王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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296. 暴いてみせますわ!

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「え?  わたくし、この本で最後はあの人の頭を殴ろうと思っているんだけど。本、壊さない?」
「うおぅ!?  な、殴……お──王妃!?」

 王妃殿下の言葉に皆がギョッとした。
 なんと!  やる気満々でしたわ!

(物理的な意味でもぺっちゃんこにする気でしたのね!)

 中でもネチネチ国王が特に面白い声を上げていた。
 私は、にこっと笑う。

「まあ!  それでしたら、そこの角を使うことをおすすめしますわ」
「ひっっっ!?」

 私が本の角を指さすと、ネチネチ国王はさらに嬉しそうな悲鳴を上げていた。
 あんなに細かった目を精一杯大きく見開いて、私を凝視する。

(ネッチリした視線ですわ~)

「……な、な、な……」

 私を凝視しながらプルプルしているネチネチ国王を無視して王妃殿下が私に訊ねる。

「えっと?  ここの角でいいかしら?」
「はい。ここなら、よりダメージを与えられると思います」
「確かに痛そうね?」
「かなり痛いはずですわ!」

 ふふ、と私は微笑む。
 この厚さですもの。
 通常の本よりもダメージは大きいはず!

「お、おい……お前たち……」

(しつこいネッチリですわ~)

 私は無視して王妃殿下との話を続ける。

「そうなのね……でも、さすがに死んだりはしないわよね?」
「そこまでは……きっと大丈夫ですわ」

 また寝込むかもしれませんけど。
 でもそうなっても、もう特に困ることはないはずですし。

「ぅおぉい!?  人の話を聞け!」

(うるさいネッチリですわ~)

 私はジロリとネチネチ国王を睨む。

「くはっ!  ま、舞姫と同じ目つき…………!」
「……」

 すると、ネチネチ国王は私の顔を見てポッと頬を赤く染めた。
 ますます粘着度と気持ち悪さが上がった気がしたのでそのまま無視を続ける。

「王妃殿下、大丈夫です。もう一度本の中を少し調べるだけですから壊したりはしません」
「ならいいのだけど」

 私は王妃殿下から本を受け取る。
 そして、ページを捲って“隠しごと”を探す。

(……私としたことがうっかりしていましたわ)

 ここまでネチネチした性格の国王ですもの。
 もっともっと深掘りするべきでしたわ。

「……」

 私は自分に喝を入れる。

 ───思い出すのよ、フルール!
 私は子どもの頃から、お兄様といっぱい遊んで来たでしょう?
 その中にきっとヒントが───

「あ!」

 私は手を止めて考える。
 最後の数ページ。
 ここからは全て真っ白だった。

(これから何かを記載するためのページだとばかり思っていたけれど……)

 じっと穴があくほど見つめるけれど、白紙は白紙。
 文字が書かれている様子はない。

(うーん……ですが、ここから怪しい匂いがしますわ)

 私の野生の勘がそう言っている。
 名探偵フルールの名にかけて、隠しごとは全て暴いてみせますわ!

 白紙の紙……真っ白。
 てが……み……

(あぁ!)

 私は、ハッと思い出す。
 そうですわ!
 あれは、子どもの……チビフルールの頃の私がお宝の匂いを嗅ぎ付けて、お父様の部屋を漁った時───

『おかーさま?  どうしてこのおとーさまへのおてがみは、まっしろなんですの?』

 私はお父様の部屋でゲットした真っ白な手紙を持ってトコトコとお母様の元へ訪ねた。

『ん?  真っ白?  あら、フルール。甘いわね』
『あまい?  これおいしいんですの?』

 それは毎日の日課となっているお母様からお父様宛ての恋文のはずなのに、真っ白で何も書かれていなかった。
 だから、不思議に思った。

『あ!  こら、フルール。食べないの!  そういう意味の甘いじゃないわよ!』
『あ!』

 あの時、お母様はあーんと口を開けて手紙を食べようとした私からそれを取り上げたあと、ふふっと笑って───

『よーく見てなさい。今日もこれにはお母様からお父様への大好きがいっぱい詰まっているんだから』
『だいすき?』

 そう言ってお母様は手紙を……

『わあ!  ほんとうですわ!  だいすきがいっぱい!』
『───でしょう?』

 その後、現れた“だいすき”という文字を見て二人でキャッキャと笑っていたらお父様が部屋にすっ飛んで来て……

『ここに居たかフルール!  また部屋を漁ったな!?』
『おとーさま!』
『くっ……可愛い……じゃなくて!  勝手に部屋を漁ってはダメだろう!  今日のブランシュからの手紙が行方不明───ってブランシュ!?』
『ふふふ』

 ……あの時のお父様の慌てっぷりにお母様はずっと嬉しそうでしたわね。

(そうですわ!  あの時のお母様は確か手紙を……)

 ───もしかしたら、あの時のお母様の真っ白なお手紙と同じかもしれませんわ!

 顔を上げた私はキョロキョロと室内を見渡した。
 そして、目的のものを見つけてニヤリと笑う。

「夫人?  何か分かったの?」
「ええ、もしかしたら……ですけど」

 王妃殿下ににっこり笑いかけた私は本を持ってそこへと向かって歩き出す。

「はっ!?  ま、舞姫の娘……!  な、何を……そっちは──」

 にこっ!
 ネチネチ国王にも笑顔を向ける。

「にこっ……ではない!  お、おい、まさか……」

 にこっ!!
 もう一度、ネチネチ国王に笑顔を向けて私はそこに向かった。




(それなりに寒い日で良かったですわ~)

 そう思いながらそこにたどり着いた。
 私はじっと目の前にある暖炉を見つめる。
 そう。
 ここに何らかの文字が隠されているのなら必要なのは火。

 そして、私は本の白紙のページをそっと火に近づけた。

(焦がさないように……いえ、燃やさないように注意ですわ~)

 どうでもいい所は構わないけれど、後半の大事な証拠部分が灰になったら大変ですもの。
 そして暫く様子を見守る。

(あ!  やっぱりですわ)

 白紙だったページに文字がどんどん浮かび上がってくる。
 遠くから、やめろぉぉぉというネチネチした元気な声が聞こえた気がしたけれど、当然全て無視した。

(さぁて、“隠しごと”は何かしら~?)

「……まあ!」

 私は顔をしかめる。
 浮かび上がった文字を見て私は、ネチネチ国王をますます軽蔑した。



 無事に隠されていた文字の“あぶり出し”に成功した私は満面の笑みで王妃殿下の元に戻る。

「戻りましたわ~」
「おかえりなさい。それで、何か分かったのかしら?」 

 王妃殿下に訊ねられて、私はにこっと笑って大きく頷く。
 そんな王妃殿下の肩越しには過呼吸気味になっているネチネチ国王がいる。

(叫びすぎですわ~)
  
「その前に王妃殿下に、一応お聞きしますが……」
「何かしら?」
「こちらの国は、王族であっても一夫多妻制ではありませんわよね?」
「え?  ええ」

 不思議そうに首を傾げる王妃殿下。
 我が国もそうだけれど、昔は王族だけは一夫多妻制を認められていた時代があった。
 しかし、今はほとんどどの国でも廃止になったはず。
 それはネチネチ国も同じ。
 と、なると──……

「でしたら、王妃殿下は陛下にがっぽり慰謝料請求することが出来ますわ!」
「慰謝料?」

 怪訝そうな王妃殿下に私は大きく頷く。

「長年受けてきた仕打ちだけでもそれなりの金額になりそうなところですけれど、そこに浮気分も上乗せ出来ますわ!」
「う、浮気!?」

 目を丸くする王妃殿下。
 ぐぁぁぁぁと叫び出すネチネチ国王。
 何が何だか分からずぼんやりしているネチネチ王子。
 真っ青な顔で視線を逸らすその他大勢。
 そして、あたたかく見守ってくれている最愛のリシャール様!

 皆が一斉に私を見る。
 その視線を浴びながら私はニンマリ笑う。

「はい!  どうやら隠しごとというのは、浮気のことだったようですわ!」
「う、浮気……」
「こちらの本の最後の方にあった白紙のページに隠されていました!」
「貸して!」

 王妃殿下が私から本を受け取ると、該当のページに目を通す。
 そこには、ネチネチ国王がどこぞの誰に何を買って贈ったかなどの詳細な記録が残されている。

「あらあら、こちらの方々にも随分と貢いでいるようねぇ……」

 チラッと王妃殿下がネチネチ国王に目を向ける。
 ヒィィッと悲鳴をあげるネチネチ国王。

「ち、父上が浮気……?」

 放心状態のネチネチ王子。
 声が震えている。

「……みたいねぇ、それも全部お相手は、舞姫と同じ髪色と同じ目の色をした女性よ」
「え?  そうなんですの!?」

 呆れた様子の王妃殿下の発言に私はゾッとする。
 ネチネチ国王はどこまでお母様に執着しているんですの?
 気持ち悪いですわ。

「あなた……そんなに舞姫に似た子どもが欲しかったのかしら?」
「……」
  
 ネチネチ国王は王妃殿下から目を逸らす。

「ずっと嘆いていたものね、わたくしの髪色と瞳の色ではダメだと」
「なっ!?」

 その言葉にネチネチ王子がショックを受ける。

「わ、私の髪色と瞳の色は母上似だ……ち、父上……?」
「あなた、息子を大事にしているようで本音はそんなことなかったのね?」
「……っ」

 王妃殿下と息子に睨まれたネチネチ国王がダラダラと大粒の汗を流していますわ。
 そして、どうやらこの場にいる人たちも浮気の事情を知っている者と、そうでない者に分かれているようですわね?
 私はそれぞれの反応をしっかり目に焼き付けて観察する。
 その間も王妃殿下はネチネチ国王を責め続けた。

「もしも浮気相手との間に舞姫そっくりの子どもでも産まれていたら、適当な理由つけてこの子を廃嫡する気だったんじゃない?」
「!」
「な!  ち、父上……ま、まさか!?」

 顔色が悪く汗をダラダラ流し続けるネチネチ国王の表情は明らかに図星を指された人の顔だった。

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