王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
上 下
331 / 354

331. 賑やかで幸せな日々

しおりを挟む


 それからも、ミレーヌはすくすくすくすく成長し、遂にはハイハイする時期まで大きくなった。
 もともと、早いうちからズリズリ移動している気はしていたけれど……
 そんなミレーヌ。
 私に似て元気が有り余っているのか、部屋の中では飽き足らず、元気いっぱいに屋敷内をハイハイするようになっていた。


「ンバッ!」
「️ミレーヌお嬢様~~お待ちくださーーい」
「ウバァ~」
「ハイハイ早すぎますーー……」
「どこに行った!?」
「バ~」
「え、あっち!?」

 モンタニエ公爵家内の廊下から、使用人たちがミレーヌを追い掛けてドタバタと駆けずり回っている声が部屋の中まで聞こえてくる。

「……なるほど、これが義母上の言っていた高速ハイハイか」
「ええ、私の得意技だったそうですわ」

 私自身、高速でハイハイしていたという自覚がまるでない。
 なので、私が何かを教えたわけでもないのに、ミレーヌは動き始めてから、あっという間に高速ハイハイを習得していた。

(天才ですわ~)

「ミレーヌ……フルールに似て本当に元気だね?」

 リシャール様がクスクス笑いながらじっと私を見る。

「旦那様?」
「……いや、フルール。ベビフルールもあんな感じだったのかなと思って」
「そうですわね。特に私はお兄様を追い回していた……という話ですし」
「アンベール殿が羨ましいなぁ……」

 リシャール様が微笑みながらポソッと呟く。

「はい?」
「こんな可愛いフルールに追いかけられるなんて、僕なら絶対に鼻がデレデレになってしまう」
「だん……」

 隙ありと言わんばかりに、リシャール様がチュッと私の唇にキスをする。

「も、もう!  旦那様!  皆が見て……」
「いいや?  皆の視線も関心も今や高速ハイハイ中のミレーヌに向かっているから大丈夫」
「まあ!」
「ミレーヌは両親思いのいい子だね。僕らにこうしてゆっくり仲良くする時間をくれるんだから」

 ───チュッ
 リシャール様がもう一度、私にキスをする。

「ん……」
「フルール、僕は変わらず君を愛しているよ?」

 チュッ……

(国宝が甘く甘く攻めてきますわ~……)

「わ、私……も、ですわ」
「うん」

 私の返事に甘く甘く蕩けそうに笑った美貌の顔がまた近づいてくる。

(ああ、今日もキラキラですわ~……)

 ──ミレーヌ様ぁぁぁーーーー!
 ──お嬢様、待ってえ~
 ──ハブゥ~~!

 そんな楽しそうな声をバックに私は愛する夫、リシャール様との時間を満喫した。
 しかし、もちろん、その後は私たちも使用人に任せっきりになどせず、ミレーヌ確保に参戦。

「───ミレーヌ!」
「バァア!」

 大好きなリシャール様おとうさまの声に嬉しそうに反応するミレーヌ。
 これはいける……!
 と、誰もが思ったけれど……

「アウァ~!」
「え!」

 スカッ!
 ミレーヌを捕まえようとしたリシャール様の手が、寸でのところで避けられ虚しく宙を仰ぐ。

「アッバゥバ~」

 ミレーヌは楽しそうに笑いながら高速ハイハイでその場から逃げていく。

「くっ……」
「旦那様、惜しかったですわね?」
「あと少しだったのに……」

 リシャール様はとっても悔しそうです。

「絶対これで確保!  捕まえた!  って確信出来たところで逃げられてしまうあのすばしっこい感じ……」
「旦那様?」
「フルール追いかけっこ祭りを彷彿とさせるよ……さすが娘」
「まあ!  ミレーヌちゃん……もしかしてお酒ではなくミルクで酔ってしまっているのかしら?」

 それは将来が心配ですわ。

「……とりあえず、旦那様。ミレーヌちゃんにはそろそろお昼寝してもらわないといけないので今度は私が捕まえてきますわ!」
「う、うん……」
「出産後再び、日課だった走り込みを再開したフルールお母様の足は、まだまだベビーに負けたりしませんわよ!」

 私はフッフッフッと笑う。

「では、旦那様。行って参ります!  ───さあ、ミレーヌちゃん!」
「ウ?」

 高速ハイハイ中のミレーヌが動きを止めてこっちを振り返る。

「お母様との勝負ですわよーーーー!!」
「……アウッ!?」
「いいこと?  あなたのお母様の中に“敗北”という言葉はありませんのよ!」
「アブァブァ!!」
「ふっふっふ。ミレーヌちゃん、お待ちなさ~~~~い」
「ウ……ウアウァァァ!?」

(ん?  ミレーヌ何だかいつもより元気いっぱいな声を出していますわね……?  しかも……)

 スピードアップまでしていますわ!?

(ミレーヌ……!  これが成長……やる気!)

 その日、ミレーヌの高速ハイハイは新記録を樹立した。


────


「……なるほど、それで屋敷中の皆が疲労困憊なんだ?」
「ああ」
「そっか……顔は兄上にもよく似ているのに、中身は本当に義姉上に似たんだね……」
「フルールがもう一人いるみたいでとっても可愛いぞ?」
「うん……賑やかだね」

 そうしみじみ語るのは、ジメ男。いえ、元ジメ男。
 リシャール様の弟、サ……サ……
 そんな彼は今、辺境伯領からニコレット様と共に王都に出て来ている。

(ようやく……ようやくですわ)

 これまでのジメ男の熱意と努力と成長が実り、ついに辺境伯が折れたという。
 まずは婚約から……ということで報告にやって来た。
 ちなみに今、ニコレット様はオリアンヌお姉様の所へお祝いに行っている。

(リシャール様ったら頬がゆるゆる!  嬉しそうですわ~)

 ジメ男の婚約が無事に決まったことが嬉しそう。

「ふふふ、ミレーヌちゃん。男兄弟というのもいいものですわねぇ」
「ウ?」

 私がミレーヌを抱っこしながらそう呟くと、ミレーヌがきょとんとしている。

「ミレーヌちゃんの下には男の子もいいですわよね!」
「アウ?」
「ミレーヌちゃん、次はどちらがいい?  弟?  妹?」
「ウウ?  イヴ?」

 ミレーヌは不思議そうな顔をしている。
 全く……そんなきょとんとした顔をして!
 あなたのきょうだいの話ですわよ!?

「弟でしたら、お父様に似た男の子……ミニ国宝ですわよ!」
「イイオッオー」
「そうですわ。ミニ国宝。ミレーヌちゃんは既にベビ国宝ね」
「オッオ~」

 ミレーヌは嬉しそうに笑った。
 リシャール様にそっくりですわ~

「さ、ミレーヌちゃん。あちらの方もあなたのおじちゃまよ!  ご挨拶に行きますわよ~」
「オゥ……?」

 私はフッフッフと笑う。
 そして小声でミレーヌに囁く。

「いいこと?  あちらはね、ジメおじさんですわよ……」
「ウエッオ?」
「ええ。もう今は昔のようにジメジメはしていませんが、残念ながら私の中ではもう切り離せないくらいまで定着してしまいましたの」
「ウ?」
「確か、本当のお名前はサ……サ……サミ……サム?  サミュ……ル?  そんな感じでしたわ!」
「ウ~?」

 コテンッと首を傾げるミレーヌ。
 そんなミレーヌに私はニンマリ笑って言った。

「さあ、ミレーヌちゃん!  にっこり可愛い挨拶で今日もメロメロにしますわよ!」
「アウァー!」
  


───



「───ニコレット様との婚約おめでとうですわ」
「義姉上……」

 名前を思い出すのは諦めて、ミレーヌを抱っこしながらリシャール様とジメ男の元に向かう。

「こちらがミレーヌちゃんですわ!」
「アゥア!」
「うわぁ!  ……生まれた頃に挨拶に来て以来?  大きくなったね?」

 ジメ男がミレーヌを見ながら感心したように呟く。

「ええ、赤ちゃんの成長というのはあっという間ですわよ」
「そっか。こんにちはミレーヌ」
「ウエッオー!」

 ミレーヌが元気いっぱいに笑顔でお返事をする。

「うわぁ、すごい!  可愛い……!  しかも元気に挨拶返してくれるんだね……?」
「ウエウエ!  ウエッオ~」
「ははは、なんて言っているのかなぁ?」
「……」

 ジメ男はそう言って楽しそうに笑っていますが───……

(ジメジメ!  って聞こえるのは私の気のせいかしら?)

「ウエウエ?」
「……」

(いえ、やはり間違いありません。ジメジメ……と言っていますわ!)

 母親である私には分かります!
 やはり、ミレーヌは天才!  お利口さんですし賢い子ですわ。
 いっぱい食べて、いっぱい寝て、いっぱい動いて、いっぱい食べて食べて食べて……
 そういう時のニパッて笑った顔も……

(もう本っっ当に可愛いですわ~)



 それからも、自分や周囲の人たちも幸せいっぱいな日々を送る中───……

「まあ!  旦那様。ミレーヌちゃんが歩き始めましたわ!?」
「早くない!?」

 一歳の誕生日を迎えるより前に歩き出したミレーヌ。

「私も早かったと聞いていますから……やはり高速ハイハイで鍛えられたのかもしれませんわ」
「血筋……」

 そんなミレーヌの成長を日々感じながら一歳のお祝いをしたり、お兄様の元にも可愛い可愛い男の子が産まれたりと嬉しいことが続く中───……

 また、嬉しい報せが舞い込んで来た。
しおりを挟む
感想 1,470

あなたにおすすめの小説

三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています

ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

新婚早々、愛人紹介って何事ですか?

ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。 家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。 「結婚を続ける価値、どこにもないわ」 一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。 はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。 けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。 笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...