王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
上 下
295 / 354

295. 目は口ほどに物を言う

しおりを挟む


 私と目が合った三人は、真っ青な顔色のまま、王妃殿下と対峙しているネチネチ国王の元に駆け寄った。

「ヘヘヘヘ陛下!!」
「むっ?  なんだ、お前たち!」

 邪魔をするなと言わんばかりに顔をしかめるネチネチ国王。
 その表情はネッチネチ度が増量ですわ!

「たたたた大変なのです……!」
「大変だと?  見て分からぬか!  今、大変なのはこっち……」
「そうよ!」

 彼らは王妃殿下との間に割り込んで、ネチネチ国王が三人に囲まれる。
 もしかして、目が覚めた三人は妄想日記について苦言を呈しに言ってくれたのかしら?
 私はそんな期待の目で彼らを見つめた。

「ヒッ!  また視線を感じるぞ……!」
「うぅぅ……気のせいだ!  これはきっと気のせい」
「ぐっ、怖くて顔が見れん……が、しかしこのまま引き下がるわけにはいかない!」

 三人がまた元気よく飛び跳ねながら何やら話している。
 私はそんな彼らを見ながら首を傾げる。

(彼らは何をヒソヒソ話をしているのかしら?)

 そんな挙動不審な三人にネチネチ国王と王妃殿下も更に苛立ちを覚えたのか怒鳴りつけた。

「おい!  だから、何が大変なのだ!」
「はぁ、あなたたちは本当に何をしに来たの?」
「え、えっと」
「それが……」
「その」

 しどろもどろになった三人はネチネチ国王と王妃殿下に睨まれながらも、まだヒソヒソと話し込んでいる。
 すると、ここで三人のうちの一人の豪邸の男がチラチラチラチラ~と私に目線を送って来た。
   
(あら?)

 確か、豪邸の男はネチネチ国の宰相──でしたわよね?
 ネチネチ国王に対してそれなりに発言力はあるはず。
 つまり……!

(───申し訳ない。陛下にはきちんと訂正させますので……)

 ───と、いう意思表示ですわね?
 そう解釈した私は、よろしく!  という返事のつもりで豪邸の男にニンマリ笑顔を返す。
 そんな私の“返答”を受け取った豪邸男はビクッと大きく身体を震わせた。
 そして、ぐっと顔を引き締めるとネチネチ国王と王妃殿下にペコペコしながら口を開いた。

「い……いえ!  陛下、い、今はこちらの……我々の話の方が重要でして…………さ、先程……から、あなたの舞姫の娘のこ、こここ公爵夫人が……」

(ん?)

 今、“あなたの”舞姫って聞こえましたわ?
 ここまで来て、この豪邸の男はそんなことを言うんですの!?  
 そう思った私は豪邸の男の背中を思いっきり睨みつける。

(訂正なさい!  そうでないと豪邸が廃墟になる呪いをかけますわよ~~)

「……ひぁうっ!?」
「おい!  宰相!  どうした!?」

 突然、飛び跳ねた豪邸の男にネチネチ国王が不審な目を向ける。

「も、申し訳ございません……急に背中が……」
「背中?  お前の背中には何も乗ってないぞ?」
「……は、はい…………そう、ですよね」
「では、なんなのだ?  もったいぶらずにさっさと話せ!」

 ネチネチ国王がイライラした顔で先を促す。
 豪邸の男がピシッと姿勢を正した。

「はっ……バ、バルバストルの舞姫、の……娘、こ、公爵夫人が───」

(あら!  ちゃんと訂正されましたわ~) 

 私は満足してウンウンと大きく頷く。
 そんな私の様子を見ていたリシャール様が首を傾げながら私に訊ねてきた。

「あのさ、フルール。さっきからどうしたの?」
「どうした?  なんの話です?」

 私が聞き返すと、リシャール様はうーんとますます首を傾げた。

「突然、キッと睨んだりにっこり笑ったり……ほくそ笑んでもいたよね?」
「まあ!  全部、見ていましたの!?」
「うん。やっぱりフルールは元気だなと思っていたら、なんだか目が離せなかった」
「ふっふっふ。もちろんですわ!」

 私は、えっへんと胸を叩く。
 いつでも何処でもどんな時でものびのび元気いっぱい!  が私の取り柄ですわよ!

「それで?  何かあった?」
「いえ!  何かあったのではなく、念を送っていただけですわ!」
「え!  また?」

 目を丸くして驚くリシャール様に私は神妙に頷く。

「だって、旦那様。このネチネチ国においての私はただの客人です」
「う、うん?」
「ですから、ネチネチ国の問題に大きく口を挟むことは出来ません」

 ただでさえ、我が国との関係が危ぶまれていたネチネチ国ですのよ。
 帰国のお土産が、ネチネチ国との開戦なんてことになろうものなら、新陛下が目を回して倒れてしまいますもの。
 だから、私はあくまでも王妃殿下の助手!

(ネッチリ親子たちをぺっちゃんこに潰すのは王妃殿下のお仕事ですわ!)

「よって王妃殿下の助手という立場を満喫中の私ですが……先程、豪邸の男の発言に許せない部分がありましたの」
「豪邸の男……?  ああ!  宰相か」
「はい。訂正を求めたかったのですが、ここで私が声を張り上げるわけにはいかないため、念を送りましたのよ」
「あー、なるほど……」

 リシャール様が理解したと言うように大きく頷く。

「それで、フルールのその念は届いたの?」
「ええ!  ちゃんと訂正されましたわ!」

 私が満面の笑みでそう告げると、リシャール様は目を大きく見開いた。

「訂正?  じゃあ、と、届いたの!?」
「はい!  とりあえず満足ですわ~」
「フルール……」

 にこにこ微笑む私の顔をリシャール様は何か言いたそうな表情で見ていた。



「───陛下!  こ、公爵夫人はきっと何もかも……全てお見通しなんです!」

(ん?)

 リシャール様との話を終えて、再びネチネチ国王たちに視線を向けると、ちょうど豪邸の男が叫んだ所だった。

(お見通し……?  何の話かしら?)

「す、全てを分かっていてその本を手に取ったに違いありません……!」

 しかし、豪邸の男のそんな訴えをネチネチ国王は笑い飛ばした。

「お見通しだったと?  はっはっは!  何を馬鹿なことを言っている?」
「陛下!  これは笑いごとではありません!」
「わ、我々も宰相と同意見でございます」

 宝石の男と側近も横から豪邸の男を擁護するかのように訴えかける。
 しかし、ネチネチ国王は聞く耳を持たなかった。

「ふんっ……舞姫の娘も口ではああ言っていたが……よく見ろ。この私だぞ?  本音は私に興味があったに違いないのだ!」

(ええ!?)

 なんと、ふんぞり返りながらそんな発言をした。
 さすが、ネチネチ未練タラタラ勘違い国王ですわ。

 私は隣のリシャール様に向かって思わず呟く。

「だ、旦那様……おそろしいほどの勘違い国王ですわ……」
「う、うん……」
「知りませんでしたわ。自分大好きを拗らせるとあんな風になってしまうのですね?」

 とっても勉強になりましたわ!
 私も自分が大好きなので気をつけなくてはいけませんわね。


「いいえ!  そ、そういうことではありません、陛下!」
「───そうです。あの目、あの圧、あの何かを含んだ余裕の笑い……」
「絶対にまだ“何か”を隠し持っているに違いありません!!」

 三人が必死に何やらネチネチ国王に訴えていますわ。

「ば、馬鹿なことを言うな!」
「ですが、もう不正記録の件は……暴かれて……しまい、ました」
「ぐっ……」

 ネチネチ国王は悔しそうな表情で王妃殿下を見る。
 王妃殿下は逃がさないわよ?  そんな顔で微笑んだ。

「う……」
「こ、このままでは“あのこと”も───」
「なっ!?  お、おい!  黙れ!」

(あのこと?)

 宝石の男が何やら意味深な言葉を口走る。
 途端にネチネチ国王の顔色が更に悪くなったのを私は見逃さなかった。

「し、しかし……絶対、もう既に公爵夫人には……筒抜け、に違いありません……」

 その言葉と同時に怯えた瞳を私に向けてくる宝石の男。
 目が合いましたわ。
 残念ながら、筒抜けと言われてもなんのことがさっぱり私には分からない。
 仕方がないので念を送ってみる。

(それは、なんの話ですの~)

「……ひぃぃ!  す、すごい目付き……ほら、や、やはり……!」

 ビクッと跳ねた宝石の男の目線が王妃殿下の持っている『舞姫と私』に向けられた。
 その瞬間、私の中の名探偵フルールの血が騒いでピンッと来た。

(──あの本には、まだ何か隠されていますわ!)

 きっと、不正の記録以外にも知られると良くないこと。
 それを王妃殿下の助手として私は明らかにしなくてはいけません!

 私はそんな使命感にメラメラ燃える。


「旦那様」
「ん?  ……フルール?  ……いや、またメラール?」
「どうやら、あの本にはまだ“隠しごと”がありそうです」
「え?」

 きょとんとした顔のリシャール様に私はにっこり笑いかける。

「そういうことですので!  ちょっと気になるので確認して来ますわね!」
「え、確認って?  フルール……!?」

 私はそのまま笑顔でリシャール様に手を振ると王妃殿下の元に近付いていく。

「───王妃殿下」
「あら、夫人?  どうかして?」

 近付いてきた私に不思議そうに首を傾げる王妃殿下。

「すみません。少しだけで構いませんので、その本を貸してもらえますか?」
「え?」

 私は満面の笑みでお願いをした。

しおりを挟む
感想 1,470

あなたにおすすめの小説

三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています

ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

新婚早々、愛人紹介って何事ですか?

ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。 家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。 「結婚を続ける価値、どこにもないわ」 一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。 はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。 けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。 笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

処理中です...