王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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245. 情報収集は難しい

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「───ナタナエル」
「アニエス?  ああ、はい。これ?」
「そう、それ。ありがとう」

(まあ!  二人の呼吸がピッタリですわ!)

 私はアニエス様とナタナエル様のやり取りを見ながら、思わず頬が緩む。
 すると、アニエス様が振り返って私の顔を見つめた。

「───全く……先程からずっとその締まりのない顔は何なのですか!  フルール様」
「はい?」

 どうやら私がじっと見すぎてアニエス様が盛大に照れてしまったようですわ!
 頬を赤く染めて……うん、今日も私の大親友はとっても可愛らしいです。

 そのまま玄関での挨拶を終えてパンスロン伯爵家の中に上がらせてもらって気付きました。
 今の会話といい、ナタナエル様がもう自然と伯爵家の中に溶け込んでいます。

(そしてこの馴染み方……もうすっかり長年連れ添った熟年夫婦のようですわ!)

 二人の結婚はこれからだというのに。
 さすが幼馴染ですわね。
 私もリシャール様とはそんな夫婦を目指したいですわ!

「フルール様。それから先程からなにをキョロキョロしているんですか?  落ち着きがない。言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうですか!」
「……」

 そう言われたので口を開こうとした時、アニエス様の肩越しにナタナエル様と目が合った。
 彼はにこにこ笑顔のまま私に向かってコクリと頷いた。

 ───ドウ?  オレノアニエス、キョウモカワイイデショ?

(分かりましたわ!)

 ナタナエル様のアニエス様への想いをしっかり受け取った私は、アニエス様の手を取った。
 そしてグイグイと近付く。

「ちょっと!  いつも言っているけれど近いっ……何であなたはすぐ近づ……」
「アニエス様はいつも可愛いですが、恋するアニエス様、これまで以上にとってもとっても可愛らしいですわ!!」
「はぁ?  ……こここ恋ですって……!?」
「はい!」

 ボンッとますますアニエス様の顔が赤くなって可愛さが倍増しましたわ!
 そんなアニエス様を見ているナタナエル様も幸せそうです。

「……」

 やはり、この大親友の幸せは私が守らなくては!!
 私は再度、固く決意する。

「そ、そそそそんなことより!  今日の用事!  用事は何ですか!」
「あ!」
「み、見たところ、今日は踊り出しそうな奇形の野菜や果物は無さそうですけど!」

 プイッと顔を逸らしながらアニエス様が本日の突撃した理由を聞いてくれましたわ。
 そして、手土産が無いことにもガッカリしておりますわね。
 これは、次こそは持参しなくては!

「失礼しましたわ。お裾分けはまた次回にさせていただきますわ!」
「は?  違っ……別に頼んでいないわよ!?」
「そういえば、ちょうどアニエス様に似合いそうなお花も咲き始めているんですのよ」
「は、花!?  ひぃっ!?」

 私は野菜とは別にお花も育てている。
 野菜と同じで、やっぱり私の知っているお花の姿とは違う形でよく育つけれど。
 昔、アニエス様のお誕生日に、伯爵家の庭で育てた一風変わった形のお花のみで作った花束をプレゼントに渡したら、嬉しさと感激のあまりその場でアニエス様が目を回して卒倒してしまった。
 それくらい喜んでもらえたことを思い出す。

(名付けてフルールスペシャル!)

 伯爵家の皆は、あまりの素晴らしい花束の出来に言葉を失っていましたっけ。
 懐かしいですわ~

「そうです!  婚約祝いに今度は花束を───」
「結構よ!!  気持ち!  その気持ちだけ頂くことにしますから!  アリガトウ!  現物は結構よ!」
「まあ!」

 アニエス様ったら……
 そんな青白い顔で私のことを心配して遠慮なんてしなくても、大丈夫ですのに。
 もう、薔薇のトゲ抜きに失敗して血だらけになんてなりませんわよ?

「そ、それで!  もう話をそらさないで頂戴!  用事はなに?」
「えっと、今日は───……」

 ───ナタナエル様に関する情報収集ですわ!

 そう言いたい。
 しかし、いきなりそんなことを言って何かを探っていると怪しまれてはいけません。
 なぜなら、今日の私は名探偵フルール!  
 まず、ここは慎重に怪しまれないように、さり気ない話から始めてジワジワと本題に迫るという巧みな話術を披露───……

「───ナタナエル様っていったい何者なんですの?」
「……は?」
「え?  俺のこと?」

(ん?  …………あら?)

 大変です!
 結論を頭の中に思い浮かべてしまったせいで口からポロッといきなり本題が……!
 さり気ない話術どころか、豪速球をど真ん中に勢いよく投げ込んでしまいましたわ!

「ナ、ナタナエルが何者かですって?  フ……フルール様……あなた……」

 アニエス様が怪訝そうな目で私を見ています。
 こ、これは怪しまれています?  名探偵フルールの大失態ですわ!
 ですが、今ならまだ大丈夫。
 ここは怪しまれないよう穏便に……落ち着いて今度こそ!
 ナタナエル様は──……

「騎士なのは分かっていますけれど、それ以外の謎が多くて怪しいですわ!」
「───!」

 アニエス様が目を大きく見開いて息を呑んだ。
 私も私で二度目に投げた豪速球にあれ?  と首を捻る。
 もっと違う方向から入ってこの話題にするはずでしたのに……なぜ!

「……」
「……」

 私とアニエス様の間にしばしの沈黙が流れる。

(なんということでしょう!)

 どうやら名探偵フルールは、巧みな話術というものが苦手のようです。
 よくよく考えれば、いつも名探偵フルールはその場で名推理を繰り広げていましたから……巧みな話術など必要ありませんでした。

(これは、失態ですわ……)

 このままでは、迷探偵フルールになってしまいます!

「あはははは!  さすが夫人!」
「ちょっとナタナエル!  あなた何を呑気に笑っているの!」

 そんな私たちの沈黙を破ったのは、怪しまれている当の本人、ナタナエル様だった。
 彼はお腹を抱えて笑っている。
 その様子を見て立ち上がったアニエス様がナタナエル様に詰め寄る。

「いや、だってさアニエス。夫人は俺が怪しいって直球を豪速で投げて来たんだよ?」
「ええ、そうでしょうね!  フルール様はいつだって全てが豪速球!」
「あははは!  やっぱり!  すごい分かる!」
「笑いごとじゃないの!  そして、一度食らいついたら意地でも離れないのよ!!」

 なんだか、とっても二人が楽しそうですわ。
 ナタナエル様はすごい勢いでアニエス様に首を絞められているように見えるのに、全然平気そうでいつものように楽しそうに笑っています。

(やはり、アニエス様の相手は彼しかいませんわ!)

 気を取り直して探りませんと!

「大丈夫だって、アニエス。夫人は君の親友なんでしょ?」
「っっ!  だ、だから!  何度言えば分かるのよ!  し、親友なんかじゃ……」
「うんうん、分かってる。そうそう親友じゃない……大親友だったね!」
「~~っっ」

 ナタナエル様の言葉に照れて目を逸らすアニエス様。
 その通りですわ!
 全く、アニエス様ったら。ナタナエル様の言うように私とアニエス様は親友ではありません。
 ───大・親・友ですわ!!

 そんなことを考えていたら、ナタナエル様がアニエス様から離れて私の元に近づいて来た。

「えっと、俺は辺境伯領の元騎士で今は王立騎士団所属の騎士。アニエスと婚約して伯爵家に婿入り予定。夫人もその辺は知っていると思うけど……」
「そうですわね。ですが、私が知りたいのはそこではありません」

 私がそう口にすると、ナタナエル様はなるほど……と頷いた。

「そうか……分かったよ。夫人は改めて俺がアニエスの夫となるのに相応しい人間か否かを確かめようとしているんだね?」

(……ん?)

「それなら、俺はアニエスに関する質問なら何でも答えてみせる!  何でも聞いてくれ!」
「は?  ちょっと!  わたしのことって……ナタナエル!?  あなた何を意味不明なことを言い出しているのよ!」
「止めないでくれアニエス!  俺たちの結婚───愛でる会会長には絶対に認められないといけないんだ!」
「いえ!  そもそも前から思っていたけれど愛でる会ってなんなのよ!?」

(……あら?)

 私が聞きたいのは、ナタナエル様自身のことなのに……
 なぜか、豪快に脱線してアニエス様に関するクイズ大会が始まってしまう。

(情報収集……難しいですわ)

 情報収集の難しさを痛感し、私はますますアニエス様を尊敬した。
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