王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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329. 新しい家族・最強ベビーの誕生

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 リシャール様が医者を呼んでいる間も、赤ちゃんは私のお腹を蹴っていた。
 ポコッ……ポコッ……

「まあ!  本当に今日は今までにないポコポコ具合ですわ!」

 ポコッ……

「ふふ、赤ちゃん。あなた、遂にお外の世界を見たくなりましたのね?」

 ポコッ……
 また、お腹が蹴られる。

「……」

 前々から思っていたけれど、赤ちゃんって凄いですわ。
 こうして、お腹の中でもちゃんと私との会話が成立しているんですもの。
 私、会話が出来るなんて知りませんでしたわ。

「分かりましたわ!  いいですか、お外の世界はね、楽しいことがいっぱいですのよ?」

 ポコッ、ポコッ
 その返事に私はにっこり笑う。

(楽しみ!  そう言ってくれていますわ~)

「安心して?  ────あなたのお母様であるこの私が、楽しい毎日をお約束しますわ!」

 ポコポコポコ……

「だから、元気いっぱいにオギャーと出て来てくださいませ!」
「───フルール!  医者を呼んできたよ!」
「旦那様!」

 ポコッ!
 リシャール様が戻って来た瞬間、強めに蹴られた。
 本当に今日はこれまでにないくらい活発だ。
  
「ふふ、旦那様の声にも反応しましたわね?  そうです、あなたのお父様、この国の国宝ですわよ~」

 ポコッ!

(ふふふ。これまで、二人でたくさんたくさん話しかけてきた甲斐がありましたわ~)

「フルール?」
「旦那様!  赤ちゃん、やっぱり今日お外に出たいそうですわ!」
「!」

 その後の公爵家は、もうてんやわんやの大騒ぎとなった。

 ───そして、そんな私の言葉通り─────……

「オギャーーーー!」

 無事に、元気な産声をあげた可愛い最強ベビーが誕生しましたわ!



──────



「ウー、アウッ」
「まあ!  ミレーヌちゃん、お腹がすきましたのね?」
「アウッ」

(笑いましたわ!  ふふふ、可愛いですわ~)

 モンタニエ公爵家に誕生した最強ベビーは、ミニフルール……女の子だった。

「さあ、ミレーヌちゃん!  今日も元気いっぱい飲んで飲んで飲んで飲みまくって、大きくなりますわよ~?」
「ア~ゥ~」

 名前はミレーヌ。
 リシャール様と男の子だったら、女の子だったら……と事前に決めてあったのですんなり名づけは決まった。
 そして、そんなミレーヌのお世話。
 公爵夫人らしくないと分かっていながらも、出来る限り私は自分の手でやりたいと皆に申し出た。

(リシャール様も公爵家の使用人も寛大で良かったですわ~)

「ふふ、今日もいい返事ですわ!  さすが私とリシャール様の子ですわね?  間違いなく天才ですわ」
「ウ~」
「天才?  そんなの当然です?  ふっ、言いますわね、さすがミレーヌちゃん!」
「アウ!」


───


「───ふっふっふ!  ミレーヌちゃん。そして今日もいい飲みっぷりでしたわね!」
「ゥアウ!」

 コンコン……
 ミレーヌのミルクの時間を終えたと同時に部屋の扉がノックされる音がした。

「……ウ?」
「────フルール?  ミレーヌは?」

 愛する夫、そして父親となったリシャール様がひょこっと顔を出す。

「まあ、旦那様!  ちょうど良かったです。今、ミレーヌちゃんへのミルクを終えたところですわ~」
「そっか、ミレーヌ!」
「アゥア!」

 リシャール様が近づくと、ミレーヌちゃんの顔がパッと満面の笑みになり、手足もパタパタしている。

(おとうさま~と言っていますわ!)

「ええ、そうですわ。国宝のお父様ですわよ?  今日もかっこいいでしょう?」
「アゥアゥ」
「え?  大きくなったら、かっこいいおとうさまと結婚する?  うーん、そうしたい気持ちは分かりますが……それはダメですわ」
「ウー……」
「ごめんなさいね?  いくらミレーヌちゃんでもそれだけは絶対に譲れませんの」

 どうやら、ミレーヌは私に似てどうもリシャール様のことが好みらしい。
 今からこれでは将来が心配ですわ。
 リシャール様程の国宝級美男子……探すのが大変です。

「えっと、フルール?  ……言うほどミレーヌの目はまだ見えていないと思うよ?」
「アゥ!」

 リシャール様がミレーヌを抱っこしながらクスクス笑いながらそう言った。
 そんなミレーヌは抱っこされてキャッキャとご機嫌だ。

「……いいえ!  まだはっきり見えていなくともミレーヌちゃんは本能で感じ取っていますわ!」
「本能で?」
「はい!  私には分かります!」

 私がキッパリ断言すると、リシャール様はハハハと笑った。

「フルールの子だもんね。野生の勘の一つや二つ、備わっていてもおかしくない、か」
「ア~」
「ほら、旦那様!  ミレーヌちゃんも強く頷いておりましてよ?」
「へぇ、賢いなぁ」

 リシャール様に褒められて、ミレーヌはますます嬉しそう。
 もう、ニッコニコですわ!

「甘いですわよ、旦那様。ミレーヌちゃんはお腹の中にいる時からとても賢かったですわよ?」
「確かに……ポコポコお腹を蹴ってはフルールと当然のように会話を成立させていたっけ」
「そうですわ!  ね、ミレーヌちゃん!」
「アウ~」

 ミレーヌ、元気にお返事していますわ!

「それなら……ミレーヌ」
「ウ?」
「いいか?  前にも君がフルールのお腹の中にいる時にも僕は言ったけど───……」
「ウ~?」

 リシャール様がミレーヌの顔をじっと見る。
 その真剣な瞳は、まるでミレーヌに強く何かを訴えているみたいだった。

「旦那様?  どうかしましたの?」
「あ、いや。念には念を……と思ってさ。ね、ミレーヌ」
「アゥア~!」
「?」

 首を傾げる私に、あはは、と笑うリシャール様。
 ミレーヌも「わかったわ!  おとうさま!」と言わんばかりに、にっこり笑ってお返事までしていますわ。
 一体、リシャール様は何を念押ししたのかしら?

「ん?  あ、フルール。ミレーヌが何だか眠そうだよ?」
「……ゥ」
「まあ!」

 確かに、急に眠そうなお顔になっていますわ~

「旦那様、ではミレーヌちゃんをこちらに」
「うん」

 リシャール様はそっとミレーヌをベッドに寝かせると、そのまま当たり前のように自分も一緒に横になってミレーヌに添い寝する。

「……」

 そんなリシャール様の温もりを感じているからなのか、ミレーヌはリシャール様に添い寝されるといつもとても気持ちよさそうに眠りの世界に入っていく。

(リシャール様……)

 ───僕はフルールみたいに“親からのあたたかい愛情”というものを知らない。
 そんな僕でも本当に大丈夫なのかな?

 最初こそ、そんなことを口にして少し不安そうな顔をしていたけれど……

(大丈夫ですわよ?)

 今だってミレーヌ、とっても幸せそうに眠っていますもの。
 さっきみたいにリシャール様に抱っこされている時なんて、とってもとっても嬉しそうです。

「って、あら?  リシャール様まで一緒に眠ってしまっていますわ?」

 思わず、ふふっとした笑みが溢れる。
 リシャール様はミレーヌの横でスゥスゥと穏やかな寝息を立てている。

「ふふ、お疲れでしたのね?  それにしても……」

(寝顔がそっくりですわ~)

 私はニンマリ笑う。

「ミレーヌちゃんは、絶対リシャール様に似た美人さんになりますわね!  ……将来が楽しみすぎてゾクゾクしますわ!」

 ───国宝級の美女!  
 そんなの大好物ですわ。
 私は愛娘の成長を思ってニンマリ笑った。

「……それにしても、旦那様の寝かしつけが優秀すぎて、今のところ私のの出番が全然ありませんわね?」

 さらに言うと、
 リシャール様はフルールがなるべく自分の手で育てたいと言うなら、それは自分も同じだ!  
 と言ってくれて働き方の改革まで行い、ミレーヌが産まれるまでの間に自分の代わりに動ける人間をしっかりと育成していた。
 だから、実際ミレーヌが産まれた直後は仕事をかなりセーブして私の側にいてくれたし、今だって時間を作ってこうして……

(出来る夫は凄いですわ~)

 ですが、お母様曰く赤ちゃんが酷くクズったり夜泣きしたり……というのはこれからが本番らしい。
 なので、私はいつでも喉の調子を整えておきますわ!

「んん、んん……」

(スペシャル子守唄ですわよ!  楽しみにしていてね!)

「……」

 ふわぁ……
 そっくりな顔でスヤスヤと気持ちよさそうに眠る二人を眺めていたら、何だか私の方まで眠くなってきた。

「ん、私も……少しだけ」

 私もモゾモゾとベッドに入り、リシャール様とは反対側のミレーヌの隣に横になる。
 素敵な夫と可愛い娘。
 そして、この先まだまだ誕生するはずの命───

「ふふ……幸せ、ですわ」

 自然と笑みが溢れる。
 これまでの私は色々な“最強”を目指す中、リシャール様との最強夫婦も目指して来たけれど……
  
「……さらなる目標は…………最強幸せ、家族……です、わ」

 そんな最強家族の姿を夢見てニマニマ笑いながら、私は眠りに落ちた。

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