオ~」
「あら、ミレーヌちゃん!」

 トコトコとミレーヌがこっちにやって来る。
 そのまま、ちょこんとソファの隣に座るミレーヌ。
 そして、泣いているテオフィルの顔を覗き込んだ。

「テオ、えーん?」
「そうなの。テオくん眠いみたいなのよ」
「ねんね……」

 ミレーヌがグズグズ泣いているテオフィルの顔をじっと見る。

「だから、お母様はテオくんに子守唄を歌ってあげようと思っていたところなのよ」
「う!」
「ミレーヌちゃん?」

 ピクッと反応したミレーヌが勢いよく顔を上げる。

「おかーたま!」
「なぁに?」
「テオ、いいこ!」
「え?」

 そう言ってミレーヌは手を伸ばして、テオフィルの頭をそっと撫で撫でした。

「ミレーヌちゃん?  どうしたの……?」
「テオ!  いいこ!  ねんね!」
「ゥア……ゥ」

 ミレーヌにヨシヨシと頭を撫でられたテオフィルは、えーんと泣くのをやめて静かになった。
 そして、そのままトロンッと瞼が落ちて眠りにつく。

(まあ!)

 テオフィル、あんなに泣いていたのに!?
 スッヤスヤですわ~

「すごいわ、ミレーヌちゃん……!  テオくん寝ちゃったわ?」

 えっへんと胸を張るミレーヌ。

「おとーたま、おねあい、した」
「え?  お父様がお願いした?」

 私は首を傾げる。
 これは、リシャール様がミレーヌに何かをお願いしたということかしら?

「テオ、いいこ!」
「あ!  なるほど。泣いているテオくんにヨシヨシしてあげてってお父様が言ったのね!」
「あい!」

 すごいわ、ミレーヌ!
 すっかりお姉様としての自覚も芽生えて、そしてリシャール様のお願いを聞いて私のお手伝いまでしようとしてくれるなんて……!
 実際、テオフィルはあっさり眠ってくれたわ。

(ふふ、テオくんはきっとお姉様の優しい手に安心したのね!)

 ────これは間違いなく私とお兄様に負けないくらいの仲良し姉弟になりますわ!

「では、ミレーヌちゃん!  これからもいっぱいテオくんにヨシヨシしてあげてね?」
「あい!」

 ミレーヌは元気いっぱいな満面の笑みで頷いてくれた。

「……」

(誰よりも素敵な国宝の夫に天使のように可愛い娘と息子……幸せですわ~~)

「テオくん!  あなたもミレーヌちゃんのように元気いっぱい真っ直ぐスクスク育ってね!」

 私はこれからの“たくさんの幸せ”を想像してニンマリと笑った。

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