王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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248. あなたの秘密を知っています (リシャール視点)

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❇❇❇❇❇


(安眠効果……)

 僕は満面の笑みで、そう報告してくれるフルールを見ながら思う。
 やっぱりフルールは可愛い。
 そして面白いなぁ、と。

(奇妙な花束フルールスペシャルと、このやり取りで自分が寝込ませた自覚無しって凄いな)

 フルール曰く、花が笑っているように見えるという薔薇はどこをどう見ても呪われてしまいそうにしか見えなかった。
 あと、よくよく見るとフルールスペシャルには薔薇以外にも誰もが知る花が使われている。
 それなのに色が……これまで見たことのない色をしているんだが?
 多分、フルールは分かっていない。
 これ、その道の研究者がこの花の存在を知ったら、香水の時のようにすっ飛んでくるのでは?

(フルールのことは僕が守らないと)

 今回のような花で作った花束を大親友には以前、贈ったという話だが……
 おそらく彼女も寝込んだのではないだろうか?
 もちろん安眠効果ではなく。

(結婚式のブーケの話は、何がなんでもそれなりの理由をつけて阻止しないといけないな)

 とはいえ、メリザンド嬢の場合はこうなったのも自業自得なので特に同情する気は全くない。
 だから、止めなかった。
 むしろ、“フルール怖い”と植え付けられてずっと怯えてくれていた方がこの先も静かでいいとすら思っている。

(フルールの視力に驚いていたようだが……)

 そもそも、フルールの視力の良さは初対面のあの時にも発揮していたから今更驚くことでもないと思うんだけどな。
 きっと、僕への色仕掛け?  とやらに夢中で覚えていなかったのだろう。

 そんなフルールは、真剣に王弟殿下が描いたという絵を見つめている。
 描かれているのは風景画のようだけどそんなに興味深い絵なのかな?
 まあ、隣にいる僕からは同じ絵を見ていても製作者のサインなんて全く見えないが。

「……」

 不器用なのか器用なのか……謎のフルール。
 そういえば芸術分野については歌(子守唄)が危険ってことしか知らない。
 命が惜しいので子守唄は今後もどうにかこうにか回避していくつもりだ。
 絵はどうなのか。

(フルールって、どんな絵を描くんだろう……?)

 ものすごく上手いか、ものすごく斬新か……
 フルールのことだ。
 絶対どちらかに振り切っているだろうなと思った。

「……ふっ」

 思わず笑みがこぼれる。
 まだまだ、フルールについて知らないことが多いな。

 ───まあ、それはそれとして。
 メリザンド嬢が寝込んだことにより、これでフルールの計画……王弟殿下への“脅し”とやらを邪魔する者はいない。
 顔色が悪く悪夢でも見ているのか苦しそうに魘されているメリザンド嬢の部屋を出て、僕らは別の部屋に移動した。


 さて。ここからフルールはどうするつもりなんだ?
 本当に脅しをやる……のか?
 そう思って僕はフルールに視線を向ける。
 すると、フルールは今回も奇妙な形で収穫された野菜の箱を手にしながら王弟殿下に笑いかけた。

「───王弟殿下!  こちらが、幻の……レ…………レア……息子さんご所望の私が育てた野菜になりますわ!」
「あ、ああ……定期購入の件だろう?  話は聞いている。で、それが今回の…………」

(──フルール!)

 今、なんとか強引に笑顔で押しきったみたいだけど……名前!  レアンドル殿の名前はどこにいった!?
 絶対、彼の名前覚えていないだろう!?
 幻のレア息子?  そのまんまじゃないか!
 恐らく、人型人参がトラウマになっている王弟殿下は野菜の形の方が気になっているようで、それどころじゃなさそうだけど!!

 ハラハラしている僕の気など知らないフルールは笑顔で続ける。

「今回も見た目は変わっておりますけど、味の保証はいたしますわ!」
「……あ、ああ……見た目。ハハハ……」

 王弟殿下は余程のトラウマなのか、顔がピクピク引き攣っている。
 しかし、病弱な息子の願いはなるべく叶えてやりたいのだろう。
 交渉に反対する気は無さそうだ。

 一方、フルールは嬉しそうに奇形に育った野菜を取り出しながら説明している。
 それを見た王弟殿下の顔色はドント悪くなっていく。
 そんなフルールの様子を静かに見守っていると、どうやら売りつける野菜の説明は終えた様子。
 そして、てっきり、このまま契約締結に進むのかと思いきや……

「野菜に関しては以上ですわ……ところで、殿下」
「なんだ?  契約に関してはモンタニエ公爵と───」

 フルールは王弟殿下の言葉を遮るように口を開いた。

「───実は私、あなたの秘密を知っています!」

(直球!!)

 名探偵フルールは回りくどい情報収集は出来ないと言っていた。
 本当にその通りのようでフルールはなんの前触れもなく直球を投げつけた。

「な、に?  私の、ひ、秘密!?」

 そんなことを突然言われた王弟殿下の方だってビックリだ。
 しかし、殿下には心当たりがあるのかないのか。
 その一言にかなり動揺している。

「ええ、秘密ですわ。王弟殿下……あなたが、長年隠してきた秘密を私は知っているのです!」
「───っ!」

 王弟殿下は目を見開くとヒュッと息を呑む。

「……」

 そして、フルールは得意のじっと見つめる攻撃に打って出た。
 ちなみに(めちゃくちゃ可愛い)この顔にじっと見つめられると僕は我慢出来ない。
 僕も大概チョロールになっている自覚はある。
 だから、する気もないが──野生の勘が働くフルールには一生隠しごとは出来ないと常々思っているところだ。

「モ、モンタニエ公爵夫人……まさか、君は……あ、あのことを……?」
「!」

 王弟殿下の言葉にフルールはニヤリと笑う。
 出た!  悪徳業者のような悪い顔(可愛い)!

「そうですわ!  あのこと……です」
「……!  な、なぜ……君がそれを知って……いる?」

 ふっふっふと不敵に笑うフルール。
 王弟殿下はハッと気づいた表情になる。

「ま、まさか、ブランシュか!?  い、いや……違うな。“あのこと”はブランシュだって知らないはず……」
「ええ!  そうです。これはお母様からの情報ではありませんわ!  言うならば──」
「ば?」

 王弟殿下がゴクリと唾を飲み込んでフルールの次の言葉を待つ。
 その顔は顔色は悪く動揺しているのが丸わかり。
 フルールはここでバーンと大きく胸を張った。
 これはフルール得意のポーズだ(可愛い)!

「───私の野生の勘ですわ!」
「勘……?  や、野生……?」
「ピンと来た……と言えば分かりやすいかもしれませんわね?」
「なっ」

 フルールは、またまたここでニヤリと笑う。
 やっぱり、可愛……(以下略)

「私は、ちょっとした些細なことからピンッと来る勘のいい出来る女なのです!」
「で、出来る女……くっ……やはりそなたはブランシュの娘……」

 待て待て待て!
 王弟殿下の義母上のことに関するこの反応はなんなんだ?
 義母上の存在があるせいで、殿下の目に映るフルールには余計なフィルターがかかっているようにも思える……

「夫人……いつから気付いていたんだ?」
「幻……レ……息子さんと会った、パーティーの時ですわ!」
「……!  つまり、メリザンドの開いたパーティー……やはりパーティーは開かせるべきではなかった……か」

 王弟殿下が苦しそうに頭を抱える。

「……はっ!  まさか、あの時……レアンドルが夫人に何か言ったのか?」
「いいえ!  彼は何も。ただただ私が自ら気付いたのです!!」
「そう……だよな。レアンドルは知らない……はずだ……メリザンドも」

 目を伏せた王弟殿下は静かに息を吐く。
 ───どうやら、レアンドル殿は父親の隠し子疑惑については知らないらしい。

(まあ、病弱な息子に気苦労をかけたくない気持ちは分かる)

「つまり、奥様は知っている?  どうして、子どもたちにまで黙っているのです?」
「そ、それは……」
「とっても大事なことですわよね!?」
「……っっ」

 フルールに指摘されて辛そうな表情を浮かべる王弟殿下。

「……私が家族なら黙られている方が悲しいですわ」
「!」
「メリザンド様の部屋に飾られていたあの絵……」

 フルールのその言葉に王弟殿下の肩がビクッと震える。
 あの絵?  
 あの風景画に何かあったのかな?
 僕にはよく分からないが、王弟殿下の反応的に“何か”あるのだろう。

(やっぱりフルールは凄いな)

「あのような形で示唆するくらいなら、ハッキリと皆様に口で説明すべきだと思いますわ!」
「ふ……夫人。だ、だが……しかし……」
「───デモデモダッテは要りません!  臨時とはいえ、これからこの国を治めようというおつもりならピシッと堂々として下さいませ!!」

 フルールは相手が王弟殿下であっても、臆することなく喝を入れた。


 ───しかし、僕は愛するフルールの勢いに飲まれすっかり聞き惚れていて気付いていなかった。
 そう。
 ここまでの会話……
 フルールも王弟殿下も互いに主語───肝心の秘密がなんなのかを口にしておらず、
 “あのこと”という言葉だけで話が進んでいたことに────……

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