王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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301. お土産ですわ! ③

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 ────国が“お土産”なんて話はこれまで一度も聞いたことがない

 陛下にそう言われて考えた。

「……確かに!  私も初耳ですわ!」

 そして、私も同じ結論に達したのでにっこりと笑って同意する。

「夫人……笑っている場合か?」

 そんな私の顔を見た陛下はガクッと項垂れた。
 そのまま、ブツブツととっても小さな声で呟き始めた。

「力が抜ける……え?  本当に公爵夫人は何者?  全て計算?  手のうち?  底が見えない……やはり別の意味でもブランシュより怖くて恐ろしいんだが……」
「───ちょっと聞こえているわよ?  あなた、私の可愛い娘を貶すなんてどういうつもり?」
「ひっ!  ブラン……シュ」

 お母様に睨まれてサーッと青ざめる陛下。
 相変わらずお母様の方が陛下より強いですわ~

「いいこと?  誤解しないで頂戴?」
「ブランシュ……?」
「フルールが計算?  まさか!  この子はそんな小難しいことなんて考えていないわよ」

 お母様が胸を張ってばーんと言い切る。

「フルールはね、思うがままに行動しているだけよ」
「思うがまま……」
「そうよ。どうせ、隣国の阿呆親子は君主として相応しくない阿呆なことでもしていたんでしょうよ」
「阿呆なこと……」
「それが発覚して結果的に失脚した……それだけにすぎないわ。フルールはそこに少し関与しただけ!」

(その通りですわ~)

 さすが、私のお母様。
 理解が早くて助かりますわ。

「だ、だとしても……国が一国が土産……土産なんだぞ!?」
「フルールは人たらしの面があるから、王妃殿下とはそのおかげで仲を深めたんじゃないの?」
「……仲を?」
「野生の勘でも発揮して恩でも売ったんじゃない?」
「~~っ」

 陛下がグワァァと頭を抱える。
 しかめっ面……とっても頭が痛そうですわ。
 頭痛薬は常備していないのかしら?
 どうやら、陛下は私のお土産のことで悩んでいるようですわ。

(やっぱりあのネチネチが治めていた国なんて不安いっぱいですわよね)

 私は安心して欲しくて笑顔を向ける。

「───陛下!  大丈夫ですわ」
「……何がだ?」
「あちらの国のお掃除は王妃殿下が責任もってやってくれるそうです!」
「……掃除?」

 陛下が怪訝そうな目で私を見る。

「あちらの国王のやりたい放題を黙認していた偉そうな方々は皆、きっちり処分され始めましたわ」
「処分?」

 王妃殿下は言っていた。
 国を譲る話を持ち出した時は黒い人たちばかりが反対していたとか───

「……そうは言っても王妃殿下だって人間。情に流されたり、身内には甘い処分も……」
「ですが、王妃殿下は率先してご自分の実家を潰していましたわ?」
「……は?」

 陛下が目をまん丸にして私を見る。
 私はその視線を受けながら頷き返す。

「実家……を?」
「かなり真っ黒だったそうですの」
「は?」

 最後のお別れの時に知ったのだけど、私が白黒判定した中にはなんと王妃殿下の実家の当主……つまり、父親も黒い方にいたそうですわ。
 かなりの真っ黒と判明し、王妃殿下は容赦なく実家ごとぺっちゃんこにしたそうです。

「──この件、私は正式にお返事はしておりません。今は持ち帰って来ただけですわ」
「公爵夫人……」
「メリット、デメリットを考えて我が国として結論を出せば良いかと思います」
「……」

 陛下は深刻な表情で黙り込む。

「それに───そもそもですけど、あちらの国と我が国の関係が危うかったのは、昔からですわよね?」
「夫人……?」

 私は陛下に向かってにっこり微笑む。

「王妃殿下の足置き台として再就職した元国王がお母様に振られたことへの逆恨み以前からの話──のはずですわ」
「……」
「歴代の陛下たちは、表向きは向こうの国から仕掛けてきている、我が国の領土を狙っているなどと私たち国民には説明していましたけど本当の所は違いますわよね?」

 陛下はうっ……という顔をして躊躇いながら口を開く。

「……そう、だな。確かに祖父や父上……そして兄上は隣国の土地を狙っていた」
「……」

 やっぱりそうでしたわ!
 陛下が息を吐く。

「……夫人はどこかでそのことを耳にして知っていたのか?」

 私はにこっと笑う。

「いいえ。少し考えれば誰でも分かります。だってあちらの国には大きな鉱山がありますもの───それも我が国との国境付近に」

 そう。
 つまり、宝石がガッポガポ採れるのですわ~
 ですから、ほんの少し我が国の領土を拡大出来れば……
 歴代の国王たちがそう考えていても不思議ではありません。

「……」
「ふふ」

 黙り込んだ陛下に向かって私はニンマリ笑う。
 そんな私の顔を見た陛下がハッと息を呑む。

「まさか、こ、公爵夫人……君はつまり歴代の国王が成し遂げられなかった成果を私に──」
「いえ、そんなことはどうでもよくて───何より、あちらの国の鉱山で働く労働者が気の毒でなりませんの!」
「……ん?  どうでも……?  私のためではないのか?」

 陛下が首を傾げた。
 そんな陛下に私はきっぱり告げる。

「違いますわ」
「なっ!!」
「どうして私が陛下の成果とやらに貢献する必要があるんですの?」

 私が首を傾げると陛下はくっ……と押し黙った。

「話を続けますわ。あちらの元国王は、即位十年を記念した銅像を製作していましたの」
「……銅像?」
「ええ!  とても悪趣味の銅像だったそうですわ。なんと、そこには、たっぷりの宝石が使われていたそうですの!」
「……そうですわ?」
「そんな贅沢三昧の銅像のために彼らは採掘していたわけではありません!」

 怪訝そうに首を傾げる陛下。

「あー……確かにあの粘着質な性格の国王なら作りそうな感じがするが……」

 陛下は、うーんと唸りながら腕を組んだ。

「だが、夫人はその贅沢三昧の銅像とやらの実物を見たのか?」
「見たと言えば見たようですが…………知りませんわ!」

 私は満面の笑顔で胸を張り堂々と答える。

「は?」

 すると何故か、部屋は静まり返り、リシャール様以外の皆が困惑気味に顔を見合せる。
 陛下がおそるおそる私に訊ねた。

「知らな……い?  ならば銅像の現物はどうした?」
「粉々ですわ!」
「こっ……!?」

 ギョッとする陛下。
 他の皆も同じような顔をしていますわ。
 そして私への視線も熱いですわ~

「えー……コホンッ、その銅像は……ちょっとした手違いでお酒を口にしてしまったフルールが……酔っ払って破壊しました。粉々です」

 そこで軽く咳払いをしながら説明を始めるリシャール様。

「は、ははは破壊だとーー!?」

 陛下が口をあんぐり開けて叫ぶと私を凝視します。
 そんなにじっくり見られても粉々は粉々ですわ。

 お母様とナタナエル様はお腹を抱えて笑いだし、オリアンヌお姉様と幻の令息はキラキラの目で私を見ています。
 お兄様とお父様と大親友のアニエス様は仲良く頭を抱えていますわ。

 リシャール様はもう一度、軽く咳払いをしながら続ける。

「宝石ゴテゴテの銅像が気に入らなかった酔っ払いフルールは、まず宝石だけでも外そうと試みました……しかし、おそらくですがちまちました作業が面倒になったのでしょう」
「は?  面倒?」
「はい。そのまま、フルールは義母上譲りの美しい蹴りを……」

 蹴り……という所で陛下は小さく悲鳴をあげて脅えた目で私を見る。

(ぜーんぜん、覚えていませんわ!)

 私はえっへんと胸を張る。
 陛下の目がますます脅えた。

「───フルール!  やっぱりお前は破壊行為をしていたのか!!」
「お兄様?」
「請求書はないという言葉に安心していたが……お前は……お前は……」
「でも、請求書はありせんわ?」

 お兄様はそういう問題じゃない!  と声を張り上げます。

「まあまあ、今回はいいじゃない、アンベール。あんな男の銅像なんて百害あって一利なしだもの」
「母上……」
「壊れてくれた方が世のため人のためよ、宝石も解放されて喜んでいるわ」

 お母様が笑いすぎて涙目になりながらお兄様を宥めています。
 私もそう思いますわ~

「そして────その他にも色々な面であちらの国王の心をポッキリへし折ったフルールにより、国王が寝込んだため、僕らの滞在が延びました。以上です」

 リシャール様が素敵にまとめてくれましたわ!
 拍手です!
 私はパチパチと手を叩く。

「ふ、ふふ、ふふふふふ……やっばりどこからどう聞いてもフルール様が隣国を潰したようにしか聞こえないわ……?」

 アニエス様が突然笑い出して、どこか辛そうに額を抑えています。

(まあ!  アニエス様も頭が痛そうですわ?)

 お薬は無くても大丈夫かしらとハラハラする。

「やっぱり野菜夫人は人と違う……!  向こうの国で採掘したらお宝を発見しそう……!」
「おい!  レアンドル!  よ、余計なことを言うな!」

 幻の令息の発言にギョッとした陛下が慌てています。

「夫人が、嬉々としてまた隣国に向かうと言い出すかもしれないだろ!」
「え~……?」

(お宝!)

 その言葉に私の血が騒ぎ目がキラッと輝く。
 お宝───それは、ぜひ、いつか探してみたいですわ!

「ああ……!  今の発言でフルールの……フルールの目が……」

 お兄様が頭を抱える。
 にこっ!
 当然ですわ。お宝と聞いて黙ってなどいられません。
 そう思った私が笑顔を見せるとお兄様はますます元気いっぱいの唸り声を上げた。

「…………お宝発見……フルールならやりかねん」

 お父様までそう呟いた。

 ───分かりましたわ!  
 その期待、いつか応えてみせますわ!
 待ってて、お父様!

「──旦那様!」

 私は満面の笑みでリシャール様に声をかける。

「フルール?」
「見てください!  持ち帰ったお土産、みんな喜んでくれていますわ!」
「……」

 私の言葉を聞いたリシャール様が無言で皆の様子に目を向ける。

「よ、喜……ん、まあ、お腹抱えて笑ったり、崇拝した目を向けている人もいるからね……概ね、喜ばれている……かな」
「ふふふ、あちらの国の王妃殿下も、これからは自由に生きられるといいですわね!」
「フルール……」


 その後、ネチネチ国の吸収をどうするかという話し合いの場が正式に持たれたことにより、私の隣国訪問によるお土産の話は一気に社交界に駆け巡った。

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