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223. 貢がれる女
しおりを挟む「メリザンド様は……国宝……リシャール様を狙っていたんですの?」
「そうよ、そう言っているじゃない」
「……」
確かに王弟殿下のお話から、リシャール様のあの美貌のファンなのね? とは思ったけれど……
他にもそういう方は沢山いるし、何より子どもの頃のお話だとばかり。
まさか……メリザンド様が国宝泥棒を企むような方だったなんて!
(泥棒ダメ、絶対! それは犯罪ですわ!)
「全く……あんなに沢山の贈り物……少し考えれば誰でも分かることよ? フルール」
「……誰でも?」
「そう。あれは決して善意でもお詫びとやらの心からの贈り物などではなく……単なる嫌が……」
「──ええ、ええ。なるほど! よーーく分かりましたわ、お母様」
「フルール?」
お母様の言葉を遮って私は大きく頷く。
そういうことだったのね?
なんて私は鈍かったのかしら……
あのたくさんのお詫びと称したメリザンド様からの贈り物の数々……
あれは───
リシャール様への貢物!!
リシャール様の為なら、私はこれくらい美味しいものをたくさん用意出来ますわよといういい女アピール!!
お金に余裕がある家のメリザンド様だからこそ出来るアピールですわ……!
「おそろしいです。お母様……さすがメリザンド様は公爵家のご令嬢ですわね?」
「フルール…………公爵夫人が何を言っているのよ」
「だって、お母様! 私には(貢ぐなんて)出来ません!!」
なぜなら私は一方的に貢ぐより……一緒に仲良くお腹に入れながら美味しいね、と微笑み合って食べたいんですもの!
「そうよね、(嫌がらせなんて行為)あなたには無理でしょうね、フルール」
「はい……無理ですわ」
さすがお母様。
私のことをよく分かっているわ。
しかし……
(なんということでしょう!)
あんなにたくさんの貢物を貰えるリシャール様。
さすが国宝。
なんてなんてなんて羨ましい…………ではなく!
「やはり、国宝リシャール様の魅力は凄いということですわ」
「そのようね……だって、そのお嬢さんはリシャール様に色仕掛けもして来たのでしょ?」
「色仕掛け……?」
私が首を傾げて聞き返すとお母様もあれ? と首を傾げた。
「リシャール様、国宝泥棒を企むそのお嬢さんと抱き合っていたのではなかったの?」
「あのうっかり事故のことですわね?」
私がそう答えるとお母様が天を仰ぐ。
「フルールったら……あれは事故を利用したあなたの夫への色仕掛けよ?」
「え!」
色仕掛け……という言葉に私はパチパチと目を瞬かせる。
「あのぼんくらポンコツ王子の娘ということは、それなりに綺麗な人なのでしょう?」
「そうですわ! お綺麗で高貴な香りがしましたわ!」
私は満面の笑みで肯定する。
「何をにこやかに……とにかく! そういう自分に自信がある人は色仕掛けを使ってくるものなのよ!」
「色仕掛けをして国宝を盗むんですの?」
「そうよ! あれは誰かに目撃させるつもりだったというより、リシャール様自身への色仕掛けが目的だったのよ!!」
お母様はまるで見てきたことかのように言う。
そこであれ? と不思議に思った。
「……なぜ、お母様がそのことを知っているんですの? 私、その話したかしら?」
先ほど、お兄様たちとはその話になったけれどまだ、お母様はその場にいなかったはずですわ。
「なぜ? ああ、ぼんくら王子が、娘がリシャール様に失礼なことを働いた、申し訳ない、乗り込んでくるのは勘弁してくれ、と謝罪の手紙と報告を寄越して来たのよ」
「ぼん……王弟殿下がわざわざお母様に……ですの?」
「そうよ。あの人、昔から私の前ではビクビクしてそうなるのよ……確かに昔、何度か乗り込んだことはあるけどね。向こうは王族なのにね。変な人よ」
「そう、ですか」
なんだか不思議な関係ですわね……と思った。
「とにかく……まあ、旦那様の方が素敵だけど、リシャール様はあれだけの美貌だものね。アプローチされるのも当然と言えば当然なのよねぇ」
お母様のその言葉にハッとする。
「当然……つまり、リシャール様は(貢がれることに)慣れている……?」
今更ながらその事実に気付く。
お母様は眉をひそめた。
「…………慣れているもなにも、フルール? これまでは散々あなたが無邪気に蹴散らし……」
「私、何も知らなかったですわ……! こんなの(羨ましくて)嫉妬してしまいます!」
「嫉妬!? フルールが!?」
なぜか、珍しくお母様が動揺している。
「……お母様、私だって嫉妬しますわよ?」
「そう、よね。さすがのフルールだって(夫が狙われれば)そうなるわよね……てっきり気にしてないのかと」
「いいえ、これは(羨ましくて)嫉妬しますわ……」
私は考える。
どうやったら私も、リシャール様のように貢がれる女になれるのか、と。
答えは一つ!
「───お母様! ここはやはり私がもっともっともっといい女にならなくてはなりませんわよね?」
私が貢がれる程の魅力溢れる女になって、メリザンド様に、妻である私には敵いません、とリシャール様を諦めてもらうのよ!
「え?」
「えっ……て、違いますの?」
「いえ、それは間違ってはいないけれど……何かしら……何かが……」
メラッ……
ふっふっふ! これは燃えますわ!
「お母様! これはもう悠長になどしていられません! 最強に魅力的な公爵夫人への道を急いで進めないといけませんわ!」
「魅力的な……?」
私はお母様にグイグイ迫る。
「お母様、ありがとうございます! 私だけでは気付けませんでしたわ」
「そ、そう? それで、フルール。あなたはまず、どうするつもりなの?」
お母様がグイグイ迫る私を華麗に避けながら訊ねてくる。
「まずは?」
「そうよ。色々あるでしょう?」
「────そうですわね、まずは頂いた物は全て皆で分け合って美味しく頂きました、とお礼状を送るところからですわ」
え? とお母様が固まる。
私も私で、え? と首を傾げる。
「お母様? お礼状を返すのは基本だと教えてくれたのはお母さまですわよね?」
「え? え、ええ……そう、ね」
「私、手紙を書くのは得意なんですの! 頑張りますわ」
「……頑張……る?」
私はお母様にニコッと笑いながら腕をまくった。
❈❈❈❈❈
「────と、いうわけで、お母様曰くメリザンド様は色仕掛けで国宝泥棒を企んでいるらしいのですわ!」
フルールが戻って来た。
てっきり母上にたくさん怒られ絞られたかと思えば、なんだかスッキリした顔をしている。
不思議に思って、母上との話はどうだった? と聞いた回答がこれだ。
────国宝泥棒ってなんだよ!?
心の中でそう突っ込んでいたら、オリアンヌがなるほど……と頷いた。
「あれは誰かへの見せつけではなくリシャール様への色仕掛けだったのね……さすがお義母様。色仕掛けする側の気持ちなら手に取るようによく分かる……ということだわ」
(──なっ!?)
オリアンヌの発言に絶句しているとフルールが不思議そうにオリアンヌに訊ねる。
「オリアンヌお姉様、どういう意味ですの?」
「ふふ、どうやらお義母様はお義父様にたくさんアプローチしていたという話ですから。中には色仕掛けで迫ったなんて話も……」
「まあ!」
(母上ーーーー!)
そんな情報、息子としては知りたくない!
だがフルールは気に止める様子もなく、なるほど。さすがお母様……と頷いている。
「メリザンド様はフルール様と王弟殿下がさっさと戻ってきて焦ってしまったのね。それで慌てて路線を変えようとしたけれど、それも撃沈」
「すかさず私の華麗な名推理が披露されたからですわね!」
いや、フルール……なんでそんなに嬉しそうなんだよ……
国宝泥棒ってことは、お前の大事な夫が狙われているんだろ?
そんなお前の大事な国宝もこの話に驚いて呆然としているぞ!?
「フルール……お前はこれからどうするんだ?」
「どうする? お母様と同じ質問するんですのね?」
俺が訊ねるとフルールはきょとんとした表情を浮かべる。
いつも通りの顔!
危機感! 危機感は無いのか!?
「ほら、推奨はしない……が、フルールは得意だろ? 乗り込んだり殴り込んだり壊滅させたり……」
「まあ! お兄様ったら人聞きの悪いことを言わないで下さいませ! そんなことはしませんわ」
フルールが首を横に振る。
「……え?」
(フルールが大人しくしたまま……だと!? 王族クラッシャーなのに!?)
「ですが───もちろん、国宝は盗ませたりしません」
「なら……」
「ふふ、お兄様ったら……犯罪というものは未然に防いでこそ、ですわよ?」
「あ?」
フルールはニンマリと笑ってそう言った。
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