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295. 目は口ほどに物を言う
しおりを挟む私と目が合った三人は、真っ青な顔色のまま、王妃殿下と対峙しているネチネチ国王の元に駆け寄った。
「ヘヘヘヘ陛下!!」
「むっ? なんだ、お前たち!」
邪魔をするなと言わんばかりに顔をしかめるネチネチ国王。
その表情はネッチネチ度が増量ですわ!
「たたたた大変なのです……!」
「大変だと? 見て分からぬか! 今、大変なのはこっち……」
「そうよ!」
彼らは王妃殿下との間に割り込んで、ネチネチ国王が三人に囲まれる。
もしかして、目が覚めた三人は妄想日記について苦言を呈しに言ってくれたのかしら?
私はそんな期待の目で彼らを見つめた。
「ヒッ! また視線を感じるぞ……!」
「うぅぅ……気のせいだ! これはきっと気のせい」
「ぐっ、怖くて顔が見れん……が、しかしこのまま引き下がるわけにはいかない!」
三人がまた元気よく飛び跳ねながら何やら話している。
私はそんな彼らを見ながら首を傾げる。
(彼らは何をヒソヒソ話をしているのかしら?)
そんな挙動不審な三人にネチネチ国王と王妃殿下も更に苛立ちを覚えたのか怒鳴りつけた。
「おい! だから、何が大変なのだ!」
「はぁ、あなたたちは本当に何をしに来たの?」
「え、えっと」
「それが……」
「その」
しどろもどろになった三人はネチネチ国王と王妃殿下に睨まれながらも、まだヒソヒソと話し込んでいる。
すると、ここで三人のうちの一人の豪邸の男がチラチラチラチラ~と私に目線を送って来た。
(あら?)
確か、豪邸の男はネチネチ国の宰相──でしたわよね?
ネチネチ国王に対してそれなりに発言力はあるはず。
つまり……!
(───申し訳ない。陛下にはきちんと訂正させますので……)
───と、いう意思表示ですわね?
そう解釈した私は、よろしく! という返事のつもりで豪邸の男にニンマリ笑顔を返す。
そんな私の“返答”を受け取った豪邸男はビクッと大きく身体を震わせた。
そして、ぐっと顔を引き締めるとネチネチ国王と王妃殿下にペコペコしながら口を開いた。
「い……いえ! 陛下、い、今はこちらの……我々の話の方が重要でして…………さ、先程……から、あなたの舞姫の娘のこ、こここ公爵夫人が……」
(ん?)
今、“あなたの”舞姫って聞こえましたわ?
ここまで来て、この豪邸の男はそんなことを言うんですの!?
そう思った私は豪邸の男の背中を思いっきり睨みつける。
(訂正なさい! そうでないと豪邸が廃墟になる呪いをかけますわよ~~)
「……ひぁうっ!?」
「おい! 宰相! どうした!?」
突然、飛び跳ねた豪邸の男にネチネチ国王が不審な目を向ける。
「も、申し訳ございません……急に背中が……」
「背中? お前の背中には何も乗ってないぞ?」
「……は、はい…………そう、ですよね」
「では、なんなのだ? もったいぶらずにさっさと話せ!」
ネチネチ国王がイライラした顔で先を促す。
豪邸の男がピシッと姿勢を正した。
「はっ……バ、バルバストルの舞姫、の……娘、こ、公爵夫人が───」
(あら! ちゃんと訂正されましたわ~)
私は満足してウンウンと大きく頷く。
そんな私の様子を見ていたリシャール様が首を傾げながら私に訊ねてきた。
「あのさ、フルール。さっきからどうしたの?」
「どうした? なんの話です?」
私が聞き返すと、リシャール様はうーんとますます首を傾げた。
「突然、キッと睨んだりにっこり笑ったり……ほくそ笑んでもいたよね?」
「まあ! 全部、見ていましたの!?」
「うん。やっぱりフルールは元気だなと思っていたら、なんだか目が離せなかった」
「ふっふっふ。もちろんですわ!」
私は、えっへんと胸を叩く。
いつでも何処でもどんな時でものびのび元気いっぱい! が私の取り柄ですわよ!
「それで? 何かあった?」
「いえ! 何かあったのではなく、念を送っていただけですわ!」
「え! また?」
目を丸くして驚くリシャール様に私は神妙に頷く。
「だって、旦那様。このネチネチ国においての私はただの客人です」
「う、うん?」
「ですから、ネチネチ国の問題に大きく口を挟むことは出来ません」
ただでさえ、我が国との関係が危ぶまれていたネチネチ国ですのよ。
帰国のお土産が、ネチネチ国との開戦なんてことになろうものなら、新陛下が目を回して倒れてしまいますもの。
だから、私はあくまでも王妃殿下の助手!
(ネッチリ親子たちをぺっちゃんこに潰すのは王妃殿下のお仕事ですわ!)
「よって王妃殿下の助手という立場を満喫中の私ですが……先程、豪邸の男の発言に許せない部分がありましたの」
「豪邸の男……? ああ! 宰相か」
「はい。訂正を求めたかったのですが、ここで私が声を張り上げるわけにはいかないため、念を送りましたのよ」
「あー、なるほど……」
リシャール様が理解したと言うように大きく頷く。
「それで、フルールのその念は届いたの?」
「ええ! ちゃんと訂正されましたわ!」
私が満面の笑みでそう告げると、リシャール様は目を大きく見開いた。
「訂正? じゃあ、と、届いたの!?」
「はい! とりあえず満足ですわ~」
「フルール……」
にこにこ微笑む私の顔をリシャール様は何か言いたそうな表情で見ていた。
「───陛下! こ、公爵夫人はきっと何もかも……全てお見通しなんです!」
(ん?)
リシャール様との話を終えて、再びネチネチ国王たちに視線を向けると、ちょうど豪邸の男が叫んだ所だった。
(お見通し……? 何の話かしら?)
「す、全てを分かっていてその本を手に取ったに違いありません……!」
しかし、豪邸の男のそんな訴えをネチネチ国王は笑い飛ばした。
「お見通しだったと? はっはっは! 何を馬鹿なことを言っている?」
「陛下! これは笑いごとではありません!」
「わ、我々も宰相と同意見でございます」
宝石の男と側近も横から豪邸の男を擁護するかのように訴えかける。
しかし、ネチネチ国王は聞く耳を持たなかった。
「ふんっ……舞姫の娘も口ではああ言っていたが……よく見ろ。この私だぞ? 本音は私に興味があったに違いないのだ!」
(ええ!?)
なんと、ふんぞり返りながらそんな発言をした。
さすが、ネチネチ未練タラタラ勘違い国王ですわ。
私は隣のリシャール様に向かって思わず呟く。
「だ、旦那様……おそろしいほどの勘違い国王ですわ……」
「う、うん……」
「知りませんでしたわ。自分大好きを拗らせるとあんな風になってしまうのですね?」
とっても勉強になりましたわ!
私も自分が大好きなので気をつけなくてはいけませんわね。
「いいえ! そ、そういうことではありません、陛下!」
「───そうです。あの目、あの圧、あの何かを含んだ余裕の笑い……」
「絶対にまだ“何か”を隠し持っているに違いありません!!」
三人が必死に何やらネチネチ国王に訴えていますわ。
「ば、馬鹿なことを言うな!」
「ですが、もう不正記録の件は……暴かれて……しまい、ました」
「ぐっ……」
ネチネチ国王は悔しそうな表情で王妃殿下を見る。
王妃殿下は逃がさないわよ? そんな顔で微笑んだ。
「う……」
「こ、このままでは“あのこと”も───」
「なっ!? お、おい! 黙れ!」
(あのこと?)
宝石の男が何やら意味深な言葉を口走る。
途端にネチネチ国王の顔色が更に悪くなったのを私は見逃さなかった。
「し、しかし……絶対、もう既に公爵夫人には……筒抜け、に違いありません……」
その言葉と同時に怯えた瞳を私に向けてくる宝石の男。
目が合いましたわ。
残念ながら、筒抜けと言われてもなんのことがさっぱり私には分からない。
仕方がないので念を送ってみる。
(それは、なんの話ですの~)
「……ひぃぃ! す、すごい目付き……ほら、や、やはり……!」
ビクッと跳ねた宝石の男の目線が王妃殿下の持っている『舞姫と私』に向けられた。
その瞬間、私の中の名探偵フルールの血が騒いでピンッと来た。
(──あの本には、まだ何か隠されていますわ!)
きっと、不正の記録以外にも知られると良くないこと。
それを王妃殿下の助手として私は明らかにしなくてはいけません!
私はそんな使命感にメラメラ燃える。
「旦那様」
「ん? ……フルール? ……いや、またメラール?」
「どうやら、あの本にはまだ“隠しごと”がありそうです」
「え?」
きょとんとした顔のリシャール様に私はにっこり笑いかける。
「そういうことですので! ちょっと気になるので確認して来ますわね!」
「え、確認って? フルール……!?」
私はそのまま笑顔でリシャール様に手を振ると王妃殿下の元に近付いていく。
「───王妃殿下」
「あら、夫人? どうかして?」
近付いてきた私に不思議そうに首を傾げる王妃殿下。
「すみません。少しだけで構いませんので、その本を貸してもらえますか?」
「え?」
私は満面の笑みでお願いをした。
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