王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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335. 破滅寸前まで追い込んでいた

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「そんな君たち母娘の行く末が怖いような楽しみのような……」

 陛下は苦笑しながらもウンウンと頷く。

「特に夫人によく似ていそうな娘の将来はさぞかし……」
「あ!  そうですわ。実は私、二人目の子どもが出来ましたの」
「な……に?」

 カッと目を大きく見開く陛下。

「ふふふ、二人目……!?」
「はい!  昨日、発覚したばかりなピッチピチの新鮮なニュースですわ!」

 私は、そっとお腹を押さえながらにこにこ笑顔で報告する。
  
「つ、つまり……?  ブランシュにとっては三人目の……」
「孫ですわ~」

 ガーンッと大きくショックを受ける陛下。
 頭を抱える。

「……っ!  ブ、ブランシュがまた孫自慢をしてくるではないか!」
「私に言われても困りますわ」
「そ、それはそうだ……が…………くっ」

 この二人はいったい何を張り合っているのかしら、と思う。
 そんな目で見ていたら、私と目が合った陛下が言った。

「…………昔、ブランシュと……」
「はい?」
「どちらの子どもが可愛いかで揉めたのだ」
「まあ!」

(親バカ対決ですわ!)

 陛下がフッと笑って遠い目をする。

「…………決着はつかなかった」

(でしょうね~……ですわ!)

 そう思いつつも、自分が母親となった今、その気持ちはとーーってもよく分かる。

(許されるなら……)

 私も、可愛いミレーヌをもっともっと皆様に自慢したいですもの!
 よく食べよく寝てよく遊び……
 リシャール様譲りの国宝級外見の溢れ出る美貌に、年齢以上の賢さ……そしてバツグンの運動神経と体力。
 野生の勘と行動力もあるので、何事も恐れずに前へ前へと突き進む強さもありますわ。
 そして今回発揮したお花を選ぶセンス……
 将来、ミレーヌも可愛いお花やお野菜を育てられる手を持っているかもしれません……!

「……夫人?  急にニヤニヤしてどうした?」
「はっ!  あ、いえ……」

 ついつい油断すると、いつでもどこでもミレーヌ自慢大会を脳内で繰り広げてしまう私は陛下の声で正気に戻る。
 陛下は、ハァ……とため息を吐いた。
  
「私とブランシュの親バカの戦いは、なかなか決着がつかず───孫世代に持ち越されたのだ」
「そ、そうでしたの……」
「そして現在、二人の祖母となったブランシュ。彼女が攻撃の手を緩める気配は……ない」

(私のお母様ですもの~)

「……と、まぁ。色々思うことはあるが、元気な子の誕生を願っている!」 
「はい!  お任せ下さい!」 

 当然ですわ!
 私はドンッと胸を叩く。

「そして、出来れば夫の公爵に似た落ち着いた性格の……」
「───そして、ミレーヌにも負けない元気な子にのびのび育ててみせますわ!!」
「……」
「……陛下?」
「……」

 なぜか陛下は無言でがっくりと肩を落としていた。


───


「さあ、赤ちゃん。帰りますわよ~!」

 陛下との話を終えた私は馬車寄せに向かってゆっくり歩き出す。

「さてさて今頃、あなたのお姉様は何をしているかしら?」

 家で留守番中の楽しく遊んでいるであろうミレーヌの姿を想像しては顔が笑ってしまう。
 その時だった。

「……モンタニエ公爵夫人っ!」
「?」

 名前を呼ばれて振り返る。
 そこには鋭い目付きでこちらを見ているどこかの夫人と思われる女性がいた。

(……どなただったかしら?)

 名前がどうしても思い出せないので、とりあえず無難に挨拶を返すことにした。

「はい、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう……ではありません!」

 その夫人はジロリと私に向かって睨むと凄い勢いで迫ってくる。
  
「……」

(そんなキツい目つき……この方、かなり視力が悪いのかしら?)

「モンタニエ公爵夫人!  先日は、とてもとても素敵な花束を主人宛にありがとうございましたわ」
「いえ……」

 その夫人はまたしてもジロリと私を睨む。
 中々の迫力だった。

(そんなに視力が衰えて……)

「……」

 前にも誰かが雑談で言っていましたわ~
 その気は無いのに睨んでいると勘違いされて困っているんです、と。
 きっとこの方も苦労しているに違いありません。

「お気の毒に……」

 つい本音が口から漏れてしまった。

「っっ!  お気の毒ですって!?  そう思うならなぜあんな花束を我が家に贈ってきたのですか!」
「あんな花束……?」
「く……これまでの花束も呪われそうな奇怪な花ばかりで凄かったですけれど……先日の……先日の五度目の花束は…………うっ」
「!」

 五度目の花束……で思い出した。
 この方は、先程の陛下との会話に出ていたモッサリ眉毛侯爵の奥様ですわ!

「主人も……見ていて呪われそうな奇っ怪な花の束だけなら、いくら贈られても我慢出来ると豪語して鼻で笑っていたのに……なぜ、なぜ……最後になって……あんな……!」

 奇っ怪な花束って何かしら?
 不思議に思いつつも続きを聞く。

「夫が昔、意中の女性にプロポーズしてこっぴどく振られた時に用意した花束の花ばかりを揃えて集めるなんて……!」
「え?」
「おかげで主人は、過去の古傷を抉られトラウマが蘇って今も魘されているのよ!」
「……?」

 話についていけずに私は目を瞬かせる。
 花束で古傷を抉った?  振られた時のトラウマ?
 今も魘されている?

「あんな……あんな花束を用意するなんて───いったい、どこで手に入れた情報なのですか!?」
「……」

(ミレーヌちゃんですわ~)

「いったいいつから、主人を潰そうと企み……あの人の唯一の弱点を調べていたのですか!」

(ですから、ミレーヌちゃんですわ~)

 ミレーヌに話を聞きたい所ですが───
 残念ながら語らせたくともミレーヌの言語はまだまだ……

 私はそっと目を伏せる。

「それは……言えませんわ」
「言えない!?」
「はい……」

(まだ、そんなに喋れませんもの……)

「その顔!  ……つ、つまり、あなたは、もしやわたくしのことも調べて……!?」
「……え?」

 何の話かと思い顔を上げると、夫人は真っ青な顔で身体を震わせながら続けた。

「くっ……やはりそんな主人のトラウマ花束の中に、そっと“あの花”を紛れ込ませたのも偶然ではなかったのですわね!?」
「あの花……?」

 今度は何の話でしょう?
 抽象的すぎてさっぱりですわ!?

「……どこで知ったの!」
「え?」
「紛れ込ませていた“あの花は”わたくしが、主人にバレないよう不倫相手と逢瀬をする時に使っていた暗号の花だと知っていたのでしょう!?」
「…………え」

 不倫……という言葉に私は目を丸くする。

「主人のトラウマを抉りつつ、そんな花までこっそり紛れ込ませるなんて…………いったいあなたはどんな調査を!」
「……」

(調査も何も選んだのはミレーヌちゃんですわよ~)

 そしてモッサリ眉毛夫人は、過去の自分の過ちまで暴露してしまっています。
 当然ですが、不倫とかそんな話、私は初耳でしてよ。

「今回の花束のせいで……主人には、わ、わたくしの不貞までバレて、嫡男が自分の子でないかもと疑われ……今やジェルボー侯爵家は破滅寸前……!」
「まあ!」

 何だか侯爵家がとんでもない修羅場になっていますわ!?

(ミレーヌちゃーーん!?)

 あなた、あんなニパッと可愛く無邪気に笑いながら、なんてとんでもないお花を選んでいたんですのーー!?
 一侯爵家が壊滅寸前まで追い込まれていますわよ~!?

 私は可愛い可愛い娘の顔を思い浮かべる。

「家にいるのが辛くて王宮に避難しに来ていたら……相変わらずのほほんとした雰囲気を放ちながら、元凶の公爵夫人が呑気な顔で王宮を闊歩……こんな所で鉢合わせるなんてっっ!」
「のほほん?」
「どうして我が家でしたの!  王制廃止に強固に反対していただけでなく、次の王には夫人ではなく操りやすそうなレアンドル様を支持していたから?  それともちょっとばかしお金を横領していたから!?」

(ん……?  なんかまた新たな罪を暴露しています?)

「いったい……いったいどんな凄腕の情報屋を雇ったのよーーーー!」

(ですから、まだヨチヨチ歩きの私の娘ミレーヌちゃんですわ~)

 その場で、わぁぁと泣き崩れたモッサリ眉毛夫人は、騒ぎを聞き付けて駆けつけて来た王宮の衛兵にそのまま取り押さえられていた。




「……赤ちゃん。ミレーヌちゃん……あなたのお姉様は凄いですわね?」

 モッサリ眉毛夫人のことは王宮の人たちに任せて帰ることにした私は馬車の中で、お腹の中の赤ちゃんに語りかける。

「お母様としては──二人で切磋琢磨して“最強”を目指していってくれたなら嬉しいですわ」


────


「───ミレーヌちゃーん、ただいまですわ~」

 そうしてモンタニエ公爵家に帰宅した私。
 可愛い愛娘は何をして遊んでいるのかと玄関から声をかけると、廊下の奥の方から元気いっぱいなお返事が聞こえた。

「ウァ!  マンマァ~、オァカ~」
「ふふ、おかえりって聞こえたわ。どうやらお昼寝せずに起きているのね?」

 私はミレーヌの声がした方向に向かう。
 元気そうなので安心した。

「ミレーヌちゃーん、こっちかしら~」
「あい!」

 そう声をかけて廊下を歩きながらふと思った。

(そういえば、玄関では誰からのお出迎えもありませんでしたわね~?)

「ん~……これは、まさかまさかの私の想像大当たりかもしれませんわ!?  ね!  赤ちゃん!」

 そう言いながら廊下の角を曲がると───

「マンマァ~!」
「まあ!  ミレーヌちゃん!!」

 私の姿を見つけて、ニパッと嬉しそうに笑う我が子。

(可愛いですわ~)

 そして……
 侯爵家を破滅寸前まで追い込んだ愛娘ミレーヌは、私の想像通り、力尽きて倒れたと思われる使用人の山のそばでキャッキャと楽しそうに笑っていた。
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