王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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315. 新たな波乱?

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「それにしても……なんでさっきから僕たちがチラチラ皆に見られてるんだろう?」
「?」
「すごい視線を感じないか?」

 リシャール様にそう言われて私はモグモグしながら会場内に目を向けると……

(確かに!  妙に皆様がチラチラこっちを見ていますわ!)

「何だろう?  やっぱりフルールの胃袋が空っぽにしたお皿が目立つからかな?」

 リシャール様の視線が既に空っぽになって、テーブルの端にばんばん積み上がっているお皿に向かう。

「いや?  でも、フルールがたくさん食べる姿を見せるのは今更だよ……な?」
「……」

 コクコクと私も頷く。

「うーん?」

 リシャール様は首を捻りながらも、せっせと私の口の中に美味しい料理を運んでくれるその手は緩めません。
 なんて至れり尽くせり!  
 幸せですわ!

 ───フルール、これ美味しいよ!  フルールの好みだと思う。はい、口開けて?
 ───まあ!  美味しいですわ!

 リシャール様はこんな風に普段から私に美味しい物を分けてくれる癖がついたせいなのか、すっかり自然と行っている。

 なぜかリシャール様から食べさせてもらうと、自分で食べるよりも更に美味しくなる不思議。

(倍の勢いでお皿が空っぽになりますわよ~)

 そうして何度目かのあーんをした時だった。

「フ、フルール!  リシャール様!」
「ん?  アンベール殿?」

(お兄様?)

 声をかけられたので振り返ると、そこにはお兄様の姿。
 両手にはこんもりとお肉が乗ったお皿を抱えています。

(肉づくし!!)

 私は慌てて口の中の食べ物を飲み込んでから訊ねる。

「お兄様?  私のために肉料理そちらを持って来てくれましたの?」
「は?  違う!  これはあっちで待っているオリアンヌの分だ!」
「……まあ!」

 あっち……とお兄様の示した方向には、オリアンヌお姉様が幸せそうに肉料理を頬張っていた。
 肉づくしなので何となく分かってはいたけれど、しょぼんと肩を落とす。

「な、なんで、そんながっかりする!?  フルールは今、食べている分がちゃんとあるだろう!?」
「それはそうなのですけど……」
「全く……相変わらず。フルールらしいと言えばフルールらしいが……」
「ええ。お兄様のおかげで、私のお腹が肉を欲し始めましたので次は肉料理中心にしますわ~」

 すぐに気を取り直した私がテーブルに並んだ肉料理に目をつけるとお兄様が私を止めた。

「切り替え早いな!?  それより、フルール!  リシャール様も!」
「はい?」
「うん?  僕も?」

 お兄様は、交互に私たちの顔を見てはぁ、と深いため息を吐いた。

「おそらく、先ほどから二人のしている行動は無意識なんだろう……」
「何がですの?」
「無意識?」

 私とリシャール様が揃って首を傾げる。
 お兄様はそんな私たちに向かって、さらに深いため息を吐いた。

「公開イチャイチャだ!  なんでこんな人前でナチュラルにあーんってしているんだよ!」
「え?」
「うん?」 

 公開イチャイチャ?
 私とリシャール様が顔を見合わせる。

「二人揃ってその顔……やっぱり無意識じゃないか!  リシャール様までそんな顔するなんて……!」
「え?  僕も?」
「俺はリシャール様のことは信じていたのに……もうすっかりフルールに感化されているじゃないか……くっ!」

 お兄様が何に嘆いているのかさっぱり分かりませんわ?

「……いいか、フルール?」
「?」
「今、お前はとっても有名。時の人だ」
「光栄ですわ!」

 私は、目を輝かせてふふんと胸を張る。

「喜ぶのはいいが、そんなお前の一挙一動に皆の関心はとてつもなく高いんだぞ!」
「……関心」
「しかも、このパーティーは結婚を祝うパーティー……ただでさえ甘い雰囲気なのに、お前たちの公開イチャイチャ……あーんに触発されて…………よーく見ろ!」
「まあ!」

 お兄様に促されて会場内をよくよく見渡すと、あちらこちらでカップルや夫婦が照れながらあーんをしていた。
 そして更に、よくよく見れば向こうの方ではアニエス様もナタナエル様に料理を口に突っ込まれて嬉しそうに暴れていますわ!

「皆、仲良しですわ~」
「そんな可愛いもんじゃない!  会場は一気にイチャイチャモード……ピンク色だ!!」
「え?  でも、お兄様だってこれからオリアンヌお姉様にそのお肉をあーんって……」

 私がそう指摘するとお兄様がぐっ……と黙り込む。

「と、とにかく……フルール。もう少しお前は周囲というものを気にしろ、いいな?」
「周囲……」
「仲良しなのはいいが、公開イチャイチャは程々に!  皆、フルールの真似をしたがるからな!」

 お兄様はそう言った。

(真似……)

 なるほど……
 だいぶ私の“最強”が広まって来たので、皆が私の真似をして最強を目指し始めたということですわね!?

(これはいい傾向ですわ~) 

 私はニンマリ笑う。

「フルール!  ……その笑顔、絶対何か違うことを考えているだろ!?」
「何がです?  ご安心くださいお兄様!  私は必ずや立派な皆のお手本となってみせますわ!」
「なんだろうな……既になんか違う気がするし、そもそも全然、安心出来ない……」

 だって、一国をお土産にしちゃうんだぞ?  とお兄様はブツブツ呟いている。
 お兄様はいつまでたっても心配性ですわ~

 そう思ってにこにこしていた時だった。

「あ……それから、フルール。忘れないうちに言っておく」
「なんですの?」

 私が首を傾げるとお兄様はコホンッと軽く咳払いをした。

「母上が言っていたんだが……近々、トリスタンが帰国するそうだ」
「………とり?」

 お兄様の顔がピクッと引き攣る。

「フルール?  なんだその反応は?」
「え?  えっと……」

 大変!
 ビクビク……お兄様のお顔が更に引き攣っていきますわ?

「まさか忘れた?  他国に留学していた俺たちの従兄弟だぞ!!  留学前、フルールは彼を下僕にしていただろうーー!?」
「はっ!  下僕!」

 それでようやく思い出しましたわ!
 トリスタン。
 彼は私より年下の従兄弟(母方)なのですが……
 五年ほど前から留学していてそれ以降会っていなかったから……

「え、フルール……まさか君は従兄弟の名前まであやふや……?」
  
 リシャール様がじとっとした目で私を見る。

「いえいえ、さすがに覚えていますわ!  あまりにも久しぶりに聞く名前すぎて少し反応が遅れただけですのよ!」

 ホホホ……と笑って誤魔化す。

「えっと、今は幾つになったのかしら?  確かお別れした時が──……」

 リシャール様とお兄様が、まだじとっとした目で私を見て来ますわ?
 おかしい……どうしてこんなに信用ないんですの?
 ちゃんと覚えていますわよ!
 トリスタン……トリスタン……トリスタン……
 ほら、ばっちり!

 私はえっへんと胸を張る。

「なんか、また可愛いことしてる……あー……ところで、下僕って?  フルール、本当に下僕がいたの?」

 リシャール様が笑いながら訊ねてくる。
 お兄様が先に答えてくれた。

「トリスタンは、何故か最強令嬢を目指すフルールに憧れていたので……」
「そうですわ!  なんと弟子入り志望されましたが、まだまだ私も未熟でしたので結果として彼は下僕になりましたわ!」

 ジュースとおやつを貢がれる日々!
 懐かしいですわ~

「そういえば……」
「ん?」
「トリスタンが留学する前に言っていましたの」

 こうして彼の話題が出てふと、思い出した。

「何をだ?  フルール」
「ほら、トリスタンが留学したのって私がベルトラン様と婚約する前でしょう?」
「ああ、そうだったな」

 お兄様が頷く。

「フルールお姉ちゃんみたいなパワフルな人は普通の人には受け止められないだろうから、帰って来たら僕が結婚してあげる!  って」
「え!」

 ふふふ、子どもは無邪気で可愛いですわ~

「フルール?  待て。そんな話、初めて聞いたぞ?  それでお前はなんて答えたんだ?」
「なんて?  もちろん、その場でお断りしましたわよ?」

 私の言葉にお兄様とリシャール様が顔を見合せてホッと息をついた。

「ちびっ子が生意気ですわ、まずは私より大きくなってから出直していらっしゃい、と!」
「……」 

 お兄様とリシャール様が再び顔を見合わせる。

「そしたらトリスタンったら涙目になってしまって……宥めるのが大変でしたわ」

 ですが、あれから五年ほど経っているので、きっともう大きくなっていますわね~

「な、なぁ、フルール……それ大丈夫なやつか?」
「大丈夫?  何がです?  お兄様」
「いや、それトリスタンは拗らせてる可能性が……」    

 拗らせる?  何を?
 私は内心で首を傾げる。

「トリスタンが大きくなったであろう間に私も色々あって人妻になりましたし、帰って来たら旦那様を思いっきり自慢しますわよ~」

 国宝級の夫を自慢することばかり考えていた私は、お兄様とリシャール様がどことなく不安そうな顔をしていることにはさっぱり気付かなかった。


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