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249. 幻の令息はマイペース
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ここまでの“会話”で私は確信する。
(王弟殿下は隠し子の存在を知っていましたのね!)
それに、どうやら奥様も知っているご様子。
でも、子どもたちには知られたくないようで……
(それにしても……)
“あなたの秘密を知っています”
やはり自白させるのに有効な言葉でしたわ。
これは私の愛読書、崖の上で高笑いするあの悪女が相手を追い詰める際によく使うフレーズ。
王弟殿下も即落ちしてくれたわ!
「ああ──だから、やっぱり私が国王なんて向いてない……はぁ、兄上……」
王弟殿下ががっくり項垂れて嘆き、退位した兄の元国王の愚痴を言い始めた。
「……兄上があの日、婚約解消なんてしなかったら……いや、ダメだ。そうなると私は妻とは結婚出来ず子どもたちとも会えない未来が……くっ……」
「……」
王弟殿下の複雑な心が垣間見えます。
しかし、こんな遠い過去を嘆く様子を見ているとお母様がポンコツなどと言っていたのが分かるような気も……
それより、本当に本当に王位を継ぎたくなかったのね、と思われる言葉がチラホラ。
(お母様は進んで浮気するようなタイプの方ではないと言っていたわ)
でも、隠し子はいる。
そして王弟殿下のこのポンコツっぷり。
(……───分かりましたわ!)
王弟殿下は“嵌められた”んですわ!
きっとメリザンド様のような……相手に婚約者や配偶者がいようと関係ないわ! という肉食令嬢に嵌められたのですわ!
それで子どもが……
(危なかったですわ……!!)
私の愛する旦那様、国宝リシャール様も今回の防衛に成功していなかったら同じ道を辿っていたかもしれません……!
リシャール様に隠し子……? そんなの駄目ですわ!
いつか視た国宝に似た可愛いあの子どもたちは私が産むんだから!
(私が最強の公爵夫人にさえなれば……きっと他の女は寄り付かなくなるはず)
もう悠長にしていられません。早く辿り着かないと!
そう思って私はリシャール様に視線を向ける。
私たちの目が合った。
リシャール様がじっと私を見つめていますわ?
(……? 目で何かを訴えている?)
いいえ、これは……
もっと脅してやれ!
そんな所でしょう。
──分かりましたわ!
私はにっこり微笑み返す。
大親友の幸せのため、幻の令息が育む本物の真実の愛のため!
「───殿下」
私が負のオーラ全開でグチグチしている王弟殿下に声をかけたその時。
突然部屋の扉がバーンと開いた。
「あ、ここだ! …………美味しそうな野菜の匂いがする……!」
美味しそうな野菜の匂い?
聞き覚えのある声に私は後ろを振り返った。
「まあ!」
「あ、やっぱり野菜夫人……!」
部屋に現れたのはやはり幻の令息だった。
「ははは、やっぱり今日の訪問者は野菜夫人だった……」
「お邪魔していますわ」
私が挨拶すると幻の令息は笑った。
「メリザンドの悲鳴がこっちの部屋まで聞こえたし、美味しそうな野菜の匂いがしたから来てみたんだ……!」
「そうでしたのね」
幻の令息は元気そうですわ。
そんな息子が突然部屋に現れた王弟殿下は、負のオーラを捨てて慌てて顔を上げて叫ぶ。
「───レアンドル!?」
「父上……! あ、もしかしてこの箱の中身が野菜ですか……!?」
幻の令息は私の持参した野菜の箱に目をつけた。
「お前、何でここに!?」
「うわ~……! すごいたくさん……! さすが野菜夫人……」
「レアンドル、話を聞けーー!」
王弟殿下が必死に声をかけるも、幻の令息は父親の言葉が聞こえているのかいないのか、私の持参した野菜に目が釘付け。
彼は目をキラキラさせながら箱の中を覗き込んでいる。
「すごいや……やっぱり今回も呪われそうな独特のフォルム……!」
「おい、レアンドル!! 野菜より私を見ろ!」
「本当だ。すごいのは人参だけじゃなかった……」
「レアンドルーーーー」
王弟殿下は必死に幻の令息に呼びかけている。
けれど、私の持参した野菜に夢中でうっとりしている彼がその声に答えることはなかった。
(うーん、どうしましょう?)
王弟殿下への脅し行為が中途半端になってしまったので、どうしたものかしら……と考えていると、リシャール様が私の肩を叩く。
「フルール……!」
「旦那様?」
「フルール、フルール……」
リシャール様までどうしたというのでしょう?
そんなに必死に何度も私の名前を呼んで……
理由は分かりませんが珍しくリシャール様がとっても興奮していますわ。
「どうしましたの? 旦那様」
「っっ! ど、どうしたなんてものじゃないよ! フルール!」
「?」
ガシッと肩を掴まれます。
「くっ! そのきょとんとした顔は相変わらず……可愛……じゃなくて!」
「旦那様?」
大丈夫かしら?
リシャール様がご乱心。
こんなにも興奮する姿はやっぱり珍しい気がします。
「……フ、フルール!」
「はい!」
深呼吸を数回したリシャール様は、私の両肩を掴んだままグッと顔を近づけて来る。
いつどんな角度で見ても惚れ惚れするくらい美しい顔に私の胸が高鳴る。
「い、今、部屋に入って来て野菜に夢中になっているそこの彼こそが、レアンドル殿……君がパーティーで会ったという王弟殿下の息子で間違いない?」
「間違いありませんわ!」
幻の令息は今も王弟殿下の呼びかけに答えることなく野菜に夢中。
私の気の所為でなければ、無視され続けている王弟殿下が涙目になっているようにも見える。
「フルール……君はレアンドル殿がナタナエル殿とよく似ていると言っていたね?」
「ええ! あの通り! とてもよく似ているでしょう?」
私はにっこり笑う。
リシャール様はよほど驚いたのか、顔がピクピク引き攣っていますわ。
「前にも言いましたが、二人の違いと言えば眉毛の角度、目の離れ方に鼻の高さ。唇の厚みに耳たぶの厚さ!」
「……」
「よくよく見れば、この程度の差はすぐに分かりますけど、やはりそっくりさん……」
「フルール……」
リシャール様の腕に力がこもる。
「……フルールだから……と軽く流さずに話を聞いた時に気付くべきだった……」
「旦那様?」
天を仰いで何かを嘆くリシャール様。
きっと、幻の令息とナタナエル様のそっくりさん具合に驚いているのね!
「フルール……君はその脅威の判断力で二人の数ミリ程度の誤差に気付いて別人認定したと言っていたね……?」
「ええ!」
「生憎だが……僕はそんなフルールのようなすごい判断力と見通せる目は持っていない!」
「は、はい……?」
リシャール様どうしちゃったのかしら?
「───いいか、フルール。よく聞くんだ」
「!」
リシャール様の顔が真剣ですわ?
そしてリシャール様はその真剣な目で私を見つめる。
「僕の目には、二人の違いが全く分からない」
「え?」
「そっくりさん! 異母兄弟? もしかして隠し子……? なんて思うレベルじゃないよ!!」
「え……?」
私は首を傾げる。
「結論から言うよ、フルール」
「え? あ、はい」
「君の大親友と婚約したあの騎士の彼は……王弟殿下の不貞で生まれた隠し子なんかじゃない」
「ち、違いますのーー!?」
まさかの真っ向否定!
名探偵フルールの名推理はどこに行ってしまったの!?
「違うよ!! 絶対に違う」
「えー……それなら、どういうことなんですの?」
リシャール様は目を伏せながら言った。
「あれは双子だよ。あの騎士とレアンドル殿は双子。それ以外に説明がつかない」
「ふた……ご」
「年齢だって差がないじゃないか。同じ歳頃」
私は目を瞬かせる。
双子……
「二人とも王弟殿下と夫人の間から生まれた実子だ」
「で、ですけど……兄弟だって似──」
「いいや。同じ両親から生まれた兄弟だって、さすがにあそこまでそっくりにはならないよ」
「!」
リシャール様は僕と弟だってそうだろう? と言った。
確かに国宝級に輝くリシャール様と比べてジメ男は……
実際、あまり似ていない弟持ちの兄が言うと妙に説得力がありすぎますわ。
(双子……ナタナエル様は王弟殿下の実子……?)
王弟殿下は浮気をしたわけでもなければ、嵌められたわけでもなく……?
そこでハッと気付く。
「で、では、リシャール様……!」
「ん?」
「ナタナエル様が隠し子ではないのなら……何らかの事情で離れて暮らしているだけの実子なら……」
私はあなたの秘密を知っています───私の発したこの言葉に王弟殿下はとても動揺していたわ。
「…………先程、王弟殿下が激しく動揺した“秘密”ってなんだったんですのーーーー!?」
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