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331. 賑やかで幸せな日々
しおりを挟むそれからも、ミレーヌはすくすくすくすく成長し、遂にはハイハイする時期まで大きくなった。
もともと、早いうちからズリズリ移動している気はしていたけれど……
そんなミレーヌ。
私に似て元気が有り余っているのか、部屋の中では飽き足らず、元気いっぱいに屋敷内をハイハイするようになっていた。
「ンバッ!」
「️ミレーヌお嬢様~~お待ちくださーーい」
「ウバァ~」
「ハイハイ早すぎますーー……」
「どこに行った!?」
「バ~」
「え、あっち!?」
モンタニエ公爵家内の廊下から、使用人たちがミレーヌを追い掛けてドタバタと駆けずり回っている声が部屋の中まで聞こえてくる。
「……なるほど、これが義母上の言っていた高速ハイハイか」
「ええ、私の得意技だったそうですわ」
私自身、高速でハイハイしていたという自覚がまるでない。
なので、私が何かを教えたわけでもないのに、ミレーヌは動き始めてから、あっという間に高速ハイハイを習得していた。
(天才ですわ~)
「ミレーヌ……フルールに似て本当に元気だね?」
リシャール様がクスクス笑いながらじっと私を見る。
「旦那様?」
「……いや、フルール。ベビフルールもあんな感じだったのかなと思って」
「そうですわね。特に私はお兄様を追い回していた……という話ですし」
「アンベール殿が羨ましいなぁ……」
リシャール様が微笑みながらポソッと呟く。
「はい?」
「こんな可愛いフルールに追いかけられるなんて、僕なら絶対に鼻がデレデレになってしまう」
「だん……」
隙ありと言わんばかりに、リシャール様がチュッと私の唇にキスをする。
「も、もう! 旦那様! 皆が見て……」
「いいや? 皆の視線も関心も今や高速ハイハイ中のミレーヌに向かっているから大丈夫」
「まあ!」
「ミレーヌは両親思いのいい子だね。僕らにこうしてゆっくり仲良くする時間をくれるんだから」
───チュッ
リシャール様がもう一度、私にキスをする。
「ん……」
「フルール、僕は変わらず君を愛しているよ?」
チュッ……
(国宝が甘く甘く攻めてきますわ~……)
「わ、私……も、ですわ」
「うん」
私の返事に甘く甘く蕩けそうに笑った美貌の顔がまた近づいてくる。
(ああ、今日もキラキラですわ~……)
──ミレーヌ様ぁぁぁーーーー!
──お嬢様、待ってえ~
──ハブゥ~~!
そんな楽しそうな声をバックに私は愛する夫、リシャール様との時間を満喫した。
しかし、もちろん、その後は私たちも使用人に任せっきりになどせず、ミレーヌ確保に参戦。
「───ミレーヌ!」
「バァア!」
大好きなリシャール様の声に嬉しそうに反応するミレーヌ。
これはいける……!
と、誰もが思ったけれど……
「アウァ~!」
「え!」
スカッ!
ミレーヌを捕まえようとしたリシャール様の手が、寸でのところで避けられ虚しく宙を仰ぐ。
「アッバゥバ~」
ミレーヌは楽しそうに笑いながら高速ハイハイでその場から逃げていく。
「くっ……」
「旦那様、惜しかったですわね?」
「あと少しだったのに……」
リシャール様はとっても悔しそうです。
「絶対これで確保! 捕まえた! って確信出来たところで逃げられてしまうあのすばしっこい感じ……」
「旦那様?」
「フルール追いかけっこ祭りを彷彿とさせるよ……さすが娘」
「まあ! ミレーヌちゃん……もしかしてお酒ではなくミルクで酔ってしまっているのかしら?」
それは将来が心配ですわ。
「……とりあえず、旦那様。ミレーヌちゃんにはそろそろお昼寝してもらわないといけないので今度は私が捕まえてきますわ!」
「う、うん……」
「出産後再び、日課だった走り込みを再開したフルールお母様の足は、まだまだベビーに負けたりしませんわよ!」
私はフッフッフッと笑う。
「では、旦那様。行って参ります! ───さあ、ミレーヌちゃん!」
「ウ?」
高速ハイハイ中のミレーヌが動きを止めてこっちを振り返る。
「お母様との勝負ですわよーーーー!!」
「……アウッ!?」
「いいこと? あなたのお母様の中に“敗北”という言葉はありませんのよ!」
「アブァブァ!!」
「ふっふっふ。ミレーヌちゃん、お待ちなさ~~~~い」
「ウ……ウアウァァァ!?」
(ん? ミレーヌ何だかいつもより元気いっぱいな声を出していますわね……? しかも……)
スピードアップまでしていますわ!?
(ミレーヌ……! これが成長……やる気!)
その日、ミレーヌの高速ハイハイは新記録を樹立した。
────
「……なるほど、それで屋敷中の皆が疲労困憊なんだ?」
「ああ」
「そっか……顔は兄上にもよく似ているのに、中身は本当に義姉上に似たんだね……」
「フルールがもう一人いるみたいでとっても可愛いぞ?」
「うん……賑やかだね」
そうしみじみ語るのは、ジメ男。いえ、元ジメ男。
リシャール様の弟、サ……サ……
そんな彼は今、辺境伯領からニコレット様と共に王都に出て来ている。
(ようやく……ようやくですわ)
これまでのジメ男の熱意と努力と成長が実り、ついに辺境伯が折れたという。
まずは婚約から……ということで報告にやって来た。
ちなみに今、ニコレット様はオリアンヌお姉様の所へお祝いに行っている。
(リシャール様ったら頬がゆるゆる! 嬉しそうですわ~)
ジメ男の婚約が無事に決まったことが嬉しそう。
「ふふふ、ミレーヌちゃん。男兄弟というのもいいものですわねぇ」
「ウ?」
私がミレーヌを抱っこしながらそう呟くと、ミレーヌがきょとんとしている。
「ミレーヌちゃんの下には男の子もいいですわよね!」
「アウ?」
「ミレーヌちゃん、次はどちらがいい? 弟? 妹?」
「ウウ? イヴ?」
ミレーヌは不思議そうな顔をしている。
全く……そんなきょとんとした顔をして!
あなたのきょうだいの話ですわよ!?
「弟でしたら、お父様に似た男の子……ミニ国宝ですわよ!」
「イイオッオー」
「そうですわ。ミニ国宝。ミレーヌちゃんは既にベビ国宝ね」
「オッオ~」
ミレーヌは嬉しそうに笑った。
リシャール様にそっくりですわ~
「さ、ミレーヌちゃん。あちらの方もあなたのおじちゃまよ! ご挨拶に行きますわよ~」
「オゥ……?」
私はフッフッフと笑う。
そして小声でミレーヌに囁く。
「いいこと? あちらはね、ジメおじさんですわよ……」
「ウエッオ?」
「ええ。もう今は昔のようにジメジメはしていませんが、残念ながら私の中ではもう切り離せないくらいまで定着してしまいましたの」
「ウ?」
「確か、本当のお名前はサ……サ……サミ……サム? サミュ……ル? そんな感じでしたわ!」
「ウ~?」
コテンッと首を傾げるミレーヌ。
そんなミレーヌに私はニンマリ笑って言った。
「さあ、ミレーヌちゃん! にっこり可愛い挨拶で今日もメロメロにしますわよ!」
「アウァー!」
───
「───ニコレット様との婚約おめでとうですわ」
「義姉上……」
名前を思い出すのは諦めて、ミレーヌを抱っこしながらリシャール様とジメ男の元に向かう。
「こちらがミレーヌちゃんですわ!」
「アゥア!」
「うわぁ! ……生まれた頃に挨拶に来て以来? 大きくなったね?」
ジメ男がミレーヌを見ながら感心したように呟く。
「ええ、赤ちゃんの成長というのはあっという間ですわよ」
「そっか。こんにちはミレーヌ」
「ウエッオー!」
ミレーヌが元気いっぱいに笑顔でお返事をする。
「うわぁ、すごい! 可愛い……! しかも元気に挨拶返してくれるんだね……?」
「ウエウエ! ウエッオ~」
「ははは、なんて言っているのかなぁ?」
「……」
ジメ男はそう言って楽しそうに笑っていますが───……
(ジメジメ! って聞こえるのは私の気のせいかしら?)
「ウエウエ?」
「……」
(いえ、やはり間違いありません。ジメジメ……と言っていますわ!)
母親である私には分かります!
やはり、ミレーヌは天才! お利口さんですし賢い子ですわ。
いっぱい食べて、いっぱい寝て、いっぱい動いて、いっぱい食べて食べて食べて……
そういう時のニパッて笑った顔も……
(もう本っっ当に可愛いですわ~)
それからも、自分や周囲の人たちも幸せいっぱいな日々を送る中───……
「まあ! 旦那様。ミレーヌちゃんが歩き始めましたわ!?」
「早くない!?」
一歳の誕生日を迎えるより前に歩き出したミレーヌ。
「私も早かったと聞いていますから……やはり高速ハイハイで鍛えられたのかもしれませんわ」
「血筋……」
そんなミレーヌの成長を日々感じながら一歳のお祝いをしたり、お兄様の元にも可愛い可愛い男の子が産まれたりと嬉しいことが続く中───……
また、嬉しい報せが舞い込んで来た。
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