王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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220. まだまだ、ありました!

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「旦那様……王弟殿下がすごくお怒りでメリザンド様を連れて行ってしまいましたわ」
「……そうだね」

 フルールの名推理を聞いた後、ようやく覚醒した王弟殿下は顔を強ばらせて「何てことをしているんだ!」と娘を叱りつけ始めた。

「お、お父様……」
「もてなしの件もそうだ───いつも言っていただろう!  誤解されるような軽はずみな行動や言動は慎め…………と、失礼」

 王弟殿下は僕らの視線に気が付くとハッとして説教を止める。

「───すまない。モンタニエ公爵、夫人。メリザンドにはよく言って聞かせる……本当に申し訳なかった。来い、メリザンド!」
「ひっ……い、痛っ……お、お父様……」

 王弟殿下はグイグイと娘を引っ張って別室に連れて行く。
 メリザンド嬢はかなり顔色が悪くなったように見える。

「旦那様……メリザンド様のお顔がとっても真っ青ですわ」
「……そうだね」

 フルールはハラハラと心配そうに出て行った親子の姿を見つめている。

「…………もしかして、王弟殿下は怒らすと怖い方……なのでしょうか?  お、お母様みたいに!!」
「……」

 フルールの怒られ基準は全部、義母上なんだよな。
 変わった遊びや提案を笑い飛ばすことなく付き合ってのびのび自由にさせながらも、ダメなことはダメ。怒るところはきっちり怒る。

(伯爵家はそこのバランスが上手いのだろう)

 自分の育った家との違いに思わず苦笑する。
 ──やっぱり好きだなぁ。フルールも、フルールの周りの家族も。

「───ところでフルール。ケロッとした顔をしているけど激辛お菓子と苦いお茶の組み合わせはどうだったの?」
「え?」
「未知なる発見?  はあった?」
「……」

 僕が訊ねると、フルールはえへっと笑った。
 僕の最愛の妻は、こうしてまた可愛い顔を無邪気に見せてくる。

(もう帰っていいかな?)

「───辛くてとっても苦かったですわ!!」
「……そのまんまだね?」
「はい!」

(どっちもめちゃくちゃ個性が強い味なのになぁ……)

 やはり、フルールにかかれば同時摂取もなんてことないのだな、と分かった。

「旦那様?」
「……」

 フルールがきょとんとした目で僕を見る。
 やっぱりそんなフルールが可愛くて僕は手を伸ばして頭を撫でた。


────


(しかし、戻ってくるのが遅いな……)

 ぼんやり窓から外を眺めながらそんなことを思った。

 そんなに長々と叱っているのだろうか?
 いや、もしかしたら殿下は娘にフルールがこれまで無自覚にやってのけた色々なことを聞かせているのかもしれない。

(フルールの名は国内ではかなり有名になったけど、隣国は別として、さすがに他国まで流れているとは思えないし)

「さて、フルール。二人が戻って来るまで───……」

 僕は振り返りながら、どうする?  と聞きたかったけど既にフルールは第二第三のお菓子を手に取って幸せそうに微笑んでいた。

「……」
「旦那様!  メイドがテーブルを片付けてくれた後、新しいお茶とお菓子を持って来てくれましたの」
「う、うん。見た感じそのようだね?」
「そして、どうやらこれらもメリザンド様が私たちのおもてなしにと用意してくれていたそうですわ」
「!」

(今度は何味だ!?)

 にこにこ顔のフルール。疑おうよ!
 それも絶対、普通の味じゃないだろう!?
 そう思った僕は警戒したけれど、止める間もなくフルールはそれを美味しそうに口に運んだ。


 ───結論から言うと、
 お菓子は塩味がかなり強くとてもしょっぱくて、お茶はびっくりするくらい甘いお茶だった。

(メリザンド嬢はなんでそんな極端な味のものばかり揃えているんだ!?)

 好みが分からなかったから?
 だが、フルールはともかく、僕が苦味が得意でなかったことは記憶にあったらしいし……
 いや、それでもここまで極端なものは普通なら用意しないだろう。

 考え込む僕の横でフルールは、「新しい味ですわ~」とひたすら喜んでいた。



❈❈❈❈❈



(いっぱい食べましたわ~)

 私は帰りの馬車の中で今日を振り返る。

 でも、戻って来たメリザンド様はすごーーーーく顔色が悪かったですわ。
 かなり王弟殿下に怒られたのだと分かるお顔で真っ青だった。

 そうして戻って来た王弟殿下はテーブルの上に並べられた新たなお菓子とお茶を見るなり、ものずごい勢いでメリザンド様の顔を見た。
 メリザンド様も、え?  まさかそれも食べたの?  と言わんばかりの真っ青な表情で驚いていましたわ!

(そこからは親子の無言の戦いが勃発していましたわ!)

 そんな仲良しそうだった親子の様子を思い出して微笑んでいると、向かい側のリシャール様と目が合った。

「どうしました?」
「いや、フルールがクスクス笑っていたから」

 さすがリシャール様。私のことをよく見ていますわ。
 私はどーんと大きく胸を張る。

「だってお腹いっぱいですのよ!  そして新たな味との出会いもありましたから!  満足ですわ」
「ははは、フルールらし……」

 ぐーきゅるるぅぅ……

(────あら?  私のお腹が)

「…………フ、フルール……今のって」
「……」
「気のせいかな?  フルールのお腹の方から聞こえた……よう、な?」
「……」
「お腹いっぱい……は?」
「……」

 えへっ!
 私は笑って誤魔化した。


 その夜……私はいつも通り、盛り盛りのご飯をペロッと平らげた。
 リシャール様が目を丸くしていたけれど、もちろん私はお代わりも忘れなかった。


─────


 そんなメリザンド様と初めての顔合わせをした翌日。


「……フルール」
「リシャール様……!」

 名探偵フルールの私が説明したとおり、日課となっている朝のギュッをリシャール様としていたら、

「ご主人様、奥様ーー!  イチャイチャ中、失礼します!  何やらお荷物がたくさん届いているのですが……どうされますか?」

 コンコンと扉がノックされ、慌てた様子のメイドが駆け込んで来た。
 私たちは顔を見合せ互いに首を傾げる。

「荷物?  誰からだ?  そんな話は聞いていないぞ?」
「私も聞いていませんわ」

 私たちがメイドに訊ねると、メイドも困惑した様子で説明する。

「それが───プリュドム公爵家のメリザンド様からなのですが……」
「え?」
「まあ!」

 もう一度、私たちは顔を見合わせる。
 なぜ?

「なんでも……言付けによると“昨日のお詫び”だそうですが」
「お詫び?」
「不快な思いをさせてしまったから……と」
「え!」

 不快ってあの新感覚のお菓子やお茶のこと?

(美味しかったのに……)

 それとも、うっかりさんの発動で結果的にリシャール様に抱きついてしまったこと?

(事故だったのに……)

「旦那様……お詫びだなんて、メリザンド様は随分と律儀な方なのですわね?」
「……」
「旦那様?」

 リシャール様がうーんと何か考え込んでいる。
 どうしたのかしら?

「とりあえず、無下にも出来ませんし……受け取らせてもらって、こちらからもお礼状を送りましょうか」
「……うん。そうだね」

 私たちはメイドに頼んでその届いた荷物を部屋に運んで来てもらうことにした。

(たくさんと言っていたけれど───……)

「まあ!」

 そうして運ばれて来た荷物を見て、さすがの私もちょっと驚いた。

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