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310. 真実の愛はすぐそばに……
しおりを挟む「旦那様……?」
「……」
隣に座っているリシャール様がじっと私を見つめる。
私もじっとその目を見つめ返す。
「あの花がフルールに似て可愛いかは一旦置いておくとして──」
「?」
「フルールは可愛いよ」
そう言って笑ったリシャール様がそっと私の頬に腕を伸ばす。
「旦那……様?」
「大好きだ───いつものびのび元気いっぱいでたくさん食べる所も、ハチャメチャに走り回っている所も……」
そう口にしたリシャール様の美しい顔が近付いてきて、チュッとキスをされた。
「……ん」
リシャール様はそのままたくさんのキスを繰り返す。
(どうしてかしら?)
もう、キスは数えきれない程たくさんしていますのに。
この胸のドキドキはいつまで経っても治まることがありません。
「……」
私からもリシャール様の首に腕を回してギュッと抱きつく。
「……フルール?」
「わ、私も……大好きですわ」
私のことをこんなにも大事に思ってくれて理解もしてくれて尊重してくれる。
間違ったりおかしな方向に走り出しても一緒に着いてきてくれて正しい道を教えてくれる……
(あなた以上の人なんていませんわ───)
ギュッ……
私の身体を抱き締め返しながらリシャール様が耳元でポソッと言う。
「───ねえ、フルール」
「はい?」
「フルールは本物の真実の愛が……って言ってたけど」
「はい……残念でしたわ。もちろん、家族愛も素敵なのですけれど」
私がそう答えると、リシャール様が小さく笑った気配がした。
「……傍から見たらさ、僕たちこそ“真実の愛”で結ばれた夫婦には見えないのかな?」
「え?」
私は少し身体を離してリシャール様の目を見つめる。
吸い込まれそうなほど綺麗な目ですわ!!
「僕は、なかなか運命的な出会いだったと思っているんだけどな」
チュッ
リシャール様が私の額にキスを落とします。
「あのまま、僕らがお互い元の相手と結婚していたら───……」
「していたら?」
「少なくとも僕は、こんな風に笑っていない」
そう言われて私は、今や社交界の片隅でどうにかコソコソ生きているらしい元婚約者、ベルトラン様を思い出す。
「……私もこんな風に元気に走り回っていないような気がしますわ」
「うん。ベルトランはフルールの本当の魅力を全く分かっていなかったからね」
私たちは顔を見合せてクスッと笑う。
そして、もう一度唇を重ねる。
(そうでしたのね……)
リシャール様と甘い甘いキスをしながら私は思う。
あの日、ベルトラン様とシルヴェーヌ元王女が宣言したペラッペラの“真実の愛”という言葉の影で……私たちの本物の真実の愛が始まっていたんだわ───
(私が求めていた、真実の愛はこんなすぐそばにあったんだ)
「旦那様……いえ、リシャール様を拾ってから、色んなことがありましたわ」
「……うん」
リシャール様が大きく頷く。
「フルールのおかげで幸せになった人は沢山いる」
「ふふ」
「そして、更生出来なさそうな悪い奴はとことん成敗されている」
「はい?」
それはいったい何の話ですの? と私が目を瞬かせると、リシャール様が優しく微笑んだ。
「フルール、君はそのままでいいよ」
「そのまま……」
「そう。そのまま。そのまま元気いっぱいで、僕のそばにいて?」
私はじっとリシャール様の顔を見つめたあと、ニンマリと笑う。
「そんなの───当然ですわ!」
そう言ってリシャール様にもう一度、ギュッと抱きついた。
(ようやく見つけた、本物の真実の愛……こんなすぐそばに)
絶対に離したりしませんわ!!
───ホホホ! 分かるかしら? だって、彼以上に素敵な男なんてこの世にいないもの!
(お母様……)
お父様もお兄様も確かにとっても素敵ですし大好きですわ。
でも、私の夫、リシャール様はもっともっともっともっともーーっと素敵なんですの。
(今度、皆で夫や恋人の自慢大会を開催ですわ……!)
─────
それから、私がお見舞いとして贈った可愛いお花さんがお掃除リストに記載された貴族の各家に無事に届けられた。
「そろそろ、届いた頃ですわ~皆様、喜んで受け取ってくれたかしら?」
「……連日、どこかの屋敷が騒がしくなっているみたいだよ」
リシャール様がクックックと笑いながら教えてくれた。
悪い笑い方ですわ~
「まあ!」
どうやら皆様には喜んで貰えている様子。
良かったですわ~
私は手を叩きながら喜ぶ。
「幻の令息も思った通り、大変喜んでくれましたし、あのお花は凄いですわ!」
あれからお花を持って彼の元を訪ねると、最初は野菜がないことに明らかにガッカリしていたけれど、お花を見た途端に目をキラキラに輝かせていた。
───野菜夫人が育てた花……! 何これ、天才……! 野菜夫人は野菜以外も呪えたの……!?
(呪いとは?)
相変わらず変わった方ですわ~
「あー……十中八九、喜ぶだろうとは僕も思っていたけど、想像より嬉しそうだったね」
「どうやったら育てられるの? とキラキラした目で訊ねられましたけど、こればっかりは答えようがありませんでしたわ」
私はうーんと唸って腕を組む。
あのお花は知らないうちに育っていたのでよく分かりません。
「今も庭に生えているんだっけ?」
「はい!」
「結構の数をあちこちの家に贈ったよね?」
「それでも、またニョキニョキ生えてきますのよ。生命力もかなり強そうですわ!」
やはり、お見舞いにピッタリの花ですわ~
私が満面の笑みでそう答えると、リシャール様が苦笑しながら私の頭を撫でた。
「(生命力……)フルールに似たのかな?」
「(可愛い所……)ええ、そうですわ!」
私は自信満々に頷いた。
こうして、
お掃除リストに上がっていた貴族たち、彼らは───
中には虎視眈々と復帰の機会を窺っていた者もいた。
しかし、フルールによるこの無邪気な“追い討ち”を
“お前を食べてやる”
という警告として受け取った者が多かった。
次から次へと花を見ては泡を吹いて倒れていく。
目覚めたあと最強の公爵夫人であり、未来の女王フルールに完全に目をつけられたと悟った彼らは、
(やはり、自分も消される運命……それも、社交界からのみではなく……命そのものが危ない!)
と、勝手に命の危機への恐怖で震え上がり……
復帰どころか爵位を子供に譲って隠居を決めたり、領地に帰って引きこもりになる道を選ぶ。
また、よこしまな野望を抱く肉食系の娘も花を見て共に倒れ、同様に命の危機を覚えたので社交界からは姿を消していった───……
「それから、野菜コンテストだけど」
「あ、どうなりました!?」
私はグイグイとリシャール様に迫る。
「フルール……近っ……近いから!」
「だって気になります!」
「分かった、分かったから!」
リシャール様が苦笑しながら私を抱き込む。
ここで私を突き放さない所が大好きですわ~
「やってみようって話になったよ」
「!」
「応募は数を搾って事前登録制にするとか、色々、条件や制限を付ける検討は必要だけど」
「実際に農業されている方々のお仕事を奪ってはいけませんものね」
「そういうこと。それからやっぱり人を雇って丸投げする可能性もどうしてもあるからね」
リシャール様は平民部門と貴族部門に分ける案などを話してくれた。
「審査員長はレアンドル殿が手を挙げていて皆、悩んでる」
「ふふふ」
「でも、考えが読めない彼が審査員長になった方が……という声も多かったりする」
なるほど!
幻の令息の感性ですと必ずしも売り物として完璧な野菜が選ばれるとは限らない───
それなら不慣れな貴族たちも、好きなように育てられます。
楽しそうですわ。
私が色々、想像してニンマリしていると部屋の扉がノックされる。
「奥様、本日の午後にパンスロン伯爵令嬢が訪問したいとの連絡がございました」
「え? アニエス様が!?」
まさかの大親友の訪問に私の目が輝く。
基本、私の方が突撃することが多いので、アニエス様から訪ねてくるのは珍しい。
「旦那様! お花……あのお花を用意しなくては!」
テーブルの真ん中にどーんっと飾ってお出迎えですわ!!
「どーんっ!? 落ち着いてフルール。彼女は確かに耐性は強いとは思うけど、さすがにあの花がどーんは要件を聞く前に気絶しちゃうかもしれないよ」
「それは───あまりの可愛さに感動しすぎて、ですの?」
「…………そ、そう、だ!」
「……」
リシャール様はコクコクコクコクと強く頷く。
そのお顔はかなり真剣だった。
「……分かりましたわ」
「!」
ホッと胸を撫で下ろすリシャール様。
リシャール様がそこまで言うのなら、部屋の片隅にそっと飾るだけにしておきましょう。
(それにしても、アニエス様……なんのお話かしら~?)
その日の午後、ドキドキしながら私は大親友を出迎えた。
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