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224. 反撃……?
しおりを挟む「フルール、本当にお礼状を書くの?」
「もちろんですわ」
私は、リシャール様に笑顔を向けて腕まくりしながらペンを握りしめ、白紙の便箋の山と向き合う。
便箋はこれくらいあれば足りるはずですわ!
「フルール……」
「色々と思うことはありますが、魅力溢れる最強の公爵夫人は、まずはきちんとお礼をしなくてはなりません」
それがたとえ、国宝泥棒を企んでいる相手でもです!
「魅力溢れる……? フルールの目指す最強の公爵夫人にさらなる要素が加わった?」
「ええ、加えましたわ!」
私は、ばばんと胸を張る。
リシャール様は一瞬、ポカンとした表情をしたけれどすぐに優しく笑った。
「フルールはすでに魅力溢れていると僕は思うよ?」
「───いいえ! それは旦那様の欲目というやつで……まだまだですわ」
リシャール様の優しい気遣いは嬉しいですが、甘えたくなってしまうのでここはピシャリと否定しておく。
「フルール……」
「私は旦那様みたいになりたいのですわ」
「え? 僕?」
リシャール様が不思議そうに私を見る。
「そうですわ! 見ていてください、旦那様。私もあなたに負けないくらいの貢がれ女になってみせますわ!」
「貢が……? 何の話?」
首を傾げるリシャール様に、にこっと笑顔を向けて私はお礼状に取り掛かった。
「────書けましたわ!」
それから数時間後、机に張り付いて格闘していた私はついにお礼状を書き切った。
机の上にある便箋の山を見てニンマリ微笑む。
「ふっふっふ! 私史上、最厚の出来ですわ!」
以前、大親友のアニエス様に送った時と変わらない……いえ、それ以上かもしれない。
アニエス様からはあなたは阿呆なの!? という返信が来たっけ。
(……あの時のアニエス様の返信……私の手を心配してたくさん怒ってくれていたわ)
「……私に負けず劣らずの大作の返信、内容も私の手のことまで心配してくれて……さすがアニエス様ですわ! 見習わないと」
ですが、お兄様とたくさん文通ごっこをしたり、家中にフルールと書きまくった私にとって、これくらいはへっちゃらなんですのよ!
「犯罪を未然に防ぐ───メリザンド様には国宝泥棒はきれいさっぱり諦めて改心してもらわないといけませんわ!」
まずは、この手紙がそのキッカケになるといいのですけど。
この手紙には、お礼にとどまらず泥棒が迎える悲惨な末路についてもさり気なく触れさせてもらったわ。
堂々と書いてしまうと警戒されてしまうので、ここはさり気なく……がポイントですわ。
(私の忠告……伝わるといいのですけど)
「さぁて、これを包んだらプリュドム公爵家にお届けですわ~」
ズシッ……
こうして私は、それなりに重量のある“手紙”を使用人に託した。
────
「え? メリザンド様が私の手紙を読んだ後、目を回して倒れた?」
「───はい、奥様。どうやらそのまま熱を出して寝込まれたとか」
「まあ……熱!」
メリザンド様の元にお礼状を送って数日後。
あちらの公爵家の使用人に友人がいるというメイドが教えてくれた。
「でも、私の手紙を受け取った時は元気そうだったと聞いたわ?」
「はい……」
あの日、手紙を運んでくれた使用人によると、メリザンド様は私からの手紙を目をまん丸にするほど驚いていたという。
───これが手紙?
───手紙です。
───何を言っているの? あなた、頭は大丈夫? 手紙というのはもっと……
───手紙です。
届けてくれた我が家の使用人の健康を心配してくれながら、このような押し問答は五分以上、続いたという。
届けに行ったきり、なかなか帰って来ないので心配してしまったわ……
「その後、読み終えて倒れてしまったの?」
「……友人によりますと、奥様の手紙を手にした後、重そうにしながらも“なるほど、分かったわ! これは仕返しなのね!”と呟いて嬉しそうに笑うと、勢いよく手紙を開封したそうなのですが」
「仕返し? 単なるお礼状ですのに」
メリザンド様は他国生活が長かったから言葉選びが苦手なのかもしれない。
近隣諸国とは共通言語だけど、少し離れた国に留学されていたメリザンド様の過ごした国は言語が違うから。
「読み終えたあとは、最初の元気が嘘のように萎んでいたそうです」
「……かなりの大作だったから読むのに疲れてしまったのね?」
「あの量ですからね」
一応、区切って休みながら読めるようにと章わけするなどの工夫はしたけれど……
これは今後、もう少し工夫が必要ね?
「それで? メリザンド様はどんな容態だったのかしら?」
「かなり、うなされていたそうですよ」
「うなされる?」
私が聞き返すとメイドも頷く。
その顔はとっても真剣そのもの。
「聞いた所によりますと、手紙……思ってた……違う、と」
「違う? 何の話かしら? 手紙なのですから手紙以外に有り得ませんのに」
私は首を傾げる。
そしてハッと気付いた。
(あの厚みだったから、手紙以外にも同封されているものがあると思われたのかしら?)
「それからは、何これ、何これ……どうしてこの後の…………怖い……とも」
「怖い? 手紙が?」
「…………それはよく分かりません(奥様の手紙ですし)」
「そうよね……」
もうこの辺りは熱で朦朧として、手紙は関係なく色々な思考がごちゃ混ぜになって言葉にしていたのかもしれませんわね?
「その後は……見られている……覗かれている……とうなされながらも怯えていたとか」
「覗かれている!? まあ、それはただ事ではありませんわ!」
もしかして、メリザンド様は誰かに付け狙われているの!?
やはり、王弟殿下の娘ともなると狙われやすいのかもしれませんわ……
「王族に生まれても幸せとは限りませんのね……」
「……そうですね。あっさり潰されることもあるのだとこの国の者たちは、もうみんな知っておりますよ」
「そうなの?」
「はい。プリュドム公爵令嬢はやはり、その辺りの情報収集が足らなかったと思われます」
「アニエス様もよく言っているわ。やはり情報収集は大事ですわね!」
私は大きく頷いた。
「と、いうわけでメリザンド様には追加でお見舞いのお花を手配しておきましたわ」
「熱……か」
その日の夜、私はリシャール様にメイドから聞いた話を報告する。
「それと、せっかくなのでお花以外にもお見舞いの品をつけさせていただきました」
「え? 花以外も?」
「ええ、どうやら前回はお礼の手紙だけでがっかりさせてしまっていたようですし」
「……」
リシャール様がじっと私の目を見る。
「フルール。ちなみに何を送ったの?」
「ふっふっふ! 実はちょうど今日、私の畑で収穫出来ましたの」
「何が穫れたの? 色々育てているよね?」
私はニヤリと笑う。
「───旦那様にも見てもらいたくて厨房から持って来ましたわ! なぜか私が種を植えるといつもこうなってしまうのですけど」
「ん?」
「土地を変えても同じですのね。きちんとした監修の元、教えられた通りに育てているのに不思議ですのよ」
そう言って私は本日、収穫したばかりの野菜……人参の山をリシャール様にどどーんと見せる。
メリザンド様にはお見舞いの花と一緒に、この人参を私が考案した美味しい活用レシピと共に送ってある。
野菜も育てられて美味しい活用方法の知識もある……
これぞ、メリザンド様に向けた、モンタニエ公爵夫人は“出来る妻”という見せつけというやつですわ!
「え? これ、人参なの……?」
「そうですわ! なぜか、昔から私が植えたものだけいつもこうして二股や三叉になったりとちょっと歪な人参さんになってしまうのです」
「え……」
「ですが、見た目はこんなでも何故か味は他の物と比べてとっても美味しいのですわ‼」
私は満面の笑みで、色々な形をした人参をリシャール様に見せた。
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