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215. 情報収集ですわ!

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 王弟殿下との話を終えて、私たちは屋敷へと戻る。
 弁償の話が出なかったことに安堵した私は馬車の中で興奮気味に語る。

「旦那様!  歓喜の舞の件は上手く誤魔化せましたわ!」
「う、うん」

 これで、お母様からお説教されずに済みますわ。
 私はもう公爵家の人間だから、お母様を怒らせたからといってご飯やおやつ抜きの刑にはならないけれど、あれだけの破壊行為、しかも他国……知られてしまうのはやはり恐ろしい。

「旦那様、どうかしましたの?」

 リシャール様の返事が何となく歯切れが悪かったので、どうかしたのかと訊ねてみた。

「いや、義母上のことだから謎の嗅覚を働かせてどこかで察知しそうだな、と思ったら楽観出来ないと言うか……」
「……ふ、不吉なこと言わないで下さいませ!」

 有り得そうな話……と思ってしまって背筋がゾッとした。

「確かにお母様は時々、それどこから入手した情報なんですの!?  と、聞きたくなるような話を持っていますわ……」
「うん、やっぱりフルールの母上って感じだ」
「恐ろしいですわ……」

 私は色々と想像して震えた。
 これ以上想像すると、現実になりそうなので話を変える。

「ところで、旦那様!  王弟殿下の仰っていたことですけど」
「え?  ああ、娘が帰国するから仲良くしてくれって話?」
「そうですわ!  実は私、全然知りませんの」

 王弟殿下も言っていたように、子どもの頃から少し離れた他国に留学されている方なので面識どころか私は顔すらも知らない。
 私がそう訊ねると、リシャール様も困った顔をする。

「うーん、王弟殿下も何か勘違いしていたけど、僕も本当にそんなに昔馴染みと言えるほどの付き合いはないんだよ」
「不思議ですわね?」
「モンタニエ公爵家の令息が……ってよく会話に出ていたって話も僕じゃなくて弟のことなんじゃ?  って疑いたくなるくらいだ」
「え?  それはないと思いますわ」  

 私はあの元ジメ男の顔を思い出しながら即答する。

「え?  即答?  なんで?」
「……」

 にこっ……
 だってジメ男ですもの!

「これまでの話を聞く限り、リシャール様の影に隠れてばっかりのようでしたから、ジメ……彼の方が旦那様よりも面識は無いと思いましたわ」
「あー……それもそうか」

 リシャール様は、それでも不思議そうな顔をしていた。
 私はじっとリシャール様の顔を見つめる。

(国宝旦那様は今日も惚れ惚れするくらい美しい輝きを放っていますわ!)

「フ、フルール?  ど、どうしたの?」

 私にじっと見つめられているリシャール様が照れて少し慌てている。

(そうよ……リシャール様のこの美貌ですもの……)

 私だって子どもの頃にチビリシャール様と出会っていたら、この美貌のことを三日三晩は家族に延々と語れる自信がありますわ!

「なるほど……同じ匂いを感じますわね……」
「え?  僕、なにか匂うかな?」

 わたしがボソッとそう口にしたら、その言葉を拾ったリシャール様がますます慌てていた。


────


「───それで、王弟殿下の娘さん、お名前はなんという方なのでしょう?」
「フルール……名前からか」
「申し訳ございません。完全に勉強不足でしたわ!」

 即位を目前に控えた王弟殿下一家のことを何も知らないことに今さら気づいた私。
 公爵夫人としてなんたる失態。
 反省しながらリシャール様に訊ねた。

「あ、王弟殿下が、プリュドム公爵家を賜っていることまでは知っていますわ!」
「うん、そうだね」

 リシャール様が苦笑する。

「令嬢の名前はメリザンドだよ。メリザンド・プリュドム公爵令嬢」
「メリザンド様……」

 公爵令嬢……これまで縁のあった令嬢の中では結婚前のイヴェット様以来の爵位が高いご令嬢ですわ。

「旦那様……やはり髪はクルクルで豪華なドレスを身にまとい、口を開けば“お父様に言いつけるわよ!”などと言われるのでしょうか……」
「……フルール!  偏見がすごい!  今度はどの本の影響!?」

 慌てた様子で私の身体を揺さぶるリシャール様。
 私はえへっと笑って誤魔化す。

「さすがに冗談ですわ。本の中では面白いくらいそういった方がよく登場しますけれど、実際にそんなことを口にする方には出会ったことがありませんもの」
「びっくりした……フルールの冗談は冗談に聞こえないからなぁ」

 リシャール様がホッと胸を撫で下ろす。

「えっと?  あとはお兄様がいるんでしたっけ?」
「そうだね」
「あれ?  ですが───」

 今更ながら気付いたけれど、プリュドム公爵令息様の姿を全然、社交界で見た覚えがありませんわ!
 なぜ?

「旦那様、プリュドム公爵令息様もメリザンド様と同じく他国に留学されているんですの?」
「いや?  彼の場合はそうではなくて」
「?」

 どうやら、何か違う事情があるらしい。

「彼はかなり病弱らしくて表舞台に全く現れない」
「まあ!」
「僕も……シルヴェーヌ殿下と婚約した時、王弟殿下一家に挨拶した際に姿を見たきりのような……」
「そんな昔なんですの?」
「申し訳ないけど顔もうろ覚えだ」
「……」

 それならばきっと同じような立場だったオリアンヌお姉様も似たようなものかしら、と思った。

「ニコレット様も幻の令嬢と呼ばれていたそうですが、それ以上の幻の令息ですわね」
「ははは、確かに。あ、彼の名前はレアンドルだよ、フルール」

 出来る夫、リシャール様は先回りして名前まで教えてくれた。

(さすがですわ!)

 とはいえ、メリザンド様が帰国される前にもっと情報収集しておかなくては失礼にあたる……

(───やはり、こういう時に頼りになるのは……)



「アーニーエースー様! こんにちは!」
「ひぃっ!?」

 やっぱり大親友アニエス様しかいませんわ!
 と、いうわけで翌日、私は大親友のアニエス様の元に突撃した。

「あなたね!?  いつもいつもいつも……わたしが、何でもかんでも情報を持っていると思わないで頂戴!」
「それで今日は王弟殿下一家についてですわ!」
「わたしの話を聞きなさーーい!!」
「……」

(ああ、懐かしいですわ)

 アニエス様に会えていつもの声が聞けて私の胸がポカポカと温かくなる。
 そもそも、しばらく隣国に行っていたので顔を見るのは久しぶり。

(やっぱり、アニエス様には元気いっぱいでいてくれなくちゃ!)

 にこにこにこ……
 そう思ったら嬉しくていつも以上に、にこにこしてしまう。

「ひっ!?  その笑いは何!?  なんなのですか!」
「アニエス様に会えて嬉しい!  の笑顔ですわ。久しぶりですもの」
「うっ……」

 アニエス様がたじろいだところで、情報収集ですわ!

「お、王弟殿下一家のこと調べてどうするつもりなんですか、フルール様」
「え?」
「ま、まさか……王弟殿下一家まで破滅させるおつもりなのでは……」
「破滅?  何の話ですか?  アニエス様?」

 話を聞きに来ただけなのに、アニエス様は何かを勘違いして青い顔をしていた。




 それから一週間後。
 ついにメリザンド様が帰国してくる日がやって来た。

(ついに対面ですわ!)

 今日はリシャール様と共に私もお呼ばれしている。

「フルール、支度出来た?」
「はい!  大丈夫です!」

(他国のお話とか色々聞けるかしら~)

 特に美味しい物の話は絶対に絶対に絶対に外せませんわ! 
 なんて意気込みながら私は元気いっぱい王宮へと向かった。

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